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第4章 ケズレルモノ
49 不明な点と胸の痛み
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作戦会議の前に、お兄ちゃんが僕に言った。
「俺も戦いたいとは思ってるんだけどよ。でも、あんな奴らと戦うだなんて――あんなレベルの奴らとだぜ――、そんなの、今の俺にはできねえ――そう思っちまってさ」そこで溜め息が聞こえた。「情けないよな、俺。頼りなさ過ぎだ、こんなの。……こんなんじゃ、俺は、行けば足手まといになる。だから……俺は一緒に行けない。……ごめんな、こんな兄貴で」
お兄ちゃんは、ふがいなさからか泣きそうな声を出していた。
とんでもない言葉だと僕は思った。だって、『今の俺には』というだけの話だから。謝る必要のない、配慮の込められた言葉なんだと僕は思った。
しかもそれをああまで丁寧に言葉にした。そんなお兄ちゃんを、僕は尊敬する。
「いいんだよ」そう前置きしてから、僕は。「力が十分に備わってたら一緒に戦ってた――そういう意味でしょ?」
「そうだけど、でも」
「じゃあいいんだよ。そういう時には頼むよ」
「……おう」その声は揺れていた。
別に泣かせたかった訳じゃないんだけどな。僕は当然だと思ったことを言っただけ。
テーブルを囲って作戦会議をした。その最中、お兄ちゃんとお姉ちゃんは何も言わなかった。
お母さんも、僕の隣に座って黙って会議を聞いていた。隣にいることで確かめているんだろう、僕が今ここに確かにいることを。その上で『なんでこの子なの』なんて思っているんだ、きっと。
お婆ちゃんは、たまに、どことも知れない場所を見てる。僕にだけじゃなくて、空の上のお爺ちゃんにも想いを馳せているのかも。
誰の気持ちも分かる。だけど、僕はやっぱり行かなきゃならない。僕にはもうその想いしかない。
家族の誰もが僕に対して何か思っているんだろう――『そもそもなんでこうなるのが大樹なんだろうな』とか。『なんで俺じゃない?』『なんで私じゃない?』とか。
言われなくても、その気持ちが伝わってきていた。だから、心の中で紡いでおいたのは、『ありがとう』だった。
口に出さないのは照れ臭いからじゃない。そんな気持ちが挟まる余地なんてなかった。ただ会議をきちんとしておきたかった。理由はそれだけ。だから今は言わない代わりに、出発時には伝えるかもしれない――と心に留めることにした。
会議では腕時計型の装置の話も聞いた。それに関してはシリクスラさんが。そして彼女はこうも言った。
「こうまで関わると思ってはいなかったから言わなかったけど、あなたには――、この力の起源を知っておいてほしいの。その……、なぜこの力が自分にあるのかっていう、全ての繋がりを……力の発祥を……あまり、恨んでほしくなくて。正しく知って、それによって感情を持ってほしいの、いい加減に感じるのではなくて――。分かる?」
僕は、静かに頷いた。それから、
「分かります」
そう言った僕に対して、改めて、シリクスラさんが語り始めた。
「さっき話した腕時計型のゲート装置には、サクリギュートと呼ばれる物質が内蔵されているの。このゲート装置自体は、マギュートを使えない者でも扱える」
「……船で発生させるゲートみたいな?」
僕がそう言うと。
「そういうこと」シリクスラさんの肯定。
それから数秒言葉が止まった。
またシリクスラさんが。「実は、マギュートの起源は、新しい物質を作る研究の過程の事故にあったの。その際のサクリギュートと呼ばれる新物質の流出――。そのせいで、私達のようなルオセウ人が――つまりマギュート使いが――誕生してしまった。それから、私達の体内に新たな物質が入り込んでいることが分かって、科学者が研究し、それが、サクリギュートが変化したものに違いないと分かったんです」
途中からみんなに向けての話になっていた。口調も変わっていて――
シリクスラさんは続けた。
「それが理由で、人体の中で変化した物質のことをサクリギュートから取ってサクラと呼ぶことになったんです。その後、元の物質を――サクリギュートを再開発して、安定して生むことができてから、大型の、空港のように利用される、金銭を支払って通るゲート装置……が作られるようになりました。そして、小型化、短時間使用可能にしたのが、さっき話した腕時計型ゲート装置なんです」
そ、そうだったのか……。
ふと、「じゃ、じゃあ」と声が。そちらを見ると、禅慈さんが話していると分かった。「サクラって元々、今聞いたサクリギュートって名前が――、というか、え? その物質が流出しなかったら――」
「そうです、流出さえしなければ、ルオセウ人も能力を持つことがなかった」
と、シリクスラさんが答えた。
彼女は続けた。
「いわゆる加速器の……緊急装置の作動が間に合わなかった時があったとのことで、その時に。そのあとで、科学者の異変からこの能力の存在が判明。サクラと関係していると分かり、その能力を元のサクリギュートから取ってマギュートと呼ぶことにして、それを受けて、マギュート使いでない者にもという考えで、ゲート開発が進められた。つまり、ゲート港ができたのは能力の存在の判明のあと。ただ、流出がなくても――つまり人が能力を得なくても、こういったゲート港などは生まれてはいた可能性が高い。そして、小型化、腕時計型になるまでに至った――。もしかしたら、私が見た殺戮マシンもまた、マギュートのように、サクリギュートによって銃弾を増やして作っているかもしれません。ゲート作用以外の働きも起こすように独自の開発が過激派の中で進められていた……ということはありうるかと。なので、そのマシンが弾切れを起こすことは考えない方がいいでしょう」
「なるほど――」
と、僕は納得を示した。確かにそれも重要な情報だったから。
それにしても。
そんな歴史があっただなんて。
特定の誰かを恨むなんてことはこの場合できない。まあこの場合……というかできるだけ恨むようなことはしないけど。悪いのはマギュートが生まれたことじゃなく、その使い方だ。誰でもそう考えるだろうな。多分マギュートを消すことはできないだろうし。
「腕時計型のゲート装置の発動にも注意してください」
シリクスラさんがそう言ったから、僕は再度、肯いた。「はい」確り声にもした。
「もし発動されれば、すぐに環状ゲートから離れること」これはイチェリオさんが。
「ええ、分かりました」僕は逐一返事をした。
それから数秒後、今度は舞佳さんから質問が飛んだ。「そんな風に……その……、ゲート港っていうのが、ルオセウには沢山あるんですか?」
これにはイチェリオさんが応じた。「ええ、そうです」
直後、僕はあることが気になった。聞いてみる。
「あの……、僕らは何かを操りますよね。サクリギュートは……どうなんですか? 何に作用を――したのかなって」
これは戦況に関わることかもしれない、そう思ってのことだった。
「ああ」イチェリオさんは納得を返してから。「最初は鉄だった」
「鉄……」オウム返しになってしまったが、それで僕は先を促したつもりだった。最初は、ってのが気になったし耳を傾けた。
狙い通りにはなった。イチェリオさんが言う。
「まあ、サクリギュートとサクラ自体が、鉄とはよく反応する。だからか実験段階で、消費用に置いていた幾つかの鉄製の棒にゲート化反応があったことで、鉄を使うことを前提に実験が進められた。だが実際には鉄以外のものがいい。サクリギュートは鉄を吸収、消耗する。ゲート化させるものまで鉄だと二重に消費してしまうからな。ある時、ゲート化する物をアルミニウム管にすることができて、資源消費の分散ができた。だが、それでも鉄の資源が心配だ。だから研究が繰り返され、数千年ほど前、あることが分かった。ゲート港用の装置そのものに酸化鉄が生じているということ。それを取り、鉄と酸素に戻すことで、少しばかり循環するようにはできた……とされている。そんな流れのため、今のゲート港のほとんどのゲートはアルミニウム管でできている。さっきの話の、腕時計型ゲート装置もそうだ」
「なるほど」
――じゃあ強度的には鉄より硬くは……。
そこで、禅慈さんが聞いた。「それって、鉄製のものを操る人が資材補填とかできなかったんですか?」
イチェリオさんは。「鉄製品を操る作業員が複製すればいいという意見も確かにあった――が、鉄製品を操る使い手は実は多い訳でもない……らしい、今も昔も」
なるほど。まあそういうワケで、資源の心配をする必要はそこまでなくなった、と。
で、アルミニウム……。実際はアルミニウム製品を操る人が複製できれば一番なんだろうな。
もし腕時計型ゲート装置を使われたら、能力次第では破壊できそうだ、これは頭に入れておくべきだろう。
船の中の情報の整理が終わると、今度は陣形や行動基準について話し合った。
そして武器の持ち方。僕の場合は持てないかもしれない、と。イチェリオさんはこう言った。
「君は武器を持っても捨てるように脅されるだろう。だがそれでも持って行け。相手が脅しや確認を怠る可能性もある。どんな場合も想定するべきだ。何かで隙を見せるかもしれない。希望は捨てるな。だが武器を捨てろと言われたら遠くに投げ捨てろ。それで油断を誘うんだ」
真顔で僕を見るイチェリオさんに、僕は現場のイメージをしながら、「はい」と返した。
イチェリオさんが続ける。
「逃げ切れた機動隊員の話によると、マシンは最低二体がまだ残っているとのこと。シリクスラが言うには、腕時計型ゲートの無力化はできていない。これらに十分注意すること」
「はい」
そこで風浦さんがイチェリオさんとシリクスラさんに向けて。「電波ジャックに奴らが使った機械……、あれは使えないんですかね」
するとイチェリオさんが。
「緊急強制放送機か。奴らはもう持っていないんだろう、だから最後の脅しが電話で――。いや、待てよ、手っ取り早いから電話を使ったのだとしたら、持っている可能性はある……」
風浦さんは。「なるほどそれなら納得。だがまあ、俺が言ってるのは、こっちが手に入れたアレを使えないかってことです」
「ああ、サイコロを操った男を気絶させた時のモノが、眞霞駐屯地にある……のか」イチェリオさんが疑問気味に言った。
「ええ」これは風浦さん。
「しかし、そこまで作戦には組み込めないかもしれない。が、念のため持っておくのも手ですね」言うとイチェリオさんは急に希美子さんらの方に顔を向けた。
希美子さんはその会話を聞いていたようで、タオルゲートを作った。そのゲートを、居那正さん、右柳さん、生き残った機動隊員や自衛隊員、警察官が通っていく。最後に希美子さん自身も。眞霞駐屯地に向かったんだろう。
イチェリオさんは僕に顔を向け直すと、話を続けた。
「奴らにシャー芯のケースを取られてもう持っていないことを確認されたら、恐らく中に連れ込まれる。奴らも油断する訳にいかないからゲートで一瞬で移動させるに違いない。入る手段はゲートのみ。ゲート越しにゲートを繋げることは、実はできる。その場合での距離感だけは、実際の距離より既に『ゲートで』詰められているからだ、その場合は目に見える距離感でいいから――。だが、その一瞬の油断を突くためには、遠くから双眼鏡等で、奴らの繋ぐゲートの向こうを覗く必要がある。一瞬だけ俺とシリクスラが覗き、そしてゲートを繋げる、そこから隙を突けるように動く」
イチェリオさんはそう言い終わると、シャー芯のケースを僕に見せた。それは僕の物ではない。僕の手には既に一つある。
イチェリオさんもそれを持っている。それがこの作戦において最も大事なこと。
その時だ、「これを」と、シリクスラさんが言った。「手を出して。利き手はよく使うだろうから、利き手じゃない方」
不思議に思いながら僕は左手を彼女の方に伸ばした。
シリクスラさんは、僕の手を開いた状態で下に向けると、その親指、中指、薬指の爪にだけ、透明な何かを貼った。
「追跡用ネイルシールよ」彼女が言った。
ルオセウ製か。
「もし連れ去られてもルオセウでも追跡できるように。これはルオセウの衛星がないと駄目だから。その保険」シリクスラさんはそう言った。
なるほど必要な保険だ、ルオセウに連れ去られた場合のその後のことを考える必要はある。まあ使わなくていいことを願うけど。
地球上においての追跡用としては、僕が装着したのはパンツだ。かつてのベルトのように。タグの所に発信機が。一番脱ぎ難い物だから多分この方がいい。それでも脱がされる可能性はあるけど。
イチェリオさんは更に言った。
「佐倉守家の方々にも今回ばかりは手伝ってもらうことになるかと。総力を以て対処するために。死地に送り込むようなことだとは重々承知です。しかし、それしかもう手はありません」
「構いません、やらせてください」
禅慈さんがそう言った。
「絶対に役立ってみせます」
とは、紫音さんが。
そこで、イチェリオさんが一旦ゲートでどこかへと。それから戻ってくると、僕らにある図を見せた。
これ……、あいつらの船の図面――!?
