ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

文字の大きさ
44 / 158
第2章 X

18-2 狙い撃ち

しおりを挟む
 夏休みの最初の二週間くらいは、観光に付き合ったりデートしたりで忙しかった。課題とマギウトの練習を毎日するし、土曜日にはロッククライミング、それらも欠かさなかった。日曜日だけはやっぱりマギウト練習場で――。

 ただ、お爺ちゃん達は、観光がメインじゃなくて、僕らと楽しみたいんだ。それが分かっていたから僕は積極的にからんだ。
 だからかすっごく喜んでくれた。
 茶碗の手作り体験をした時もそうだし、外食をした時も、ゲームをした時もそうでしょ? それから、お父さんの仕事場をのぞいた時も、積極的に話して――相変わらず美味しいよねって言い合ったんだよね。

 そんなお爺ちゃんお婆ちゃんが帰っていくのを――その電車を――見送ってから、また数日が経過した。


 割とすぐの日のデートがえり。一人の時に、また背後から口を塞がれた。
 とっさに投げ飛ばしてやろうと手をつかもうとした。でも、相手も力が強くて、それを阻止する。
 その手に爪を立てたりもしてやった。手を引きがして叫びたい。助けを求められればもしかしたら――!
 仕方ないから、拳大にした芯の弾丸を、背後に向けて飛ばした。
 でも多分、けられた。今のを避けるの? っていう慣れた動きをされた気がする。しかもその瞬間、首筋に何かが刺さって――ほんの数秒で、全ての感覚がなくなった。


 目を覚ました時、なんで眠ったんだっけ――って考えて、出来事をはっきりと思い出してからは、現場での記憶から手掛かりがないかと考えた。
 でも、相手は手袋をしていて、スーツっぽいものを着ていたかも――ということくらいしか分からない。

 また僕だけが?

 眠気を払って顔を上げた。
 そうして目に飛び込んできたのは恐ろしい光景だった。何人もの人が、目の前に横たわって微動だにしない、そんな非日常。

 驚いた姿勢のまま、ただただ見る。
 それからハッとして、恐る恐る顔をのぞき込みに行った。
 それから分かった。
 お父さんだ。お兄ちゃんもいる。お姉ちゃんも。檀野だんのさん、鳥居とりいさん、右柳うりゅうさんもいる。そのほかに、よくしらない人――多分四人――も、僕の目の前に、目を閉じて横たわっている。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 少し時間をさかのぼる。藤宮ふじみや家次男誘かいの同刻、藤宮家の面々のいるそれぞれの場所では――。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 藤宮家長男の俺は。
「んぐっ!」
 背後の物音に気付いた時には、口を手でふさがれていた。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 大樹だいきくんの家族は、我々が護衛していることを知らない。ただとにかく、俺達は守り切っているはずだった。なのに。
「くそ……! 放……せっ……!」
 一対多。こんな行動にまで出る者がいると思わなかったのが、そもそもの敗因かもしれない。俺達がバレていた、俺達が、だ――!

 口を塞がれ身動きできないようにされると、何かを注射された。いったい、何……を……。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ストーカーだとしてもおかしい。電車に乗る前も降りた後も……。一人じゃない?
 私は怖くなって振り返った。
 でも誰もいない。
 安心してから前を向いた時、どこかから急に現れた誰かの手で、口にガムテープみたいなものを貼られた。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 俺が仕事の休憩中にいつも一人になるいこいの場――店の裏手の花壇の前で、いったい何事かと思う間もなく、口を塞がれ腕を……何かが、刺した、ただそれだけが分かって、そして……眠気が……。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 何があったのかは、明確には分からない。想像でしか理解できない。それでも恐ろしくなった。ここがまるで死後の世界のようにすら感じて。
 それから服に違和感があって確認。どうやら別の物を着せられてる。
 だいたい白基調の服。しかも裸足はだし

 寝ているあいだに? いったい何が目的?
 なんでだ、なんだこれは! って、つい叫びたくなった。

 動揺しながらも観察して、家族の中でお爺ちゃんお婆ちゃん、お母さんの三人はここにいないことに気付いた。なんでだ? まさか別の場所で人質に? 分からない。もしそうならやばい……。
 なんでこんな、まとめて……一家ごと狙われた?
 しかも、僕を守る彼らをも狙って?
 全部で十一人を。
 どんだけ機をうかがえばこんなことができるんだ。とんでもない忍耐力の持ち主達がやったに違いない――複数犯、そうでないとありえない。

「みんな起きて! お兄ちゃん、お姉ちゃん、お父さん! 鳥居とりいさん……檀野だんのさんも! みんな起きて!」

 まさか死んでる? 死んでるのか? そんなまさか!
 最悪な結末が脳裏に浮かんで、悲しくなる。
 嘘だ、そんなの。嫌だよ。
「起きて……起きてください! 檀野さん! 右柳うりゅうさん! みんな起きて――!」

 それぞれの胸に耳を当てた。各人の心臓が動いているのは分かった。その度にほっとするのと不安が入り混じる。
 そんな時だ。
「う、うーん」
 男の声!

