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第二章 宮藤喜左衛門
第015話 出会い
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蒔田喜左衛門が初めて鬼無里の里を訪れたのは、まだ十七の頃である。
代官として現地に赴く父に、随伴してのことだった。
親子は徒歩にて松代を出立し、途中番屋にて馬を借り、村内の巡視は騎馬で行った。
元服して間もない喜左衛門にとっては、馬上から眺める鬼無里の景色は、一際新鮮に輝いて見えたに違いない。
一通りの巡視が終われば、親子共々割元の宮藤家にて饗応を受ける。
若い喜左衛門すら下にも置かぬ歓待ぶりで、贅を尽くした本膳料理が、次から次へと運ばれてくる。
その配膳をする女の中に、一際目を引く美しい少女がいた。
少女が甲斐甲斐しく喜左衛門へ膳を運ぶたびに、宮藤家当代当主である武兵衛は、満足そうな笑みを浮かべている。
喜内がその働きぶりを誉めると、
「これはわしの娘でしてな。あやめといいましてまだ十四ですが、なかなか気の付くほうで。ヨネだけでは人手が足りんので手伝わしておるのです」
と、武兵衛は機嫌よく笑うのだった。
鬼無里の様な農村では、代官が寄宿するとなれば割元の娘といえども女中のような下働きをするのが当たり前だった。
あやめもそれを分かっているから、額に汗を光らせながら、いやな顔をひとつせずにせっせと働いていた。
一方でその召し物はよそ行きで、水浅葱の縮緬に、幅広の帯を吉弥結びに締めて、髪には朱塗りの簪を差している。
化粧もしない素顔のままなのに、肌の色は抜けるほど白く、形の良い眉と長い睫毛が印象的な、凡そ田舎に似つかわしくない可憐な容姿をしている。
武兵衛は、自慢の娘を披露したくて、敢えて手伝わせたに違いなかった。
そんな武兵衛の心中などは露知らず、喜左衛門には、一心に働くあやめの姿だけが、ずっと頭に残っていた。
蒔田喜左衛門が初めて鬼無里の里を訪れたのは、まだ十七の頃である。
代官として現地に赴く父に、随伴してのことだった。
親子は徒歩にて松代を出立し、途中番屋にて馬を借り、村内の巡視は騎馬で行った。
元服して間もない喜左衛門にとっては、馬上から眺める鬼無里の景色は、一際新鮮に輝いて見えたに違いない。
一通りの巡視が終われば、親子共々割元の宮藤家にて饗応を受ける。
若い喜左衛門すら下にも置かぬ歓待ぶりで、贅を尽くした本膳料理が、次から次へと運ばれてくる。
その配膳をする女の中に、一際目を引く美しい少女がいた。
少女が甲斐甲斐しく喜左衛門へ膳を運ぶたびに、宮藤家当代当主である武兵衛は、満足そうな笑みを浮かべている。
喜内がその働きぶりを誉めると、
「これはわしの娘でしてな。あやめといいましてまだ十四ですが、なかなか気の付くほうで。ヨネだけでは人手が足りんので手伝わしておるのです」
と、武兵衛は機嫌よく笑うのだった。
鬼無里の様な農村では、代官が寄宿するとなれば割元の娘といえども女中のような下働きをするのが当たり前だった。
あやめもそれを分かっているから、額に汗を光らせながら、いやな顔をひとつせずにせっせと働いていた。
一方でその召し物はよそ行きで、水浅葱の縮緬に、幅広の帯を吉弥結びに締めて、髪には朱塗りの簪を差している。
化粧もしない素顔のままなのに、肌の色は抜けるほど白く、形の良い眉と長い睫毛が印象的な、凡そ田舎に似つかわしくない可憐な容姿をしている。
武兵衛は、自慢の娘を披露したくて、敢えて手伝わせたに違いなかった。
そんな武兵衛の心中などは露知らず、喜左衛門には、一心に働くあやめの姿だけが、ずっと頭に残っていた。
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