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37. 凌雲館での結婚式
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「お集まりいただきました、紳士淑女の皆々様。色とりどりの花と瑞々しい緑に囲まれたすばらしい庭園にて、ただいまより、ブラント家・エインズワース家の結婚式を、執り行いたいと存じます」
親族席に着いた私は、司会をプロに任せて正解だったと、彼の第一声で確信した。
司会者の朗々とした美声が庭園に響き渡り、お話に夢中だった招待客の声が静まった。
「本日の主役、新郎レオ・ブラント、新婦シンシア・エインズワースの入場でございます。庭園におわします皆々様、客室からご見学の皆々様、盛大な拍手でお迎えください。新郎新婦のご入場です」
音楽が高らかに鳴り響く。
ロビーで待機していた新郎新婦が庭園に姿を見せた。
左右に分かれた招待客の中央を、ゆっくりと歩く二人。緊張はしているようだけど、柔らかい笑みを浮かべている。
ドレス姿の新婦に目を向けながら気遣って歩くレオに、姉として涙が浮かんでくる。もともと優しい子だったけれど、その優しさを新妻に向ける姿は、成長を感じさせた。
良いご縁に恵まれたと、家族として嬉しく思う。
後ろにいた招待客から、「ドレスすてきね。それにキャップ。あんなの見たことないわ。きれいね」と呟く声が聞こえた。
私が考えたんです。とは今は言えないけれど、式のプランだけじゃなく、衣装を手掛けるのもいいかもしれない。とつい頭が仕事に向いた。
署名台にたどり着いた新郎新婦が、客席に向いて頭を下げる。
ひときわ拍手が大きくなった。
新郎新婦が着席すると、二人の紹介をする。レオの紹介のあとに、シンシアの紹介。
「それではご夫婦の証しとなる婚姻届けに、ご署名をしていただきましょう」
二人が立ち上がる。
レオが羽ペンを手に取り、インク壺につけて署名する。
レオから羽ペンを受け取ったシンシアも署名すると、二人は視線を交わして優しく微笑み合った。
「次に、指輪の交換でございます。指輪は信頼の証し、円は永遠をあらわします。永遠の愛を誓い、互いの家の結びつきを強くするでしょう。新郎から新婦へ贈ります」
指輪を手に取ったレオが、手袋を脱いでいたシンシアの左手薬指に、指輪をはめる。
「新婦から新郎へ」
シンシアがレオの左手薬指に指輪をはめる。
「本日、ここに一組のご夫婦が誕生いたしました。皆さまが証人となります。盛大な拍手でもって、末永い幸せをお祈りいたしましょう」
指輪を見せる二人に向けて、拍手と音楽が庭園に響き渡った。
「続きまして、ご夫婦となったお二人に、ウェディングケーキをカットしていただきましょう。一つのパンを二人で分け合い、永遠の愛を誓っていただきます」
厨房のある北館から、ケーキを運ぶために作った専用の道を使って。落としたり転がしたりしないように、慎重にゆっくりと。
おおーと招待客から感嘆の声が上がった。
三段重ねで真っ白のクリームが覆い、赤いバラで飾っている。
バラは砂糖を粘土状にしたペーストを使って作っている。飾りなので食べない。けれど貴族たちは菓子職人に依頼するそうだ。
「皆さま、ご覧ください。とても華やかで綺麗なケーキを。永遠の幸せと子孫繁栄を願って作られました。ご準備が整ったようです。ご注目ください。ケーキ入刀でございます」
レオとシンシアは、ケーキナイフに手を重ね、すっと下した。
「おめでとうございます。新郎新婦のご希望により、後ほど、皆さまにお裾分けいたします」
拍手と音楽が、再び庭園に響き渡った。
「本日はささやかながらお食事のご用意をしております。凌雲館のシェフたちが腕をふるったお料理をご堪能くださいませ。その前に、皆々様で、乾杯をいたしましょう」
司会の言葉を合図に、凌雲館の従業員がグラスを配っていく。
「乾杯!」
ワイングラスを上げ、左右にいる物と軽く合わせ、招待客たちはのどを潤す。
ケーキは下げられ、次に出てくるのは、食事が終わる頃。
食事が運び込まれ、クロスをかけたテーブルに並んでいく。
立食パーティーが始まった。
私はお皿に食事を盛り付け、自由に動けない新郎新婦に持って行った。
「少しでもいいから、食べられるときに、食べておいた方がいいわよ」
コルセットで体を締めている花嫁は食べられないかもしれないけれど、空腹だと倒れてしまいかねない。
お酒を勧める招待客もいるだろうから、空腹でお酒だけを胃に入れていけば、悪い酔い方をしてしまう。
「姉さん。ありがとう」
「お姉さま、お気遣いいただきありがとうございます」
招待客が料理に夢中にあっている間に、二人はゆっくりと食事を始めた。
私は歓談をしている人たちの間を歩き、不備がないか確認をしていく。
凌雲館の従業員はしっかりしていて、私が気を回す前に、空いた皿は下げられ、新しい料理が運び込まれる。
飲み物類も抜かりなく、用意されていた。
気を揉む隙がなく、さすがだわと感心していると、
「あっ!」
小声ながらも高い女性の声が耳に届いた。次いで、
「も、申し訳ありません」
慌てて謝罪する、別の女性の声が聞こえた。
庭園の端のあたりで何か騒動があったようだ。少しざわついている。
「どうか、なさいましたか」
近寄って訊ねる。
「ワインをかけてしまいました」
申し訳なさそうに身を縮めている女性と、ドレスを拭いている女性がいた。赤いドレスの胸元が、一部だけ濃くなっている。
ワインがかかった女性は、怒っているようではないけれど、戸惑っているご様子だった。
「アルダーソン様、お部屋をご用意しておりますので、どうぞこちらへ」
ワインがかかったご婦人を一番近い北館に案内した。
階段を上がりながら、話しかける。
「お怪我はございませんか」
「ええ。それは大丈夫。でもどうしましょう」
「クリーニングを任せている業者はおありですか?」
「ええ。あります」
「ではすぐにお持ちして、シミ抜きをしてもらいましょう。お召し物のお着替えはお持ちですか」
「いいえ。持ってきてはおりません」
「エインズワース衣装店様のご厚意で、数点ドレスをご用意しておりますので、お着替えくださいませ。お好みに合うものがあるとよろしいのですが」
客室を借り、万一に備えてドレスを用意しておいた。エインズワース衣装店が用意してくれたもので、何事もなければいいなと思っていた。
「サイズが合えば、構いません。せっかく呼んでくださったのに、途中退場なんて、寂しいですから」
「寛大なお心に感謝申し上げます」
アルダーソン様は声を荒らげることなく、受け入れてくださった。
衣装店の従業員に後を任せ、私が庭園に戻ると、何事もなかったかのように食事と歓談が続いていた。
父と目が合い、大丈夫と言う代わりにしっかりと頷き、ワインをかけてしまったヘイワード様に安心していただくため、私は説明に向かった。
次回⇒38.宴もたけなわ
親族席に着いた私は、司会をプロに任せて正解だったと、彼の第一声で確信した。
司会者の朗々とした美声が庭園に響き渡り、お話に夢中だった招待客の声が静まった。
「本日の主役、新郎レオ・ブラント、新婦シンシア・エインズワースの入場でございます。庭園におわします皆々様、客室からご見学の皆々様、盛大な拍手でお迎えください。新郎新婦のご入場です」
音楽が高らかに鳴り響く。
ロビーで待機していた新郎新婦が庭園に姿を見せた。
左右に分かれた招待客の中央を、ゆっくりと歩く二人。緊張はしているようだけど、柔らかい笑みを浮かべている。
ドレス姿の新婦に目を向けながら気遣って歩くレオに、姉として涙が浮かんでくる。もともと優しい子だったけれど、その優しさを新妻に向ける姿は、成長を感じさせた。
良いご縁に恵まれたと、家族として嬉しく思う。
後ろにいた招待客から、「ドレスすてきね。それにキャップ。あんなの見たことないわ。きれいね」と呟く声が聞こえた。
私が考えたんです。とは今は言えないけれど、式のプランだけじゃなく、衣装を手掛けるのもいいかもしれない。とつい頭が仕事に向いた。
署名台にたどり着いた新郎新婦が、客席に向いて頭を下げる。
ひときわ拍手が大きくなった。
新郎新婦が着席すると、二人の紹介をする。レオの紹介のあとに、シンシアの紹介。
「それではご夫婦の証しとなる婚姻届けに、ご署名をしていただきましょう」
二人が立ち上がる。
レオが羽ペンを手に取り、インク壺につけて署名する。
レオから羽ペンを受け取ったシンシアも署名すると、二人は視線を交わして優しく微笑み合った。
「次に、指輪の交換でございます。指輪は信頼の証し、円は永遠をあらわします。永遠の愛を誓い、互いの家の結びつきを強くするでしょう。新郎から新婦へ贈ります」
指輪を手に取ったレオが、手袋を脱いでいたシンシアの左手薬指に、指輪をはめる。
「新婦から新郎へ」
シンシアがレオの左手薬指に指輪をはめる。
「本日、ここに一組のご夫婦が誕生いたしました。皆さまが証人となります。盛大な拍手でもって、末永い幸せをお祈りいたしましょう」
指輪を見せる二人に向けて、拍手と音楽が庭園に響き渡った。
「続きまして、ご夫婦となったお二人に、ウェディングケーキをカットしていただきましょう。一つのパンを二人で分け合い、永遠の愛を誓っていただきます」
厨房のある北館から、ケーキを運ぶために作った専用の道を使って。落としたり転がしたりしないように、慎重にゆっくりと。
おおーと招待客から感嘆の声が上がった。
三段重ねで真っ白のクリームが覆い、赤いバラで飾っている。
バラは砂糖を粘土状にしたペーストを使って作っている。飾りなので食べない。けれど貴族たちは菓子職人に依頼するそうだ。
「皆さま、ご覧ください。とても華やかで綺麗なケーキを。永遠の幸せと子孫繁栄を願って作られました。ご準備が整ったようです。ご注目ください。ケーキ入刀でございます」
レオとシンシアは、ケーキナイフに手を重ね、すっと下した。
「おめでとうございます。新郎新婦のご希望により、後ほど、皆さまにお裾分けいたします」
拍手と音楽が、再び庭園に響き渡った。
「本日はささやかながらお食事のご用意をしております。凌雲館のシェフたちが腕をふるったお料理をご堪能くださいませ。その前に、皆々様で、乾杯をいたしましょう」
司会の言葉を合図に、凌雲館の従業員がグラスを配っていく。
「乾杯!」
ワイングラスを上げ、左右にいる物と軽く合わせ、招待客たちはのどを潤す。
ケーキは下げられ、次に出てくるのは、食事が終わる頃。
食事が運び込まれ、クロスをかけたテーブルに並んでいく。
立食パーティーが始まった。
私はお皿に食事を盛り付け、自由に動けない新郎新婦に持って行った。
「少しでもいいから、食べられるときに、食べておいた方がいいわよ」
コルセットで体を締めている花嫁は食べられないかもしれないけれど、空腹だと倒れてしまいかねない。
お酒を勧める招待客もいるだろうから、空腹でお酒だけを胃に入れていけば、悪い酔い方をしてしまう。
「姉さん。ありがとう」
「お姉さま、お気遣いいただきありがとうございます」
招待客が料理に夢中にあっている間に、二人はゆっくりと食事を始めた。
私は歓談をしている人たちの間を歩き、不備がないか確認をしていく。
凌雲館の従業員はしっかりしていて、私が気を回す前に、空いた皿は下げられ、新しい料理が運び込まれる。
飲み物類も抜かりなく、用意されていた。
気を揉む隙がなく、さすがだわと感心していると、
「あっ!」
小声ながらも高い女性の声が耳に届いた。次いで、
「も、申し訳ありません」
慌てて謝罪する、別の女性の声が聞こえた。
庭園の端のあたりで何か騒動があったようだ。少しざわついている。
「どうか、なさいましたか」
近寄って訊ねる。
「ワインをかけてしまいました」
申し訳なさそうに身を縮めている女性と、ドレスを拭いている女性がいた。赤いドレスの胸元が、一部だけ濃くなっている。
ワインがかかった女性は、怒っているようではないけれど、戸惑っているご様子だった。
「アルダーソン様、お部屋をご用意しておりますので、どうぞこちらへ」
ワインがかかったご婦人を一番近い北館に案内した。
階段を上がりながら、話しかける。
「お怪我はございませんか」
「ええ。それは大丈夫。でもどうしましょう」
「クリーニングを任せている業者はおありですか?」
「ええ。あります」
「ではすぐにお持ちして、シミ抜きをしてもらいましょう。お召し物のお着替えはお持ちですか」
「いいえ。持ってきてはおりません」
「エインズワース衣装店様のご厚意で、数点ドレスをご用意しておりますので、お着替えくださいませ。お好みに合うものがあるとよろしいのですが」
客室を借り、万一に備えてドレスを用意しておいた。エインズワース衣装店が用意してくれたもので、何事もなければいいなと思っていた。
「サイズが合えば、構いません。せっかく呼んでくださったのに、途中退場なんて、寂しいですから」
「寛大なお心に感謝申し上げます」
アルダーソン様は声を荒らげることなく、受け入れてくださった。
衣装店の従業員に後を任せ、私が庭園に戻ると、何事もなかったかのように食事と歓談が続いていた。
父と目が合い、大丈夫と言う代わりにしっかりと頷き、ワインをかけてしまったヘイワード様に安心していただくため、私は説明に向かった。
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