35 / 42
35.レオの見合い
しおりを挟む
営業に向かうも、契約にまで結びつかなくて苦戦していた頃、弟レオのお見合い話が凌雲館に持ち込まれた。
お相手はヘインズワース衣装店の長女シンシアさん19歳。中古品の販売や貸し出しを行っている、凌雲館と同レベルの商店。
凌雲館の一室にてお見合いが行われ、数日後、めでたくも結婚のお知らせを掲示する運びとなった。
「姉さんの会社で、結婚式をしてほしいんだ」
レオから依頼されたのは、掲示が決まった直後のこと。
私から頼もうと思っていたから、願ってもない話に喜んだ。
「もちろんよ。シンシアさんとご家族は、了解してくれているのよね」
「先方は貴族の屋敷に出入りをしているから、結婚式自体をよくご存知だったよ」
「まあ、そうなのね。それじゃあ、私が教わることも多いかも。貴族の結婚式って興味あるのよ。どんなお式をご希望されているのか、話ができるかしら」
「ご都合を聞いておくよ」
先方に手紙を届け、ヘインズワース家との打ち合わせは三日後に決まった。
それまでに両親から式の希望を聞いておき、当日レオと馬車に乗り込んだ。
エインズワース衣装店は王都の南西地区にある。貴族街の出入り口前にある大通りを行き、別の通りに入ると少しだけ南に向かう。大きな建物の前で馬車が止まった。
レオと馬車を降りると、「ブラント様、ようこそいらっしゃいました」と貴族風の衣装に身を包んだ男性に出迎えられた。
案内されて、建物の中に入る。
一階は事務所になっていて、たくさんの男女が働いているのが見えた。
「こちらへどうぞ」と案内されたのは、事務所の奥にある扉の先の、別の部屋だった。
「お待ちしておりましたわ」
おそらく賓客をもてなす用の応接室だと思われる部屋にすでに人がいた。
すっと立ち上がる女性が二人。モブキャップをかぶった頭を下げる。
私たちも頭を下げ、レオからシンシアさんとお母様、と紹介された。
「初めましてお姉様。シンシア・ヘインズワースと申します」
膝を折り、貴族の挨拶。自然でとても優雅。日頃からしているのがよくわかるほど、体に馴染んでいる。
「リアーナ・ブラントと申します」
私も貴族の挨拶で返す。
「この度はご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。お姉さまと家族になれること、とても嬉しく思います」
なにこの娘かわいい。
背が低く、人好きのする柔らかい笑顔を浮かべながら見上げられると、同性なのにどきどきしてくる。
レオと並ぶと絵になる気がする。
あ、閃いた。二人の結婚式を絵描きに描いてもらって、事務所に飾りたい。
考えていると、「こちらへどうぞ」とお母様に示されて、奥のソファに腰かけた。
と、ノックののち扉が開き、父より少し若い男性が入室してきた。
「お待たせしましたな。よろしいよろしい。おかけになったままでどうぞ」
つかつかと歩いてきて、すとんと一人用のソファに腰を下ろした。場所はレオの隣になる。
会社の代表としての挨拶を交わしてから、さっそく結婚式についての話を私から進めた。
「貴族の結婚式をご存知だと伺いました。恥ずかしながら、私は存じ上げませんので、どのようなお式をご希望なさっておられるのか、お聞かせくださいませ」
「知ってはいますが、あのような派手な結婚式はできませんよ。基本は平民の流れでと考えています。ただ、招待客をお呼びしたいのです」
「お身内以外にお客様をご招待なさりたいのですね。何人ほどお考えでしょうか」
「ざっと三十人ほど。 増える可能性もあります」
三十人以上。広い場所が必要ね。平民の自宅ではむりかもしれない。ヘインズワース邸は広いのかしら。
もし室内に広さがなければ、ガーデンウェディングがいいかもしれない。
「では、お庭での結婚式はいかがでしょうか」
「庭で。よろしいですな。ぱっと出てくるとは、さすがですな」
「いえ。お褒めいただき光栄です。慣習どおり、エインズワース邸での結婚式でよろしいでしょうか」
「それなのですが。我が家は多くの招待客をおもてなしできる広い部屋や庭がないのです。そこで、凌雲館さんで行ってもらえないかと考えておるのですが」
「凌雲館での結婚式、ですか……父は存じ上げておりますか」
レオをそっと見ると、首を横に振った。
「それが、まだ申し上げておりませんで。近いうちに、お願いに上がろうと思っております」
「父の了解が得られれば、私はいいと思います。つい先日も、新婦様のご自宅で、結婚式を執り行いましたから。入り婿さんでしたけれど」
「どこかの会場をお借りしようかと考えていたのですが、凌雲館さんなら素晴らしい設備がおありだろうと。ただ宿泊客にご迷惑をおかけしてはいけないと思うと、申し上げにくくて」
「私からも父に提案をしておきます。雨対策として、食堂でのお式も考えておきましょう」
「助かります。かかる費用は、全額こちらで持ちますので」
その後、貴族の結婚式を聞きながら、両親やシンシアさんの希望を聞きだし、近いうちに流れを提案させていただくお約束をして、この日は帰宅した。
貴族の結婚式を知りたくて連絡を取りたいなと思っていたら、ちょうどいいタイミングで、事務所にメアリーさんがやってきた。
結婚式の流れ、お出しする料理やお酒、流行のドレスのことなどいろいろ教えてもらう。
「お時間を取らせてすみませんでした。大変勉強になりました」
「いえ。本日は休暇をいただいていたので、時間は問題ありません」
「休日でも、お仕事服なのですか」
メアリーさんはいつもの同じ黒のメイド服に、キャップ。もしかしてフランツ様から便りがあるのかなと少しだけ期待していた。
「仕事着が楽でつい。私服を考えるのが苦手なのです。正直に申し上げると、面倒で」
「わかります。考えることがたくさんで頭がまとまらないときに、服や食べ物の選択に思考を持っていかれるのが億劫になります」
「リアーナ様も、そういう場合があるのですか」
「よくあります。仕事で面倒だと思うことはあまりないのですが、自分のこととなるとダメですね」
「ご自身を律しておられる方だと思っておりました」
「メアリーさんこそ、ご自身に厳しい方だと思っていました」
どうやら似た者同士だったみたい。
お互いがそれに気がつき、私たちは目を合わせて微笑み合った。
次回⇒36.準備が整って
お相手はヘインズワース衣装店の長女シンシアさん19歳。中古品の販売や貸し出しを行っている、凌雲館と同レベルの商店。
凌雲館の一室にてお見合いが行われ、数日後、めでたくも結婚のお知らせを掲示する運びとなった。
「姉さんの会社で、結婚式をしてほしいんだ」
レオから依頼されたのは、掲示が決まった直後のこと。
私から頼もうと思っていたから、願ってもない話に喜んだ。
「もちろんよ。シンシアさんとご家族は、了解してくれているのよね」
「先方は貴族の屋敷に出入りをしているから、結婚式自体をよくご存知だったよ」
「まあ、そうなのね。それじゃあ、私が教わることも多いかも。貴族の結婚式って興味あるのよ。どんなお式をご希望されているのか、話ができるかしら」
「ご都合を聞いておくよ」
先方に手紙を届け、ヘインズワース家との打ち合わせは三日後に決まった。
それまでに両親から式の希望を聞いておき、当日レオと馬車に乗り込んだ。
エインズワース衣装店は王都の南西地区にある。貴族街の出入り口前にある大通りを行き、別の通りに入ると少しだけ南に向かう。大きな建物の前で馬車が止まった。
レオと馬車を降りると、「ブラント様、ようこそいらっしゃいました」と貴族風の衣装に身を包んだ男性に出迎えられた。
案内されて、建物の中に入る。
一階は事務所になっていて、たくさんの男女が働いているのが見えた。
「こちらへどうぞ」と案内されたのは、事務所の奥にある扉の先の、別の部屋だった。
「お待ちしておりましたわ」
おそらく賓客をもてなす用の応接室だと思われる部屋にすでに人がいた。
すっと立ち上がる女性が二人。モブキャップをかぶった頭を下げる。
私たちも頭を下げ、レオからシンシアさんとお母様、と紹介された。
「初めましてお姉様。シンシア・ヘインズワースと申します」
膝を折り、貴族の挨拶。自然でとても優雅。日頃からしているのがよくわかるほど、体に馴染んでいる。
「リアーナ・ブラントと申します」
私も貴族の挨拶で返す。
「この度はご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。お姉さまと家族になれること、とても嬉しく思います」
なにこの娘かわいい。
背が低く、人好きのする柔らかい笑顔を浮かべながら見上げられると、同性なのにどきどきしてくる。
レオと並ぶと絵になる気がする。
あ、閃いた。二人の結婚式を絵描きに描いてもらって、事務所に飾りたい。
考えていると、「こちらへどうぞ」とお母様に示されて、奥のソファに腰かけた。
と、ノックののち扉が開き、父より少し若い男性が入室してきた。
「お待たせしましたな。よろしいよろしい。おかけになったままでどうぞ」
つかつかと歩いてきて、すとんと一人用のソファに腰を下ろした。場所はレオの隣になる。
会社の代表としての挨拶を交わしてから、さっそく結婚式についての話を私から進めた。
「貴族の結婚式をご存知だと伺いました。恥ずかしながら、私は存じ上げませんので、どのようなお式をご希望なさっておられるのか、お聞かせくださいませ」
「知ってはいますが、あのような派手な結婚式はできませんよ。基本は平民の流れでと考えています。ただ、招待客をお呼びしたいのです」
「お身内以外にお客様をご招待なさりたいのですね。何人ほどお考えでしょうか」
「ざっと三十人ほど。 増える可能性もあります」
