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番外編 猫のいる街 1997

32. 誠二郎 27

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昼食をとりに京子宅へ戻ると、ケンが見知らぬ動物の気配に怯えて騒ぎ立てた。
猫たちの声もパニック状態になる。
京子と愛はケンを宥めに、わしは猫たちを連れて二階へ上がった。
手前の部屋が物置になっていると言うので、そこへ避難してキャリーバッグを置き、
「すぐに戻ってくるからな」と言い置いて扉を閉めた。
急いで車に取って返し、我が家で回収した物と水を入れた食器を持ってきた。
物置へ直行して扉を開けると、犬の声に興奮したチビたちはまだ鳴いている。
食器を床に置いてキャリーバッグのチャックを開け、わしはマネキンから抜け出て、傍らのそれに身体を入れた。
「珠」
「殿? あ、殿」
「ようやく話ができたの」
「殿。リンは? リンは何ゆえ一緒ではないのですか? リンだけ置いてきたのは何ゆえですか?」
珠が噛み付いてきそうな勢いで尋ねてくる。
「落ち着け、珠よ。リンは病を抱えておる。しばらく治療が必要ゆえ預けてきたのじゃ。近いうちにここに引き取ることになっておる。命に関わる病ではないそうだから、心配するでない。わかったか」
「リンが、病……」
「左様」
「拙者の早合点でございました。ご無礼をお許しください」
「わからんことばかりで焦るのもわからんではないが、わしと京子を信用してくれ。お主らと人、互いに良い方法を考えておるから」
「お世話をおかけ致します」
「気にするでない。この部屋も近いうちに片付けるから、あまり動き回らんようにな。荷物に潜りこんでしまっては捜すのが大変だからな。しばらくの間狭いが辛抱しておくれ」
「かたじけのうございます」
納得したのか、珠は落ち着きを取り戻してくれた。
やれやれリンのことになると必死だの。
「わしは京子と片付ける算段をしてくるでな、ここで待っておれよ」
「はい」
再び人に戻ると、キャリーバッグを閉めて階段を下りた。
ケンは落ち着いたのか、吠え声は止まっていた。代わりにばたばたと走り回る音と激しめの息遣いが聞こえる。
「京子?」
居間に入ると、愛がおもちゃを投げケンと持ってこい遊びをしていた。
「ああ、お父さん。猫たちは落ち着いた?」
京子は台所で昼食の支度をしていた。
「少しな。部屋を片付けたいんだが、どこに置けばいいだろうかの」
「そうね。廊下にでも並べておこうかな。倉庫を買って庭に置くつもりしてるけど、さすがに旦那がいないとね」
「孝さんは、猫たちのこと許してくれているんだろうかの?」
「それは大丈夫。連絡しておいたから。あの人も動物好きなのよ。ケンを連れて帰ってきたのもあの人だし」
「それなら安心だの。ありがとう」
「お昼食べたら荷物出しに行くわ。床に敷くものも買ってこないとね」
「荷物はわしがやっておくから。京子は愛ちゃんとゆっくりしておってくれ。病院も行ってもらわんと行かんしな」
「病院は夕方からだからまだ時間あるから大丈夫よ。とりあえず食べちゃうわね」
二人が食事をしている間に、少しずつ荷物を廊下に出した。
疲労はないが、筋力がないからあまり重い物は動かせない。動かせる物だけ運んでいると、途中で京子と愛が手伝いにきてくれた。
荷物の一部を京子たちの寝室に運びこみ、廊下の縦半分を使って荷物をすべて運びこんだ。
部屋の寸法を測ると、京子と愛は再びホームセンターに行ってくれた。
わしは猫たちと留守番をしていることにした。見知らぬ場所で心細かろう。
帰宅した京子が買ってきたのは、肉球柄が可愛らしい絨毯と、キャットタワーだった。
絨毯を敷くと、警戒しつつもゆっくりとバッグから出てきた。
先に出た珠の後についてチビたちも歩く。
匂いを嗅ぎながら窓辺に置いたベッドまで行く。ベッドは珠の匂いがついているから安心するんだろう。
端にトイレを設置してから、キャットタワーの組み立てに取り掛かった。
土台の上に柱を立ててネジで留め、二段目を取り付け、また柱を立てて三段目の板を留める。板についたねずみ人形がぷらぷらと揺れている。
最後に緩んでいるネジはないか確認をして、一時間ほどで完成した。
さっそくチビたちが興味を示して近寄ってくる。
柱に爪を立て、ぴょんぴょんと跳ねる。しかしそこから上には上がれない。
首根っこをつまんで二段目の板に乗せてやると、向かいにぶらさがるねずみに反応して手を伸ばす。
我も我もと寄ってきて、キャットタワーはあっという間にチビたちに占拠された。
「気に入ったようじゃの」
「買ってきて良かったわ。でもそろそろに病院行かなきゃね」
「もうそんな時間か。わしは待っていようか?」
「珠たちのことに詳しいのはお父さんでしょ。一緒に来てよ。順番までは車で待っててくれたらいいし」
「わかった」
キャットタワーを気に入ったチビたちを再びキャリーバッグに入れ、動物病院に向かった。
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