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第3話 鬱屈
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こんなことを繰り返してはや1週間。最初は戸惑っていたディラスも、最近は戸惑いを見せることなく自然な笑顔で対応してくれるようになった。
やっと1歩進んだわね……と思っていると、花祭りが目前に控えているのを思い出した。
――花祭りというのは、普段なかなか言えない思いを花に託し、想い人なり友人なりに渡すという祭りだ。多くの女性は、この祭りで告白をするのだ。
ということで、わたしはアイリスとディラスとともに、街へ花を買いに行くことになった。
わたしたちは花を何輪か買い、城に戻った。――そのうち1輪は、ディラスに渡すための胡蝶蘭……花言葉は「あなたを愛しています」だ。これを買う時、花屋の店主に「頑張ってください、姫様」と言われた時には、いたたまれなさからその場を走って離れたくなった。
花祭り当日。
わたしは他の人――料理長や薬師、神官長といった人たちのことだ――にはカンパニュラを、そしてディラスには胡蝶蘭を渡した。
ディラス以外からは、「こちらこそ、いつもありがとうございます」と笑顔とともにお菓子やら茶葉やら、はたまたチューリップ……博愛だとか、思いやりといった意味がある……を貰った。
そして本命のディラスからは――マーガレットを貰った。花言葉は、心に秘めた愛。
これは、舞い上がってもいいのだろうか。少なからずわたしのことが嫌いではなく――いやむしろ好きなのだと、思っていいのだろうか。
「マーガレットね。花言葉は知っているのかしら」
「い、いえ。花屋に勧められたからそれにしたんです」
「……そう。ありがとう。いい香りね」
ディラスは特に深い意味があってマーガレットをくれたわけではないみたいだ。
……少しだけ、胸が苦しかった。だが、それをディラスに見せてはいけない。わたしは笑ってディラスに感謝の言葉を述べた。
そしてわたしがディラスに胡蝶蘭を渡すと、「へぇ、綺麗な花ですね。ありがとうございます」と微笑まれた。――多分彼は、花に込めたわたしの想いにまだ気づいていない。
「それ」
「はい?」
「その花、胡蝶蘭っていうのよ」
「そうなんですか。鈴蘭とよく似ていますね」
「えぇ、胡蝶蘭の方が花のひとつひとつが大きいのよ。他にも色々違いはあるみたいだけれど……、これの花言葉は知ってるかしら?」
「あー……いえ、花言葉には疎くて。申し訳ございません」
「そう。ならいいわ」
ディラスは2度も花言葉の意味を尋ねられ、狼狽していた。そりゃそうなるわよね、1度目で知らないって言ったのに2度目も同じようなこと聞かれたら。
「じゃあ知らなくていいわ。ただ、わたしの想いはそこに込めてある、ということだけ覚えておいてちょうだい」
「……っ、かしこまりました」
ディラスは少し赤くなった顔を隠すように、深く礼をした。……ん?顔が赤い?
「であ、あなた少し顔が赤いわよ。風邪?あぁ、それとも花粉症かしら」
「いっ、いえ!なんでもありません!」
「そう?体調が悪いなら無理せず休んでちょうだいね」
「いえ、それには及びません。しかし……オレごときにも配慮していただき、ありがとうございます」
「だって、あなたはわたしの騎士だもの。気にするわよ」
「……ありがとう、ございます」
花祭りは、そんなこんなで終わった。……少しでもわたしの気持ちに気づいてくれたら、いいな。そんなことを思いながら、わたしは眠りに落ちた。
◇◆◇
事件は、花祭りの次の日に起きた。
「ねぇディラス」
「いかがいたしましたか、姫様」
「あなた、前より遠くないかしら?」
――そう。ディラスがやけにわたしと距離をとっているのだ。
「この距離でも護衛に差し支えはございませんので、ご安心ください」
言葉のひとつひとつにも、距離があるように感じた。わたしの考えすぎだろうか。
「それは心配していないのだけれど……いいえ、やっぱりなんでもないわ。気にしないでちょうだい」
わたしは笑ってそう言った。
――わたし、ディラスに嫌われるようなことをしたのかしら。
もしかして、昨日のマーガレットの意味を調べて引いたのかしら。それもありえるわ。
あぁそれとも、花言葉を知ってるか何度も尋ねたからうんざりしたのかしら。
どちらにしてもありえることだ。
「……姫様、オレ……っ、」
「えぇ、なにかしら?」
「…………いや、やっぱりなんでもないです。すみません」
なにを言いかけたのかしら、ディラスは。
だがそれを聞くと、ディラスに今よりもっと嫌われてしまうかもしれない。
モヤモヤを抱えたまま、わたしはその日を過ごした。
やっと1歩進んだわね……と思っていると、花祭りが目前に控えているのを思い出した。
――花祭りというのは、普段なかなか言えない思いを花に託し、想い人なり友人なりに渡すという祭りだ。多くの女性は、この祭りで告白をするのだ。
ということで、わたしはアイリスとディラスとともに、街へ花を買いに行くことになった。
わたしたちは花を何輪か買い、城に戻った。――そのうち1輪は、ディラスに渡すための胡蝶蘭……花言葉は「あなたを愛しています」だ。これを買う時、花屋の店主に「頑張ってください、姫様」と言われた時には、いたたまれなさからその場を走って離れたくなった。
花祭り当日。
わたしは他の人――料理長や薬師、神官長といった人たちのことだ――にはカンパニュラを、そしてディラスには胡蝶蘭を渡した。
ディラス以外からは、「こちらこそ、いつもありがとうございます」と笑顔とともにお菓子やら茶葉やら、はたまたチューリップ……博愛だとか、思いやりといった意味がある……を貰った。
そして本命のディラスからは――マーガレットを貰った。花言葉は、心に秘めた愛。
これは、舞い上がってもいいのだろうか。少なからずわたしのことが嫌いではなく――いやむしろ好きなのだと、思っていいのだろうか。
「マーガレットね。花言葉は知っているのかしら」
「い、いえ。花屋に勧められたからそれにしたんです」
「……そう。ありがとう。いい香りね」
ディラスは特に深い意味があってマーガレットをくれたわけではないみたいだ。
……少しだけ、胸が苦しかった。だが、それをディラスに見せてはいけない。わたしは笑ってディラスに感謝の言葉を述べた。
そしてわたしがディラスに胡蝶蘭を渡すと、「へぇ、綺麗な花ですね。ありがとうございます」と微笑まれた。――多分彼は、花に込めたわたしの想いにまだ気づいていない。
「それ」
「はい?」
「その花、胡蝶蘭っていうのよ」
「そうなんですか。鈴蘭とよく似ていますね」
「えぇ、胡蝶蘭の方が花のひとつひとつが大きいのよ。他にも色々違いはあるみたいだけれど……、これの花言葉は知ってるかしら?」
「あー……いえ、花言葉には疎くて。申し訳ございません」
「そう。ならいいわ」
ディラスは2度も花言葉の意味を尋ねられ、狼狽していた。そりゃそうなるわよね、1度目で知らないって言ったのに2度目も同じようなこと聞かれたら。
「じゃあ知らなくていいわ。ただ、わたしの想いはそこに込めてある、ということだけ覚えておいてちょうだい」
「……っ、かしこまりました」
ディラスは少し赤くなった顔を隠すように、深く礼をした。……ん?顔が赤い?
「であ、あなた少し顔が赤いわよ。風邪?あぁ、それとも花粉症かしら」
「いっ、いえ!なんでもありません!」
「そう?体調が悪いなら無理せず休んでちょうだいね」
「いえ、それには及びません。しかし……オレごときにも配慮していただき、ありがとうございます」
「だって、あなたはわたしの騎士だもの。気にするわよ」
「……ありがとう、ございます」
花祭りは、そんなこんなで終わった。……少しでもわたしの気持ちに気づいてくれたら、いいな。そんなことを思いながら、わたしは眠りに落ちた。
◇◆◇
事件は、花祭りの次の日に起きた。
「ねぇディラス」
「いかがいたしましたか、姫様」
「あなた、前より遠くないかしら?」
――そう。ディラスがやけにわたしと距離をとっているのだ。
「この距離でも護衛に差し支えはございませんので、ご安心ください」
言葉のひとつひとつにも、距離があるように感じた。わたしの考えすぎだろうか。
「それは心配していないのだけれど……いいえ、やっぱりなんでもないわ。気にしないでちょうだい」
わたしは笑ってそう言った。
――わたし、ディラスに嫌われるようなことをしたのかしら。
もしかして、昨日のマーガレットの意味を調べて引いたのかしら。それもありえるわ。
あぁそれとも、花言葉を知ってるか何度も尋ねたからうんざりしたのかしら。
どちらにしてもありえることだ。
「……姫様、オレ……っ、」
「えぇ、なにかしら?」
「…………いや、やっぱりなんでもないです。すみません」
なにを言いかけたのかしら、ディラスは。
だがそれを聞くと、ディラスに今よりもっと嫌われてしまうかもしれない。
モヤモヤを抱えたまま、わたしはその日を過ごした。
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