 奥の方からだった。
「だ、大丈夫ですか? えと……、お、お名前はッ?」
大樹だいきくんか……、俺は歌川うたがわ克己かつみ隈射目くまいめの、密偵や護衛の担当だ、数日前まで君のお爺さんを尾行しながら護衛していた。くそ、何時間寝てた?」
「分かりません……時計もないんです」

 辺りを見てみた。
 ここは四角い穴の底。四方をコンクリートの壁に囲まれていて、上には明かりに照らされた空間が少し見える、それだけの空間。一辺十メートルくらいのゴミ置き場みたいな場所。深さはもっとある。

 上の――電灯か何かの――光が、底まで少しは届いてる。それのおかげで辺りがまあまあ見えはする。
 その暗さで周りを観察するけど、出口はやっぱり上しかなさそうに見える。高い壁を登るしかないよ、これ……。
 でも壁のどこにも指の引っ掛かる所がない。
 もし出っ張りが所々あれば僕なら行けるかもしれないのに。
 嘆きたくなった時、ウタガワさんが舌打ちをした。でもって「最悪だな」ってつぶやいた。
「あの――」
「なんだ?」
「さっき、うちの祖父の護衛をしてたって言いましたよね」
「ああ、言ったが」
「じゃあ、僕は知らないけど、そっちの三人もそれぞれ別の人を?」
「ああそうだ。確か、君のお婆さんと、お姉さんと、お母さんを、それぞれ護衛してたんだ」

 指で示された。
 僕がさっきまでよく知らなかった四人のうち、ウタガワさん以外の三人はみんな女性。
 手前のセミロングの三十代から四十代くらいの女性がお婆ちゃんの護衛。ポニーテールの二十代くらいの女性がお姉ちゃんの護衛。奥のショートヘアの三十代くらいの女性がお母さんの護衛をしたらしい。

「じゃあやっぱり」予想が当たっても、こんなのガッカリだ。「ぴったり護衛全員を狙って」とまで僕が言うと。
「なるほどな」
 と、ウタガワさんはうなずいた。

「護衛が全部で何人なのかすら調べられてたワケだ。しかも護衛しやすいように用意していた住所を特定された。爺さん婆さんの護衛はもう終わったあとだったから、あいつらは俺らとのローテーションのため、その仮の住居で待機してた。夜寝てる時は護衛を減らして俺らの仮の住まいを残りが守ってたが、だからこそその時間に狙うのは相手も大人数を相手にすることになるためけたのか――ともかく夕方、護衛と護衛された君ら、一人に一人が付いている時を狙われたな」

「そんな……。そもそも僕らが護衛されてること自体バレてたなんて」
「相手が上手だったってことだ、最悪なことだが」
 ウタガワさんは、そう言うと、この静かで暗い地獄の底で、目をらして、眠っているみんなの顔を観察した。

「君の母親はいないな、お爺さんお婆さんも除外されてる。多分、君の兄弟と君の父親のことを、力の持ち主かもしれないと疑っている人物だな」
「そんな」
「君の父方の血筋を疑える人物。可能性は大だ。君の恋人のことはスルーしてる、恋人の護衛もだ、ここにはいない。決定的だな、君ら藤宮ふじみや家が目的だ」
「じゃ、じゃあ」

「色々と知られてるな。……しかも、ほぼ同時に命令された通りのことを完璧に実行できる者達を集めてもいる。権力もある奴。相手の狙い、主眼は君らだが、護衛に気付いたそいつは俺達をどうにかしなきゃならんと思ったはずだ、家族全員が護衛されているか、護衛者はどんな奴か、何人か、どういう交代制か、全て調査したんだろう。――で、戦力のある者に追われること、見られ誰かに伝えられることをけたがった。だから俺らまでこうなった」

「で、でも、こんな同時にだなんて」
「できたんだろう、だからこの現状だ」
 絶望する僕にそう指摘してから、ウタガワさんが続ける。「どうやら、同時が手っ取り早いというか、その方が都合がいい――いや、こうでなければ対策されるとでも思ったのかな。君の家族もここにいるのがその証拠……かもな」

 僕は、に落ちた。
 そうか……この犯人も、護衛をする彼らのことを詳細までは知らなくて、対策を怖がった……。ありうる。だからこんな風に同時に。しかも危険を冒さず眠らせ致することに専念した――拉致現場でそもそも僕らを殺さなかったのはなんで? 抵抗されて失敗するかもと考えた? かもしれない――。

 いや、現場にこん跡が……格闘したあとや血痕が残ってニュースになるのをけたかった?

 その時、「ううん」と女性の声が聞こえた。目を覚ましたのはポニーテールの若い女性だった。
沢渡さわたり
 ウタガワさんが声を掛けた。
 その女性はサワタリという名前――いや、そう呼ばれているらしい、という方が正確か。
 そんなサワタリさんとほぼ同時に、ほかのみんなも目を覚ました。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 俺は自分の脇腹を注意深く探った。そこに発信機が仕掛けられているはずだったからだ。
 それは、変装のための特殊メイクの肌を重ねて独自に隠していたもの。だが、それすらもがされている。

 持ち物がない上にこうだから、発信機での捜索に期待できない――まあこの近くに捨て置かれているなら別だが、警戒しているならそんな真似はしないだろう。

 さてどうするか。この現状……。くそっ、大樹だいきくんの家族がほとんどここに……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...