桜の涙

黒咲ゆかり

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16.花火大会

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林間学校が終わり、明日から夏休みだ。

「ねぇ、みんなでさ!
花火大会一緒にいこうよ!」

桜がキラキラした目で言う。

「いーよ」

「いいよ!」

「俺も予定合いてるよ。」

「行く行く!」

「えーっと、いつだっけ?」

「8月12日だよ。」

俺は手帳を開いた。

病院は…大丈夫だ。

「俺もいいよ。」

「やったー!」

「楽しみだね。」

「桜、浴衣着ていく?」

「うん!」


花火大会当日

「冬夜!冬夜!浴衣…変じゃない?」

桜は水色に花柄の可愛らしい浴衣を着ていた。

「大丈夫。似合ってるよ。」

「えへへ」

桜は少し恥ずかしそうに下を向く。

「あ、ちょっと待って。」

「ん?」

「ちょっとその小さいゴム貸して。」

「へ?うん」

俺は桜の柔らかい髪を少しとり、
編み込みをして、最後に浴衣と同じ水色の
簪を挿した。

「わぁ!綺麗!美容師さんみたい!」

「昔、病気にいた女の子の髪を結って
あげてたんだ。」

「ありがとう!」

喜んでくれたなら良かった。

「そろそろ、出るか。」

「そうだね。」

「桜忘れものないか?」

「大丈夫だよ!」

「いってきまーす!」

「いってきます。」

歩道は花火大会に行く、
浴衣を着た人々で溢れていた。

「はぐれない様にちゃんとついてこいよ。」

「うん!」

「冬夜、待ち合わせ場所ってどこだっけ?」

「もう少し先の土手の近くだよ。」

「あぁ、そこかぁ…わぁ!」

桜が歩いていた一人の女の子とぶつかる。

「すいません。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

あれ?どっかで会ったことがあるような…
ないような…気のせいかな。

「大丈夫か?桜」

「うん、あのさ手繋いでもいい?」

「え?」

手!?なっなんで

「はぐれない様に…」

はぁ、そういうことか…

「いいよ。」

手を繋いでから、少し気まずくなってしまって
無言が続く。

桜が歩くと、カラン、カランという
下駄の音と共に、水色の簪が揺れる。

ほんのりと赤く染まった頬は、
夏の暑さからなのか、
手を繋いでいるからなのか…。

色々考えながら歩いていると、
待ち合わせ場所についてしまった。

「冬夜!」

うさぎがこっちを向いて手を振っている。

俺はとっさに、桜の手を離した。

「うさぎ、待ったか?」

「大丈夫だよ」

「ん?あれ?その子は…。」

うさぎの隣に俺たちより少し年下くらいの
女の子がいた。
「お前…まさか…。」

誘拐…。

俺の思っていることを察したのか、
うさぎが慌てて否定する。

「違う違う!妹だよ」

妹もう一人いたんだ…。

「あ!」

「どうした?桜」

「さっきぶつかっちゃった人だ!
さっきは本当にごめんね。」

「ううん。大丈夫。」

なんだ?この感じ。
昔から知ってたような…。
気のせい…。

「もしかして…とうちゃん?」

「え?…」

とうちゃん?あれ?

確か俺をそんな呼び方するやつだった気が…。

思い出した!

「もしかして、結衣か?」

「え?父ちゃん?」

「違う違う。冬ちゃんだよ。」

「退院できたのか!」

「まぁね、軽い肺炎だったしね。」

それにしても髪が長いな…。

「まだ伸ばしてるんだ。
相変わらず綺麗な髪だな。」

「ありがとう。そういえばよく髪の毛を
縛ってもらってたっけ…。」

「え!?結衣の髪の毛を縛ってたの
冬夜だったんだ!偶然?運命?」

「じゃあ、拓也も運命だな。」

「え?」

「わぁ!?拓ちゃん?」

「俺には気付かないって酷くない?
ゆーちゃん。」

「ごめんごめん可愛かった拓ちゃんが
まさかこんなイケメンになってるなんて
思わなくってさ」

「ここまでくるとなんかキモイな」

「確かに…。」

なんか、静かなような気が…あ。

「あれ?桜は?」

「え?迷子?」

あいつ危なっかしいし心配だな…。

「ちょっと俺探してくる。」

「じゃぁ、見つかったらまた合流な。」

「うん」

まったく…どこいったんだ?

俺は桜が1番居そうな屋台を探した。

だが居ない。
あ、初めからスマホに電話を
かければよかった…。

俺は、桜を探し回りながら、電話をかけた。

「…なんででないんだよ。」

スマホの意味ないじゃん。

しょうがない、もう少ししたら
もっかいかけるか。

俺は少し時間が経つとまた桜に電話をかけた。

…あれ?桜の着信音と同じ音がする。

どこだ!…居た。

「…さくっ、」

え?泣いて…る?

「桜!?どうした?」

「!」

桜が俺に気付いて走って逃げる。

「おい!」

俺も走って追いかける。

「とっ、冬夜走んないで!」

「はぁっ、はぁ、だって、
お前が逃げるから…。」

「……」

桜が止まった。

「桜どうして泣いて…。」

「冬夜が…」

「俺が?」

「       から。」

え?花火の音で聞こえなかった。

「え?なんて言った?」

「冬夜が!好きだから!」

「!?」

なっ、なに?聞き間違い?

「え…だから、泣いたの?」

「ちょっと違う。」

「え?」

「私、冬夜の事たくさん知ってると思ってた。
でも、それは冬夜のほんの一部にしか過ぎなかったんだって知って…。」

「桜は俺の事充分知っててくれてると思うよ。」

「でも、私が知らない冬夜を結衣ちゃんは
いっぱい知ってた。だから、嫉妬…みたいな、
悲しいみたいな、寂しいみたいな
何かがこみ上げてきちゃって。ごめん。」

「嫉妬…ん?」

待てよ?もしかして好きってlikeじゃなくってloveの方?でも…、分からない…。

「好きってどっちの?」

「へ?」

桜の顔が真っ赤に染まる。

「りょっ、両方!」

「え?両方って…。」

どうすればいいんだ?loveもって事だよな…
どうしよう何を言っていいのか分からない…。

「えーっと、ありがとう?」

「うっ、うん…。」

「んーと、とりあえずみんなのところに戻ろ。」

「うん…。」

「……。」

少し気不味くなって無言の時間が続く。


気不味い。

あっ、よかったうさぎと咲友美だ!

あれ?でも拓也と結衣が居ない。

しょうがない、LINEだけしておいて
2人きりにしてあげよう。

うーん…このまま会話がないのも気不味いな…。

「桜、何か屋台まわるか?」

「う、うん!」

「じゃぁね、綿菓子と、りんご飴と、かき氷と、たこ焼きと、それから…。」

「ふっ、」

「冬夜?何笑ってるの?」

「いや、食べ物ばっかだなと思って。」

「これから言おうと思ってたの!」

「はいはい、時間はあるからゆっくりまわろ。」

「うん!」

「桜、射的はよく狙うんだぞ?」

「うーん?当たれ!」

パシッ。

はずれ。

「あーもう、何これ!?」

「ほら、貸して。」

「あれ?冬夜って射的得意なの?」

「ん?得意というか、むしろやった事ないよ。」

「え…。」

「どれをとるんだ?」

「あれ…。」

桜がゆびを指したのは片耳に白いシュシュが
付いたうさぎのぬいぐるみだった。

「ん、わかった。」

「んー…。」

バシッ。

「あ…。」

「え?冬夜やった事ないんだよね?」

「うん。」

「ありがとう!一回で取れるなんて
びっくりだよ!?」

「たまたまだよ。ていうか、こんなぬいぐるみでいいのか?」

「いいの。あのさ、冬夜。」

「私の髪が伸びたら、このシュシュで私の髪を縛ってくれない?」

まだそのことを…。

「…いいよ。」

「やった!」

その幸せそうに笑う桜を見て俺は
さっきの告白が夢ではないことを願った。
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