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2章
10話 きっとどこにいようともあなたを見つける
しおりを挟む辺りはすっかり夜になって綺麗な星空が垣間見えてくる頃、俺達は再びの『ブリーズウィンド』で、(今度は客として)食事を取っていた。
「いや~昨日ぶりだけど美味いわ~焼きそば半端ないわ~」
「カトレアさん、食べ過ぎではなくて?昼間も沢山食べていらしたようですし、そんなに食べてるとお肉が付いてしまいますわよ?」
「はん!余計なお世話よ!あんたはもっと食べた方がいいんじゃないの?まだまだ成長が行き届いてないようだし?」
「…!なんですか!私がちっちゃいと申したいんですの!?」
「…お前ら、食べる時ぐらい静かに出来ないのか?」
もう何度目かも分からないカトレアとコエルの歪み合いに溜め息を吐き、俺はテーブルのコーンスープを啜った。
「お嬢ちゃんが先に仕掛けて来るのがいけないんでしょ!」
「私はただ注意をしただけですわ!それに、前から思ってたんですけれど、その『お嬢ちゃん』って呼び方辞めてくれません?子供っぽくて不愉快ですわ!」
「あーら、ぴったりなあだ名だと思ったのだけれど…それとも、お嬢ちゃまの方が良かったかしら?」
「くっ…これ以上あなたと話してても無駄ですわね!」
「何よ!やる気?」
「元よりそのつもりですわ!」
「だから何でそうなる!」
その場で戦闘体勢に入る二人に対しての、周りの客からの視線が痛すぎる。
「ミーナも止めてくれよ…自分の主人なんだから……」
「ほふりふぉしゅぎゆすちほふ」
「…できれば、全部食べてから言って欲しいかな」
まるで餌を口に溜めすぎたハムスターの様に、パンパンに膨れ上がった頬のまま喋るミーナ。
口を抑えながら、そのままモグモグと咀嚼してゴクンと飲み込むと、俺に向き直った。
「む、無理です」
「語呂が合わない!」
しかも時間を掛けてまで言うことではなかった。
他に止めてくそうな人は…とシュバリエさんを探すが、そういえば五人掛けのテーブル席にシュバリエさんの姿が見当たらない。
ここへ来る途中、コエル達とは偶然合流したから呼ぶのに手間が掛からなかった。しかし、シュバリエさんに至っては誰も居場所が分からなかったため、カトレアがポコタンを使いレストランに召集を呼び掛けただけにちゃんと伝わってるか心配だ。
「もぐもぐ………ぐっ!むぐぐ~!」
懲りずに口をいっぱいに物を詰め込むミーナが案の定、苦しそうに胸元をどんどんと叩き出す。
「ミーナ!言わんこっちゃない!はい、水」
「んぐんぐ…ふぅ……あ、ありがとうございます。ユリヤさん」
そんなミーナの行動に一つ疑問が。
「それはいいんだけどさ…ミーナってサクザクティ家のメイドなんだよね?」
「は、はい。それが……?」
「なら、食べ物には困らない筈だろ?そんながっついて食べる理由が分からないんだけど」
まさか働いてる以上、食事が残飯とかではあるまい。
ミーナはなんとも複雑な表情を浮かべる。
「そ、それは、ですね…お嬢様が家出をしたからです」
「は…?家出?ならミーナは?」
「あたしはその時、無理矢理連れて来られたというか…なんというか……」
「そ、そっか……」
自分の行動に人を巻き込むとは、ミーナも苦労してるということか。
「と、とにかく、あたし達は追われてて、まともに食べ物にありつけなかったんです…」
「…もしかして、それが俺達の所に来た理由…?」
追われているのは恐らく屋敷関係の人達に、ということだろう。一国のお嬢様であるコエルが、理由はどうあれ、家出なんて言ったら前代未聞の出来事だ。
それでその追手から逃れるために街を転々とし、サマラクトで俺達の自称部隊の募集を見つけた-
「…ここに入ることである程度の目眩ましになる、みたいなところか?」
「大体合ってますわよ」
俺の推理をミーナに聞かせてたところ、コエルが代わりに応えた。
「ですが、こんなサマンダサダサ部隊で目眩ましが効くとは思いませんが」
「サマンダババサよ!私の二つ名なんだからちゃんと言いなさい!」
第二ラウンドが始まりそうな時、レストランの扉が音を立てて開く。
一体何事かと振り向くと、そこから執事服に身を包んだ男達が複数人でぞろぞろと入り、その中の一人がサリカさんとなにやら話している。客人ではない、よな…?
話が済んだかと思うと、なんとこちらへ向かって来るではないか。
「お、おい、こっちに来るけど…」
彼女達の方を向くと、ナプキンで顔を隠しているコエル、またパンパンに物を詰め込むミーナ、カトレアがそれを不思議そうに見つめている。
あ、これはあれですね…噂をすれば、というやつじゃないかですね……。
「コエルお嬢様ですね?やっと見つけましたよ。さ、お父様がお待ちです。早く帰りましょう」
「コ、コエル…?誰のことでしょうか?わたく、いや、あたいは通りすがりのナプキンウーマン」
下手くそか。
だが、そんな抵抗をへし折るかのように、奴は空気を読めなかった。
「なんでこんなナプキン付けてるの?」
ひょいとナプキンを取られ、素顔が露になるコエル。
その瞬間、別の人物の逞しい声が店内に響き渡った。
「おお!見つけたぞ!コエルよ!」
重そうなマントを翻し、いかにもといった風貌で扉の向こうから歩いて来たのは、
「っ!お父様…」
マジ、ですか。お父様直々のご登場ですか。こういう時あれかな?頭とか下げた方がいいのかな?
「なぜ家出なんかしたのか、なんてことは聞かない。その代わりと言ってはなんだが、お前の気に入りそうな伴侶の情報を幾つか見つけて来たんだ。だから…」
「その必要はありませんわ、お父様」
きっぱりと言い切るコエルにお父様は目を丸くしている。
「どういうことだ?」
「将来の伴侶となる方はもう見つけてありますもの」
「それは本当か…?」
「ええ。それは……」
「………」
「この方ですわ!」
コエルの指差す先、それを目で辿って行くと-
俺?…いやいや、ないない。
後ろを向く。壁。
もう一度、今度はゆっくりと目で辿る-
「ユリヤ・ソノヤマさんです!」
俺やん…
了
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