ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第1章 始まりの受難

07 変化

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 その夜。あとは寝るだけとなった時間に、計画通り「おやすみ」と挨拶あいさつしてから自分の部屋に入った。
 ドアをしっかり閉めて、マギウトの練習を開始。
 シャー芯を太くして厚みのある円盤状に形状変化。それをさせたまま回転させようとした。
 うーん。
 くっ……なかなか回らない。円盤状にはできたのに。
 上から見ればレコードとほぼ同じ大きさ。折れたことのない長い芯を、太らせて円盤にしてる。その変形に負担を掛け過ぎてる……これじゃ難しいか。念動もかなり負担が大きそうだ。
 何度もやってみる。

 十分かニ十分か――そのくらいが経った。
 少しだけできるようになった。
 あの質量のまま念力で動かすのはかなり難しかったけど、拳大くらいだったらそこまで難しくなかった。でも動きはまだまだゆっくりだ。
 やっぱり、対象の体積が大きい時は、消耗するサクラが多い。しかも僕には、『大きくしなきゃいけない』っていう手間がある。

 うぅ~ん……! ふうっ、これ、長い闘いになるぞ!
 でもまあ、なかなか進歩したんじゃないかな。

 そう実感してから、ふと思った。ケースの外にすぐに一本出せないかなあって。
 もちろん、それは、芯のケースを開けずに、という意味。
 ケースの中に念じてみた。
 サクラがケースに集中し変化をもたらすと信じて、数が増えるようにイメージする。普段はケースの中に芯が増えるようにイメージしてる。その増える芯を、ケースの外に出現させるイメージ……。
 お!
 意外にもすぐにできた。よし。
 この成功はデカい。これでシャー芯ケースの蓋をいちいち開けなくて済む。
 それに、芯を出すこと自体を修行に組み込める。
 しかも、シャーペンに芯を入れたい時に使えばいいし、役に立って修行にもなる。
 なおかつ、ケースの中の芯は減らない。

 一石鳥の効果を得られそうだ、これはかなりの収穫だぞ……!



 更に次の日――の朝も鉄のカプセルを飲んだ。
 この日の夕方、奏多かなたさんが僕の家に来た。吃驚びっくりしたよ、突然なんだもん。

 僕の部屋へ案内したあと、奏多さんにひそひそ声で――
「どうして僕の家に」
「念のため部屋を見ておいた方がいいと思ってね、ゲート開通のために」
「あぁ~――」
 それから二人で、一時間くらい習字で遊んだ。漢字やひらがなカタカナを書くだけじゃなくて、奏多さんは音楽記号も書いた。これが意外とうまい。

 そうやって遊んでから、奏多さんは帰っていった。もちろん玄関からだ、『部屋から出てないはず』なんて思わせる訳にはいかない。
 そのあとで、お母さんが、
「初めて見る子よね」
 って。
「ああ、うん、デザイン関係の話題で知り合った友達」
 答える時、正直ハラハラしたよ。


 その夜は、昨日と同じようにマギウトの練習。
 芯の硬さを上げる。持った芯を指で叩く。少し折れにくくはなってる。
 ケース外へ芯を増やす。そうやって出すのも、念じてすぐに成功するくらいにタイムラグがなくなってきた。
 それに、拡大縮小の変化時間も短縮できた。ソフトボール大にするのには十秒も掛からない。

 速さ操作の距離の長さは、連続でどのくらい自分の腹と壁とのあいだを往復させられるかで比べた。その往復数はまだそんなにだし、移動速度は、引っ張った風船がゆっくりついて来るくらいでしかない。
 まだまだだけど……でも、少しずつ進歩してる。


 組織『隈射目くまいめ』の施設を見た日曜日から三日後の水曜日。朝はやっぱりサプリを胃に流し込む。
 そこで気だるそうなお姉ちゃんの声が。
「朝から何、おはよ」
「ん、うん! ん……おはよ」

 吃驚びっくりした……。でも、大丈夫だよね。もう流し込んだし。

「朝にジュース飲んでんの? なんか凄いね」
「あーうん、う……日の……日の光を浴びるしね、これから」
「ああ吸収にいいって? ふうん」
 よし。なんとか落ち着いて返したぞ。


 その日の放課後、僕がパソコン室にいる時に、実千夏みちかからメールが来た。内容はこう。

『今日は遠征練習になった! 学校の外で楽器屋の人と演奏するんだけど、そのまま解散の予定。結構遠いから戻るのに時間が掛かってかなり待たせちゃうと思う。ごめんね、急ぐから許してね!』

 じゃあ返事は……と。ポチポチと入力して、送る。

『それならそこから家に直接帰りなよ、急がせるのも嫌だし、待たせちゃうなんて思わせるのもヤだしさ。一人であんまり外を歩かないでね、それも気になるし。だからまた明日ね』

 そういう訳で、久しぶりの一人での帰宅だ。
 昨日も一昨日も世間話をしながら帰った、だからか少しだけ寂しいな。その反面、明日のことにワクワクする。今度どんな話をしようかな。

 胸を弾ませる帰路。静かな路地で……前の方に停まっている車から男性が降りてこちらに歩いて来た。まさかまた?――はは、そんなことそうそう起こる訳ないって。
 その男性が、僕の横を通り過ぎた。
 ほらね。
 しばらく普通に歩いた。歩けた。
 ほら、やっぱり何もない。
 それより今日はもっと変形の練習を頑張ってみようかな。
 そう思った瞬間、誰かに羽交い絞めにされた。
 後ろから強く。
 そんな! そんなまさかがあるなんて!
 抵抗したくて、かばんの横に上向きの手を添えた。筆箱との距離を強くイメージして手に芯を――出せた! それをそこらの小石のように拡大して――
 放とうとした時、首にちくりと何かが沈み込んだ。
 それから程なく、体の、全感覚が――。
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