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五章
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冴夢は中学三年になった。
「進路希望調査票、出した?」
世那が問うと、冴夢は視線をそらす。
「……出せなかった。」
「どうして?」
小さな声で返ってきた。
「……“高校なんて行く価値ない”って……
ママの彼氏さんが。」
胸がきゅっと縮む。
「さゆ、高校行きたいんだよな。」
「……うん。」
その声には迷いなんて一つもなかった。
行きたい。
でも行けないかもしれない。
そんな子どもの声だった。
*
その数日後。
夜のアパートの前で、世那は信じられない光景を見た。
冴夢が外階段の下で、
スーパーの袋を枕にして眠っていた。
(……うそだろ。)
足元には薄いパーカー。
春とはいえ夜風は冷たい。
それでも彼女は起きなかった。
疲れ果てていたのだ。
世那は震える手で冴夢の肩を揺らした。
「……さゆ、なんでこんなところで……」
冴夢はゆっくり目を開けた。
その瞳には、あきらめが滲んでいた。
「……家、入れてもらえなかった……
邪魔だって……」
(もうダメだ。限界だ。)
世那は深く息を吸った。
「さゆ、うちに来い。
今日はじゃなくて……これからもだ。」
冴夢は驚いて固まる。
「……でも、迷惑だよ……?」
「迷惑じゃない。
俺が言ってるんだ。来い。」
声が震えた。
怒りじゃない。
悔しさでもない。
守りたいという感情が溢れていた。
*
世那は翌朝、学校に事情を話し、
冴夢が学校に通いやすくなるよう手続きをした。
しかし、法的な壁は高かった。
「他人の家で未成年を預かること」は、簡単ではない。
家族でもなく、親権もない。
世那の立場はあまりにも弱かった。
その夜、世那は机に額をつけた。
(……どうすれば……あの子を守れる……?)
答えは、苦しいほど明白。
【結婚】
その2文字が浮かんだ…。
冴夢を守れる唯一の方法。
それが“結婚”だった。
普通ならありえない選択。
でも、冴夢の現状は“普通”なんかじゃない。
世那はペンを握りしめた。
誰より頼りたい相手に――
本音を送るために。
──────────────────────────
✦手紙
◆世那 → 大我
大我へ。
……聞いてほしい。
今日、さゆが外階段の下で寝てた。
家に入れてもらえなくて、ビニール袋を枕にして……
パーカー一枚で丸まってた。
起こしたらさ、
「邪魔だから外にいろって言われたから」って
まるで“いつものこと”みたいに言うんだ。
あれは……本当に胸が詰まった。
学校も、このままだと通えなくなる。
進学も危ない。
俺、やれることは全部やったつもりだった。
でも「他人」のままじゃどうにもならない。
それで……
一つだけ、あの子を守れる方法を考えた。
……俺が“家族”になることだ。
正しいかどうかは分からない。
感情で動いてる気もする。
でも、このままあの子を“ひとり”にする方が怖い。
大我、お前ならどうする?
