古民家ベーカリー&カフェ とまり木 ~美味しいパンとやすらぎを~ 〈何気ない暮らしの景色賞〉受賞

衿乃 光希

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六章 地域のイベント

5. 取材の申し込み

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 二日間のイベントが終了して翌月曜日。お店はいつもの時間にオープン。
 有本さんと十時に交代して、掃除をしたり、パンを出したり、袋詰めしたり。すっかり体になじんだ作業をしていると、日常が戻ったなと実感する。
 お祭りのような雰囲気が楽しかったから、終わってしまったのが少し寂しい。

 ばたばたする昼時を終えて、休憩に入らせてもらった。
 今朝のスープは昨夜たくさん作ったミネストローネ。

 オリーブオイルで玉ねぎとベーコンを炒めて、香りが立った頃に、ニンジン・じゃがいも・キャベツを加えた。
 コンソメ・塩・トマト缶で味付けをして、煮込んで出来上がり。
 沙耶さんに教えてもらいながら、作った。

 難しくないのに、野菜をしっかりとれて、トマト味は少しだけ酸っぱいけど、さっぱりしていて美味しい。
 ミネストローネに合うパンは何だろうと悩んだ結果、浸して食べたいなと思ったバゲットと、サンドイッチにした。

 バゲットは50センチほどの長さの一本と、ハーフサイズがある。一本は多いので、ハーフを選んでいると、沙耶さんから「半分こにしよう」と提案された。
 沙耶さんもスープに浸して食べようと思っていたみたい。

 休憩室にあるパン切り包丁で1センほどの幅で6つに切り分けた。
 バゲットは、外はサクサクして固め、中はふんわり柔らかくて、そのままでももちろん美味しい。
 ミネストローネに浸すと、スープを吸い込みとろとろ。溶けてしまうかのように柔らかくて、頬が落ちそうだった。

 休憩の交代をするとき、「バゲットとミネストローネの相性、最高です」と伝えると、沙耶さんはにかっと笑い、サムズアップで応えてくれた。

 十五時ごろ、お店の電話が鳴った。
 パンの予約や、問い合わせなどで、頻繁ではないけれど電話がたまに鳴る。
「お電話ありがとうございます。ベーカリー&カフェ とまり木でございます」
 左手で電話を受けた。右手はボールペンを持ち、すぐにメモを取れるように準備している。

「お忙しいところ、申し訳ございません。わたくし、YouTubeで〈ステキなお店巡り〉というチャンネルを運営しております、代表の仙崎と申します。おすすめのパン屋さんやカフェを取材して放送をさせていただいておりまして、とまり木さんをぜひとも取材させていただきYouTubeで放送をさせていただきたいと考えております。代表の方に、お取次ぎ願いませんでしょうか」

 すごく丁寧な口調。だけどYouTubeチャンネルと聞いて私はあわあわしてしまい、ろくにメモが取れなかった。
 恐れ入りますが、ともう一度チャンネル名と要件を伺い、しっかりとメモを取って、店長に伝えた。
 タイミング良く店長の手が空いていたから、そのまま電話をかわってもらう。

 私はキッチンからお店に戻ったので、どういう話が行われているのかわからない。
 休憩を終えて戻ってきた沙耶さんにこそっとメモを渡し、「YouTubeのチャンネルから取材の依頼です」と伝えると、目を見開いていた。

 閉店後、休憩室に集まり、電話で行われた話の結果を教えてもらった。

「先方は、地域交流センターを取材していた地元のテレビ放送をたまたま見たそうです。それでうちのことを知って、ネットなどで調べたんだそうです。グルメバーガーの評判以外に、パンも美味しいと書いてくれている方々がいてくださっているらしく、興味を持ったと。近いうちに食事をしに行きますとのことでした」

 店長からの報告に、沙耶さんが質問をする。
「美味しかったら、取材交渉をするってこと?」
「先方は取材する気があるようでした」

「食べる前から?」
「鼻が利くらしいです。直感が当たることがよくあるそうです」
「そうなんだ。どんな書き込みがあるんだろう」

 沙耶さんが書き込みに興味を持っていたから、スマホでエゴサ―チをしてみる。

 ≪とまり木っていうパン屋さん、すごく美味しい。パンに味がある。パンが主役って感じ
 ≪とまり木のグルメバーガー食べた。満足感がすごい。お腹も心も満たされた
 ≪地域のイベントでグルメバーガー屋が出店してたから、食べてみた。ハンパない旨さ。パンも旨いし、バーガーも最高。なかでもベーコンが香り高くて、特に旨かった
 ≪ベーカリー&カフェとまり木のクロワッサン、超絶好みだった。リピ決定

「好評しかないですね」
 私がいくつか読み上げる。マイナス意見は今の所見当たらない。

 写真付きで上げてくれている人もいて、すぐにここのパンだとわかる。
 お店での写真、持ち帰っての写真、イベントでの写真。商品だけじゃなくて、お店の外観や、イベントでの長蛇の列の様子を載せている人もいる。人物にぼかしを入れて。
 改めて並んでいる人を見ると、盛況だったのがよくわかり、嬉しくなった。

「店長はどうするの?」
「代表の仙崎さんご本人から話を聞いてみて、考えようと思います。チャンネルも観てみないと、どんな内容なのかわからないですからね」
「そうだね。変ないじられ方とかしてたら嫌だよね」

 仙崎さんが来るのは、今週の金曜日。閉店後に話をするので、閉店の少し前に来店されるだろうから教えてください、と店長からの指示があった。


 次回⇒七章 店長の過去 1.久しぶりのお顔
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