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36.準備が整って
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一か月後、レオとシンシアの結婚は、無事に成立した。
成立するものと見込んで準備を進めていき、成立から二週間後の今日、結婚式の日を迎えた。
空に薄雲は広がっているけれど雨の心配はなさそう。庭から空を見上げて胸をなでおろす。
隣に人がきた気配を感じて、頭を下げる。
「お父さん」
父も私と同じように、空を見上げていた。
「従業員一丸となって作りあげたんだ。成功させたいな」
「はい。今後のためにも、大きな失敗は許されません」
庭園は、式のためにいつもと違う姿をしている。元々色とりどりの花が咲いているから、それを活かしてテーブルやイスを並べ、誓いの儀式の後には立食形式での披露宴を行う。
イスには淡い緑色でシフォン生地のストールを巻き、華やかになるように装飾した。
「ユアマリッジの命運がかかっているんです。ご覧になる方々が、結婚式を知り、良い儀式だ、うちでもやりたい、と思ってもらえるものを作りたいんです」
今日の結婚式は、一部の客室から見学できるようにした。宣伝効果を狙って。
ユアマリッジだけじゃない。凌雲館にとっては跡取りの、エインズワース衣装店は需要を増やすための。三方にとってウインウインウインになる、と見込んで提案した。
なにより、大切な弟のための結婚式。二人を祝福する、良いお式にしたい。
「失敗はたしかにしたくはないが、そんなに気負わなくていい。リアーナなら大丈夫だから」
父の優しい言葉は、私の全身を内側から温めてくれた。握りしめていた拳を開く。
そうね。緊張から失敗を招いてしまっては、元も子もない。
良いお式にすることだけを考えよう。
「ありがとう、お父さん。今日はよろしくお願いします」
花婿の父親で、凌雲館の支配人に向けて、私は一度頭を下げた。
式は正午からの開始。レオは着替えと、花嫁の迎えのため、凌雲館を出た。
凌雲館のロビーは帰る宿泊客と、結婚式見学の一時利用客で、少し混み合っている。
私は凌雲館の従業員ではなくなっている。お手伝いしたい気持ちに駆られるけれど、出入りの業者が立ち入るわけにはいかない。
混み合うロビーから離れて、庭園に配置した備品のチェックを行う。
新郎新婦が宣誓書を読み上げて、署名を行う台。参列者が座るイス。
立食を行うためのテーブル。ケーキカットを行うための動線を確認。万が一にも足を取られてケーキを落としてしまっては大惨事になる。
庭園から厨房までの道のりをチェックして、問題がないことを確認した。
厨房は、朝食の片づけと結婚式用の食事の準備で、立て込んでいると思う。さすがに覗きに行って邪魔をするわけにはいかないので、厨房の前までで足を止めた。
今のところ、アクシデントの気配はない。ないけれど、思わぬところで突発的に起こってしまうもの。
起こってほしくはないけれど、起こってしまってもすぐに対応できるように、慢心せず心積もりだけはしておく。
再びロビーに向かうと、演奏を担当する音楽家たちが到着し始めていた。エインズワース家が貴族から紹介してもらった人たち。
今日は派手な色と、緑色の服は裂けてもらった。新婦のドレスが緑だから。
音楽家たちはお願いを聞いてくれて、シックな色合いの服で来てくれていた。一行を庭園に誘導し、声楽家と司会者を含めた全員が揃ったところで段取りの確認をする。
事前に打ち合わせをして、式の流れに合わせた演奏リストを作り、一度だけリハーサルを行った。彼らはプロだから、失敗はないと思うけれど、絶対はない。
今回、司会もプロにお願いした。ふだんから祝祭や貴族の結婚式で進行をしている彼は、私よりずっと巧みな話術を持っていた。
私は身内として式に出席するけれど、裏方としても動き回る。招待客の誘導、お料理や飲み物の手配、体調の悪いお客様はいないか、など目を光らせていなければならない。
確認作業に負われ、ばたばたと気忙しい時を過ごしている中、新郎新婦が到着したと知らせがきた。
いよいよ凌雲館での初めての結婚式がスタートする。
私は心の中で、どうか成功しますようにと祈って、新郎新婦を迎えるために玄関に向かった。
宿泊客の退出手続きは済んだようで、ロビーにいるのはほとんど従業員。
遅れてきた結婚式の見学客が数組いて、正装姿の新郎新婦を微笑ましそうな様子で見ている。
新婦シンシアが選んだドレスは濃い緑のプリンセスライン。金糸で豪華な刺繍が施されていて、華やかで目を惹く。首の中央あたりまで衿がしっかりとあり、肌の露出はない。袖は肘の辺りから広がったベルスリーブで、袖口がベージュのレースになっている。手袋はシンプルな白。
ドレスの生地は、ベルベット。重いからか、ゆっくりと歩いている。
シンシアと腕を組み、歩幅を揃えて歩いている新郎レオは、白シャツに白のクラバットを巻き、ダブルのウエストコートを着用している。新婦のドレスと合わせて、濃い緑でこちらの生地もベルベッド。
ズボンは白のスラックスにハーフブーツを合わせている。
元々持っている品も相まってどこの貴族かと思うほど、レオもシンシアも絵になる美しさ。
画家にも来てもらって、二人の絵を描いてもらえるように手配済み。
素晴らしい絵ができる予感がして、今から楽しみでわくわくしている。
庭園へ下りる扉から、ふわりと風がロビーに舞い込み、新婦のベールを揺らした。
シンシアは式でもモブキャップを被ろうとしたけれど、ドレスと合わず悩んでいた。
モブキャップにこだわる必要はないのに、頭を出すのは恥ずかしいと、幼い頃からの習慣が抜けないらしい。
そこで、私はジュリエットキャップベールを提案した。
ロミジュリのジュリエットが被っていた帽子をベールにアレンジしたもの。
モブキャップなら普段着感が出るけれど、ベールにすることで、上品で特別感溢れる装いとなる。
シンシアとともに、仕立屋と相談を重ねてできたベールは、上品とかわいらしさを兼ね揃えた個性的な一品となった。
緑の薄い生地の帽子部分に刺繍を施して透けないようにし、ベール部分は耳横で止めて、背中に流した。
私はこのベールをモブキャップベールと名付けた。
新郎新婦を待機部屋に案内し、開始するまで待ってもらう。
あとを凌雲館の担当者に任せて、私は庭園に戻った。
次回⇒37. 凌雲館での結婚式
成立するものと見込んで準備を進めていき、成立から二週間後の今日、結婚式の日を迎えた。
空に薄雲は広がっているけれど雨の心配はなさそう。庭から空を見上げて胸をなでおろす。
隣に人がきた気配を感じて、頭を下げる。
「お父さん」
父も私と同じように、空を見上げていた。
「従業員一丸となって作りあげたんだ。成功させたいな」
「はい。今後のためにも、大きな失敗は許されません」
庭園は、式のためにいつもと違う姿をしている。元々色とりどりの花が咲いているから、それを活かしてテーブルやイスを並べ、誓いの儀式の後には立食形式での披露宴を行う。
イスには淡い緑色でシフォン生地のストールを巻き、華やかになるように装飾した。
「ユアマリッジの命運がかかっているんです。ご覧になる方々が、結婚式を知り、良い儀式だ、うちでもやりたい、と思ってもらえるものを作りたいんです」
今日の結婚式は、一部の客室から見学できるようにした。宣伝効果を狙って。
ユアマリッジだけじゃない。凌雲館にとっては跡取りの、エインズワース衣装店は需要を増やすための。三方にとってウインウインウインになる、と見込んで提案した。
なにより、大切な弟のための結婚式。二人を祝福する、良いお式にしたい。
「失敗はたしかにしたくはないが、そんなに気負わなくていい。リアーナなら大丈夫だから」
父の優しい言葉は、私の全身を内側から温めてくれた。握りしめていた拳を開く。
そうね。緊張から失敗を招いてしまっては、元も子もない。
良いお式にすることだけを考えよう。
「ありがとう、お父さん。今日はよろしくお願いします」
花婿の父親で、凌雲館の支配人に向けて、私は一度頭を下げた。
式は正午からの開始。レオは着替えと、花嫁の迎えのため、凌雲館を出た。
凌雲館のロビーは帰る宿泊客と、結婚式見学の一時利用客で、少し混み合っている。
私は凌雲館の従業員ではなくなっている。お手伝いしたい気持ちに駆られるけれど、出入りの業者が立ち入るわけにはいかない。
混み合うロビーから離れて、庭園に配置した備品のチェックを行う。
新郎新婦が宣誓書を読み上げて、署名を行う台。参列者が座るイス。
立食を行うためのテーブル。ケーキカットを行うための動線を確認。万が一にも足を取られてケーキを落としてしまっては大惨事になる。
庭園から厨房までの道のりをチェックして、問題がないことを確認した。
厨房は、朝食の片づけと結婚式用の食事の準備で、立て込んでいると思う。さすがに覗きに行って邪魔をするわけにはいかないので、厨房の前までで足を止めた。
今のところ、アクシデントの気配はない。ないけれど、思わぬところで突発的に起こってしまうもの。
起こってほしくはないけれど、起こってしまってもすぐに対応できるように、慢心せず心積もりだけはしておく。
再びロビーに向かうと、演奏を担当する音楽家たちが到着し始めていた。エインズワース家が貴族から紹介してもらった人たち。
今日は派手な色と、緑色の服は裂けてもらった。新婦のドレスが緑だから。
音楽家たちはお願いを聞いてくれて、シックな色合いの服で来てくれていた。一行を庭園に誘導し、声楽家と司会者を含めた全員が揃ったところで段取りの確認をする。
事前に打ち合わせをして、式の流れに合わせた演奏リストを作り、一度だけリハーサルを行った。彼らはプロだから、失敗はないと思うけれど、絶対はない。
今回、司会もプロにお願いした。ふだんから祝祭や貴族の結婚式で進行をしている彼は、私よりずっと巧みな話術を持っていた。
私は身内として式に出席するけれど、裏方としても動き回る。招待客の誘導、お料理や飲み物の手配、体調の悪いお客様はいないか、など目を光らせていなければならない。
確認作業に負われ、ばたばたと気忙しい時を過ごしている中、新郎新婦が到着したと知らせがきた。
いよいよ凌雲館での初めての結婚式がスタートする。
私は心の中で、どうか成功しますようにと祈って、新郎新婦を迎えるために玄関に向かった。
宿泊客の退出手続きは済んだようで、ロビーにいるのはほとんど従業員。
遅れてきた結婚式の見学客が数組いて、正装姿の新郎新婦を微笑ましそうな様子で見ている。
新婦シンシアが選んだドレスは濃い緑のプリンセスライン。金糸で豪華な刺繍が施されていて、華やかで目を惹く。首の中央あたりまで衿がしっかりとあり、肌の露出はない。袖は肘の辺りから広がったベルスリーブで、袖口がベージュのレースになっている。手袋はシンプルな白。
ドレスの生地は、ベルベット。重いからか、ゆっくりと歩いている。
シンシアと腕を組み、歩幅を揃えて歩いている新郎レオは、白シャツに白のクラバットを巻き、ダブルのウエストコートを着用している。新婦のドレスと合わせて、濃い緑でこちらの生地もベルベッド。
ズボンは白のスラックスにハーフブーツを合わせている。
元々持っている品も相まってどこの貴族かと思うほど、レオもシンシアも絵になる美しさ。
画家にも来てもらって、二人の絵を描いてもらえるように手配済み。
素晴らしい絵ができる予感がして、今から楽しみでわくわくしている。
庭園へ下りる扉から、ふわりと風がロビーに舞い込み、新婦のベールを揺らした。
シンシアは式でもモブキャップを被ろうとしたけれど、ドレスと合わず悩んでいた。
モブキャップにこだわる必要はないのに、頭を出すのは恥ずかしいと、幼い頃からの習慣が抜けないらしい。
そこで、私はジュリエットキャップベールを提案した。
ロミジュリのジュリエットが被っていた帽子をベールにアレンジしたもの。
モブキャップなら普段着感が出るけれど、ベールにすることで、上品で特別感溢れる装いとなる。
シンシアとともに、仕立屋と相談を重ねてできたベールは、上品とかわいらしさを兼ね揃えた個性的な一品となった。
緑の薄い生地の帽子部分に刺繍を施して透けないようにし、ベール部分は耳横で止めて、背中に流した。
私はこのベールをモブキャップベールと名付けた。
新郎新婦を待機部屋に案内し、開始するまで待ってもらう。
あとを凌雲館の担当者に任せて、私は庭園に戻った。
次回⇒37. 凌雲館での結婚式
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