4 / 10
第4話 衝突
しおりを挟む
次の日の朝。
昨日抱えたモヤモヤが胸にこびりつき、色々考えてしまい――もしかして、ディラスが言いかけたのは、わたしの騎士をやめたいだとか、そんな話かもしれない。そんなようなことを考えていた――結果、気づいたら空が白んでいた。
「姫様ー!おはようございます!」
そう言ってわたしを起こしに来たアイリスは、すでに椅子に座っているわたしの顔を見るなりギョッとした。
「姫様、いかがなさいましたか!?昨夜はあまり眠れなかったのですか……?」
「まぁそんなところね。考え事をしてたらいつの間にか朝だったのよ」
「姫様を悩ませる狼藉者はどこの誰ですか……!姫様、教えてください!サクッと殺ってきますよ!」
アイリスはそう言うが、目は本気だった。多分。
「アイリスが言うと冗談に聞こえないのだけれど……大丈夫よ、日常生活に差し障りはないわ」
「いえ、それでもです!何故姫様はそこまで思い悩んでいらっしゃるのですか?」
「……わたしの気持ちの整理がついたら、アイリスにも話すわ。それじゃダメかしら?」
「えぇ、姫様がそう仰るのでしたら、わたくしはどれだけでも待ちます」
「……ありがとう」
わたしがどれだけアイリスの言葉に救われているか、きっとアイリスは知らない。
「……あ、そうだ。姫様、国王陛下がお呼びでしたよ。今日の昼食は国王陛下の部屋でとるようにと」
「そう、分かったわ」
「……大丈夫ですか?」
わたしがあまりに酷い顔をしているからだろう。アイリスは心底心配そうにわたしの顔を見た。
「平気よ。……さ、準備をしましょう」
「はい!」
わたしはアイリスの選んだ淡い桃色のドレスを着て、ドレッサーの前に座った。
「……顔、酷いわね」
「そんな寝不足感漂うお顔ですのに、何故滲み出る眩しさはいつもと変わりませんの……!」
「つまり?」
「大丈夫です。化粧をすればどうとでもなります」
とアイリスは言い――本当にどうにかなった。というか、いつもと全く同じように見える。
「アイリス……あなたすごいわね。本当になんでもできるのね」
「ありがとうございます……!もうわたくし、多幸死してしまうかもしれませんわ……!」
「……?」
「いえ、こちらの話です。……今日は昼から国王陛下との昼食がありますが、午前中と夕方頃からは何もありません。どうぞごゆっくりとお過ごしください」
「ありがとう。なら……図書館にでも行こうかしら」
「かしこまりました。ディラスにはそう伝えておきますね」
ディラス、と聞いてわたしの体はこわばった。
「……姫様?」
「なんでもないわ。……さ、行きましょう。わたし、今日はあなたといたいわ。ダメ、かしら」
もちろんアイリスと一緒にいたい気持ちは大いにあるが、そこにほんの少しだけ、ディラスと顔を合わせたくないという気持ちもあった。
「もっ、もちろんいいです!……よっしゃぁぁぁぁ!姫様とデートだぁぁぁぁぁぁっ!」
アイリスは握った両手を天に掲げ、心底嬉しそうに叫んだ。
「もう、アイリスってば」
わたしは笑いながら、ドアノブに手をかけて扉を開いた。
そこには、いつものようにディラスがいた。
「おはようござ……」
ディラスは、何故か挨拶を途中で止めた。……止まったと言った方が適切かもしれない。
「……姫様」
「なにかしら」
「そのお顔、いかがなさいましたか」
――息が止まるかと思った。
アイリスが上手くやってくれたおかげで、寝不足で酷いことになっている顔は隠せているはずなのに。
なんで、ディラスは気づくの。
「……なんでもないわ」
「なんでもなくないでしょう」
「気にしないでちょうだい」
「気にします」
「ほっといて」
「それはできかねます」
一歩も引く気配のないディラスに、わたしは困惑した。
いつもの彼なら、わたしが聞かれたくなさそうなことは絶対に聞かないのに。
なんでそうまでして聞き出そうとするの。
なんで、今日は引き下がってくれないの。
「……仕事に支障は出さないわ」
「そんなこと気にしていません」
「明日からちゃんとするわ」
「昨日なにがあったんですか」
「なにもないわ。ただ、眠れなかっただけ」
「オレはちゃんとした理由が聞きたいんです」
「だからそんなものないって!」
「ないなら何故っ、そんな……泣きそうな顔でオレを見るんですか……!」
苦しげにディラスは言い放った。
……今日はもうこれ以上、ディラスと話してはいけない。ボロが出そうだ。
「……アイリス」
「あっ、わたくしのことをお忘れになったわけではなかったのですね」
「行くわよ」
「はい」
「姫様!」
「あと後ろの騎士を黙らせておいてちょうだい」
「……よろしいのですか?」
「えぇ」
「かしこまりました」
「姫様、オレはよくないです!話を…………」
急にディラスの言葉が切れた。アイリスが黙らせてくれたのだろう。
「ありがとう、アイリス」
「……どうしたんです?姫様がそんなこと頼むだなんて。よっぽどのことがない限り実力行使はしないでしょうに」
「……ちょっとね」
わたしは笑って誤魔化した。
昨日抱えたモヤモヤが胸にこびりつき、色々考えてしまい――もしかして、ディラスが言いかけたのは、わたしの騎士をやめたいだとか、そんな話かもしれない。そんなようなことを考えていた――結果、気づいたら空が白んでいた。
「姫様ー!おはようございます!」
そう言ってわたしを起こしに来たアイリスは、すでに椅子に座っているわたしの顔を見るなりギョッとした。
「姫様、いかがなさいましたか!?昨夜はあまり眠れなかったのですか……?」
「まぁそんなところね。考え事をしてたらいつの間にか朝だったのよ」
「姫様を悩ませる狼藉者はどこの誰ですか……!姫様、教えてください!サクッと殺ってきますよ!」
アイリスはそう言うが、目は本気だった。多分。
「アイリスが言うと冗談に聞こえないのだけれど……大丈夫よ、日常生活に差し障りはないわ」
「いえ、それでもです!何故姫様はそこまで思い悩んでいらっしゃるのですか?」
「……わたしの気持ちの整理がついたら、アイリスにも話すわ。それじゃダメかしら?」
「えぇ、姫様がそう仰るのでしたら、わたくしはどれだけでも待ちます」
「……ありがとう」
わたしがどれだけアイリスの言葉に救われているか、きっとアイリスは知らない。
「……あ、そうだ。姫様、国王陛下がお呼びでしたよ。今日の昼食は国王陛下の部屋でとるようにと」
「そう、分かったわ」
「……大丈夫ですか?」
わたしがあまりに酷い顔をしているからだろう。アイリスは心底心配そうにわたしの顔を見た。
「平気よ。……さ、準備をしましょう」
「はい!」
わたしはアイリスの選んだ淡い桃色のドレスを着て、ドレッサーの前に座った。
「……顔、酷いわね」
「そんな寝不足感漂うお顔ですのに、何故滲み出る眩しさはいつもと変わりませんの……!」
「つまり?」
「大丈夫です。化粧をすればどうとでもなります」
とアイリスは言い――本当にどうにかなった。というか、いつもと全く同じように見える。
「アイリス……あなたすごいわね。本当になんでもできるのね」
「ありがとうございます……!もうわたくし、多幸死してしまうかもしれませんわ……!」
「……?」
「いえ、こちらの話です。……今日は昼から国王陛下との昼食がありますが、午前中と夕方頃からは何もありません。どうぞごゆっくりとお過ごしください」
「ありがとう。なら……図書館にでも行こうかしら」
「かしこまりました。ディラスにはそう伝えておきますね」
ディラス、と聞いてわたしの体はこわばった。
「……姫様?」
「なんでもないわ。……さ、行きましょう。わたし、今日はあなたといたいわ。ダメ、かしら」
もちろんアイリスと一緒にいたい気持ちは大いにあるが、そこにほんの少しだけ、ディラスと顔を合わせたくないという気持ちもあった。
「もっ、もちろんいいです!……よっしゃぁぁぁぁ!姫様とデートだぁぁぁぁぁぁっ!」
アイリスは握った両手を天に掲げ、心底嬉しそうに叫んだ。
「もう、アイリスってば」
わたしは笑いながら、ドアノブに手をかけて扉を開いた。
そこには、いつものようにディラスがいた。
「おはようござ……」
ディラスは、何故か挨拶を途中で止めた。……止まったと言った方が適切かもしれない。
「……姫様」
「なにかしら」
「そのお顔、いかがなさいましたか」
――息が止まるかと思った。
アイリスが上手くやってくれたおかげで、寝不足で酷いことになっている顔は隠せているはずなのに。
なんで、ディラスは気づくの。
「……なんでもないわ」
「なんでもなくないでしょう」
「気にしないでちょうだい」
「気にします」
「ほっといて」
「それはできかねます」
一歩も引く気配のないディラスに、わたしは困惑した。
いつもの彼なら、わたしが聞かれたくなさそうなことは絶対に聞かないのに。
なんでそうまでして聞き出そうとするの。
なんで、今日は引き下がってくれないの。
「……仕事に支障は出さないわ」
「そんなこと気にしていません」
「明日からちゃんとするわ」
「昨日なにがあったんですか」
「なにもないわ。ただ、眠れなかっただけ」
「オレはちゃんとした理由が聞きたいんです」
「だからそんなものないって!」
「ないなら何故っ、そんな……泣きそうな顔でオレを見るんですか……!」
苦しげにディラスは言い放った。
……今日はもうこれ以上、ディラスと話してはいけない。ボロが出そうだ。
「……アイリス」
「あっ、わたくしのことをお忘れになったわけではなかったのですね」
「行くわよ」
「はい」
「姫様!」
「あと後ろの騎士を黙らせておいてちょうだい」
「……よろしいのですか?」
「えぇ」
「かしこまりました」
「姫様、オレはよくないです!話を…………」
急にディラスの言葉が切れた。アイリスが黙らせてくれたのだろう。
「ありがとう、アイリス」
「……どうしたんです?姫様がそんなこと頼むだなんて。よっぽどのことがない限り実力行使はしないでしょうに」
「……ちょっとね」
わたしは笑って誤魔化した。
0
あなたにおすすめの小説
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】あなた方が後悔しても私にはどうでもいいことです
風見ゆうみ
恋愛
チャルブッレ辺境伯家の次女である私――リファーラは幼い頃から家族に嫌われ、森の奥で一人で暮らしていた。
私を目の敵にする姉は、私の婚約者や家族と結託して、大勢の前で婚約を破棄を宣言し私を笑いものにしようとした。
しかし、姉たちの考えなどお見通しである。
婚約の破棄は大歓迎。ですが、恥ずかしい思いをするのは、私ではありませんので。
※アナグラムが気になる可能性がありますのでお気をつけくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる