桜の涙

黒咲ゆかり

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12.林間学校③

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俺達は夕飯をすませ、
今日最後の行事の星空観察をした。

今日は晴れていて星が良く見える。

月明かりに照らされながら静かに星を眺める。

「桜ほら、あれがおひつじ座だ、
お前おひつじ座だろ?」

「えー、どれ?」

「まったく…小学校でやっただろ?
ほら、あっちはおうし座だ。」

「やったけどさぁ…。冬夜は詳しいね星座。」

「ほら、あの星と星とあの星をつないで…。」

「あっ!ほんとだ!羊の形してる!」

「だろ?夜にさ…、よく一人で見てたんだ。」

「え?」

「病院の屋上にいって、空いっぱいの星を眺めて…。
神様にお願いしたんだ。」

「……。」

「お願いします。
お母さんが笑えるようにして下さいって。
自分が苦しめば苦しむほど、
お母さんが悲しい顔おして、
それを見ると、また胸が苦しくなるんだ。」

「冬夜……。」

「まぁ、子供の頃の話だけどなっ。」

「おい、冬夜。」

「ん?なんだ拓也」

「お前、子供のころそんな事1回も俺に言ってたこと
なかったじゃねぇかよ。なんで…なんで俺にっ!」

「拓也。それはお前が俺の唯一の
親友だったからだよ。」

「えっ…?」

「やっぱりさ、不安とか、悩みとかいっぱい
あったんだよ。
でもな、それを拓也に聞いてもらって…
押し付けるのが嫌だったんだ。
たった一人の親友にそんな事したくなかった…。」

…今良く考えれば俺のやっていたことは拓也に
秘密を隠していたような事になるけど、
でも、それは幼い俺なりにちゃんと
考えた結果だったんだ。それに…。

「俺、拓也に弱音吐いたこと1回だけあるよ。」

「え?」

「ほらっ!そこの班っ!喋ってないで
星を観察しなさいっ!」

先生に注意されてしまった。

「はい。すいません。」

「拓也また今度な。」



星観察が終わりみんな部屋に戻る。

今日はなんか長かったようで、早かったなぁ。

「あっと、危ない。薬飲まなきゃ。」

俺は大量の荷物の中から薬用のケースを出した。

「え!?冬夜まさか、その薬全部飲むのか?」

拓也が目を丸くしている。

「あ?うんそうだけど。」

「すごい量だな…。」

「そっか…。」

これはすごい量なのか…。
もう慣れてしまった。

「はぁ、疲れた…。」

「おやすみ。」

「ん、拓也おやすみ。」

布団に入ったら一瞬で眠くなってしまった。

「や…冬夜!」

「ん…。」

「起きろ!」

「はっ!」

今何時だ!?

「ったく、何度呼んだら起きるんだよ…。」

「ごめん…。」

あれ?俺目覚ましかけたよな…?

「今何時だ?」

「えーっと、六時三十五分だよ。」

「はぁ…。」

「冬夜って眠りが深いんだな。
いくら呼んでもゆすっても起きねーんだもん。」

「…あはは。」

いや、そんなことは…ないはず。

俺は目覚まし時計を五時半にセットしたはずだし、
ならなくても六時にはいつも目が覚める。
いつもは俺が起こす側なのに…。

薬の副作用なのか?

「まぁ、寝坊しなくてよかったよありがとう。」

「いいよ。」

林間学校のために少し強めの薬を飲んだのが
起きられなかった原因か…?

「おはよー!」

朝ごはんの時間だ。

朝ごはんはバイキングになっている。

「ほら、桜好き嫌いしないでピーマンも食べろ。」

「やだぁー」

「ほーら」

俺は無理やり桜の口にピーマンをつっこんだ。

「むぐっ…!」

「ふっ、ふっふっ」

「苦い…。」

「よし、よく食べたな。これだけで許してやろう。」

「冬夜~!」

「お前桜の保護者見たいだな…。」

「ん?そうか?」

「あっ!ほらぁ、うさぎもにんじん、
うさぎなんだからちゃんと食えよな」

「うさぎっていうな!こんなもん食えるかっ!」

「大きくなれないぞ?」

「はっ!」

うさぎがフリーズした。

「たっ…食べる。」

「よし。」

「ふふっ、冬夜くんお母さんみたいだね。」

「おっ…お母さん…?」

「あはははっ、おっ、おかんって…。」

「うるせえ!子うさぎ!」

「ガーン」

あっ、そうだ薬飲まなきゃ。

「あっ、ちょっと俺水持ってくるは。」

「いってらっしゃい。」

あんまり人前で薬は飲みたくないけど、
みんなが食べ終わったらすぐに集合だし…。
俺はコップに水を入れ、みんなの居るテーブルに
向かった。

「あ、おかえり。」

「ただいま。」

はぁ、なんか緊張する…。
俺は薬用のケースを出した。

「えっ、冬夜まさかそれ全部飲むの?」

うさぎと咲友美と桜が驚いている。

「…そうだよ。あーえっと、なんかごめんな。
こんなもん見せられて気分悪いよな…。」

「冬夜…。あのさぁ、お前の病気って本当に深刻な病気じゃないのか?」

「……俺の病気は…心臓…心臓の病気なんだ。」

「しっ、心臓。」
うさぎが青い顔をした。

「冬夜、前聞いた時は大丈夫だっていったよな?」

「うん。手術すれば治るんだ。」

「でもっ!…心臓なんだよな?」

「そうだけど、治る可能性があるんなら治るって
信じたいんだ。」

「……。」

うさぎが走って逃げていってしまった。

「うさぎっ!」

でも分かってるんだ、さっき俺が言ったことは
前向きに生きるためのただの理屈で確信なんてものは
ひとつもない、唯一あるのは期待と矛盾だけ。
自分でも治ると信じきれてないんだ。
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