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番外編 バレンタイン
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バレンタイン。それは恋する乙女の最も輝く日である。それはもちろん、乙女ゲーム世界であるここも例に漏れず。
姫様とチョコを作ることになった私は今、厨房にいる。料理長のドドリー、姫様、私――そして何故か、ディラス。
「おい何故貴様も来た」
思わず呟いたその言葉を、ディラスは耳ざとく拾い、「辛辣」と言ってきた。
「だって貴様のことを呼んだつもりはなかったのですから。驚くのも無理ありません」
「それにしたって辛辣すぎて……というか驚いたってより苛立ったって反応だった気がするのは気のせいかな」
「気のせいですね」
なんて話していると、姫様が頬を膨らませて私の方を見てきた。……あっ、そういうことか。
「すみません姫様、ディラスのことを独占したような結果になってしまって。全くもってそんな事実はありませんのでご安心ください」
私が仲良く(はないが傍から見たらそう感じざるを得ない雰囲気で)話しているのを見て私に嫉妬したのだろう。ディラスに対する独占欲のようなものか。……はぁ尊い。私は姫様が大好きだ。
「なっ、ち、違うわ!そんなんじゃないわよ!」
顔を真っ赤にして否定されても説得力ゼロだ。いやむしろ私を、そしてディラスを萌え殺すだけだ。
「申し訳ございませんでした、姫様。わたくしは姫様のことがこの世で……例え違う世界に生まれていたとしても、最も慕っております」
そう言うと姫様はさらに頬を赤らめた。好き。
「そ、そんなことどうでもいいのよ!今はそれよりチョコのことよ!」
「そうですね、姫様。ということで、貴様はここから今すぐ立ち去れ……ください。今からわたくしたちは乙女になりますので」
「意味分かんないけど……つまりオレはどうすればいいのかな」
「……あなたに渡すチョコをあなたに見られたら楽しみが半減するわよね。だから、その……」
「あー、分かりました。アイリスちゃんなら護衛として大丈夫ですよね。じゃオレは失礼します。チョコ楽しみにしてますね」
ディラスは姫様と目を合わせると微笑む。甘く蕩けるような笑顔。姫様はそれを見てパッと頬を赤らめて目を逸らす。……あの、ここに私もいるのですが。ふたりの世界に入られてしまうと困ってしまう。
「……アイリス、わたし頑張るわね」
姫様はグッと拳を握って気合を入れた。……うん、今日も可愛い。
「か、完成したわ……!」
「そうですね、姫様。素晴らしい出来だと思います」
私たちが作ったチョコは2種類。ひとつは生チョコ。口の中で蕩ける口溶けで、某高級チョレートのなんちゃらキッスと対等に戦えるレベルになったと自信を持っている。
そしてもうひとつは、フォンダンショコラ。中にスプーンを入れると、温かいチョコレートが溶けだしてくる。試食してみたが死ぬほど美味しかった。
たくさん量産できるようにと、配布用(義理チョコとも言う)は生チョコ。そして……まぁお分かりだろう。フォンダンショコラは、手間暇をかけた上にたっぷり愛を込めた。要は本命チョコだ。
私は完成したそれらをバスケットに入れる。
「姫様はディラスに渡してくるのでしょう?このチョコたちは、わたくしが責任を持って配って参ります。ですので姫様は安心して行ってあげてください。きっと今か今かと待ちわびていると思いますよ」
「……あ、ありがとう。助かるわ。あなたも皆に配り終わったら本命の相手にフォンダンショコラをちゃんと渡すのよ」
「…………行ってらっしゃいませ、姫様」
敢えて何も言わず、私は姫様を送り出した。
だって私は、まだ弱いから。彼への気持ちは自覚している。けど、その想いをチョコに込めて直接渡すのは恥ずかしい。それより何より、なにかの間違いで幸せになってしまうことが怖い。
姫様が幸せになるためには私の不幸が必須だ。
「……ま、いっか」
みんなと同じものです、って言って渡せばいいだけだし。
良い抜け道を見つけた私は、意気揚々と厨房を飛び出す――――前に、厨房の扉のすぐそこでこちらをチラチラと覗き込んでくる料理人たちに「あげる」と生チョコを手渡す。すると彼らは皆一様にガッツポーズを天に捧げた。
