9 / 17
八章
しおりを挟む
冴夢の荷物を引き取り、
「婚約」という形で彼女を預かることが決まった翌日。
世那は仕事部屋で書籍のゲラに目を通していた。
だけど――
一行も頭に入ってこない。
(……このままワンルームで暮らすのは、さすがに無理だろ……)
自分の部屋を見回す。
壁際に床まで積まれた本、本、本。
折り畳み机。
狭いキッチン。
一人分の生活動線。
そこに、
15歳の女の子を迎える。
しかも“婚約中”という立場で。
(……これ、完全にアウトだろ。)
自分で思って、思わず頭を抱えた。
冴夢を守るための決断だった。
でも、環境がこれでは「守る」以前に、不安にさせてしまう。
そして何より――
(……あの母親と顔を合わせる可能性を、残したくない。)
同じアパートの階段。
同じ廊下。
同じ建物。
帰宅したとき、偶然すれ違うことだってある。
母親が酔って怒鳴ったり、
冴夢を呼び戻したり――
可能性はいくらでもあった。
(安全なんて言えないじゃないか……そんなの。)
世那は肘をつき、ため息を落とした。
*
机の上には、連載の原稿と、
映像化が決まった作品の書籍が積み上がっている。
そして――
数か月前に届いた印税の明細書。
「……そうだよな。
ベストセラー、三冊続いたんだもんな。」
連載の締め切りを守る日々の中で、
すっかり忘れていた。
大学も卒業していた。
本も売れている。
連載もある。
映画化まで進んだ。
そのくせ、
自分がまだ“学生気分”で
狭いワンルームに住んでいる事実に苦笑した。
(……俺、もう大人なんだよな。)
守る、と決めたなら――
環境も整えるべきだ。
世那はノートを開き、
静かに書き始めた。
・冴夢が安心できる部屋
・学校に通いやすい距離
・編集部へも行きやすい
・夜でも安全な立地
・二人分の生活動線
・鍵の管理
・女性向けの設備(防犯面)
書き込むうちに、
胸の奥がじんわりと熱くなった。
(……これからの時間を、ちゃんと作るんだ。)
そして、迷いなく言葉が落ちた。
「引っ越そう。」
小さく呟いた声は、
思った以上に重く、でも清々しかった。
冴夢の未来のため。
自分の覚悟のため。
ふたりの生活のため。
新しい家はただの“場所”じゃない。
“ふたりの人生が始まる場所”になる。
世那はペンを置き、立ち上がった。
早速、不動産サイトを開く。
画面に映る間取り図の中から、
彼は迷いなく 「2LDK」 の欄をタップした。
(ワンルームは……もう卒業だ。)
そう決めた瞬間、
胸が不思議と軽くなった。
冴夢に、
胸を張って言えるように。
「……さゆ、引っ越そう。
もっと広い家で、一緒に暮らそう。」
──────────────────────────
「さゆ。引っ越そう。」
世那くんがそう言った瞬間、
胸の奥が、ふわっと浮かんで、それからすぐに重く沈んだ。
「……引っ越し……?」
「うん。ここじゃ、さゆも気を遣うだろうし。
……あの人と顔を合わせる可能性もあるしな。」
“あの人”ーー冴夢の母のことだ。
分かってる。
世那くんはわたしを守ろうとしてる。
でも。
(……そんなにしてもらっていいの?)
胸がぎゅっと痛くなる。
わたしは、ずっと“邪魔者”だった。
いらない子で、置いていかれる側の人間だった。
そんなわたしが、
世那くんの人生を、場所を、お金を、時間を、
全部変えてしまうなんて。
(……無理させてる……絶対。)
世那くんは優しい。
誰より優しい。
だから、言ってくれる。
でもその優しさに寄りかかったら、
きっといつか壊れてしまう。
「……世那くん。」
声が震える。
それでも言わなきゃいけなかった。
「わたし……世那くんに、どう返せばいいの……?」
恋人じゃない。
友達でもない。
家族……と呼ぶには距離が近すぎて、遠すぎて。
なのにわたしたちは“婚約して”いて、
結婚を前提に一緒に暮らす。
本当はおかしいことだらけなのに、
世那くんは一つも文句を言わない。
その優しさが、
胸を撫でるように温かいのに、
同時に苦しくてたまらない。
(……わたし、たぶん世那くんが好きなんだ。)
でもそれを言ってしまったら、
世那くんに“重さ”しか押しつけない。
だから言えない。
言えないけれど、溢れそうだった。
「……こんなにしてもらって……
何返せばいいのか、分からない……」
すると世那くんは、驚くほど静かな声で言った。
「さゆは……“返す”とか考えなくていい。」
その優しさが、
わたしをまた泣きそうにさせた。
──────────────────────────
✦手紙
◆世那 → 大我
大我へ。
引っ越しをすることにした。
さゆの母親と同じ建物に住み続けるのは危険だし、
ワンルームでの共同生活は現実的じゃない。
それと……
大我に正直に言っておきたいことがある。
さゆは十五歳だ。
今の俺は家族として、保護者として動いている。
“冴夢を抱きたい”とか、そういう感情じゃない。
あの子はまだ子どもみたいなもので、
俺の欲なんて混ぜてはいけないし、混ざるべきじゃない。
さゆは今、人生を立て直す途中にいる。
俺はその土台になりたいだけだ。
でも時々、
この責任が俺ひとりで担い切れるのか……怖くなる。
ただ、それでも逃げたくはない。
大我、お前ならどう思う?
世那
──────────────────────────
◆大我 → 世那
兄ちゃんへ。
まず言っておくけど。
兄ちゃんの気持ちが悪い方向に向いてないのは、俺が一番知ってる。
でも、兄ちゃん。
一つだけ考え違いしてる。
「十五歳だから子どもみたいなもの」
これ、違うよ。
十五でも十六でも、
人生決めてる子は決めてる。
俺の友達にもいるよ。
十六で母親になって、ちゃんと家庭に入った子。
高校辞めずに続けながら、夫と子どもと暮らしてる。
年齢だけじゃ何も判断できない。
さゆちゃんは“子どもみたい”なんじゃなくて、
環境のせいで、子どもでいるしかなかったんだよ。
兄ちゃんが責任を感じるのは分かる。
でもその“責任感”が逆に
さゆちゃんを遠ざけてる気もする。
ちゃんと話しなよ。
兄ちゃんの気持ちも、
さゆちゃんの気持ちも。
“守るだけ”じゃ、家族にはなれないよ。
大我
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
新居は、静かな住宅街の一角だった。
2LDK。
明るい日差し。
ワンルームの三倍以上の広さ。
鍵を開けた瞬間、
冴夢は一歩も動けなくなった。
「……広……」
世那くんは笑った。
「まあ、前が狭すぎただけだよ。」
冴夢はまだ靴のまま固まっている。
信じられなかった。
(……世那くん、こんなところに住めるお金あったんだ……?)
どこか現実味がなかった。
だって世那くんは、
本を積んだワンルームで暮らしていたから。
でも、荷物の中には出版社の封筒が何通もあって、
そこに見慣れない金額の明細が挟まっていた。
冴夢はぽつりと聞いた。
「……世那くん、お金……大丈夫なの?」
世那くんは一瞬だけ目を丸くして、
すぐに笑った。
「大丈夫。
俺、社会人だし。大学も出たし。
……一応、作家としてはそれなりに稼げてるよ。」
「さらっと言うけど……
あのボロいアパートに住んでたのは……?」
「場所が学校に近かったからだよ。
あと、……原稿に集中しやすかったしな。」
冴夢は真顔になった。
「……世那くんって……
想像の五倍くらい生活力あるんだね……」
「五倍ってお前……」
世那くんは苦笑して、冴夢の頭をぽんと撫でた。
*
引っ越し後、必要な家具と生活用品を買うために
二人で駅前のショッピングセンターへ向かった。
カートを押して歩く冴夢は、
なんだかそわそわしていた。
「さゆ、必要なもんあったらその都度言えよ?」
「……でも……お金……」
「さっきも言ったけど、大丈夫だって。」
「……ほんとに……?」
冴夢は立ち止まり、
小さくカートの取っ手を握ったまま言った。
「……わたし、高校生になるのに……
全部世那くんに買ってもらっていいのかなって……」
世那は、優しい声で答えた。
「さゆが高校に行くのは、
俺が守りたい“未来”なんだよ。」
冴夢は胸がきゅっとした。
世那くんは“守る”って言うけど、
その声は、ただの保護者じゃなくて。
家族以上で、
恋人未満で、
夫婦になる約束をした人の声だった。
ー高校準備、売り場
制服の採寸、筆記用具、通学用の靴。
リュックを背負って鏡に立つ冴夢を見て、
世那くんはふっと笑った。
「……似合うな。」
冴夢の心臓が跳ねた。
(……なにそれ………)
胸の奥が熱くなるのに、
その理由を言葉にできなかった。
「世那くん……」
「ん?」
「……がんばるね。
学校も、生活も。
ちゃんと、迷惑かけないように。」
世那くんは少しだけ眉を下げた。
「さゆ。
“迷惑”って言葉、今日で終わりな。」
冴夢は目を瞬く。
世那くんは、
買い物袋を片手に優しく言った。
「これからはふたりで生活するんだ。
俺の生活がさゆで変わるのは当たり前だよ。
迷惑じゃなくて……“共同生活”。」
その言葉が胸にしみて、
冴夢は思わずカートの影でそっと涙を拭った。
(……世那くんと歩く未来が、こんなにあったかいなんて……)
──────────────────────────
