ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

48 希望、手段、それから迷い

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『どこかで妙な音を聞いたとかの情報は?』
 そんな風に犬神いぬがみさんや風浦かざうらさんに言われて俺は滋賀支部のパソコンを借り、調べていた。彼女らもそう。滋賀支部は日本家屋の地下にある。そこに希美子きみこさんのゲートで来て、彼女らも一緒に調べていた。
 だが、今の所、奴らの船に関する情報だと分かりそうなものはない……。

 俺はそんな時にボソッと。「地震の観測地点で怪しい所は……」
「分かりそうか?」俺に風浦さんが聞いた。
「もしかしたら地面を掘る時の振動で分かるかもなんですけど――」
 そしてある時。
「見付けた!」俺は風浦さんに告げた。
 北海道でほんの細な地震。ほかにも地震がありはしたが、時間的に怪しいのはこれ。そしてその地点を中心に、目撃例が出ていないか、あらゆるケータイアプリやネットツールをチェックした。しかし『いつも聞かない音が』というような言葉はなかった。だが、やはり一番怪しいのは時間的にこれ。

 ただ、怪しいとにらんだ地震の中心部には山が。その山はあまりにも広い。
「……」
 誰もが無言。

 最初に口を開いたのは犬神さんだった。「やっぱり無理ですかね」
「そうだなぁ」ひとまずの返事を風浦さんが。そして再度。「連中が動く方が早いだろうな」
「ですよね……」犬神さんの落ち込む声がまた。
「実際これは断定でもないですしね」俺はそれでもと、一応は聞いてみた。「でも、現地の者を動かした方がいい――ですよね? 無謀だと思ってもやらない訳にはいかないですし」
 すると風浦さんが。「ああ、諦める訳にはいかないからな。この前後の地震の地点にも人をやろう。俺は北海道に行く」
 よく見ると、北海道よりほんの少し前の時間に、奈良でも地震が発生していたようだ。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 奈良へは犬神いぬがみが、希美子きみこさんのゲートで向かった。それを見送ってから、今度は俺。
 北海道支部の隈射目くまいめに山狩りを依頼。そこへ俺も――風浦かざうら敏明としあきと名乗りつつ――参加する旨を伝えた。
 それから飛行機で移動。

 飛行機を選んだのは北海道支部にゲートをつなげられる者が一人もいなかったからだ。居那正いなまささんは行ったことがあったらしいがそれも昔の話らしい。「今試してみたものの、できませんでした、申し訳ありません」そう言われた。だから飛行機。

 代わりにと、居那正さんが、小太刀のつばの装飾穴を部分的に巨大化させ、ゲートを東京駅の秘密通路に繋いだ。組織・隈射目くまいめの秘密通路。とりあえずそこへ。

 羽田空港へ着いたのは昼だった。
 夕方、旭川あさひかわに着いた。
 北海道支部の組織員も旭川空港に来ていた。嘉納かのうさんが警視総監や防衛大臣に通達するだけで付近の自衛隊と協力する態勢がすぐに整ったからこの状況――そういうことだろう、奈良も同じような状況のはず。
 合流すると、俺は一緒に彼らの専用車に同乗し、北海道中心部の山の方へ。そしてそこで山狩り。

 空自くうじが上からというのでは接近を気付かれるので動かしたのは陸自りくじのみという話。合流した彼らからそう聞いた。最初に協力した時と同じ部隊の使い方。それがどう転ぶか。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 辺りが暗くなってからも練習を続けた。走りながら放って狙った枝に命中させる練習も。芯を円盤じゃなく丸太状にして積み、いつもの丸い盾ではなく『平らな地形で隙間ができない壁』としての完全な防御を素早くできるようにする練習も。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 夜。その時になって庭を見た。
 ひさしの数か所に設置されたランプが点いてはいるが、その付近以外は真っ暗。そんな庭では彼がまだ練習していた。
 まさかまだやっているとは思わなかった。

 それに、やっていることのレベルが――。

 私はぞくりとした。ゲートの枠を動かす練習について助言はしたけれど、それ以上のことを、もしかしたら彼なら……。
 でも、彼は、奴らの標的そのもの。私達はどう出るべきなのか……。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 寝なければならない時間がやってくる。
 それでも不安で、とにかく練習を続けていた。色んな体勢から放つ練習。敵の視界を遮る練習。盾を素早く的確に目的の場所に展開する練習も。今日教わったゲート枠の移動は特に何度も。加えてゲートの役割の付与とその解除もだ。

 どんな操作方法においても高精度・高速度になるようにと、基礎も怠らない。
 拡大速度、移動速度、目標地点への移動の精度、浮遊維持……。一つ一つ的確に……。そしてそれが複数であっても……。
 そんな時声を掛けられた。「何をやってる」
 イチェリオさんだ。
 彼が溜め息をしたあとで『まあしょうがないよな』という顔をしたように見えた。それから真剣な顔をして。「非常時のために練習したくなる気持ちはわかる。怖いだろうしな。だが、君がちゃんと休まないとどうなるか、分かったものではないんだぞ。奴らの思惑通りに事が動いてしまうかもしれない」

