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六章
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静かな夜。
ランプの灯りが淡く揺れ、
世那は言葉を選びながら冴夢を見つめていた。
冴夢はカップを両手で抱え、
不安そうにじっと世那の顔を待っている。
(逃げるな……ここで曖昧にしたら、守れない。)
世那は覚悟を決めた。
「……さゆ。
お前を、このまま他人として預かり続けるのはもう限界だ。」
冴夢の指が小さく震える。
世那は続けた。
「だから……俺は、お前と“家族になりたい”と思ってる。」
冴夢は一瞬、きょとんとした。
「……養子、ってこと……?」
世那は少しだけ目を丸くしたが、すぐに首を振った。
「違う。
そういう“親子の意味”じゃない。」
冴夢はゆっくり考えるようにまばたきをした。
「……じゃあ……どういう……家族……?」
世那は深呼吸して、
逃げ道のない言葉を静かに置いた。
「……結婚、だ。」
冴夢はぴたりと固まり、
視線が少し揺れた。
「……世那くん……それで、いいの……?」
「うん。」
「でも……
結婚って……人生のすごく大事なことで……
同情とか、責任だけで決めるものじゃ……ないよ……?」
声は震えているのに、
言っている内容はずっと大人だった。
世那はかぶりを振った。
「同情じゃない。
守りたい、って気持ちはある。
でもそれだけじゃなくて……」
冴夢の目が世那をまっすぐ捉える。
「さゆ、お前は――
俺にとって大事な“ひとり”だ。
家でも、学校でも、安心できる場所を持ってほしい。
そのために俺の人生が変わることは……怖くない。」
冴夢の表情が揺れた。
涙こそ落ちないけど、胸の奥で何かが崩れた目をしていた。
「……わたし……」
「うん。」
「……世那くんの“家族”になりたい。」
その言葉は静かで、まっすぐで、
幼さより“覚悟”の方が勝っていた。
世那はそっと息を吐き、
冴夢の手に触れた。
「……ありがとう、さゆ。」
冴夢は小さく頷き、
その手を握り返した。
ふたりきりで決めた夜。
その静かな決断だけが、世界の真ん中だった。
──────────────────────────
ランプの光が揺れていた。
世那くんの部屋は、いつもより静かだった。
胸が、ずっと苦しい。
学校で怒られたわけでも、家で何かされたわけでもないのに――
“今日の世那くん”は、なんだか違った。
飲みもののミルクが、少し甘い。
でも、それより世那くんの言葉がずっと気になっていた。
「……さゆ。
俺は、お前を守るために、
“家族”にならなきゃいけないと思ってる。」
その瞬間、息が止まった。
“家族になれる”なんて、
そんなこと、わたしの人生で起こるなんて思ってなかった。
だって、家族って――
傷つく場所でしかなかったから。
だけど世那くんは、
あの人は……
わたしに優しくする時、
いつも「何も見返りを求めてない」顔をしてくれる。
誰かにそんなふうに扱われたこと、
今までなかった。
だから余計に怖かった。
「……養子、ってこと……?」
考えたそのままのことを口にしてしまった。
世那くんは目を丸くして、すぐ首を振った。
「違う。
そういう“親子の意味”じゃない。」
じゃあ……なんで?
どういう意味の“家族”?
世那くんがゆっくり言った。
「……結婚、だ。」
心臓が一回、大きく跳ねた。
それは――
怖いとかじゃなくて。
驚いたとかでもなくて。
(……わたしなんかが……
世那くんの“家族”……?)