ー新居・夜。まだ段ボールだらけのリビング
窓辺に段ボールが積まれ、
カーテンすらまだつけていない部屋。
冴夢は、買い物袋を片付けながら
何度も何度も世那くんを横目で見ていた。
(……言わなきゃ……
だって言わなきゃ、きっと誤解される……)
世那はソファに腰を下ろし、
引っ越し疲れの肩をぐるりと回す。
その様子を見て、冴夢は深呼吸した。
「……世那くん。」
「ん?どうした?」
世那は穏やかな目でこっちを見る。
その優しさが胸の奥で痛いくらい響く。
冴夢は手をぎゅっと握った。
「冴夢、あのね。」
世那は少し考えてから、
まっすぐな声で言った。
「俺はさゆに“自由に生きてほしい”んだ。
今はまだ決められないことも多いと思うけど……
将来どうしたいか、何を選びたいか、
“さゆ自身の人生”は、ぜんぶ……言ってほしい。」
冴夢は目を瞬いた。
(……自由……
そんな言葉、今までかけてもらったことなかった……)
胸の奥にじん、と熱が広がる。
「なんでも言っていい。
俺は、さゆの選択をちゃんと聞くから。」
世那の声があまりにも温かくて、
冴夢はつい、泣きそうになった。
「……あの……ね。世那くん。」
声が震える。
でも、言わなきゃいけない。
「ひとつ……あるの。」
「うん、なんでも言って。」
世那は優しい。
その優しさに寄りかかりたくなる。
でも、寄りかかりすぎたら壊れちゃう。
冴夢は勇気を振り絞って言った。
「わたし……
世那くんが、あそこから出してくれるために
婚約してくれたの、わかってる。
“夫婦になる”って言ってくれたのも……全部……わかってる。」
世那の瞳が揺れた。
冴夢は続ける。
「だけど……
もし……世那くんに“好きな人”が出来たら……
絶対、言ってほしいの。」
世那は息を呑んだ。
冴夢の声は、涙に濡れそうで濡れない線の上。
「だって……
“わたしがいる限り”、
世那くん……好きな人と結婚できないでしょ……?」
世那の胸に、痛みが走った。
冴夢は強い子だ。
でも同時に、
自分なんかが足枷になるなんて、本気で思ってる。
冴夢は、
自分の価値を“ゼロ”みたいに扱ってしまう。
(違う……
そんなわけない……)
言葉にしなきゃ伝わらないのに、
喉が痛いくらい熱くなって言葉が出てこない。
冴夢は、ぎゅっと拳を握って続けた。
「わたし……世那くんの人生を奪いたくない。
世那くんは何でも出来る人だから……
もっと、誰かに……愛されてほしい。」
そして、
ぽつりとこぼれた。
「でもね……
本当のこと言うと……
わたし、ちょっと……すこし……
世那くんのこと……」
声が小さく、小さくしぼむ。
「……すき、なんだよ。」
世界が一度止まった。
世那は、テーブルの下で拳を握りしめた。
冴夢は十五歳。
まだ守られるべき子どもなのに。
その“好き”は、
どう扱っても壊してしまいそうなほど繊細で。
世那の胸が熱く苦しくなった。
(さゆ……
そんなふうに自分を安売りするなよ……)
何か言おうとした瞬間、
冴夢は目をそらして、
小さく微笑んだ。
「だから……
好きな人できたら、ほんとに教えてね。」
世那は息を整えながら、
震える声で答えるしかなかった。
「……さゆ。
それは……絶対に言うよ。
でも、その前に……ひとつだけ覚えてて。」
冴夢が顔を上げる。
世那は静かに言った。
「“さゆは俺の人生を奪わない”。
むしろ……守りたいって思わせたのは……さゆなんだよ。」
冴夢の頬が、ゆっくりと赤く染まった。
──────────────────────────
新居の電気はまだ暗く、
段ボールの影が壁に長く伸びていた。
冴夢が「おやすみ」と言って
自分の部屋へ入っていったあと。
リビングには、静けさが落ちた。
世那はソファに腰を下ろして、
深く、深く息を吐いた。
(……言わせてしまったな……)
冴夢が震える声で言った言葉――
「わたし……すこし……世那くんのこと……すき、なんだよ。」
胸の奥がじわりと熱くなる。
(……あの子、ほんとに……)
