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六章 地域のイベント
2.イベント開始直前
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イベント当日の朝、九時に出勤するとお店の入り口に白のミニバンが停まっていた。ハッチバックが開いている。
「おはようございます」
ホットプレートを運んでいる店長と挨拶を交わす。
「おはようございます。今日と明日、よろしくお願いしますね」
「はい」
沙耶さんと一緒に返事をしたあと、昨日沙耶さんに調理補助の手順を教えてもらい、練習をしてきたことを告げた。
「練習してくれたんですね。それじゃあ、今日は一緒に作りましょう」
店長はにこりと笑って、頷いてくれた。
「はい。よろしくお願いします」
『一緒に作りましょう』がすごく嬉しくて、どきどきとワクワクで胸が高鳴った。
沙耶さんとパンを運び込み、準備が整った。
「僕は先に準備をしています。二人はゆっくりでいいですからね」
運転席の店長と手を振り合った。
会場は一駅隣で、駅から徒歩五分の場所にある、市民交流センター。
建物の一階と、敷地内にある野外のスペースを使って行なわれていた。二階にはホールがあり、市民による発表会が行われている。
人が出入りしているのか、ときおり一階までコーラスの声が漏れ聞こえてくる。
「野菜はほとんど売り切れているんですね」
飲食ブースの営業は十時からだけど、八時から地元で獲れた野菜の販売をしていた、と看板に書いてある。けれど、野菜が残っているブースはごくわずかだった。
「去年もそうだったよ。形が悪くて出荷できないものが安く売られてたりするから、朝イチで買いにくるみたい」
「今野菜高いですもんね」
「味が変わらないなら、多少不格好でも安く買いたいもんね」
沙耶さんと話しながら、野菜ブースを通り抜ける。
野外スペースに出ると、様々な香りが鼻に届いた。
肉が焼ける匂い。揚げ物の香ばしい匂い。バニラ系の甘い匂い。
「お祭りだ!」
まるでお祭りのように屋台が並んでいて、声が弾んだ。
出店しているのは十店舗だから、お祭りほど大きくないし派手さもない。提灯が飾られてもいない。
だけど幟や暖簾がはためき、看板を置いてアピールしている。素朴で手作り感があるので、より地域のイベントらしくて良い。
スイーツ系はクレープ・ポップコーン・フルーツ飴・フランクフルト・ドーナツ。
食事系は唐揚げ・精肉店のコロッケ&メンチカツ・焼きそば・ベーグル・グルメバーガー。
それぞれの店舗のスタッフが、開店準備に追われて忙しそうに動いている。
十時半の開始時刻までまだ四十分ほどあるのに、入り口で待っている人たちが行列を作っていた。
「お疲れ様です」
私たちとまり木のブースは、出入り口に一番近い端だった。
「はい、お疲れ様でした」
すべての荷物をひとりで降ろして運んだ店長が、すでにベーコンとパティを焼いていた。香ばしい匂いとともに、ぱちぱちと油が爆ぜている。
長いテーブルの上にフライパンの乗ったカセットコンロが二つ、まな板を二つ挟んでホットプレートを設置。
まな板の前に焼きあがったベーコンとパティがバットに入っていた。
食材はテーブルの下、ブルーシートの上に段ボールごと置いてある。
パンは、背後のテーブルに番重のまま置かれていた。
「まずは、パンを出して並べようか」
持ってきたのは、クロワッサン プレーン・クロワッサン ダマンド・バケット明太バターとガーリックバター・マフィン プレーンとチョコ。
パンを並べて、昨日書いたPOPを置いて、パンは完了。
沙耶さんはバーガー用のバンズを切り分けてホットプレートで焼きながら、レタスを剥がしていた。
グローブをつけて、沙耶さんから焼き具合を教えてもらい、担当を代わる。私はバンズを焼きながら、沙耶さんの動きに目を向けた。
沙耶さんはトマトを切り、バットに入れた。
それから焼きあがった下のバンズに特製マヨネーズを塗り、レタス、トマト、パティ、ベーコン、チーズ、上のバンズにケチャップを塗り、チーズの上に乗せて、バーガーを包装紙で包んだ。包装紙をテープで止める。
流れるような動きで、ベーコンレタスチーズバーガーが出来上がった。パティが焼き上がると、次々に作っていき、六個分のバーガーが作られた。
「鈴原さんもやってみましょうか」
店長からGOが出たので、私も沙耶さんの動きを真似して、食材を重ねる。
人に提供をする物を作っている、という緊張感から慎重にしすぎて時間をかけてしまった気がしたけど、二人とも私を急かすことはなかった。
「これで、いいんでしょうか」
包装紙で包んでテープを止めて、二人の顔を交互に見る。まずは店長、次に沙耶さんを。
「美味しそうなバーガーが出来上がりましたね」
店長の嬉しそうな顔を見て、たった一個のバーガーを作っただけなのに、すごい物を作り上げたような気持ちになった。
「慣れてきたら手早くできるようになるけど、ゆっくりでも大丈夫。パティが焼けるのに時間かかるからね」
見守ってくれていた沙耶さんから、ゆっくりでも大丈夫と言ってもらえて、手早く作って雑になってしまうより、少しゆっくりでも丁寧なバーガーを作ろうと思った。
「お待たせしました。飲食ブースオープンとなります!」
すぐそこの出入り口から、黒のポロシャツ姿で左腕に腕章をつけたスタッフさんの大声が、オープンを告げた。
次回⇒3.イベント開始
「おはようございます」
ホットプレートを運んでいる店長と挨拶を交わす。
「おはようございます。今日と明日、よろしくお願いしますね」
「はい」
沙耶さんと一緒に返事をしたあと、昨日沙耶さんに調理補助の手順を教えてもらい、練習をしてきたことを告げた。
「練習してくれたんですね。それじゃあ、今日は一緒に作りましょう」
店長はにこりと笑って、頷いてくれた。
「はい。よろしくお願いします」
『一緒に作りましょう』がすごく嬉しくて、どきどきとワクワクで胸が高鳴った。
沙耶さんとパンを運び込み、準備が整った。
「僕は先に準備をしています。二人はゆっくりでいいですからね」
運転席の店長と手を振り合った。
会場は一駅隣で、駅から徒歩五分の場所にある、市民交流センター。
建物の一階と、敷地内にある野外のスペースを使って行なわれていた。二階にはホールがあり、市民による発表会が行われている。
人が出入りしているのか、ときおり一階までコーラスの声が漏れ聞こえてくる。
「野菜はほとんど売り切れているんですね」
飲食ブースの営業は十時からだけど、八時から地元で獲れた野菜の販売をしていた、と看板に書いてある。けれど、野菜が残っているブースはごくわずかだった。
「去年もそうだったよ。形が悪くて出荷できないものが安く売られてたりするから、朝イチで買いにくるみたい」
「今野菜高いですもんね」
「味が変わらないなら、多少不格好でも安く買いたいもんね」
沙耶さんと話しながら、野菜ブースを通り抜ける。
野外スペースに出ると、様々な香りが鼻に届いた。
肉が焼ける匂い。揚げ物の香ばしい匂い。バニラ系の甘い匂い。
「お祭りだ!」
まるでお祭りのように屋台が並んでいて、声が弾んだ。
出店しているのは十店舗だから、お祭りほど大きくないし派手さもない。提灯が飾られてもいない。
だけど幟や暖簾がはためき、看板を置いてアピールしている。素朴で手作り感があるので、より地域のイベントらしくて良い。
スイーツ系はクレープ・ポップコーン・フルーツ飴・フランクフルト・ドーナツ。
食事系は唐揚げ・精肉店のコロッケ&メンチカツ・焼きそば・ベーグル・グルメバーガー。
それぞれの店舗のスタッフが、開店準備に追われて忙しそうに動いている。
十時半の開始時刻までまだ四十分ほどあるのに、入り口で待っている人たちが行列を作っていた。
「お疲れ様です」
私たちとまり木のブースは、出入り口に一番近い端だった。
「はい、お疲れ様でした」
すべての荷物をひとりで降ろして運んだ店長が、すでにベーコンとパティを焼いていた。香ばしい匂いとともに、ぱちぱちと油が爆ぜている。
長いテーブルの上にフライパンの乗ったカセットコンロが二つ、まな板を二つ挟んでホットプレートを設置。
まな板の前に焼きあがったベーコンとパティがバットに入っていた。
食材はテーブルの下、ブルーシートの上に段ボールごと置いてある。
パンは、背後のテーブルに番重のまま置かれていた。
「まずは、パンを出して並べようか」
持ってきたのは、クロワッサン プレーン・クロワッサン ダマンド・バケット明太バターとガーリックバター・マフィン プレーンとチョコ。
パンを並べて、昨日書いたPOPを置いて、パンは完了。
沙耶さんはバーガー用のバンズを切り分けてホットプレートで焼きながら、レタスを剥がしていた。
グローブをつけて、沙耶さんから焼き具合を教えてもらい、担当を代わる。私はバンズを焼きながら、沙耶さんの動きに目を向けた。
沙耶さんはトマトを切り、バットに入れた。
それから焼きあがった下のバンズに特製マヨネーズを塗り、レタス、トマト、パティ、ベーコン、チーズ、上のバンズにケチャップを塗り、チーズの上に乗せて、バーガーを包装紙で包んだ。包装紙をテープで止める。
流れるような動きで、ベーコンレタスチーズバーガーが出来上がった。パティが焼き上がると、次々に作っていき、六個分のバーガーが作られた。
「鈴原さんもやってみましょうか」
店長からGOが出たので、私も沙耶さんの動きを真似して、食材を重ねる。
人に提供をする物を作っている、という緊張感から慎重にしすぎて時間をかけてしまった気がしたけど、二人とも私を急かすことはなかった。
「これで、いいんでしょうか」
包装紙で包んでテープを止めて、二人の顔を交互に見る。まずは店長、次に沙耶さんを。
「美味しそうなバーガーが出来上がりましたね」
店長の嬉しそうな顔を見て、たった一個のバーガーを作っただけなのに、すごい物を作り上げたような気持ちになった。
「慣れてきたら手早くできるようになるけど、ゆっくりでも大丈夫。パティが焼けるのに時間かかるからね」
見守ってくれていた沙耶さんから、ゆっくりでも大丈夫と言ってもらえて、手早く作って雑になってしまうより、少しゆっくりでも丁寧なバーガーを作ろうと思った。
「お待たせしました。飲食ブースオープンとなります!」
すぐそこの出入り口から、黒のポロシャツ姿で左腕に腕章をつけたスタッフさんの大声が、オープンを告げた。
次回⇒3.イベント開始
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