「宇宙港にはそういった情報もありましたので」
とシリクスラさんが話す中、みんなで見やる。
自衛隊員であろう一人が言う。「一度突入した時も見た、同じ図面ですね。注意すべき点はあの時とほぼ同じですか」
それに対してイチェリオさんは「ええ」と肯いた。「モニター室が重要。ここです」そして指を差す。イチェリオさんはみんなに向けて。「扉を開けるにはスイッチを押すだけでいい。やはり前提としてはここを目指す、が、警報が鳴ったら無視していい」そのあとは特に僕に向けて。「気付かれないように慎重に、敵を確実に行動不能にする。それが肝心だ。船内で何も起こっていないと思わせるんだ。だからこそ人質に近付ける」
僕は何度も肯いた。複雑な状況を何度も思い浮かべながら。何度も肯いた。
それからまたイチェリオさんが。僕に。「……君にはもう少し別の作戦も話しておかなきゃならない」
「別の作戦?」
「ああ。この作戦の話が終わってからあとで話すが――」
「俺も戦いたいとは思ってるんだけどよ。でも、あんな奴らと戦うだなんて――あんなレベルの奴らとだぜ――、そんなの、今の俺にはできねえ――そう思っちまってさ」そこで溜め息が聞こえた。「情けないよな、俺。頼りなさ過ぎだ、こんなの。……こんなんじゃ、俺は、行けば足手まといになる。だから……俺は一緒に行けない。……ごめんな、こんな兄貴で」
お兄ちゃんは、ふがいなさからか泣きそうな声を出していた。
とんでもない言葉だと僕は思った。だって、『今の俺には』というだけの話だから。謝る必要のない、配慮の込められた言葉なんだと僕は思った。
しかもそれをああまで丁寧に言葉にした。そんなお兄ちゃんを、僕は尊敬する。
「いいんだよ」そう前置きしてから、僕は。「力が十分に備わってたら一緒に戦ってた――そういう意味でしょ?」
「そうだけど、でも」
「じゃあいいんだよ。そういう時には頼むよ」
「……おう」その声は揺れていた。
別に泣かせたかった訳じゃないんだけどな。僕は当然だと思ったことを言っただけ。
テーブルを囲って作戦会議をした。その最中、お兄ちゃんとお姉ちゃんは何も言わなかった。
お母さんも、僕の隣に座って黙って会議を聞いていた。隣にいることで確かめているんだろう、僕が今ここに確かにいることを。その上で『なんでこの子なの』なんて思っているんだ、きっと。
お婆ちゃんは、たまに、どことも知れない場所を見てる。僕にだけじゃなくて、空の上のお爺ちゃんにも想いを馳せているのかも。
誰の気持ちも分かる。だけど、僕はやっぱり行かなきゃならない。僕にはもうその想いしかない。
家族の誰もが僕に対して何か思っているんだろう――『そもそもなんでこうなるのが大樹なんだろうな』とか。『なんで俺じゃない?』『なんで私じゃない?』とか。
言われなくても、その気持ちが伝わってきていた。だから、心の中で紡いでおいたのは、『ありがとう』だった。
口に出さないのは照れ臭いからじゃない。そんな気持ちが挟まる余地なんてなかった。ただ会議をきちんとしておきたかった。理由はそれだけ。だから今は言わない代わりに、出発時には伝えるかもしれない――と心に留めることにした。
会議では腕時計型の装置の話も聞いた。それに関してはシリクスラさんが。そして彼女はこうも言った。
「こうまで関わると思ってはいなかったから言わなかったけど、あなたには――、この力の起源を知っておいてほしいの。その……、なぜこの力が自分にあるのかっていう、全ての繋がりを……力の発祥を……あまり、恨んでほしくなくて。正しく知って、それによって感情を持ってほしいの、いい加減に感じるのではなくて――。分かる?」
僕は、静かに頷いた。それから、
「分かります」