手のひらで顔を覆った。
冴夢はまだ十五歳。
守られて当然の年齢で、
誰かを“好き”と口にすることも
本当はまだ早いのかもしれない。
だけど――
その言葉は
決して軽くなかった。
“あそこから出してくれた”とか、
“助けてくれた”とかじゃない。
あの子なりに、
ちゃんと感情として、
ちゃんと向き合ってくれた。
(……でも、俺が……)
世那の指先が微かに震える。
守ると言いながら、
冴夢の“初めての好き”に
胸が揺れた自分がいる。
その事実が苦しかった。
「……はぁ……っ」
ソファにうつむいたまま、
世那は顔に手を押し当てた。
(俺は大人だ。
これ以上……絶対、境界を越えちゃいけない。)
冴夢の人生を奪わないために。
冴夢が遠い未来、誰かを選ぶ可能性を閉ざさないために。
だから――
“好き”の重みを受け取っていいのは、
その子が大人になるまでじゃない。
それでも胸は痛い。
言わせてしまった。
泣かせてしまった。
そして――
少しだけ嬉しいと思ってしまった。
「……ほんと、俺……弱いな……」
ぽつりとこぼれた言葉。
誰にも聞こえない。
冴夢にも、大我にも。
引っ越したばかりの広いリビングに、
世那の浅い呼吸だけが響く。
そして――
ゆっくりと顔を上げる。
(だめだ。俺が泣いてる場合じゃない。)
冴夢の未来を守るために。
冴夢の“好き”を壊さないために。
世那は、そっと目元を拭いた。
「……ちゃんと……支えなきゃな。」
そして立ち上がる。
寝る前に玄関の鍵を確認し、
冴夢の部屋の灯りが消えているのを確かめて――
小さく微笑んだ。
(大丈夫。ここは、さゆの家だ。)
誰よりも先に、
そう思い続けようと決めた。
──────────────────────────
デスクの上にはノートPCと、
父の会社で使う資料が山積みになっていた。
仕事の区切りがついたところで、
そっと置かれた便箋が視界に入る。
兄・世那からの手紙。
大我はペンを置き、背筋を伸ばして封を開けた。
最初は、いつも通り気楽に読んでいた。
でも——
途中で、指が止まった。
ー世那の手紙(抜粋)
さゆに「自由に生きてほしい」と言った。
進学も生活も、できる限り支えたい。
……正直、胸が苦しかった。
さゆが「すき」と言ってくれた。
あれは子どもの感情だし、
越えちゃいけない線は分かってる。
でも……言葉が心に残ってしまって。
自分が揺れたことに戸惑ってる。
守りたい。それだけは確かだ。
手紙を読み終えた瞬間——
大我は椅子にもたれ、天井を仰いだ。
(……兄ちゃん……)
胸の奥がざわつく。
でも、それは嫌な揺れじゃない。
兄の言い回し。
言葉の選び方。
削りきれず残った“心の震え”。
全部全部、弟には分かってしまう。
(兄ちゃん……さゆちゃんのこと、好きなんだ。)
“守りたい”と書いているけれど、
ただの保護では説明できない温度だった。
あれは——
恋だ。
本人だけが気づいていないやつ。
大我は短く笑った。
「兄ちゃん、ほんと不器用だな……」
昔からそうだ。
誰かを助けようとして、
いつも自分が傷つく側に回ってきた兄。
でも今は違う。
冴夢に対する兄の言葉は、
“救う”だけじゃなくて——
“心が動いている”証拠だった。
(……兄ちゃん、やっと誰かを好きになれたんだな。)
胸の奥がじわっと温かくなる。
弟としての心配もある。
けれど同時に、
兄の人生が誰かによって色づく瞬間を見た気がして——
少し泣きそうになった。
大我は便箋を取り、静かに書き始めた。
──────────────────────────
◆大我 → 世那
兄ちゃんへ。
手紙、読んだよ。
……兄ちゃんさ、
自分じゃ気づいてないみたいだけど、
文章の中に“揺れ”が滲み出てる。
さゆちゃんの「好き」に胸が動いたんだろ?
それ、兄ちゃん……
“もう好き”なんだよ。
子どもの初恋は確かに守らなきゃいけないものだけど、
兄ちゃんの気持ちは大人の感情だ。
16歳は子供に見えるかもだけど、結婚出来る年だからね?
