サレ妻の一念発起〜嘘つき旦那と離縁して、私は会社を興します。お陰でステキなご縁に恵まれました〜

衿乃 光希

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35.レオの見合い

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 営業に向かうも、契約にまで結びつかなくて苦戦していた頃、弟レオのお見合い話が凌雲館に持ち込まれた。
 お相手はヘインズワース衣装店の長女シンシアさん19歳。中古品の販売や貸し出しを行っている、凌雲館と同レベルの商店。
 凌雲館の一室にてお見合いが行われ、数日後、めでたくも結婚のお知らせを掲示する運びとなった。

「姉さんの会社で、結婚式をしてほしいんだ」
 レオから依頼されたのは、掲示が決まった直後のこと。
 私から頼もうと思っていたから、願ってもない話に喜んだ。

「もちろんよ。シンシアさんとご家族は、了解してくれているのよね」
「先方は貴族の屋敷に出入りをしているから、結婚式自体をよくご存知だったよ」

「まあ、そうなのね。それじゃあ、私が教わることも多いかも。貴族の結婚式って興味あるのよ。どんなお式をご希望されているのか、話ができるかしら」
「ご都合を聞いておくよ」

 先方に手紙を届け、ヘインズワース家との打ち合わせは三日後に決まった。
 それまでに両親から式の希望を聞いておき、当日レオと馬車に乗り込んだ。

 エインズワース衣装店は王都の南西地区にある。貴族街の出入り口前にある大通りを行き、別の通りに入ると少しだけ南に向かう。大きな建物の前で馬車が止まった。

 レオと馬車を降りると、「ブラント様、ようこそいらっしゃいました」と貴族風の衣装に身を包んだ男性に出迎えられた。
 案内されて、建物の中に入る。
 一階は事務所になっていて、たくさんの男女が働いているのが見えた。

「こちらへどうぞ」と案内されたのは、事務所の奥にある扉の先の、別の部屋だった。
「お待ちしておりましたわ」

 おそらく賓客をもてなす用の応接室だと思われる部屋にすでに人がいた。
 すっと立ち上がる女性が二人。モブキャップをかぶった頭を下げる。
 私たちも頭を下げ、レオからシンシアさんとお母様、と紹介された。

「初めましてお姉様。シンシア・ヘインズワースと申します」
 膝を折り、貴族の挨拶。自然でとても優雅。日頃からしているのがよくわかるほど、体に馴染んでいる。

「リアーナ・ブラントと申します」
 私も貴族の挨拶で返す。

「この度はご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。お姉さまと家族になれること、とても嬉しく思います」

 なにこの娘かわいい。
 背が低く、人好きのする柔らかい笑顔を浮かべながら見上げられると、同性なのにどきどきしてくる。
 レオと並ぶと絵になる気がする。
 あ、閃いた。二人の結婚式を絵描きに描いてもらって、事務所に飾りたい。

 考えていると、「こちらへどうぞ」とお母様に示されて、奥のソファに腰かけた。
 と、ノックののち扉が開き、父より少し若い男性が入室してきた。

「お待たせしましたな。よろしいよろしい。おかけになったままでどうぞ」
 つかつかと歩いてきて、すとんと一人用のソファに腰を下ろした。場所はレオの隣になる。
 会社の代表としての挨拶を交わしてから、さっそく結婚式についての話を私から進めた。

「貴族の結婚式をご存知だと伺いました。恥ずかしながら、私は存じ上げませんので、どのようなお式をご希望なさっておられるのか、お聞かせくださいませ」
「知ってはいますが、あのような派手な結婚式はできませんよ。基本は平民の流れでと考えています。ただ、招待客をお呼びしたいのです」

「お身内以外にお客様をご招待なさりたいのですね。何人ほどお考えでしょうか」
「ざっと三十人ほど。 増える可能性もあります」

 三十人以上。広い場所が必要ね。平民の自宅ではむりかもしれない。ヘインズワース邸は広いのかしら。
 もし室内に広さがなければ、ガーデンウェディングがいいかもしれない。

「では、お庭での結婚式はいかがでしょうか」
「庭で。よろしいですな。ぱっと出てくるとは、さすがですな」

「いえ。お褒めいただき光栄です。慣習どおり、エインズワース邸での結婚式でよろしいでしょうか」
「それなのですが。我が家は多くの招待客をおもてなしできる広い部屋や庭がないのです。そこで、凌雲館さんで行ってもらえないかと考えておるのですが」

「凌雲館での結婚式、ですか……父は存じ上げておりますか」
 レオをそっと見ると、首を横に振った。

「それが、まだ申し上げておりませんで。近いうちに、お願いに上がろうと思っております」
「父の了解が得られれば、私はいいと思います。つい先日も、新婦様のご自宅で、結婚式を執り行いましたから。入り婿さんでしたけれど」

「どこかの会場をお借りしようかと考えていたのですが、凌雲館さんなら素晴らしい設備がおありだろうと。ただ宿泊客にご迷惑をおかけしてはいけないと思うと、申し上げにくくて」
「私からも父に提案をしておきます。雨対策として、食堂でのお式も考えておきましょう」
「助かります。かかる費用は、全額こちらで持ちますので」

 その後、貴族の結婚式を聞きながら、両親やシンシアさんの希望を聞きだし、近いうちに流れを提案させていただくお約束をして、この日は帰宅した。

 貴族の結婚式を知りたくて連絡を取りたいなと思っていたら、ちょうどいいタイミングで、事務所にメアリーさんがやってきた。
 結婚式の流れ、お出しする料理やお酒、流行のドレスのことなどいろいろ教えてもらう。

「お時間を取らせてすみませんでした。大変勉強になりました」
「いえ。本日は休暇をいただいていたので、時間は問題ありません」
「休日でも、お仕事服なのですか」

 メアリーさんはいつもの同じ黒のメイド服に、キャップ。もしかしてフランツ様から便りがあるのかなと少しだけ期待していた。

「仕事着が楽でつい。私服を考えるのが苦手なのです。正直に申し上げると、面倒で」
「わかります。考えることがたくさんで頭がまとまらないときに、服や食べ物の選択に思考を持っていかれるのが億劫になります」
「リアーナ様も、そういう場合があるのですか」
「よくあります。仕事で面倒だと思うことはあまりないのですが、自分のこととなるとダメですね」
「ご自身を律しておられる方だと思っておりました」
「メアリーさんこそ、ご自身に厳しい方だと思っていました」

 どうやら似た者同士だったみたい。
 お互いがそれに気がつき、私たちは目を合わせて微笑み合った。


 次回⇒36.準備が整って 
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