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四章
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冬の気配が近づく頃、
世那は原稿の合間に冴夢を教える時間が増えていた。
冴夢は中学生になり、
表情も落ち着き、背も少し伸びた。
「世那、今日ここ教えて」
「そこは……この式使うんだよ。」
無邪気に寄ってくる冴夢の髪が、
ふと世那の肩に触れる。
その瞬間――
胸の奥が、微かに跳ねた。
(……やめろよ俺。相手はまだ子どもだ。)
自分に言い聞かせるけど、
心が静かにならない。
冴夢が笑うと、そのたびに胸がぎゅっとなる。
そんな自分が怖かった。
*
ある日、冴夢が教科書を閉じて言った。
「世那って……なんか、手があったかいね。」
その一言に、世那は一瞬言葉を失った。
(……なんだそれ……反則だろ。)
冴夢は世那の気持ちなど知らず、
無邪気に笑ってみせる。
*
一方、大我にも変化があった。
兄の手紙に毎回出てくる“冴夢”の名。
その存在が、知らず胸にひっかかる。
(兄ちゃん……その子の話、多くなってきたな。)
兄の文体から漂う“焦り”と“心配”と……
ほんの僅かな“特別感”。
大我は読みながら、
知らない後味を胸に覚える。
それが嫉妬だと気づくのは、
もう少し先の話。
*
そんな中、世那に転機が訪れた。
「名取先生! 連絡来ましたよ!」
出版社の担当編集、森園が興奮気味に電話をしてきた。
「先生のデビュー作、映画化が正式決定しました!」
世那は受話器を落としそうになった。
「……え、本当に……!?」
夢が、現実になった。
家族でも誰よりも真っ先に伝えたいのは
大我だった。
そして、冴夢にも言いたいと思った。
(さゆ……喜んでくれるかな。)
自分でも驚くほど自然にそう思ってしまったことに、
世那はまた胸の奥がざわついた。
(俺……どうしたんだ。)
その日の夜、
世那は便箋を取り出し、
迷いながらもペンを走らせた。
──────────────────────────
✦手紙
◆世那 → 大我
大我へ。
ちょっと聞いてくれ。
ついに……俺の小説が映画化することになった。
信じられないよな。
デビュー作だぞ?
こんなことあるんだな。
大我に一番に知らせたかった。
ずっと背中押してくれてたの、知ってるから。
……それで……冴夢のことだけど。
最近さ、あいつ……少し大人っぽくなった気がする。
笑った顔がきれいなんだ。
俺、変なこと言ってるな……
兄ちゃんらしくないって笑うだろ?
でも、どうしてか……
心臓が変な動きするんだ。
これは、なんなんだろうな。
世那
⸻
◆大我 → 世那
兄ちゃんへ。
映画化!?
兄ちゃん、すごいよ。
本当に……本当におめでとう。
兄ちゃんの文章は絶対映像に向いてると思ってた。
俺、初日に観に行くからな。
父さんにも言う。絶対観させる。
……で、冴夢ちゃんの話。
兄ちゃん、なんか最近“文体”が違うよ。
分かるんだよ、兄弟だから。
冴夢ちゃんのこと、心配してるだけじゃないだろ。
兄ちゃんが“変な動きする”って言ったの、
たぶん……そういうことなんだと思う。
俺は別に否定しないよ。
兄ちゃんが誰を大事にしたっていい。
ただ一つだけ。
兄ちゃんが傷つくような恋なら、
俺は止める。
大我
世那は原稿の合間に冴夢を教える時間が増えていた。
冴夢は中学生になり、
表情も落ち着き、背も少し伸びた。
「世那、今日ここ教えて」
「そこは……この式使うんだよ。」
無邪気に寄ってくる冴夢の髪が、
ふと世那の肩に触れる。
その瞬間――
胸の奥が、微かに跳ねた。
(……やめろよ俺。相手はまだ子どもだ。)
自分に言い聞かせるけど、
心が静かにならない。
冴夢が笑うと、そのたびに胸がぎゅっとなる。
そんな自分が怖かった。
*
ある日、冴夢が教科書を閉じて言った。
「世那って……なんか、手があったかいね。」
その一言に、世那は一瞬言葉を失った。
(……なんだそれ……反則だろ。)
冴夢は世那の気持ちなど知らず、
無邪気に笑ってみせる。
*
一方、大我にも変化があった。
兄の手紙に毎回出てくる“冴夢”の名。
その存在が、知らず胸にひっかかる。
(兄ちゃん……その子の話、多くなってきたな。)
兄の文体から漂う“焦り”と“心配”と……
ほんの僅かな“特別感”。
大我は読みながら、
知らない後味を胸に覚える。
それが嫉妬だと気づくのは、
もう少し先の話。
*
そんな中、世那に転機が訪れた。
「名取先生! 連絡来ましたよ!」
出版社の担当編集、森園が興奮気味に電話をしてきた。
「先生のデビュー作、映画化が正式決定しました!」
世那は受話器を落としそうになった。
「……え、本当に……!?」
夢が、現実になった。
家族でも誰よりも真っ先に伝えたいのは
大我だった。
そして、冴夢にも言いたいと思った。
(さゆ……喜んでくれるかな。)
自分でも驚くほど自然にそう思ってしまったことに、
世那はまた胸の奥がざわついた。
(俺……どうしたんだ。)
その日の夜、
世那は便箋を取り出し、
迷いながらもペンを走らせた。
──────────────────────────
✦手紙
◆世那 → 大我
大我へ。
ちょっと聞いてくれ。
ついに……俺の小説が映画化することになった。
信じられないよな。
デビュー作だぞ?
こんなことあるんだな。
大我に一番に知らせたかった。
ずっと背中押してくれてたの、知ってるから。
……それで……冴夢のことだけど。
最近さ、あいつ……少し大人っぽくなった気がする。
笑った顔がきれいなんだ。
俺、変なこと言ってるな……
兄ちゃんらしくないって笑うだろ?
でも、どうしてか……
心臓が変な動きするんだ。
これは、なんなんだろうな。
世那
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◆大我 → 世那
兄ちゃんへ。
映画化!?
兄ちゃん、すごいよ。
本当に……本当におめでとう。
兄ちゃんの文章は絶対映像に向いてると思ってた。
俺、初日に観に行くからな。
父さんにも言う。絶対観させる。
……で、冴夢ちゃんの話。
兄ちゃん、なんか最近“文体”が違うよ。
分かるんだよ、兄弟だから。
冴夢ちゃんのこと、心配してるだけじゃないだろ。
兄ちゃんが“変な動きする”って言ったの、
たぶん……そういうことなんだと思う。
俺は別に否定しないよ。
兄ちゃんが誰を大事にしたっていい。
ただ一つだけ。
兄ちゃんが傷つくような恋なら、
俺は止める。
大我
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