世那
⸻
◆大我 → 世那
兄ちゃんへ。
……まず、さゆちゃんのこと。
怒りというより、読んでて寒気がした。
兄ちゃんがそこまで追い詰められるのも当然だ。
でもさ。
兄ちゃん、
これは“子猫拾う”のとは違うからな。
拾って、可哀想だから抱えて、
途中で「やっぱ無理でした」って放すことは絶対に出来ない。
“家族になる”っていうのは、
そういう重さのあることだよ。
だから――
ちゃんと考えてほしい。
ただ守りたい、だけじゃなくて
生活も将来も、全部ひっくるめて。
その上で、兄ちゃんが
「それでも俺がさゆちゃんの味方でいる」
「俺があの子の家になる」
って決めたなら……
その時は俺、ちゃんと兄ちゃんを応援する。
無責任な背中押しはしない。
けど、考えた末の決断なら支える。
兄ちゃん、ひとりで抱え込むなよ。
大我
「進路希望調査票、出した?」
世那が問うと、冴夢は視線をそらす。
「……出せなかった。」
「どうして?」
小さな声で返ってきた。
「……“高校なんて行く価値ない”って……
ママの彼氏さんが。」
胸がきゅっと縮む。
「さゆ、高校行きたいんだよな。」
「……うん。」
その声には迷いなんて一つもなかった。
行きたい。
でも行けないかもしれない。
そんな子どもの声だった。
*
その数日後。
夜のアパートの前で、世那は信じられない光景を見た。
冴夢が外階段の下で、
スーパーの袋を枕にして眠っていた。
(……うそだろ。)
足元には薄いパーカー。
春とはいえ夜風は冷たい。
それでも彼女は起きなかった。
疲れ果てていたのだ。
世那は震える手で冴夢の肩を揺らした。
「……さゆ、なんでこんなところで……」
冴夢はゆっくり目を開けた。
その瞳には、あきらめが滲んでいた。
「……家、入れてもらえなかった……
邪魔だって……」
(もうダメだ。限界だ。)
世那は深く息を吸った。
「さゆ、うちに来い。
今日はじゃなくて……これからもだ。」
冴夢は驚いて固まる。
「……でも、迷惑だよ……?」
「迷惑じゃない。
俺が言ってるんだ。来い。」
声が震えた。
怒りじゃない。
悔しさでもない。
守りたいという感情が溢れていた。
*
世那は翌朝、学校に事情を話し、
冴夢が学校に通いやすくなるよう手続きをした。
しかし、法的な壁は高かった。
「他人の家で未成年を預かること」は、簡単ではない。
家族でもなく、親権もない。
世那の立場はあまりにも弱かった。
その夜、世那は机に額をつけた。
(……どうすれば……あの子を守れる……?)
答えは、苦しいほど明白。
【結婚】
その2文字が浮かんだ…。
冴夢を守れる唯一の方法。
それが“結婚”だった。
普通ならありえない選択。
でも、冴夢の現状は“普通”なんかじゃない。
世那はペンを握りしめた。
誰より頼りたい相手に――
本音を送るために。
──────────────────────────
✦手紙
◆世那 → 大我
大我へ。
……聞いてほしい。
今日、さゆが外階段の下で寝てた。
家に入れてもらえなくて、ビニール袋を枕にして……
パーカー一枚で丸まってた。
起こしたらさ、
「邪魔だから外にいろって言われたから」って
まるで“いつものこと”みたいに言うんだ。
あれは……本当に胸が詰まった。
学校も、このままだと通えなくなる。
進学も危ない。
俺、やれることは全部やったつもりだった。
でも「他人」のままじゃどうにもならない。
それで……
一つだけ、あの子を守れる方法を考えた。
……俺が“家族”になることだ。
正しいかどうかは分からない。
感情で動いてる気もする。
でも、このままあの子を“ひとり”にする方が怖い。
大我、お前ならどうする?
世那
⸻
◆大我 → 世那
兄ちゃんへ。
……まず、さゆちゃんのこと。
怒りというより、読んでて寒気がした。
兄ちゃんがそこまで追い詰められるのも当然だ。
でもさ。
兄ちゃん、
これは“子猫拾う”のとは違うからな。
拾って、可哀想だから抱えて、
途中で「やっぱ無理でした」って放すことは絶対に出来ない。
“家族になる”っていうのは、
そういう重さのあることだよ。
だから――
ちゃんと考えてほしい。
ただ守りたい、だけじゃなくて
生活も将来も、全部ひっくるめて。
その上で、兄ちゃんが
「それでも俺がさゆちゃんの味方でいる」
「俺があの子の家になる」
って決めたなら……
その時は俺、ちゃんと兄ちゃんを応援する。
無責任な背中押しはしない。
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兄ちゃん、ひとりで抱え込むなよ。
大我
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