【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希

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第二部 帰郷

8話 エイドルフの言葉

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「エイドルフ、本当にありがとう。あなたがいてくれたから、この屋敷が守られたわ」
 私が心から感謝の気持ちを伝えると、エイドルフは慈愛のこもった優しい眼差しを向けた。

「もったいないお言葉です。わたくしにとっても、大切な場所ですから」
「そうよね。先祖代々、ずっとここで働いてくれているんだものね」
「私も祖父から厳しく指導されました。私がアランに教えたときより、もっと厳しかったのですよ、当時は」
 エイドルフは懐かしそうに、ふふふと笑う。

「あれより厳しかったのですか……」
 アランが小さく呟いた。厳しかったってことなんだろうな。

「リュカ様は、伸び伸びと育っておられます。隣国の風土なのでしょうか」
 すやすやとソファーで眠るリュカに目をやり、エイドルフが言う。寂しそうな空気を感じるのだけど。やっぱり途絶えてしまうのが寂しいのかしら。私がアランを連れて国を出てしまったから。

 アランにもきょうだいはいない。筆頭執事の座は、別の者が引き継ぐことになる。
 16歳で国を出てしまった私の行動は、短絡的だったのかもしれないと、思ってしまう。私ひとりの問題ではなくなってしまうことまで、考えが及んでいなかった。
 後悔はしていないけれど、アランを巻き込んだことは詫びないといけないと思っていると、先にアランがお詫びの言葉を口にした。

「お祖父様の期待を裏切ったこと、深くお詫びします。けれど、わたしは自分を優先したことを後悔しておりません」
 私からも言葉を重ねようしたけれど、エイドルフが先に口を開いた。

「責めてはいない。アランがしたことは、たしかに私情を優先した結果だが、それはシェリーヌ様を守るためでもある。わしはさんざん言ってきたな。何があってもシェリーヌ様を最優先し、お守りしろと。シェリーヌ様をおひとりで国外に出し、アランだけがのこのこと戻ってきていたら、追い出していたわ」

 エイドルフなら本当にやっていただろう。この馬鹿者が! なんて叱りつけて。
 私を叱る代わりに、アランを叱りつける姿をたくさん見てきたもの。
 そのあとで、エイドルフから報告を受けた両親に、私も叱られたんだけど。

「お祖父様、執事として、側近として厳しく教育してくださったこと、今は感謝しています。お世話になりました」
「やめなさい。わしが老い先短いみたいじゃないか。わしはまだまだ生きるぞ。リュカ様の成長が楽しみだからな」

 厳しくも、溢れんばかりの愛情を向けてくれるエイドルフは、私にとっても祖父のような存在。そんな人の血を受け継いだ子を産めたことを、私は誇りに思う。
 この国にいては確実になかった。

 私はジュスト様と結婚して、公爵領で愛のない結婚生活を送り、アランはここで私の知らない身分の合う人と結婚し、後に執事となる子供をもうけていただろう。
 考えただけで、胸が張り裂けそうになる。私の生活に、アランがいないなんて。
 そんな未来でなくて、良かった。本当に。

「シェリーヌ様」
 呼ばれて、私はエイドルフを見る。
「身分のしがらみから逃れたあなたとアランは、守ってくれる人がいない代わりに、自由を手に入れました。これからは二人がリュカ様を守っていくのです。頼れる者がいないのは、ときに心細くもなるでしょうが、二人でしっかりと手を握り合い、支え合って、生きてください。そしてどうか、幸せになってください。孫をよろしくお願いいたします」
 エイドルフが頭を下げる。

 今まで何度もエイドルフに頭を下げられてきたけれど、今までより重みが違っていた。ボーヴォワールのお嬢様にではなく、ひとりの人間として、アランの祖父としてお願いされた。
 私はその重みをしっかりと受け取り、噛み締めて、アランと手を繋いだ。

「はい。お祖父様、私はアランを幸せにすると誓います。リュカにも、ひとりでちゃんと生きていく強さを教えます。また遊びに帰ってきますから、そのときはリュカの相手をしてやってください」
「はい。承知いたしました」

 元貴族と元側近が結婚し、元筆頭執事の血を受け継ぐ子を産んだ。
 この国に住む人には理解できないだろうけど、私たちは自然と受け入れられた。
 お父様とお母様は、なんて言うかしら。
 叱られてしまっても、もうすんでしまったことだから、構わないわよね。

「明日、墓前に報告に行くわ。長い間顔を見せなかったから、叱られてしまうわね」
「わたくしも、ご一緒してもよろしいでしょうか」
 エイドルフに私は頷く。

「もちろんよ」
「わたくしも一緒に叱られましょう」
「わたしもです」
 アランとエイドルフが一緒に叱られてくれるなら、心強いわ。

「だれかわるいことしたの?」
 リュカが目を覚ました。どこから聞いていたのか、悪いことをしたから叱られるのだと思っている。

「誰も悪いことしてないよ。明日は、リュカのお祖父様とお祖母様に会いに行くからね。生きてない人だけど」
 私が生きていない人と言ったからか、リュカが首を傾けた。

「お墓に挨拶に行くんだよ。なんて言うんだっけ?」
「こんにちは。僕はリュカ・ボーヴォワールです」
「よくできました」

 頭をなでなでしてやると、リュカがしがみついてきた。寝起きだから、体が熱い。
 顔の汗を拭いてやり、着替えもさせることにした。
 リュカの着替えの間に、二人の執事は荷ほどきをして、収納してくれた。
 てきぱきしていて、さすがと自慢したくなるほど、優秀な旦那様と祖父だった。


 次回⇒9話 参墓
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