サレ妻の一念発起〜嘘つき旦那と離縁して、私は会社を興します。お陰でステキなご縁に恵まれました〜

衿乃 光希

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39.宴のあと

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「フランツ様。ご無沙汰しております。もしかして、結婚式を見学になられたのですか?」
 階段を降り切ったフランツ様が、私の前で足を止めた。

「ええ。メアリーから聞きましてね。ぜひとも拝見したいと思い、申し込んでもらったのです」
 思わぬお客様に、嬉しいやら恥ずかしいやら少しどきどきしてしまう。

「ありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか?」
「楽しかったですよ。心のこもった温かい結婚式でした。お土産もいただきましたよ」

 フランツ様は柔らかい笑みを浮かべたあと、手にしていたお土産を上げた。
 客室からの見学のお客様には、同じものを客室でお配りしていた。
 後ろに控えているメアリーさんに預けそうなものなのに、フランツ様がお持ちになっているのがなんだか可愛らしい。

「感想をお伝えしたいのですが、あなたもお忙しいでしょう。またお時間を作っていただけませんか? 食事をしながら、お話をいたしましょう」
 華やかな結婚式をたくさん見てきているだろう貴族からの感想は、怖いけれど楽しみでもある。

「はい。フランツ様のお時間をちょうだいしてよろしいのでしたら、ぜひご一緒させてくださいませ」
「では。またメアリーに連絡を頼みます」
「お待ちしております。メアリーさん、よろしくお願いいたします」
「承知いたしました」

 フランツ様は新郎新婦の前を通り過ぎ、玄関に向かう。父が後を追い、呼び止めていた。見学にいらしたお礼を伝えているのだろう。

 新郎新婦前の列が少なくなってきて頃合いで、私は庭園に戻った。片付けが始まっている。
 食器類は下げられ、署名台やテーブルが運ばれていった。
 少しでも華やかになるようにとイスに巻いたストールは、また使えるので、回収して保管しておく。

 たくさんの人の動きに合わせて、羽がふわりと舞った。
 羽は花びらと比べると、ゆっくりと落ちてくるので本当に幻想的で、とても大好きな演出。
 でも外ではおすすめしにくい演出でもある。羽も花びらも、風があると新郎新婦に届かず流されてしまう。
 落ちてしまった羽を一枚一枚拾っていると、室内の方が掃除も楽だなと思う。

 でも同じ条件だと、私はまた提案するだろう。
 凌雲館の庭園は四方を建物が囲んでいるので、風が入りにくい。これならフェザーシャワーができる、と嬉しくて提案した。
 シンシアは「すてきです」と目をキラキラと輝かせて賛成してくれた。

 義妹は楽しんでくれたかしら。
 庭園に笑顔が溢れた光景は、私にとっても幸せを感じる瞬間だった。
 ふわりふわりと羽が舞い、笑顔の新郎新婦が歩いていく。私の心の中ではスローモーション撮影されていた。
 演出のことは絵描きさんに伝えておいたから、完成をとても楽しみにしている。事務所に飾ったら、きっととても素晴らしいはず。

 前世の私は、結婚式を挙げたばかりの新郎新婦を振り返りながら、片付けをする時間が好きだった。
 初めて対面した時の、幸せオーラに包まれたカップル。あれがしたいこれがしたいと夢に溢れている。
 希望はできる限り叶えて差し上げたいけれど、そのすべてを叶えるのは時間や金銭的に難しい。
 だから本当にやりたいことや、伝えたいことを絞る。
 一緒に考え、提案し、一生に一度の思い出に残る結婚式を作りあげる。

 いろいろなカップルがいたな、と懐かしくなっているのは、設置から片付けまでをしたのが久しぶりだから。
 この世界では自宅でのお式なので、設置も片付けも手伝うのはほぼなかった。設置は式の流れを伝えてここに置きましょうか、と打ち合わせをしただけだし、片付けはフラワーシャワーをしたときだけ。

 今回のお式のように、最初から最後まで関われて、楽しかった。
 また凌雲館でのようなお式ができたらいいけれど、難しいだろうともわかっている。
 やっぱりお金がかかるから。

 今回はエインズワース家が惜しみなく出してくれたから、料理の素材は良い物を揃えられたし、三段ものケーキを作れた。フェザーシャワーの羽にも、かなりのお金がかかっている。平民にはとてもできない結婚式だった。
 だからといって、お金をかけることがいい結婚式になるわけではない。
 お金はすべてではない。できることは多いけれど、お金をかけずとも心のこもった結婚式はできる。
 セシルのお式も、スコットさんとアビーさんのお式も、素朴だったけれど、感謝と愛のこもった温かい結婚式だった。

 式を挙げなくても、良好な結婚生活を送っている人たちだってたくさんいる。
 式を挙げても、ダメになる夫婦もいる。
 結婚式は結婚生活に絶対必要なものではない。

 だけど、私はやっぱり結婚式が好き。
 人を幸せな気持ちにさせてくれる、純粋に幸せを願える結婚式が大好き。

 私は目の前にふわふわと浮いてきた羽を掴む。天使からの加護が、私も得られるといいなと、羽のように心を浮き立たせながら。


 次回⇒40.遠乗りのお誘い
 
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