早いと感じるかもしれないけど、
その子たちはちゃんと幸せにやってる。
だから——
逃げるなよ、兄ちゃん。
「勘違いだった」で蓋するな。
冴夢ちゃんにちゃんと向き合え。
兄ちゃんが踏み外さないことは、
俺が一番知ってる。
大我
「婚約」という形で彼女を預かることが決まった翌日。
世那は仕事部屋で書籍のゲラに目を通していた。
だけど――
一行も頭に入ってこない。
(……このままワンルームで暮らすのは、さすがに無理だろ……)
自分の部屋を見回す。
壁際に床まで積まれた本、本、本。
折り畳み机。
狭いキッチン。
一人分の生活動線。
そこに、
15歳の女の子を迎える。
しかも“婚約中”という立場で。
(……これ、完全にアウトだろ。)
自分で思って、思わず頭を抱えた。
冴夢を守るための決断だった。
でも、環境がこれでは「守る」以前に、不安にさせてしまう。
そして何より――
(……あの母親と顔を合わせる可能性を、残したくない。)
同じアパートの階段。
同じ廊下。
同じ建物。
帰宅したとき、偶然すれ違うことだってある。
母親が酔って怒鳴ったり、
冴夢を呼び戻したり――
可能性はいくらでもあった。
(安全なんて言えないじゃないか……そんなの。)
世那は肘をつき、ため息を落とした。
*
机の上には、連載の原稿と、
映像化が決まった作品の書籍が積み上がっている。
そして――
数か月前に届いた印税の明細書。
「……そうだよな。
ベストセラー、三冊続いたんだもんな。」
連載の締め切りを守る日々の中で、
すっかり忘れていた。
大学も卒業していた。
本も売れている。
連載もある。
映画化まで進んだ。
そのくせ、
自分がまだ“学生気分”で
狭いワンルームに住んでいる事実に苦笑した。
(……俺、もう大人なんだよな。)
守る、と決めたなら――
環境も整えるべきだ。
世那はノートを開き、
静かに書き始めた。
・冴夢が安心できる部屋
・学校に通いやすい距離
・編集部へも行きやすい
・夜でも安全な立地
・二人分の生活動線
・鍵の管理
・女性向けの設備(防犯面)
書き込むうちに、
胸の奥がじんわりと熱くなった。
(……これからの時間を、ちゃんと作るんだ。)
そして、迷いなく言葉が落ちた。
「引っ越そう。」
小さく呟いた声は、
思った以上に重く、でも清々しかった。
冴夢の未来のため。
自分の覚悟のため。
ふたりの生活のため。
新しい家はただの“場所”じゃない。
“ふたりの人生が始まる場所”になる。
世那はペンを置き、立ち上がった。
早速、不動産サイトを開く。
画面に映る間取り図の中から、
彼は迷いなく 「2LDK」 の欄をタップした。
(ワンルームは……もう卒業だ。)
そう決めた瞬間、
胸が不思議と軽くなった。
冴夢に、
胸を張って言えるように。
「……さゆ、引っ越そう。
もっと広い家で、一緒に暮らそう。」
──────────────────────────
「さゆ。引っ越そう。」
世那くんがそう言った瞬間、
胸の奥が、ふわっと浮かんで、それからすぐに重く沈んだ。
「……引っ越し……?」
「うん。ここじゃ、さゆも気を遣うだろうし。
……あの人と顔を合わせる可能性もあるしな。」
“あの人”ーー冴夢の母のことだ。
分かってる。
世那くんはわたしを守ろうとしてる。
でも。
(……そんなにしてもらっていいの?)
胸がぎゅっと痛くなる。
わたしは、ずっと“邪魔者”だった。
いらない子で、置いていかれる側の人間だった。
そんなわたしが、
世那くんの人生を、場所を、お金を、時間を、
全部変えてしまうなんて。
(……無理させてる……絶対。)
世那くんは優しい。
誰より優しい。
だから、言ってくれる。
でもその優しさに寄りかかったら、
きっといつか壊れてしまう。
「……世那くん。」
声が震える。
それでも言わなきゃいけなかった。
「わたし……世那くんに、どう返せばいいの……?」
恋人じゃない。
友達でもない。
家族……と呼ぶには距離が近すぎて、遠すぎて。
なのにわたしたちは“婚約して”いて、
結婚を前提に一緒に暮らす。
本当はおかしいことだらけなのに、
世那くんは一つも文句を言わない。
その優しさが、
胸を撫でるように温かいのに、
同時に苦しくてたまらない。
(……わたし、たぶん世那くんが好きなんだ。)
でもそれを言ってしまったら、
世那くんに“重さ”しか押しつけない。
だから言えない。
言えないけれど、溢れそうだった。
「……こんなにしてもらって……
何返せばいいのか、分からない……」
すると世那くんは、驚くほど静かな声で言った。
「さゆは……“返す”とか考えなくていい。」
その優しさが、
わたしをまた泣きそうにさせた。
──────────────────────────
✦手紙
◆世那 → 大我
大我へ。
引っ越しをすることにした。
さゆの母親と同じ建物に住み続けるのは危険だし、
ワンルームでの共同生活は現実的じゃない。
それと……
大我に正直に言っておきたいことがある。
さゆは十五歳だ。
今の俺は家族として、保護者として動いている。
“冴夢を抱きたい”とか、そういう感情じゃない。
あの子はまだ子どもみたいなもので、
俺の欲なんて混ぜてはいけないし、混ざるべきじゃない。
さゆは今、人生を立て直す途中にいる。
俺はその土台になりたいだけだ。
でも時々、
この責任が俺ひとりで担い切れるのか……怖くなる。
ただ、それでも逃げたくはない。
大我、お前ならどう思う?
世那
──────────────────────────
◆大我 → 世那
兄ちゃんへ。
まず言っておくけど。
兄ちゃんの気持ちが悪い方向に向いてないのは、俺が一番知ってる。
でも、兄ちゃん。
一つだけ考え違いしてる。
「十五歳だから子どもみたいなもの」
これ、違うよ。
十五でも十六でも、
人生決めてる子は決めてる。
俺の友達にもいるよ。
十六で母親になって、ちゃんと家庭に入った子。
高校辞めずに続けながら、夫と子どもと暮らしてる。
年齢だけじゃ何も判断できない。
さゆちゃんは“子どもみたい”なんじゃなくて、
環境のせいで、子どもでいるしかなかったんだよ。
兄ちゃんが責任を感じるのは分かる。
でもその“責任感”が逆に
さゆちゃんを遠ざけてる気もする。
ちゃんと話しなよ。
兄ちゃんの気持ちも、
さゆちゃんの気持ちも。
“守るだけ”じゃ、家族にはなれないよ。
大我
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
新居は、静かな住宅街の一角だった。
2LDK。
明るい日差し。
ワンルームの三倍以上の広さ。
鍵を開けた瞬間、
冴夢は一歩も動けなくなった。
「……広……」
世那くんは笑った。
「まあ、前が狭すぎただけだよ。」
冴夢はまだ靴のまま固まっている。
信じられなかった。
(……世那くん、こんなところに住めるお金あったんだ……?)
どこか現実味がなかった。
だって世那くんは、
本を積んだワンルームで暮らしていたから。
でも、荷物の中には出版社の封筒が何通もあって、
そこに見慣れない金額の明細が挟まっていた。
冴夢はぽつりと聞いた。
「……世那くん、お金……大丈夫なの?」
世那くんは一瞬だけ目を丸くして、
すぐに笑った。
「大丈夫。
俺、社会人だし。大学も出たし。
……一応、作家としてはそれなりに稼げてるよ。」
「さらっと言うけど……
あのボロいアパートに住んでたのは……?」
「場所が学校に近かったからだよ。
あと、……原稿に集中しやすかったしな。」
冴夢は真顔になった。
「……世那くんって……
想像の五倍くらい生活力あるんだね……」
「五倍ってお前……」
世那くんは苦笑して、冴夢の頭をぽんと撫でた。
*
引っ越し後、必要な家具と生活用品を買うために
二人で駅前のショッピングセンターへ向かった。
カートを押して歩く冴夢は、
なんだかそわそわしていた。
「さゆ、必要なもんあったらその都度言えよ?」
「……でも……お金……」
「さっきも言ったけど、大丈夫だって。」
「……ほんとに……?」
冴夢は立ち止まり、
小さくカートの取っ手を握ったまま言った。
「……わたし、高校生になるのに……
全部世那くんに買ってもらっていいのかなって……」
世那は、優しい声で答えた。
「さゆが高校に行くのは、
俺が守りたい“未来”なんだよ。」
冴夢は胸がきゅっとした。
世那くんは“守る”って言うけど、
その声は、ただの保護者じゃなくて。
家族以上で、
恋人未満で、
夫婦になる約束をした人の声だった。
ー高校準備、売り場
制服の採寸、筆記用具、通学用の靴。
リュックを背負って鏡に立つ冴夢を見て、
世那くんはふっと笑った。
「……似合うな。」
冴夢の心臓が跳ねた。
(……なにそれ………)
胸の奥が熱くなるのに、
その理由を言葉にできなかった。
「世那くん……」
「ん?」
「……がんばるね。
学校も、生活も。
ちゃんと、迷惑かけないように。」
世那くんは少しだけ眉を下げた。
「さゆ。
“迷惑”って言葉、今日で終わりな。」
冴夢は目を瞬く。
世那くんは、
買い物袋を片手に優しく言った。
「これからはふたりで生活するんだ。
俺の生活がさゆで変わるのは当たり前だよ。
迷惑じゃなくて……“共同生活”。」
その言葉が胸にしみて、
冴夢は思わずカートの影でそっと涙を拭った。
(……世那くんと歩く未来が、こんなにあったかいなんて……)
──────────────────────────
ー新居・夜。まだ段ボールだらけのリビング
窓辺に段ボールが積まれ、
カーテンすらまだつけていない部屋。
冴夢は、買い物袋を片付けながら
何度も何度も世那くんを横目で見ていた。
(……言わなきゃ……
だって言わなきゃ、きっと誤解される……)
世那はソファに腰を下ろし、
引っ越し疲れの肩をぐるりと回す。
その様子を見て、冴夢は深呼吸した。
「……世那くん。」
「ん?どうした?」
世那は穏やかな目でこっちを見る。
その優しさが胸の奥で痛いくらい響く。
冴夢は手をぎゅっと握った。
「冴夢、あのね。」
世那は少し考えてから、
まっすぐな声で言った。
「俺はさゆに“自由に生きてほしい”んだ。
今はまだ決められないことも多いと思うけど……
将来どうしたいか、何を選びたいか、
“さゆ自身の人生”は、ぜんぶ……言ってほしい。」
冴夢は目を瞬いた。
(……自由……
そんな言葉、今までかけてもらったことなかった……)
胸の奥にじん、と熱が広がる。
「なんでも言っていい。
俺は、さゆの選択をちゃんと聞くから。」
世那の声があまりにも温かくて、
冴夢はつい、泣きそうになった。
「……あの……ね。世那くん。」
声が震える。
でも、言わなきゃいけない。
「ひとつ……あるの。」
「うん、なんでも言って。」
世那は優しい。
その優しさに寄りかかりたくなる。
でも、寄りかかりすぎたら壊れちゃう。
冴夢は勇気を振り絞って言った。
「わたし……
世那くんが、あそこから出してくれるために
婚約してくれたの、わかってる。
“夫婦になる”って言ってくれたのも……全部……わかってる。」
世那の瞳が揺れた。
冴夢は続ける。
「だけど……
もし……世那くんに“好きな人”が出来たら……
絶対、言ってほしいの。」
世那は息を呑んだ。
冴夢の声は、涙に濡れそうで濡れない線の上。
「だって……
“わたしがいる限り”、
世那くん……好きな人と結婚できないでしょ……?」
世那の胸に、痛みが走った。
冴夢は強い子だ。
でも同時に、
自分なんかが足枷になるなんて、本気で思ってる。
冴夢は、
自分の価値を“ゼロ”みたいに扱ってしまう。
(違う……
そんなわけない……)
言葉にしなきゃ伝わらないのに、
喉が痛いくらい熱くなって言葉が出てこない。
冴夢は、ぎゅっと拳を握って続けた。
「わたし……世那くんの人生を奪いたくない。
世那くんは何でも出来る人だから……
もっと、誰かに……愛されてほしい。」
そして、
ぽつりとこぼれた。
「でもね……
本当のこと言うと……
わたし、ちょっと……すこし……
世那くんのこと……」
声が小さく、小さくしぼむ。
「……すき、なんだよ。」
世界が一度止まった。
世那は、テーブルの下で拳を握りしめた。
冴夢は十五歳。
まだ守られるべき子どもなのに。
その“好き”は、
どう扱っても壊してしまいそうなほど繊細で。
世那の胸が熱く苦しくなった。
(さゆ……
そんなふうに自分を安売りするなよ……)
何か言おうとした瞬間、
冴夢は目をそらして、
小さく微笑んだ。
「だから……
好きな人できたら、ほんとに教えてね。」
世那は息を整えながら、
震える声で答えるしかなかった。
「……さゆ。
それは……絶対に言うよ。
でも、その前に……ひとつだけ覚えてて。」
冴夢が顔を上げる。
世那は静かに言った。
「“さゆは俺の人生を奪わない”。
むしろ……守りたいって思わせたのは……さゆなんだよ。」
冴夢の頬が、ゆっくりと赤く染まった。
──────────────────────────
新居の電気はまだ暗く、
段ボールの影が壁に長く伸びていた。
冴夢が「おやすみ」と言って
自分の部屋へ入っていったあと。
リビングには、静けさが落ちた。
世那はソファに腰を下ろして、
深く、深く息を吐いた。
(……言わせてしまったな……)
冴夢が震える声で言った言葉――
「わたし……すこし……世那くんのこと……すき、なんだよ。」
胸の奥がじわりと熱くなる。
(……あの子、ほんとに……)
手のひらで顔を覆った。
冴夢はまだ十五歳。
守られて当然の年齢で、
誰かを“好き”と口にすることも
本当はまだ早いのかもしれない。
だけど――
その言葉は
決して軽くなかった。
“あそこから出してくれた”とか、
“助けてくれた”とかじゃない。
あの子なりに、
ちゃんと感情として、
ちゃんと向き合ってくれた。
(……でも、俺が……)
世那の指先が微かに震える。
守ると言いながら、
冴夢の“初めての好き”に
胸が揺れた自分がいる。
その事実が苦しかった。
「……はぁ……っ」
ソファにうつむいたまま、
世那は顔に手を押し当てた。
(俺は大人だ。
これ以上……絶対、境界を越えちゃいけない。)
冴夢の人生を奪わないために。
冴夢が遠い未来、誰かを選ぶ可能性を閉ざさないために。
だから――
“好き”の重みを受け取っていいのは、
その子が大人になるまでじゃない。
それでも胸は痛い。
言わせてしまった。
泣かせてしまった。
そして――
少しだけ嬉しいと思ってしまった。
「……ほんと、俺……弱いな……」
ぽつりとこぼれた言葉。
誰にも聞こえない。
冴夢にも、大我にも。
引っ越したばかりの広いリビングに、
世那の浅い呼吸だけが響く。
そして――
ゆっくりと顔を上げる。
(だめだ。俺が泣いてる場合じゃない。)
冴夢の未来を守るために。
冴夢の“好き”を壊さないために。
世那は、そっと目元を拭いた。
「……ちゃんと……支えなきゃな。」
そして立ち上がる。
寝る前に玄関の鍵を確認し、
冴夢の部屋の灯りが消えているのを確かめて――
小さく微笑んだ。
(大丈夫。ここは、さゆの家だ。)
誰よりも先に、
そう思い続けようと決めた。
──────────────────────────
デスクの上にはノートPCと、
父の会社で使う資料が山積みになっていた。
仕事の区切りがついたところで、
そっと置かれた便箋が視界に入る。
兄・世那からの手紙。
大我はペンを置き、背筋を伸ばして封を開けた。
最初は、いつも通り気楽に読んでいた。
でも——
途中で、指が止まった。
ー世那の手紙(抜粋)
さゆに「自由に生きてほしい」と言った。
進学も生活も、できる限り支えたい。
……正直、胸が苦しかった。
さゆが「すき」と言ってくれた。
あれは子どもの感情だし、
越えちゃいけない線は分かってる。
でも……言葉が心に残ってしまって。
自分が揺れたことに戸惑ってる。
守りたい。それだけは確かだ。
手紙を読み終えた瞬間——
大我は椅子にもたれ、天井を仰いだ。
(……兄ちゃん……)
胸の奥がざわつく。
でも、それは嫌な揺れじゃない。
兄の言い回し。
言葉の選び方。
削りきれず残った“心の震え”。
全部全部、弟には分かってしまう。
(兄ちゃん……さゆちゃんのこと、好きなんだ。)
“守りたい”と書いているけれど、
ただの保護では説明できない温度だった。
あれは——
恋だ。
本人だけが気づいていないやつ。
大我は短く笑った。
「兄ちゃん、ほんと不器用だな……」
昔からそうだ。
誰かを助けようとして、
いつも自分が傷つく側に回ってきた兄。
でも今は違う。
冴夢に対する兄の言葉は、
“救う”だけじゃなくて——
“心が動いている”証拠だった。
(……兄ちゃん、やっと誰かを好きになれたんだな。)
胸の奥がじわっと温かくなる。
弟としての心配もある。
けれど同時に、
兄の人生が誰かによって色づく瞬間を見た気がして——
少し泣きそうになった。
大我は便箋を取り、静かに書き始めた。
──────────────────────────
◆大我 → 世那
兄ちゃんへ。
手紙、読んだよ。
……兄ちゃんさ、
自分じゃ気づいてないみたいだけど、
文章の中に“揺れ”が滲み出てる。
さゆちゃんの「好き」に胸が動いたんだろ?
それ、兄ちゃん……
“もう好き”なんだよ。
子どもの初恋は確かに守らなきゃいけないものだけど、
兄ちゃんの気持ちは大人の感情だ。
16歳は子供に見えるかもだけど、結婚出来る年だからね?
早いと感じるかもしれないけど、
その子たちはちゃんと幸せにやってる。
だから——
逃げるなよ、兄ちゃん。
「勘違いだった」で蓋するな。
冴夢ちゃんにちゃんと向き合え。
兄ちゃんが踏み外さないことは、
俺が一番知ってる。
大我
0
あなたにおすすめの小説
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
冷たい王妃の生活
柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。
三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。
王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。
孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。
「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。
自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。
やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。
嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる