兄嫁〜あなたがくれた世界で〜

SAKU

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四章

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冬の気配が近づく頃、
世那は原稿の合間に冴夢を教える時間が増えていた。

冴夢は中学生になり、
表情も落ち着き、背も少し伸びた。

「世那、今日ここ教えて」

「そこは……この式使うんだよ。」

無邪気に寄ってくる冴夢の髪が、
ふと世那の肩に触れる。

その瞬間――
胸の奥が、微かに跳ねた。

(……やめろよ俺。相手はまだ子どもだ。)

自分に言い聞かせるけど、
心が静かにならない。

冴夢が笑うと、そのたびに胸がぎゅっとなる。

そんな自分が怖かった。



ある日、冴夢が教科書を閉じて言った。

「世那って……なんか、手があったかいね。」

その一言に、世那は一瞬言葉を失った。

(……なんだそれ……反則だろ。)

冴夢は世那の気持ちなど知らず、
無邪気に笑ってみせる。



一方、大我にも変化があった。

兄の手紙に毎回出てくる“冴夢”の名。
その存在が、知らず胸にひっかかる。

(兄ちゃん……その子の話、多くなってきたな。)

兄の文体から漂う“焦り”と“心配”と……
ほんの僅かな“特別感”。

大我は読みながら、
知らない後味を胸に覚える。

それが嫉妬だと気づくのは、
もう少し先の話。



そんな中、世那に転機が訪れた。

「名取先生! 連絡来ましたよ!」

出版社の担当編集、森園が興奮気味に電話をしてきた。

「先生のデビュー作、映画化が正式決定しました!」

世那は受話器を落としそうになった。

「……え、本当に……!?」

夢が、現実になった。

家族でも誰よりも真っ先に伝えたいのは

大我だった。

そして、冴夢にも言いたいと思った。

(さゆ……喜んでくれるかな。)

自分でも驚くほど自然にそう思ってしまったことに、
世那はまた胸の奥がざわついた。

(俺……どうしたんだ。)

その日の夜、
世那は便箋を取り出し、
迷いながらもペンを走らせた。

──────────────────────────
✦手紙
◆世那 → 大我

大我へ。
ちょっと聞いてくれ。
ついに……俺の小説が映画化することになった。

信じられないよな。
デビュー作だぞ?
こんなことあるんだな。

大我に一番に知らせたかった。
ずっと背中押してくれてたの、知ってるから。

……それで……冴夢のことだけど。

最近さ、あいつ……少し大人っぽくなった気がする。
笑った顔がきれいなんだ。

俺、変なこと言ってるな……
兄ちゃんらしくないって笑うだろ?

でも、どうしてか……
心臓が変な動きするんだ。

これは、なんなんだろうな。

世那



◆大我 → 世那

兄ちゃんへ。
映画化!?
兄ちゃん、すごいよ。
本当に……本当におめでとう。

兄ちゃんの文章は絶対映像に向いてると思ってた。
俺、初日に観に行くからな。
父さんにも言う。絶対観させる。

……で、冴夢ちゃんの話。

兄ちゃん、なんか最近“文体”が違うよ。
分かるんだよ、兄弟だから。

冴夢ちゃんのこと、心配してるだけじゃないだろ。

兄ちゃんが“変な動きする”って言ったの、
たぶん……そういうことなんだと思う。

俺は別に否定しないよ。
兄ちゃんが誰を大事にしたっていい。

ただ一つだけ。

兄ちゃんが傷つくような恋なら、
俺は止める。

大我
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