そんなこと、考えたこともなかった。
世那くんは優しい。
穏やかで、怒鳴らない。
わたしに触れるとき、手があったかい。
わたしの人生で、
そんな大人は一人もいなかった。
たぶん――
たぶんだけど。
これは、
“好き”っていう気持ちなんだと思った。
でも、言わなきゃいけないことがあった。
「……結婚って……人生のすごく大事なことで……
同情でやったら……
世那くんの人生、変わっちゃうよ……?」
あの人のことが好きだからこそ、
そう言いたくなった。
世那くんは優しいから、
わたしを助けるためなら何だってしちゃいそうだから。
でも世那くんは、
まっすぐ、迷わず言った。
「さゆ、お前は――
俺にとって大事な“ひとり”だ。」
その言葉が胸の奥に、
ゆっくり沈んだ。
苦しいのに、あたたかい。
痛いのに、救われる。
そんな気持ちは初めてだった。
「……わたし……
世那くんの“家族”になりたい。」
そう言ったとき、
世那くんが驚いたみたいに息を吸った。
わたしは泣いていなかった。
でも心は、泣きたくなるほど揺れていた。
“守ってほしい”じゃなくて、
“世那くんのそばにいたい”と
はっきり思った。
たぶん。
たぶんだけど――
これが初恋なんだと思う。
ランプの灯りが淡く揺れ、
世那は言葉を選びながら冴夢を見つめていた。
冴夢はカップを両手で抱え、
不安そうにじっと世那の顔を待っている。
(逃げるな……ここで曖昧にしたら、守れない。)
世那は覚悟を決めた。
「……さゆ。
お前を、このまま他人として預かり続けるのはもう限界だ。」
冴夢の指が小さく震える。
世那は続けた。
「だから……俺は、お前と“家族になりたい”と思ってる。」
冴夢は一瞬、きょとんとした。
「……養子、ってこと……?」
世那は少しだけ目を丸くしたが、すぐに首を振った。
「違う。
そういう“親子の意味”じゃない。」
冴夢はゆっくり考えるようにまばたきをした。
「……じゃあ……どういう……家族……?」
世那は深呼吸して、
逃げ道のない言葉を静かに置いた。
「……結婚、だ。」
冴夢はぴたりと固まり、
視線が少し揺れた。
「……世那くん……それで、いいの……?」
「うん。」
「でも……
結婚って……人生のすごく大事なことで……
同情とか、責任だけで決めるものじゃ……ないよ……?」
声は震えているのに、
言っている内容はずっと大人だった。
世那はかぶりを振った。
「同情じゃない。
守りたい、って気持ちはある。
でもそれだけじゃなくて……」
冴夢の目が世那をまっすぐ捉える。
「さゆ、お前は――
俺にとって大事な“ひとり”だ。
家でも、学校でも、安心できる場所を持ってほしい。
そのために俺の人生が変わることは……怖くない。」
冴夢の表情が揺れた。
涙こそ落ちないけど、胸の奥で何かが崩れた目をしていた。
「……わたし……」
「うん。」
「……世那くんの“家族”になりたい。」
その言葉は静かで、まっすぐで、
幼さより“覚悟”の方が勝っていた。
世那はそっと息を吐き、
冴夢の手に触れた。
「……ありがとう、さゆ。」
冴夢は小さく頷き、
その手を握り返した。
ふたりきりで決めた夜。
その静かな決断だけが、世界の真ん中だった。
──────────────────────────
ランプの光が揺れていた。
世那くんの部屋は、いつもより静かだった。
胸が、ずっと苦しい。
学校で怒られたわけでも、家で何かされたわけでもないのに――
“今日の世那くん”は、なんだか違った。
飲みもののミルクが、少し甘い。
でも、それより世那くんの言葉がずっと気になっていた。
「……さゆ。
俺は、お前を守るために、
“家族”にならなきゃいけないと思ってる。」
その瞬間、息が止まった。
“家族になれる”なんて、
そんなこと、わたしの人生で起こるなんて思ってなかった。
だって、家族って――
傷つく場所でしかなかったから。
だけど世那くんは、
あの人は……
わたしに優しくする時、
いつも「何も見返りを求めてない」顔をしてくれる。
誰かにそんなふうに扱われたこと、
今までなかった。
だから余計に怖かった。
「……養子、ってこと……?」
考えたそのままのことを口にしてしまった。
世那くんは目を丸くして、すぐ首を振った。
「違う。
そういう“親子の意味”じゃない。」
じゃあ……なんで?
どういう意味の“家族”?
世那くんがゆっくり言った。
「……結婚、だ。」
心臓が一回、大きく跳ねた。
それは――
怖いとかじゃなくて。
驚いたとかでもなくて。
(……わたしなんかが……
世那くんの“家族”……?)
そんなこと、考えたこともなかった。
世那くんは優しい。
穏やかで、怒鳴らない。
わたしに触れるとき、手があったかい。
わたしの人生で、
そんな大人は一人もいなかった。
たぶん――
たぶんだけど。
これは、
“好き”っていう気持ちなんだと思った。
でも、言わなきゃいけないことがあった。
「……結婚って……人生のすごく大事なことで……
同情でやったら……
世那くんの人生、変わっちゃうよ……?」
あの人のことが好きだからこそ、
そう言いたくなった。
世那くんは優しいから、
わたしを助けるためなら何だってしちゃいそうだから。
でも世那くんは、
まっすぐ、迷わず言った。
「さゆ、お前は――
俺にとって大事な“ひとり”だ。」
その言葉が胸の奥に、
ゆっくり沈んだ。
苦しいのに、あたたかい。
痛いのに、救われる。
そんな気持ちは初めてだった。
「……わたし……
世那くんの“家族”になりたい。」
そう言ったとき、
世那くんが驚いたみたいに息を吸った。
わたしは泣いていなかった。
でも心は、泣きたくなるほど揺れていた。
“守ってほしい”じゃなくて、
“世那くんのそばにいたい”と
はっきり思った。
たぶん。
たぶんだけど――
これが初恋なんだと思う。
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