ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

42-2 狙いと笑み

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 俺はゲート化能力を持ってはいるが、それを――どんな風に使うかということも含めて――敵にバラしたくはなかった。
 だからある装置を使うことにした。持っていると悟られてもメリットの方が大きい、そんな装置を。
 最初は自分のゲートを使いはしたが、約束の時刻にあの場に現れた奴らにバレないために――。そのための装置。

 仲間のうち一人は、今は身動きを取れない大怪我人だ。もう一人は船にいる。その今動ける唯一の仲間には船内でできる情報収集なんかをしてほしいんだが、今回に限っては、俺がこの目で交渉の現場を監視したいと思って出向いたため、そいつには船の周辺の見張りをしてもらった。

 その、装置によるゲートが閉じるのを確認したあとで、元の大きさになった赤い環状のパーツを回収。手のひら以下のサイズだ。俺はそれを腕時計型の装置にカチリとはめた。
 帰るために、船の近くを目的地に指定する必要があり、それができる腕の装置の赤い『指定ボタン』を、以前に一度押していた。それを今一度だけ押し、指定解除をしておく。

 時計に似せられたその装置の盤面において、表示が切り替わる。『その指定は解除されました』という風に。
 隣に青い『指定ボタン』があるが、それを今は押さない。さっきのあのビルに行く時は押したし、指定解除も既にしているからだ。
 青い『リング』と『ピン』も回収している。青い『開通ボタン』を押せば青い『ピン』を置いた場所にゲートが開く。腕の装置にあるリング自体が前方に浮遊しゲート化する、これらはそういうもの。
 赤い『開通ボタン』の場合は、赤いリングが、赤いピンのある場所と繋がるゲートを作ることになる。
 リングはこの腕時計型装置にはめられる。そうして携帯する。

 青いリングとピンは既にこの腕に。
 帰るための赤いピン――今足元にあるもの――もしっかり回収。そちらも腕の装置に側面から画鋲のようにカチリとはめる。取る時は、ピンを一旦押し込んでカチリと鳴らすと取れる。

 自分の型紙のゲートを通って青いピンを事前にあのビルの上に置いていた。だから約束の時間にこの装置を使った移動で済んだということだった。
 こんな移動をしたことで、俺について、『あいつはゲート化を使えない可能性が高い』と思わせられているかもしれない。そんな隙をもし作れていれば。
 ただ。
 あのビルの屋上から戻ってきてからのこの装置に関する必要な作業を一通り終えたそのあとで、俺が最初にしたのは、溜め息をつくことだった。つきたくもなる。あれは想定の中で一番悪い結果だった。

 溜め息をついたあと、地面の隠しスイッチの前までを歩いた。
 スイッチはちょうど隠し床の縁の端にある。動物が押さないようにと、ルオセウの技術で作られた強化ポリカーボネートでカバーされているものだ。
 そのカバーを開けてから押すスイッチ。それを押す。
 すると隠し床が開く。蓋のように開くことで、その下へと続く階段が露わになる。
 その階段を歩いていく。
 その入口を――閉じた状態では――草が隠してくれる。隠し床に茂る草と周囲の草の境すらどこなのか、一見分からない。
 そんな入口から船に入ってからも、考えた。

 ――まさかあんなに素早く対応されるとは。『あいつ』に仕込んだカメラとマイクで偽者だとバレたかどうかを確認できるようにはしていたが、まさかそれで『あいつ』の逃走の一部始終を見ることになるとは。
 それにしても、いつバレたんだ。どうしてバレた?
 掛け合いには乗らなかった。なのに。
 すぐに俺はハッとした。
 そうか。体の傷か! 見える部分の傷やらから微妙な違いまで判断したというのか!? まさかそんなことが。くそっ。そのせいでこの様とは。

 ……あれじゃあもう間に合わなかった。奴らにヒントをやる訳にもいかないからああするほかなかった、そのはずだ、俺は間違っちゃいない。
 にしても。バレたのは仕方ないとはいえ、負傷しやがって。たいして使えなかった。

「テウカー!」
 俺は仲間の名を叫んだ。
 赤いテープを操るのがテウカー。彼はあごに添え木を取り付けた姿で、足を引きずるように船の奥から
やってきた。
 俺は、翻訳機のイヤホンを耳に付けていて、『あいつ』の肩の前にある映像を見られるようにした眼鏡を掛けていた。念のため『翻訳して会話するための装置を仕込んだマスク』もしている。
 少なくともそのイヤホンが翻訳用だということが分かったからか、テウカーは、俺に近付いて来ると、出入口付近に置かれていたマスクを手に取った。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 俺はふざけてマスクを手に取った。手を横に伸ばすことで。
 それを装着。スイッチも押した。
 俺の声が、日本語とやらに変換される。「俺はこれが治るまで動かないぞ」
 言いながらあごや膝を手で示した。
 続けてふざけた態度で接してやった。

「俺はより完璧な状態でやり合いたい。死にたくないんだ、当然だろ? 俺が治るまでに何かやりたければ、テミトレイ、お前が勝手にやれ。その責任は当然、全部お前持ちだ」

 俺がイヤホンの方を装着していなかったため、俺には意味不明な音の連続に聞こえた。テミトレイには、これがルオセウ語に変換されたものが聞こえたはずだ。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 テウカーは、使ったマスクを元々あった棚の上に乱暴に放り投げてからきびすを返した。そして船の奥へと戻っていく。

 やれやれ。この状態で動くべきなのか? しかしこの状況では不安がどうしても大きい……。ちっ。ろくに動けやしない。

 舌打ちしつつも、ほくそ笑んだ。事態は大きく進展しているからだ、ほんの少しのあいだに。
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