 確かに、動きながらのマギュートをやって、食事や休憩を挟んでも、こういった練習のやり過ぎでよからぬ弊害が出ないとは限らない。
 でも、不安で仕方ないし、今以上に扱えるようになっていればと思ったからで。

 ……それでもやっぱり、こんな練習をすることで何か変な障害がまた僕の身に起こったら……?
 彼も、『今の僕なら休んでいてもいい』くらいの意味で休めと言ったのかもしれない。言うくらいだから勝算がある? もしそうなら……。

「……すみません。もう休みます」
 僕がそう言うと、イチェリオさんは念を押すように。「しっかり休んでくれ」そう言ってから彼は僕に背を向けた。
 この洋館は誰の目にも触れられない場所にある。庭も当然。山奥の別荘のようなものであるらしい。そんな洋館の中へと、裏庭から、イチェリオさんが入っていく。
 それを見送ってから、僕は、最後の鉄の吸収を――。
 そのあとで同じく裏口から洋館内に戻った。

 言われた通りに休むことに。
 ここの執事みたいな人達に布団を与えられていたようで、そんな部屋へ案内され、横になる。が、つい考え込んでしまう。

 ちゃんと寝ないと。考えるな何も。眠れ。きっと戦うことになる。コンディションに響いちゃ駄目なんだ。

 自分のせいでまた誰か死にやしないかと、つい考えてしまう。
 横になって目をつぶっていた。じっとする。宇宙を漂うような感覚の中で、雑念を振り払う。
 たまに色々と考えてしまうけれど、振り払いつつ闇を漂うような感覚に身を任せていると、いつの間にか寝ていた。

 ――そして、また夢を見た。

 戦場になんか行ったことないのに、まるで行ったことがあるような、既視感のある荒野。
 銃声が響く血の海にいる。そんな夢。
 岩陰からの見えない攻撃でも受けたのか、みんなが倒れ、動かなくなる。
 僕だけが生きている。僕だけが……。
 ガラスのように透明な、それでも壊れることがない壁に囲まれて、そこから、誰かが死ぬのを見ている。見ているだけ……。
 何もできない。叫んでも届かない。何か言っても、誰かが死ぬ。それだけの夢。

 目が、開いた。
 夢から覚めても、何かが僕を締め付けている、そう思った。
 ――僕は信じたくなかった。ヴェレンさんが死んだこともそう。こんなことになってることも、夢であればと何度思ったか。

 僕を前線に出さないと言っていた最初の頃の――その時の彼らには、自信があるように思えた。うまくできそうな雰囲気を感じていた。
 犠牲なんてほとんどなくて済むんじゃないか、そう思ってた。
 ただ待っていればいい、それだけでいいかも、そんな希望を持っていた。多分そうだ、僕はそう思ってた。だって彼らが『僕を戦場には出さない』って。最初は、それができそうにないって顔には見えなかったから――。
 だけど。
 だけど今は。



 一日が経ち、広い客間や幾つかのリビング、色んな場所にいるみんなと、改めて顔を合わせた。
 でも、やっぱりヴェレンさんは帰っていない。

 ――本当に死んでしまったのか。なんてことなんだよ。

 報告を信じない訳じゃない。混乱の中死んだように見えただけだったりしないかと、どこかで期待してしまうだけで……。でも、そんなこともなさそうで……。
 どうしても胸が苦しくなってしまう。父さんもいない。奴らの手の中。
 反面、その一日で、シリクスラさんやイチェリオさんのサクラは万全になったはず、しっかりと休めたようだったから。

 彼らはその回復した状態を、どう噛み締めるんだろう。仲間のために。その死のために。許せないと思って戦う……?
 僕もだ。僕でさえ。きっと彼らはもっとに違いない。がんじがらめの今この状況で、きっと、僕よりも。

 彼らは大きくて細長い四角の携帯食を食べていた。青緑色と白のものを数本ずつ。それもルオセウ人の姿で。その方が吸収効率がいいのか? あえての変身。サクラを使ってしまうはず。
 聞いてみた。
 返答はこうだった。「ああ、その通りだよ。君らの姿に初めて化けた頃にも、どうもうまく摂取できていない気がしてね。その時からこうだ。変身に慣れさえすれば、この方が疲れない」

 なるほど……。たまたま気になった――というのも、無駄に消耗しているように見えたからで――だけどむしろこの方がいいと言うのなら、そこにもう疑問はない。

 そうは思うけど、どうなんだこの状況。今の質問で何か解決策をひらめけた訳でもない。
 信じられないことばかりで居ても立っても居られないのに、動けない。ちっとも動けない。

 なんでなんだ。
 どうするべきなんだ?
 なんで……。
 ずっとこうなのか?
 僕は何もできない?
 僕が動けばルオセウ人の未来がどうなるか――。
 このままじゃ今までの犠牲だって何もかも無駄に……。しかもこれ以上出続けるなら……。
 どうすればいいっていうんだよ。
 ……もう、僕には何も分からない。
 感情も全部捨て去りたい。そう思うくらいの、嫌な気分――。
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