そう言った僕に対して、改めて、シリクスラさんが語り始めた。
「さっき話した腕時計型のゲート装置には、サクリギュートと呼ばれる物質が内蔵されているの。このゲート装置自体は、マギュートを使えない者でも扱える」
「……船で発生させるゲートみたいな?」
僕がそう言うと。
「そういうこと」シリクスラさんの肯定。
それから数秒言葉が止まった。
またシリクスラさんが。「実は、マギュートの起源は、新しい物質を作る研究の過程の事故にあったの。その際のサクリギュートと呼ばれる新物質の流出――。そのせいで、私達のようなルオセウ人が――つまりマギュート使いが――誕生してしまった。それから、私達の体内に新たな物質が入り込んでいることが分かって、科学者が研究し、それが、サクリギュートが変化したものに違いないと分かったんです」
途中からみんなに向けての話になっていた。口調も変わっていて――
シリクスラさんは続けた。
「それが理由で、人体の中で変化した物質のことをサクリギュートから取ってサクラと呼ぶことになったんです。その後、元の物質を――サクリギュートを再開発して、安定して生むことができてから、大型の、空港のように利用される、金銭を支払って通るゲート装置……が作られるようになりました。そして、小型化、短時間使用可能にしたのが、さっき話した腕時計型ゲート装置なんです」
そ、そうだったのか……。
ふと、「じゃ、じゃあ」と声が。そちらを見ると、禅慈さんが話していると分かった。「サクラって元々、今聞いたサクリギュートって名前が――、というか、え? その物質が流出しなかったら――」
「そうです、流出さえしなければ、ルオセウ人も能力を持つことがなかった」
と、シリクスラさんが答えた。
彼女は続けた。
「いわゆる加速器の……緊急装置の作動が間に合わなかった時があったとのことで、その時に。そのあとで、科学者の異変からこの能力の存在が判明。サクラと関係していると分かり、その能力を元のサクリギュートから取ってマギュートと呼ぶことにして、それを受けて、マギュート使いでない者にもという考えで、ゲート開発が進められた。つまり、ゲート港ができたのは能力の存在の判明のあと。ただ、流出がなくても――つまり人が能力を得なくても、こういったゲート港などは生まれてはいた可能性が高い。そして、小型化、腕時計型になるまでに至った――。もしかしたら、私が見た殺戮マシンもまた、マギュートのように、サクリギュートによって銃弾を増やして作っているかもしれません。ゲート作用以外の働きも起こすように独自の開発が過激派の中で進められていた……ということはありうるかと。なので、そのマシンが弾切れを起こすことは考えない方がいいでしょう」
「なるほど――」
と、僕は納得を示した。確かにそれも重要な情報だったから。
それにしても。
そんな歴史があっただなんて。
特定の誰かを恨むなんてことはこの場合できない。まあこの場合……というかできるだけ恨むようなことはしないけど。悪いのはマギュートが生まれたことじゃなく、その使い方だ。誰でもそう考えるだろうな。多分マギュートを消すことはできないだろうし。
「腕時計型のゲート装置の発動にも注意してください」
シリクスラさんがそう言ったから、僕は再度、肯いた。「はい」確り声にもした。
「もし発動されれば、すぐに環状ゲートから離れること」これはイチェリオさんが。
「ええ、分かりました」僕は逐一返事をした。
それから数秒後、今度は舞佳さんから質問が飛んだ。「そんな風に……その……、ゲート港っていうのが、ルオセウには沢山あるんですか?」
これにはイチェリオさんが応じた。「ええ、そうです」
直後、僕はあることが気になった。聞いてみる。
「あの……、僕らは何かを操りますよね。サクリギュートは……どうなんですか? 何に作用を――したのかなって」
これは戦況に関わることかもしれない、そう思ってのことだった。
「ああ」イチェリオさんは納得を返してから。「最初は鉄だった」
「鉄……」オウム返しになってしまったが、それで僕は先を促したつもりだった。最初は、ってのが気になったし耳を傾けた。
狙い通りにはなった。イチェリオさんが言う。
「まあ、サクリギュートとサクラ自体が、鉄とはよく反応する。だからか実験段階で、消費用に置いていた幾つかの鉄製の棒にゲート化反応があったことで、鉄を使うことを前提に実験が進められた。だが実際には鉄以外のものがいい。サクリギュートは鉄を吸収、消耗する。ゲート化させるものまで鉄だと二重に消費してしまうからな。ある時、ゲート化する物をアルミニウム管にすることができて、資源消費の分散ができた。だが、それでも鉄の資源が心配だ。だから研究が繰り返され、数千年ほど前、あることが分かった。ゲート港用の装置そのものに酸化鉄が生じているということ。それを取り、鉄と酸素に戻すことで、少しばかり循環するようにはできた……とされている。そんな流れのため、今のゲート港のほとんどのゲートはアルミニウム管でできている。さっきの話の、腕時計型ゲート装置もそうだ」
「なるほど」
――じゃあ強度的には鉄より硬くは……。
そこで、禅慈さんが聞いた。「それって、鉄製のものを操る人が資材補填とかできなかったんですか?」
イチェリオさんは。「鉄製品を操る作業員が複製すればいいという意見も確かにあった――が、鉄製品を操る使い手は実は多い訳でもない……らしい、今も昔も」
なるほど。まあそういうワケで、資源の心配をする必要はそこまでなくなった、と。
で、アルミニウム……。実際はアルミニウム製品を操る人が複製できれば一番なんだろうな。
もし腕時計型ゲート装置を使われたら、能力次第では破壊できそうだ、これは頭に入れておくべきだろう。
船の中の情報の整理が終わると、今度は陣形や行動基準について話し合った。
そして武器の持ち方。僕の場合は持てないかもしれない、と。イチェリオさんはこう言った。
「君は武器を持っても捨てるように脅されるだろう。だがそれでも持って行け。相手が脅しや確認を怠る可能性もある。どんな場合も想定するべきだ。何かで隙を見せるかもしれない。希望は捨てるな。だが武器を捨てろと言われたら遠くに投げ捨てろ。それで油断を誘うんだ」
真顔で僕を見るイチェリオさんに、僕は現場のイメージをしながら、「はい」と返した。
イチェリオさんが続ける。
「逃げ切れた機動隊員の話によると、マシンは最低二体がまだ残っているとのこと。シリクスラが言うには、腕時計型ゲートの無力化はできていない。これらに十分注意すること」
「はい」
そこで風浦さんがイチェリオさんとシリクスラさんに向けて。「電波ジャックに奴らが使った機械……、あれは使えないんですかね」
するとイチェリオさんが。
「緊急強制放送機か。奴らはもう持っていないんだろう、だから最後の脅しが電話で――。いや、待てよ、手っ取り早いから電話を使ったのだとしたら、持っている可能性はある……」
風浦さんは。「なるほどそれなら納得。だがまあ、俺が言ってるのは、こっちが手に入れたアレを使えないかってことです」
「ああ、サイコロを操った男を気絶させた時のモノが、眞霞駐屯地にある……のか」イチェリオさんが疑問気味に言った。
「ええ」これは風浦さん。
「しかし、そこまで作戦には組み込めないかもしれない。が、念のため持っておくのも手ですね」言うとイチェリオさんは急に希美子さんらの方に顔を向けた。
希美子さんはその会話を聞いていたようで、タオルゲートを作った。そのゲートを、居那正さん、右柳さん、生き残った機動隊員や自衛隊員、警察官が通っていく。最後に希美子さん自身も。眞霞駐屯地に向かったんだろう。
イチェリオさんは僕に顔を向け直すと、話を続けた。
「奴らにシャー芯のケースを取られてもう持っていないことを確認されたら、恐らく中に連れ込まれる。奴らも油断する訳にいかないからゲートで一瞬で移動させるに違いない。入る手段はゲートのみ。ゲート越しにゲートを繋げることは、実はできる。その場合での距離感だけは、実際の距離より既に『ゲートで』詰められているからだ、その場合は目に見える距離感でいいから――。だが、その一瞬の油断を突くためには、遠くから双眼鏡等で、奴らの繋ぐゲートの向こうを覗く必要がある。一瞬だけ俺とシリクスラが覗き、そしてゲートを繋げる、そこから隙を突けるように動く」
イチェリオさんはそう言い終わると、シャー芯のケースを僕に見せた。それは僕の物ではない。僕の手には既に一つある。
イチェリオさんもそれを持っている。それがこの作戦において最も大事なこと。
その時だ、「これを」と、シリクスラさんが言った。「手を出して。利き手はよく使うだろうから、利き手じゃない方」
不思議に思いながら僕は左手を彼女の方に伸ばした。
シリクスラさんは、僕の手を開いた状態で下に向けると、その親指、中指、薬指の爪にだけ、透明な何かを貼った。
「追跡用ネイルシールよ」彼女が言った。
ルオセウ製か。
「もし連れ去られてもルオセウでも追跡できるように。これはルオセウの衛星がないと駄目だから。その保険」シリクスラさんはそう言った。
なるほど必要な保険だ、ルオセウに連れ去られた場合のその後のことを考える必要はある。まあ使わなくていいことを願うけど。
地球上においての追跡用としては、僕が装着したのはパンツだ。かつてのベルトのように。タグの所に発信機が。一番脱ぎ難い物だから多分この方がいい。それでも脱がされる可能性はあるけど。
イチェリオさんは更に言った。
「佐倉守家の方々にも今回ばかりは手伝ってもらうことになるかと。総力を以て対処するために。死地に送り込むようなことだとは重々承知です。しかし、それしかもう手はありません」
「構いません、やらせてください」
禅慈さんがそう言った。
「絶対に役立ってみせます」
とは、紫音さんが。
そこで、イチェリオさんが一旦ゲートでどこかへと。それから戻ってくると、僕らにある図を見せた。
これ……、あいつらの船の図面――!?
「宇宙港にはそういった情報もありましたので」
とシリクスラさんが話す中、みんなで見やる。
自衛隊員であろう一人が言う。「一度突入した時も見た、同じ図面ですね。注意すべき点はあの時とほぼ同じですか」
それに対してイチェリオさんは「ええ」と肯いた。「モニター室が重要。ここです」そして指を差す。イチェリオさんはみんなに向けて。「扉を開けるにはスイッチを押すだけでいい。やはり前提としてはここを目指す、が、警報が鳴ったら無視していい」そのあとは特に僕に向けて。「気付かれないように慎重に、敵を確実に行動不能にする。それが肝心だ。船内で何も起こっていないと思わせるんだ。だからこそ人質に近付ける」
僕は何度も肯いた。複雑な状況を何度も思い浮かべながら。何度も肯いた。
それからまたイチェリオさんが。僕に。「……君にはもう少し別の作戦も話しておかなきゃならない」
「別の作戦?」
「ああ。この作戦の話が終わってからあとで話すが――」
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