三十人以上。広い場所が必要ね。平民の自宅ではむりかもしれない。ヘインズワース邸は広いのかしら。
もし室内に広さがなければ、ガーデンウェディングがいいかもしれない。
「では、お庭での結婚式はいかがでしょうか」
「庭で。よろしいですな。ぱっと出てくるとは、さすがですな」
「いえ。お褒めいただき光栄です。慣習どおり、エインズワース邸での結婚式でよろしいでしょうか」
「それなのですが。我が家は多くの招待客をおもてなしできる広い部屋や庭がないのです。そこで、凌雲館さんで行ってもらえないかと考えておるのですが」
「凌雲館での結婚式、ですか……父は存じ上げておりますか」
レオをそっと見ると、首を横に振った。
「それが、まだ申し上げておりませんで。近いうちに、お願いに上がろうと思っております」
「父の了解が得られれば、私はいいと思います。つい先日も、新婦様のご自宅で、結婚式を執り行いましたから。入り婿さんでしたけれど」
「どこかの会場をお借りしようかと考えていたのですが、凌雲館さんなら素晴らしい設備がおありだろうと。ただ宿泊客にご迷惑をおかけしてはいけないと思うと、申し上げにくくて」
「私からも父に提案をしておきます。雨対策として、食堂でのお式も考えておきましょう」
「助かります。かかる費用は、全額こちらで持ちますので」
その後、貴族の結婚式を聞きながら、両親やシンシアさんの希望を聞きだし、近いうちに流れを提案させていただくお約束をして、この日は帰宅した。
貴族の結婚式を知りたくて連絡を取りたいなと思っていたら、ちょうどいいタイミングで、事務所にメアリーさんがやってきた。
結婚式の流れ、お出しする料理やお酒、流行のドレスのことなどいろいろ教えてもらう。
「お時間を取らせてすみませんでした。大変勉強になりました」
「いえ。本日は休暇をいただいていたので、時間は問題ありません」
「休日でも、お仕事服なのですか」
メアリーさんはいつもの同じ黒のメイド服に、キャップ。もしかしてフランツ様から便りがあるのかなと少しだけ期待していた。
「仕事着が楽でつい。私服を考えるのが苦手なのです。正直に申し上げると、面倒で」
「わかります。考えることがたくさんで頭がまとまらないときに、服や食べ物の選択に思考を持っていかれるのが億劫になります」
「リアーナ様も、そういう場合があるのですか」
「よくあります。仕事で面倒だと思うことはあまりないのですが、自分のこととなるとダメですね」
「ご自身を律しておられる方だと思っておりました」
「メアリーさんこそ、ご自身に厳しい方だと思っていました」
どうやら似た者同士だったみたい。
お互いがそれに気がつき、私たちは目を合わせて微笑み合った。
次回⇒36.準備が整って
21
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。
いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。
ただし、後のことはどうなっても知りませんよ?
* 他サイトでも投稿
* ショートショートです。あっさり終わります
その言葉、今さらですか?あなたが落ちぶれても、もう助けてあげる理由はありません
有賀冬馬
恋愛
「君は、地味すぎるんだ」――そう言って、辺境伯子息の婚約者はわたしを捨てた。
彼が選んだのは、華やかで社交界の華と謳われる侯爵令嬢。
絶望の淵にいたわたしは、道で倒れていた旅人を助ける。
彼の正体は、なんと隣国の皇帝だった。
「君の優しさに心を奪われた」優しく微笑む彼に求婚され、わたしは皇妃として新たな人生を歩み始める。
一方、元婚約者は選んだ姫に裏切られ、すべてを失う。
助けを乞う彼に、わたしは冷たく言い放つ。
「あなたを助ける義理はありません」。
旦那様、本当によろしいのですか?【完結】
翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。
なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。
そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、
「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」
突然夫にそう告げられた。
夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。
理由も理不尽。だが、ロザリアは、
「旦那様、本当によろしいのですか?」
そういつもの微笑みを浮かべていた。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる