兄嫁〜あなたがくれた世界で〜

SAKU

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七章

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冴夢と話した翌朝。
世那は何度もスマホを見ては、深く息を吐いていた。

(さゆは十五。
 結婚はできない。
 でも、進学は――四月から始まる。)

タイムリミットはもうすぐそこだった。

世那は頭を抱えた。
“守る”と決めたのに、
制度がそれを許してくれない。

(……じゃあ、せめて。
 “約束”が必要だ。)

冴夢を確実に学校へ行かせるための、
“法的に最小限許されるつながり”。

婚約。

世那自身、言葉にするだけで胸が苦しくなる。
ふたりが望んでいた“家族”の形には、まだ届かない。
それでも――
守るためには、これしかなかった。

そして世那は決めた。

今日、冴夢の母に話をする。



冴夢の家のドアを叩いたとき、
心臓が少し震えた。

ガチャッと開いた扉の向こうで、
冴夢の母親は酔いの残る目で世那を睨んだ。

「……何よ。隣のお兄ちゃん?」

世那は深く頭を下げた。

「冴夢さんの進学の件で、話があります。」

「は?学校なんてどうでもいいでしょ。」

その言葉が、世那のほんの奥で何かを刺した。

(……さゆに高校行かせたくないんじゃなくて、
 “興味がない”んだな……)

世那はもう一度、落ち着いて頭を下げる。

「冴夢さんを、僕に預けてほしいと思っています。」

母親の眉が跳ねた。

「は?なんでアンタがそんなこと言うの?」

「彼女が学校に通うためです。
 僕の家でなら、安全に生活できます。」

「……はぁ?
 アンタに何の権利があるのよ。」

世那は少しだけ息を吸い、
覚悟を固めた声で言った。

「……冴夢さんと“婚約”という形を取らせてください。」

空気がぴたりと止まった。

「……婚約?冴夢と?アンタが?」

「はい。
 正式な結婚は、彼女が16になってからです。
 でも、それまでの間、彼女が安全に進学できる環境が必要です。」

冴夢の母は一瞬、ふっと笑った。

「あんたみたいな若い子が?
 冴夢なんかのために?」

世那は、静かに頷いた。

「冴夢“だから”です。」

しばらく沈黙が落ちた。

母親の視線は世那を突き刺したが、
世那の表情は一度も揺れなかった。

やがて、母親はうんざりしたように肩をすくめた。

「……好きにすれば?
 どうでもいいし。」

その瞬間、世那の胸の奥で何かが切れたように痛んだ。

(……この人に預けていたら、
 さゆの未来は本当に無くなる。)

だからこそ――
決意は正しかった。

世那は深く頭を下げた。

「ありがとうございます。」

家族でもない。
血もつながっていない。
でも世那の胸の奥には、
確かに一つの灯りが灯っていた。

(さゆ……
 お前を必ず、守る。)
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