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第二章 宮藤喜左衛門
第023話 狼藉者
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「さてと、これからどうするかな」
小助は冷静に呟いてから、鉈の血を自らの着物で拭うと、和市の死体から着物と草鞋を剥ぎ取って、自らのものと取り換えた。
人目につかぬよう慎重に山を降り、村の入口まで来たところで、小助は迷った。
妻子に未練があるというのは真っ赤な嘘だが、金を隠してあるというのは本当である。
松代へ戻ればある程度のまとまった金が手に入る手筈となっている。
このまま山を越えて越後のほうへと姿をくらませば安全だが、無一文では、一生日陰者として暮らさざるを得ない。
さすればまずは松代へと戻って、資金を手にするのが得策と考えた。
鬼無里の里を見渡すと、チラホラと野良仕事をする村人が見えるだけで、通りには特に人はいない。
小助は手拭いで頬かむりをして顔を隠すと、鉈を帯に差して、堂々と里へと這入った。
顔は動かさずに正面を見据え、眼だけは小刻みに動かして四辺を伺う。
何食わぬ顔で歩みを進め、松厳寺の辻までやって来た辺りで、
「あら和市さんじゃない?こんなところで何してるの?」
背後から声がかかった。
小助はピタリと歩みを止めた。
「今月は番小屋の月番でしょう?お父様が和市さんのこと案じていたよ」
声の主は、鬼無里割元宮藤武兵衛の娘、あやめである。
ただ今の小助には誰であろうと都合が悪い。
後ろ手に鉈の柄を握りしめながら、ゆっくりと振り返った。
「あっ!和市さんじゃない…。お前様、なにもんだ?」
小助は応えなかった。
背中から取り出した鉈が、陽の光に照らされて妖しく光った。
小助は冷静に呟いてから、鉈の血を自らの着物で拭うと、和市の死体から着物と草鞋を剥ぎ取って、自らのものと取り換えた。
人目につかぬよう慎重に山を降り、村の入口まで来たところで、小助は迷った。
妻子に未練があるというのは真っ赤な嘘だが、金を隠してあるというのは本当である。
松代へ戻ればある程度のまとまった金が手に入る手筈となっている。
このまま山を越えて越後のほうへと姿をくらませば安全だが、無一文では、一生日陰者として暮らさざるを得ない。
さすればまずは松代へと戻って、資金を手にするのが得策と考えた。
鬼無里の里を見渡すと、チラホラと野良仕事をする村人が見えるだけで、通りには特に人はいない。
小助は手拭いで頬かむりをして顔を隠すと、鉈を帯に差して、堂々と里へと這入った。
顔は動かさずに正面を見据え、眼だけは小刻みに動かして四辺を伺う。
何食わぬ顔で歩みを進め、松厳寺の辻までやって来た辺りで、
「あら和市さんじゃない?こんなところで何してるの?」
背後から声がかかった。
小助はピタリと歩みを止めた。
「今月は番小屋の月番でしょう?お父様が和市さんのこと案じていたよ」
声の主は、鬼無里割元宮藤武兵衛の娘、あやめである。
ただ今の小助には誰であろうと都合が悪い。
後ろ手に鉈の柄を握りしめながら、ゆっくりと振り返った。
「あっ!和市さんじゃない…。お前様、なにもんだ?」
小助は応えなかった。
背中から取り出した鉈が、陽の光に照らされて妖しく光った。
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