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第4章 ケズレルモノ
44-2 潜入
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「発見。ありました」
その小声の報告が入ったのは、探索開始から約三十分後のことだった。
報告者の付近まで行き、茂みに隠れながら見やる。確かに何かの縁のような鉄っぽい直線がある。
誰の気配もない。
前に進み出、地面や木の根、あらゆる場所を探った。
すると地面にスイッチを発見した。透明で頑強なカバーに覆われたスイッチ。何かの縁の端にある。何のか。当然その縁は、船の入り口の蓋の一部。
そこに発見したという情報を複数人で共有すると、俺達は茂みに隠れ直した。
そんな時、自衛隊の者などは我々ルオセウ人の言葉を待ったが、ヴェレンは違った。
「私も行きましょうか」
潜伏調査のことだ。
俺はすかさず。「いや、いい。一人でなければ怪しまれる」
彼らにはそう聞こえたはず、そう思ってからすぐに変身した。サイコロのあの男に。
「ナリシー」というヴェレンの声が届いた。彼らには日本語で「なるほど」と聞こえたはず。
ほぼ同時に、すぐそばにいた右柳さんも納得顔。
「ヴェレンは今すぐゲートを作れ、あの男の服を持ってくるんだ」
この俺の指示を受け、
「分かりました」
とヴェレンがあの会議室に戻った。
そのあとで俺は、今度はこの場の皆に。「私がまず中に入って人質を救い出します。そのあと私だけで相手を鎮圧できればいいのですが、できなければ『失敗』と報告します。それを耳にしたら構わず突入してください。そうしなければ手遅れになり兼ねませんので」
「了解」と言ったのは中隊長だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は男から服を剥ぎ取るようにと指示し、一旦船に戻った。
倉庫にしている小さな部屋に入ると、そこのクオゾラ検査機を手に取った。
それを持って戻った。
クオゾラ(地球でいうX線)を人体に害のないレベルで照射する液晶画面のような部分と柄でできた検査専用部とそれが映し出すモニター部で構成されたもの。一応は専用のマットも。それら全体でひとつのクオゾラ検査機。体内検査ができるルオセウ製の機械。
柄を持ちクオゾラを照射。男の頭部から足の先まで映す。モニターを見たが、サクラによる光の軌跡以外には何の異状もなかった。男の体内にサイコロはない。ほっとする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数分後、ヴェレンが服を持って帰ってきた。あの男の服だ。
シリクスラも、ヴェレンも、この星の自衛隊とやらの装備を身に着けている。これは今朝からだ。ついさっきまでの俺も彼らの迷彩服を着ていた。もし森で戦うことになったら、ということを考えてのことだと嘉納さんが勧めたからだった。
……よし。
俺は着替えると、まず皆に向き直った。
同じ星の仲間も含め、皆が、無防備な俺を守るように守護していた。
「では行ってきます」
彼らに向けて言った。
胸に拳を当て、皆に一礼する。そして行こうとする。と、そんな俺に、右柳さんが。
「ご武運を」
俺はそちらを見て肯いてから、スイッチの方を振り返り、茂みから出ていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
人質が船に。本当に全員が? 確かにそのようには思える。
ただ、人質のことを考えると、俺はなぜだか不安になった。
奴らはもしや、大樹くんを確保できたら、そのまま人質を解放せずに――? そうだ、そのまま去ってしまうかもしれない。
奴らが最初からそのつもりでいるとしたら? それができると思っているのだとしたら? それができるだけの要素を、連中がもし持っているとするなら……。
「隊長?」
と呼ぶ声がした。
「何でもない」
とりあえず部下にはそう言っておいた。そうだ。大樹くんを奪われなければいいんだ。奴らにはできないはず。奴らもそれが分かっているからあの脅しの手段を取っているはず。そうだ。これは杞憂だ。
待機している間に、シリクスラさんが俺達に話した。「実は私、今朝の偽イマギロ部長の口封じをした者がどうやって去ったかを、見ていたんです。そのことで――」
その先がうまく言葉にならないようだったが、辛抱強く俺達は聞いた。
「注意してほしいことがあります。彼らはある装置を使っています、それは罠にもなります」
「装置? いったいどんな」部下の一人が聞いた。
シリクスラさんは言う。
「腕時計型のゲート発生装置です。ゲートを使った運航方法を我々の船が取るのと同じように、ゲート能力を持たない者でも長距離移動ができるようにと開発されたものです。我々の星でも本来は警察組織と各保安部隊員しか持たないのですが――」
それはこういうものだった。
『ピン』を置いた地点に『指定ボタン』で指定しておけば、対応した色の『開通ボタン』を押した時、その色の『リング』がゲートを作る、というもの。
このように、赤と青の最大二種類を同時に使用可能なのだという。
その説明を聞いても、それはそこまで怖いものでもなさそうだ、というのが正直な感想だった。
「その腕時計型の発生装置を使ってゲートを作り、相手をそこに押し込み、仲間と隔離させたり、移動途中でもう一度開通ボタンを押して解除させ、相手の体の切断を図る――そういう惨い使い方をすることも……連中ならありうるかもしれません。要注意です」
ごくりと唾を飲み込む者もいたかもしれないが、俺には実感が湧かなかった。そこまで手の込んだことをされるまでのあいだに相手を無力化できそうだ、そう思ったからだ。脚を撃ってもよし。腕を撃ってもよし。そういった銃撃は、その装置によるゲートのためにピンを置かれるよりも前から、幾らでもできる。
いや、先に置かれていて隠れられていたら危ういか。だがまあ、辺りをよく観察しておけば……。
そこまで危険はなさそうだが――というのが本音だった。
――撃つならやっぱり最初は脚。ゲートとやらを越えられちゃあ困る……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マスクを外してサイコロの男の姿で船に入った俺は、まず奥へと進んだ。もし連中の仲間に見られても、人質の確認をしに行くだけ、そう話せばいい、怪しまれはしないだろう、そう思って進んだ。
この船は二階構造で、中央に階段がある。そこを下りて更に奥へ。
その途中の通路の椅子に、連中の仲間を発見。赤いテープを腹に乗せた男。背もたれに深く背中を預け、ほとんど上を見るような姿勢で、椅子に対応するように肘掛けと繋がった透明モニターで何やら動画を見ている。
その男に見付かって、「ワングスェクラ」と言われた。長かったな、という意味だ、時間が掛かったことは確かに怪しまれているかもしれない。
「ケウディルチェロドヴァクヌフ」外の空気を吸いたくなったんだ、という意味。これでやり過ごせるだろう。
「コー」あっそう、という感じの返事だ。なんとかやり過ごせたか。
俺はそのまま奥に進んだ。
奥には格子で隔てられた部屋があった。そこに人質の姿が。
人質も俺が来たことに気付いた。
中でも女性の一人は、格子を掴んで必死に訴えた。「出して! ここから出してよ! お願い!」
非情に奴らの仲間の振りをし続けなければどうなるか……。安心させるとかえって怪しまれ、事態を深刻化させる可能性が――。
俺は許してくれと思いながら、ただただ無言で数えた。「出してよ! お願いだから!」言われながらだ。
映像にあった者達全員がここにいる。確かにいる。
確認できてから、俺は横を見た。
誰も俺の方に来てはいない。あの赤いテープの奴も動画を見ているだけか?
よし。さっきは確認前だったからバレたくなかったが、今ならもう逃がすのに手間も何もそんなに掛からないし、不安はない。
俺はマスクをして翻訳のスイッチを押した。そしてやっと想いを言葉に。
「安心してください。逃がすために来ました」
ポケットにチョークを隠し持っていた。それを取り出し、四本に増やして格子の向こうに移動させ、そこで巨大化させ、枠状に組ませるとゲートの役割を付与。
「そこにはこの国の治安部隊がいます。保護されて家に帰れます。さあ足元に気を付けて。枠には触れずに向こうへ」
促すと、人質は一人ずつ慎重に入っていった。
あともう少し。残り三人――というところで、俺が来た通路の方から赤いテープのあの男が小走りにやってきた。
そいつは既にこちらを見ていて、訝しんでいたようで、すぐに叫んだ。「アブズキダリュアー!」
――何してやがる! だと? 答えを聞く気はないだろうに。
そいつは赤いテープを本体からビビッと引っ張り出していた。こちらを敵だと見なしている動き。
「失敗!――残り二人!」
外への通信のつもりの声が、空気中では日本語になる。だが船の中から外へと、その信号化された音がきちんと届いたかどうか。
俺は操作していたチョークの枠を、誰も通っていない状態の時に消し、一旦、ほかの人質には待ってもらうことにした。
そして赤いテープの男に放つべく、目の前に、十本ほど浮かせた――!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達が使っている通信機は、ルオセウのものとは違って機能は劣るかもしれない。それでもかなりの質のものだと考えている。
それを通して、この耳でしっかりと受け取っていた。
「失敗!――残り……!」
聞き終わる前に皆に向けて言い放った。「行くぞ!」
「イエッサー!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彼ら部隊がドローンの場所に行く前に、俺は隈射目の会議室に戻っていた。シリクスラさんにお願いして彼女のゲートで、だ。
それからは本部の――建造物としての――地下六階にあるパソコンルームにて、いつものように待機。
帰ってから随分と時間が経った。もう昼が近付いている。
空腹も感じる。
そんな時分になってあることが気になった。――サイコロ使いの男のことだ。
あいつを捕まえておく場所として、あの駐屯地は相応しくない気もした。ただ、佐倉守家も協力しているし、全勢力が奴らの宇宙船に行った訳でもない。それにサイコロも、奴の着替えをイチェリオさんに渡した時からはもう奴の手元にはない。更に言えば、手錠をされているのも見た。
つまり、奴はもう動けやしない。
裸はどうかということで今はタオルケットを掛けられているが、それだけだ。ほかの武器もないはず。
と、そこまで考えて、反応機で探られてしまわないか、と気になった。
でも、それも心配無用か。
サクラで位置が感知されてしまうことはきっとない。もしそれがこの世代でできれば、奴らはイチェリオさん達のサクラを探れたはずだ。そのくらいの世代ではありそうだし。そもそもそれができればこちらが探る時もできたはず。それができないということはつまり、サイコロ男の位置によってこちらの拠点の一つが眞霞駐屯地であるとバレるのではと心配する必要もない。まあ、そんな風にはバレないと思うからこそ実行したんだろう、この作戦を。
服を変装に使った上で船に行ったから服に発信機が付いていても情報の食い違いはない。ルオセウ製の検査機を使って身体検査もやったし。
ふう。心配なさそうだな。
あとは船を探した部隊が人質を救えて奴らを逮捕できれば。うん。それで一気に万事解決かな。
その小声の報告が入ったのは、探索開始から約三十分後のことだった。
報告者の付近まで行き、茂みに隠れながら見やる。確かに何かの縁のような鉄っぽい直線がある。
誰の気配もない。
前に進み出、地面や木の根、あらゆる場所を探った。
すると地面にスイッチを発見した。透明で頑強なカバーに覆われたスイッチ。何かの縁の端にある。何のか。当然その縁は、船の入り口の蓋の一部。
そこに発見したという情報を複数人で共有すると、俺達は茂みに隠れ直した。
そんな時、自衛隊の者などは我々ルオセウ人の言葉を待ったが、ヴェレンは違った。
「私も行きましょうか」
潜伏調査のことだ。
俺はすかさず。「いや、いい。一人でなければ怪しまれる」
彼らにはそう聞こえたはず、そう思ってからすぐに変身した。サイコロのあの男に。
「ナリシー」というヴェレンの声が届いた。彼らには日本語で「なるほど」と聞こえたはず。
ほぼ同時に、すぐそばにいた右柳さんも納得顔。
「ヴェレンは今すぐゲートを作れ、あの男の服を持ってくるんだ」
この俺の指示を受け、
「分かりました」
とヴェレンがあの会議室に戻った。
そのあとで俺は、今度はこの場の皆に。「私がまず中に入って人質を救い出します。そのあと私だけで相手を鎮圧できればいいのですが、できなければ『失敗』と報告します。それを耳にしたら構わず突入してください。そうしなければ手遅れになり兼ねませんので」
「了解」と言ったのは中隊長だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は男から服を剥ぎ取るようにと指示し、一旦船に戻った。
倉庫にしている小さな部屋に入ると、そこのクオゾラ検査機を手に取った。
それを持って戻った。
クオゾラ(地球でいうX線)を人体に害のないレベルで照射する液晶画面のような部分と柄でできた検査専用部とそれが映し出すモニター部で構成されたもの。一応は専用のマットも。それら全体でひとつのクオゾラ検査機。体内検査ができるルオセウ製の機械。
柄を持ちクオゾラを照射。男の頭部から足の先まで映す。モニターを見たが、サクラによる光の軌跡以外には何の異状もなかった。男の体内にサイコロはない。ほっとする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数分後、ヴェレンが服を持って帰ってきた。あの男の服だ。
シリクスラも、ヴェレンも、この星の自衛隊とやらの装備を身に着けている。これは今朝からだ。ついさっきまでの俺も彼らの迷彩服を着ていた。もし森で戦うことになったら、ということを考えてのことだと嘉納さんが勧めたからだった。
……よし。
俺は着替えると、まず皆に向き直った。
同じ星の仲間も含め、皆が、無防備な俺を守るように守護していた。
「では行ってきます」
彼らに向けて言った。
胸に拳を当て、皆に一礼する。そして行こうとする。と、そんな俺に、右柳さんが。
「ご武運を」
俺はそちらを見て肯いてから、スイッチの方を振り返り、茂みから出ていった。
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人質が船に。本当に全員が? 確かにそのようには思える。
ただ、人質のことを考えると、俺はなぜだか不安になった。
奴らはもしや、大樹くんを確保できたら、そのまま人質を解放せずに――? そうだ、そのまま去ってしまうかもしれない。
奴らが最初からそのつもりでいるとしたら? それができると思っているのだとしたら? それができるだけの要素を、連中がもし持っているとするなら……。
「隊長?」
と呼ぶ声がした。
「何でもない」
とりあえず部下にはそう言っておいた。そうだ。大樹くんを奪われなければいいんだ。奴らにはできないはず。奴らもそれが分かっているからあの脅しの手段を取っているはず。そうだ。これは杞憂だ。
待機している間に、シリクスラさんが俺達に話した。「実は私、今朝の偽イマギロ部長の口封じをした者がどうやって去ったかを、見ていたんです。そのことで――」
その先がうまく言葉にならないようだったが、辛抱強く俺達は聞いた。
「注意してほしいことがあります。彼らはある装置を使っています、それは罠にもなります」
「装置? いったいどんな」部下の一人が聞いた。
シリクスラさんは言う。
「腕時計型のゲート発生装置です。ゲートを使った運航方法を我々の船が取るのと同じように、ゲート能力を持たない者でも長距離移動ができるようにと開発されたものです。我々の星でも本来は警察組織と各保安部隊員しか持たないのですが――」
それはこういうものだった。
『ピン』を置いた地点に『指定ボタン』で指定しておけば、対応した色の『開通ボタン』を押した時、その色の『リング』がゲートを作る、というもの。
このように、赤と青の最大二種類を同時に使用可能なのだという。
その説明を聞いても、それはそこまで怖いものでもなさそうだ、というのが正直な感想だった。
「その腕時計型の発生装置を使ってゲートを作り、相手をそこに押し込み、仲間と隔離させたり、移動途中でもう一度開通ボタンを押して解除させ、相手の体の切断を図る――そういう惨い使い方をすることも……連中ならありうるかもしれません。要注意です」
ごくりと唾を飲み込む者もいたかもしれないが、俺には実感が湧かなかった。そこまで手の込んだことをされるまでのあいだに相手を無力化できそうだ、そう思ったからだ。脚を撃ってもよし。腕を撃ってもよし。そういった銃撃は、その装置によるゲートのためにピンを置かれるよりも前から、幾らでもできる。
いや、先に置かれていて隠れられていたら危ういか。だがまあ、辺りをよく観察しておけば……。
そこまで危険はなさそうだが――というのが本音だった。
――撃つならやっぱり最初は脚。ゲートとやらを越えられちゃあ困る……。
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マスクを外してサイコロの男の姿で船に入った俺は、まず奥へと進んだ。もし連中の仲間に見られても、人質の確認をしに行くだけ、そう話せばいい、怪しまれはしないだろう、そう思って進んだ。
この船は二階構造で、中央に階段がある。そこを下りて更に奥へ。
その途中の通路の椅子に、連中の仲間を発見。赤いテープを腹に乗せた男。背もたれに深く背中を預け、ほとんど上を見るような姿勢で、椅子に対応するように肘掛けと繋がった透明モニターで何やら動画を見ている。
その男に見付かって、「ワングスェクラ」と言われた。長かったな、という意味だ、時間が掛かったことは確かに怪しまれているかもしれない。
「ケウディルチェロドヴァクヌフ」外の空気を吸いたくなったんだ、という意味。これでやり過ごせるだろう。
「コー」あっそう、という感じの返事だ。なんとかやり過ごせたか。
俺はそのまま奥に進んだ。
奥には格子で隔てられた部屋があった。そこに人質の姿が。
人質も俺が来たことに気付いた。
中でも女性の一人は、格子を掴んで必死に訴えた。「出して! ここから出してよ! お願い!」
非情に奴らの仲間の振りをし続けなければどうなるか……。安心させるとかえって怪しまれ、事態を深刻化させる可能性が――。
俺は許してくれと思いながら、ただただ無言で数えた。「出してよ! お願いだから!」言われながらだ。
映像にあった者達全員がここにいる。確かにいる。
確認できてから、俺は横を見た。
誰も俺の方に来てはいない。あの赤いテープの奴も動画を見ているだけか?
よし。さっきは確認前だったからバレたくなかったが、今ならもう逃がすのに手間も何もそんなに掛からないし、不安はない。
俺はマスクをして翻訳のスイッチを押した。そしてやっと想いを言葉に。
「安心してください。逃がすために来ました」
ポケットにチョークを隠し持っていた。それを取り出し、四本に増やして格子の向こうに移動させ、そこで巨大化させ、枠状に組ませるとゲートの役割を付与。
「そこにはこの国の治安部隊がいます。保護されて家に帰れます。さあ足元に気を付けて。枠には触れずに向こうへ」
促すと、人質は一人ずつ慎重に入っていった。
あともう少し。残り三人――というところで、俺が来た通路の方から赤いテープのあの男が小走りにやってきた。
そいつは既にこちらを見ていて、訝しんでいたようで、すぐに叫んだ。「アブズキダリュアー!」
――何してやがる! だと? 答えを聞く気はないだろうに。
そいつは赤いテープを本体からビビッと引っ張り出していた。こちらを敵だと見なしている動き。
「失敗!――残り二人!」
外への通信のつもりの声が、空気中では日本語になる。だが船の中から外へと、その信号化された音がきちんと届いたかどうか。
俺は操作していたチョークの枠を、誰も通っていない状態の時に消し、一旦、ほかの人質には待ってもらうことにした。
そして赤いテープの男に放つべく、目の前に、十本ほど浮かせた――!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達が使っている通信機は、ルオセウのものとは違って機能は劣るかもしれない。それでもかなりの質のものだと考えている。
それを通して、この耳でしっかりと受け取っていた。
「失敗!――残り……!」
聞き終わる前に皆に向けて言い放った。「行くぞ!」
「イエッサー!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彼ら部隊がドローンの場所に行く前に、俺は隈射目の会議室に戻っていた。シリクスラさんにお願いして彼女のゲートで、だ。
それからは本部の――建造物としての――地下六階にあるパソコンルームにて、いつものように待機。
帰ってから随分と時間が経った。もう昼が近付いている。
空腹も感じる。
そんな時分になってあることが気になった。――サイコロ使いの男のことだ。
あいつを捕まえておく場所として、あの駐屯地は相応しくない気もした。ただ、佐倉守家も協力しているし、全勢力が奴らの宇宙船に行った訳でもない。それにサイコロも、奴の着替えをイチェリオさんに渡した時からはもう奴の手元にはない。更に言えば、手錠をされているのも見た。
つまり、奴はもう動けやしない。
裸はどうかということで今はタオルケットを掛けられているが、それだけだ。ほかの武器もないはず。
と、そこまで考えて、反応機で探られてしまわないか、と気になった。
でも、それも心配無用か。
サクラで位置が感知されてしまうことはきっとない。もしそれがこの世代でできれば、奴らはイチェリオさん達のサクラを探れたはずだ。そのくらいの世代ではありそうだし。そもそもそれができればこちらが探る時もできたはず。それができないということはつまり、サイコロ男の位置によってこちらの拠点の一つが眞霞駐屯地であるとバレるのではと心配する必要もない。まあ、そんな風にはバレないと思うからこそ実行したんだろう、この作戦を。
服を変装に使った上で船に行ったから服に発信機が付いていても情報の食い違いはない。ルオセウ製の検査機を使って身体検査もやったし。
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