サレ妻の一念発起〜嘘つき旦那と離縁して、私は会社を興します。お陰でステキなご縁に恵まれました〜

衿乃 光希

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40.遠乗り

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 一週間後、フランツ様から予定を尋ねるお手紙が届いた。
 フランツ様もお忙しいようで、連絡が遅くなってすまないと謝罪の言葉から綴られていた。
 メアリーさんに待ってもらい、すぐに返事を書き、フランツ様に届けていただいた。

 レオの結婚式後、興味を持ってくれる商店の何件かから連絡をもらった。
 花屋や土産物を取り扱う商店からの連携を相談されたのと、結婚を控えているご家庭からの相談と。
 そのため、あちこちに出向くことが増えて、私も忙しくしている。
 とはいえ休日は設けているので、フランツ様と日が合えばいいのだけれど。返事を待つ日々をそわそわして待っていた。

 ほどなくして返事が届き、食事会の日程が決まった。凌雲館に迎えに来て下さるとのことだった。当日の服装が指定されていて、動きやすい物をと聞かされていた。
 今日は滅多に着ないパンツスタイルを選んだ。

 でも、これは聞いていなかった。
「あの、フランツ様。私、馬は乗り慣れていなくて、ですね」
 私は大きな馬を前にして、戸惑う。

 凌雲館から迎えの馬車に乗り、貴族街に入ってから大きなお屋敷で馬車を乗り換えた。少ししてフランツ様がいらっしゃり、出発した。
 街中を走った馬車は王都の北門を出た。しばらく畑の中を進んで、丘が見えたところで馬車が止まった。
 馬車から荷物が下されて、馬への乗り換えが告げられたところ。

 馬は初めてではないけれど、ずいぶん久しぶりだった。学校に通っていた頃、体育の授業で何度か乗馬の授業があった。もともとあまり得意ではなかったため、卒業後に馬に触れることはなかった。

「苦手ですか?」
「はい。少し」
「ではこちらにお乗りください。こう見えて、乗馬は得意なのですよ」

 フランツ様から同じ馬にと誘われて、私は慌てる。男性と二人なんて、それはちょっと。したことないし、緊張する。しかも相手は貴族だし。

「フランツ様、私は、皆さんと一緒に歩きますので、どうぞ私に構わず行ってくださいませ」
 急な斜面を、荷物を持って上がっていくお付きの方々。私が彼らについて行こうとすると、
「それならわたしも歩きましょう」
 フランツ様が馬を置いて、歩き出そうする。

「いいえ。いいえ。それはいけません」
 内心どうしようかと、慌ててしまう。
 私に付き合わせるのは申し訳ない。

「リアーナ嬢、気になさらず同乗なさってください」
 フランツ様ににこにこと微笑みかけられて、頑固に拒否をするのも気が引けて、結局私はフランツ様の馬に乗せていただくことになった。

 んしょっと馬の体に直接乗り、後ろにフランツ様が騎乗する。
「行きますよ」
 とても近い距離から声をかけられて、体に力が入ってしまう。そしてフランツ様の体温も感じる。

「緊張しなくて大丈夫ですよ」
 フランツ様の吐息が耳にかかる。緊張しないでいられるわけがない。逆にフランツ様は、平気なのかしら。
 年が離れているし、私なんてきっと子供のような存在よね。だから気にかけてくださるのかな。と考えるとなんだか寂しくなって、少しだけ気分が沈んだ。

「リアーナ嬢」
 頭が下がっていたのか、フランツ様に呼ばれて私は顔を上げた。どういう理由で私を気にかけてくださるのわからないけれど、とてもありがたいことだし、今はこの状況を楽しもう。

「前方の景色に注目にしてください」
「はい」

 斜面がなだらかになり、平坦になった。
 その先の景色に、私は感嘆の声を上げた。

 すり鉢状の大きなへこみがあり、斜面は緑と赤と黄色に彩られている。
 底は湖になっていて、青々とした湖面に、紅葉が写り込んでいた。

「なかなかの絶景でしょう」
 声が出ない私に、フランツ様は馬を止めて、得意そうに言った。
「毎年この時期は、ここでピクニックをするんです。仕事の疲れを癒して、英気を養っています」

 今日の食事会は、絶景を見ながらなんだ。こんな場所が王都のすぐ近くにあるなんて、知らなかった。

「ここは、誰でも来られる場所ですか?」
「王都の領地内ですから、誰でも来られますよ」
「とても素敵な場所です」
 ずっと見ていても飽きがこない。何も変化がないのに。ずっと見ていられる。

「気に入っていただけようですね。お連れして良かったです」
「はい。とても気に入りました。ありがとうございます」

 フランツ様が馬を進める。私は目も心も奪われて、馬への苦手意識も、男性が近くにいることの緊張も忘れて、ひたすら景色に魅入っていた。


 次回⇒41.心の扉

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