いくら姫様の手作りとはいえ喜びすぎやしないか。そう訝しく思っていると、カルラが口を開いた。
「いやぁ、ここに務めてるとバレンタインにチョコとか貰うことが少なくってさ……それにアイリスちゃんが……」
「なるほど、理解しました」
そもそもの絶対数が少ないので義理でも嬉しいと、つまりそういうことだろう。後半はなんて言っているか分からなかったが、まぁきっとそういうことだろう。
「ではでは皆様ごきげんよう」
「じゃあねアイリスちゃーん!」
「またいつでも毒味に来いよー!」
「ありがとうございますー!楽しみにしてますね!」
……なんて軽口を叩きながら私は厨房を去った。
厨房を出てすぐ、私はクロー厶と会った。
「これあげます。わたくしが少し手伝ったくらいで、ほとんど姫様が作ったんですよ」と言って差し出すと、「……姫様が」と呟き、ほのかに微笑んだ。これは脈アリか……!?と思っていたら、「これを作れるくらいには、体力回復したみたいで良かった」と言った。……なんだよ、主治医としての笑顔だったのか!てっきり三角関係が勃発してディラスと一騎打ちでもするのかと思ったのに……残念。
「ホワイトデー、楽しみにしてて」
うっとりしてしまうような笑みを浮かべ、彼は足早に去っていった。
クロー厶と別れてすぐ、私はドドリーに会った。いつぞやの恐ろしい表情が思い出されてしまって怖いが、まぁ姫様から預かったものを渡すだけだ。渡してそのあとすぐ帰ればいいだけだ。
私は無愛想に「姫様からです」と言っておもむろにチョコを差し出す。するとドドリーは目を見開き、「姫様が!?」と言った。こっちも脈アリか……?なんて思っていたら、まぁ二度あることは三度あるということだ。「あれほど料理ベタだった姫様が……感動したぞぉぉぉ!うおぉぉぉぉん!」と男泣きをした。めちゃくちゃ気まずいわ。
「じ、じゃあまた……」
と言ってそそくさと帰ろうとすると、すぐ後ろから「ホワイトデー楽しみにしててくれ。お前も一緒に作ったんだろう?とびっきり美味しいマカロンを用意しておいてやろう!」
と声が聞こえたので「待ってます!」と大声で返し、私はその場を立ち去った。
この感じ、次に会うのは――やっぱりディラスか。手に持っている小さい箱とディラスの表情が、ここに来るまでに何があったかを物語っている。……なんかそのデレッデレの笑顔ムカつくな。一発ぶん殴っていいかな。
という私の心を知らないディラスは、私と目が合うなり「あれ、アイリスちゃんじゃん。やっほー」と呑気に声をかけてきやがった。ムカついたのでとりあえず腹パンしておいた。勿論手加減はした。
「えっ、ちょっと何!?」
「なんとなくムカついたので。……それ、姫様から頂いたんですよね」
「うん。もうさ、これ渡す時の姫様が可愛くってさぁ……」
惚気け始めてさらにムカついたのでもう一発腹パンした。今度はさっきよりちょっとだけ強めに。
「痛いって!地味に刺さるんだよその拳!」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないし!」
そんな軽口(とディラスの腹)を叩きながらしばらく一緒に歩いていると、ふと前方からとてつもない冷気が。……嫌な予感がする。
それをディラスも察したのか、「じ、じゃ!オレはそろそろ行くね!またね!」と半ば逃げるように去った。
そして私は、恐る恐る前方に目を向ける。案の定、とてもいい笑顔を浮かべた彼――ヴェロールがいた。
「奇遇ですね、アイリスさん。もしかしてお邪魔でしたかね?」
嫌味ったらしく言ってくるので、私は負けじと「そうですね、せっかくの彼との逢瀬の時間でしたのに」と返す。――まぁ案の定というかなんというか、私の周りには絶対零度のブリザードが吹き荒れたのだが。
「それは失礼しました。それで?貴女は一体何をしていたんですか?」
「チョコを配っていたんですよ。今日はバレンタインですからね」
「なるほど。……私めは今年、誰からも頂けていないんですよね」
「あらあら、それはお可哀想。心中お察し致します」
おぉおぉ、ブリザードがさらに吹雪いてきたぞ。怖。さすがに私も怖くなってきたし、そろそろネタばらしといきましょうかね。
「……なんてね。どうぞ、ヴェロール様」
無愛想にズイと差し出す。すると彼は「全く、最初から大人しく出していればいいものを……」と呆れたように、でもどこか嬉しそうに受け取った。
「これは皆と同じものなのでしょうか」
と尋ねられたけど、素直に違うものだと言うのも負けた気がするので「内緒です」と言っておいた。
――当初の予定通り「みんなと同じものです」と答えておけば良かったと思ったのは、全てのチョコを配り終えて自室で一息ついていた時だった。
後日、「フォンダンショコラ、美味しかったですよ。ディラスや他の方々のものより、ね」と意味ありげに微笑まれた。
ディラスたちに聞きに行ったのか、それともディラスたちがヴェロールに言ったのか。いずれにしたって許さない……!と意気込んでいると、私は温もりに包まれた。
耳元で「……他の方々よりもずっと思い出に残るホワイトデーにしてあげます。精々首を洗って待っていてください」と囁かれてしまっては、私の怒りも霧散してしまったのだが。
姫様とチョコを作ることになった私は今、厨房にいる。料理長のドドリー、姫様、私――そして何故か、ディラス。
「おい何故貴様も来た」
思わず呟いたその言葉を、ディラスは耳ざとく拾い、「辛辣」と言ってきた。
「だって貴様のことを呼んだつもりはなかったのですから。驚くのも無理ありません」
「それにしたって辛辣すぎて……というか驚いたってより苛立ったって反応だった気がするのは気のせいかな」
「気のせいですね」
なんて話していると、姫様が頬を膨らませて私の方を見てきた。……あっ、そういうことか。
「すみません姫様、ディラスのことを独占したような結果になってしまって。全くもってそんな事実はありませんのでご安心ください」
私が仲良く(はないが傍から見たらそう感じざるを得ない雰囲気で)話しているのを見て私に嫉妬したのだろう。ディラスに対する独占欲のようなものか。……はぁ尊い。私は姫様が大好きだ。
「なっ、ち、違うわ!そんなんじゃないわよ!」
顔を真っ赤にして否定されても説得力ゼロだ。いやむしろ私を、そしてディラスを萌え殺すだけだ。
「申し訳ございませんでした、姫様。わたくしは姫様のことがこの世で……例え違う世界に生まれていたとしても、最も慕っております」
そう言うと姫様はさらに頬を赤らめた。好き。
「そ、そんなことどうでもいいのよ!今はそれよりチョコのことよ!」
「そうですね、姫様。ということで、貴様はここから今すぐ立ち去れ……ください。今からわたくしたちは乙女になりますので」
「意味分かんないけど……つまりオレはどうすればいいのかな」
「……あなたに渡すチョコをあなたに見られたら楽しみが半減するわよね。だから、その……」
「あー、分かりました。アイリスちゃんなら護衛として大丈夫ですよね。じゃオレは失礼します。チョコ楽しみにしてますね」
ディラスは姫様と目を合わせると微笑む。甘く蕩けるような笑顔。姫様はそれを見てパッと頬を赤らめて目を逸らす。……あの、ここに私もいるのですが。ふたりの世界に入られてしまうと困ってしまう。
「……アイリス、わたし頑張るわね」
姫様はグッと拳を握って気合を入れた。……うん、今日も可愛い。
「か、完成したわ……!」
「そうですね、姫様。素晴らしい出来だと思います」
私たちが作ったチョコは2種類。ひとつは生チョコ。口の中で蕩ける口溶けで、某高級チョレートのなんちゃらキッスと対等に戦えるレベルになったと自信を持っている。
そしてもうひとつは、フォンダンショコラ。中にスプーンを入れると、温かいチョコレートが溶けだしてくる。試食してみたが死ぬほど美味しかった。
たくさん量産できるようにと、配布用(義理チョコとも言う)は生チョコ。そして……まぁお分かりだろう。フォンダンショコラは、手間暇をかけた上にたっぷり愛を込めた。要は本命チョコだ。
私は完成したそれらをバスケットに入れる。
「姫様はディラスに渡してくるのでしょう?このチョコたちは、わたくしが責任を持って配って参ります。ですので姫様は安心して行ってあげてください。きっと今か今かと待ちわびていると思いますよ」
「……あ、ありがとう。助かるわ。あなたも皆に配り終わったら本命の相手にフォンダンショコラをちゃんと渡すのよ」
「…………行ってらっしゃいませ、姫様」
敢えて何も言わず、私は姫様を送り出した。
だって私は、まだ弱いから。彼への気持ちは自覚している。けど、その想いをチョコに込めて直接渡すのは恥ずかしい。それより何より、なにかの間違いで幸せになってしまうことが怖い。
姫様が幸せになるためには私の不幸が必須だ。
「……ま、いっか」
みんなと同じものです、って言って渡せばいいだけだし。
良い抜け道を見つけた私は、意気揚々と厨房を飛び出す――――前に、厨房の扉のすぐそこでこちらをチラチラと覗き込んでくる料理人たちに「あげる」と生チョコを手渡す。すると彼らは皆一様にガッツポーズを天に捧げた。
いくら姫様の手作りとはいえ喜びすぎやしないか。そう訝しく思っていると、カルラが口を開いた。
「いやぁ、ここに務めてるとバレンタインにチョコとか貰うことが少なくってさ……それにアイリスちゃんが……」
「なるほど、理解しました」
そもそもの絶対数が少ないので義理でも嬉しいと、つまりそういうことだろう。後半はなんて言っているか分からなかったが、まぁきっとそういうことだろう。
「ではでは皆様ごきげんよう」
「じゃあねアイリスちゃーん!」
「またいつでも毒味に来いよー!」
「ありがとうございますー!楽しみにしてますね!」
……なんて軽口を叩きながら私は厨房を去った。
厨房を出てすぐ、私はクロー厶と会った。
「これあげます。わたくしが少し手伝ったくらいで、ほとんど姫様が作ったんですよ」と言って差し出すと、「……姫様が」と呟き、ほのかに微笑んだ。これは脈アリか……!?と思っていたら、「これを作れるくらいには、体力回復したみたいで良かった」と言った。……なんだよ、主治医としての笑顔だったのか!てっきり三角関係が勃発してディラスと一騎打ちでもするのかと思ったのに……残念。
「ホワイトデー、楽しみにしてて」
うっとりしてしまうような笑みを浮かべ、彼は足早に去っていった。
クロー厶と別れてすぐ、私はドドリーに会った。いつぞやの恐ろしい表情が思い出されてしまって怖いが、まぁ姫様から預かったものを渡すだけだ。渡してそのあとすぐ帰ればいいだけだ。
私は無愛想に「姫様からです」と言っておもむろにチョコを差し出す。するとドドリーは目を見開き、「姫様が!?」と言った。こっちも脈アリか……?なんて思っていたら、まぁ二度あることは三度あるということだ。「あれほど料理ベタだった姫様が……感動したぞぉぉぉ!うおぉぉぉぉん!」と男泣きをした。めちゃくちゃ気まずいわ。
「じ、じゃあまた……」
と言ってそそくさと帰ろうとすると、すぐ後ろから「ホワイトデー楽しみにしててくれ。お前も一緒に作ったんだろう?とびっきり美味しいマカロンを用意しておいてやろう!」
と声が聞こえたので「待ってます!」と大声で返し、私はその場を立ち去った。
この感じ、次に会うのは――やっぱりディラスか。手に持っている小さい箱とディラスの表情が、ここに来るまでに何があったかを物語っている。……なんかそのデレッデレの笑顔ムカつくな。一発ぶん殴っていいかな。
という私の心を知らないディラスは、私と目が合うなり「あれ、アイリスちゃんじゃん。やっほー」と呑気に声をかけてきやがった。ムカついたのでとりあえず腹パンしておいた。勿論手加減はした。
「えっ、ちょっと何!?」
「なんとなくムカついたので。……それ、姫様から頂いたんですよね」
「うん。もうさ、これ渡す時の姫様が可愛くってさぁ……」
惚気け始めてさらにムカついたのでもう一発腹パンした。今度はさっきよりちょっとだけ強めに。
「痛いって!地味に刺さるんだよその拳!」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないし!」
そんな軽口(とディラスの腹)を叩きながらしばらく一緒に歩いていると、ふと前方からとてつもない冷気が。……嫌な予感がする。
それをディラスも察したのか、「じ、じゃ!オレはそろそろ行くね!またね!」と半ば逃げるように去った。
そして私は、恐る恐る前方に目を向ける。案の定、とてもいい笑顔を浮かべた彼――ヴェロールがいた。
「奇遇ですね、アイリスさん。もしかしてお邪魔でしたかね?」
嫌味ったらしく言ってくるので、私は負けじと「そうですね、せっかくの彼との逢瀬の時間でしたのに」と返す。――まぁ案の定というかなんというか、私の周りには絶対零度のブリザードが吹き荒れたのだが。
「それは失礼しました。それで?貴女は一体何をしていたんですか?」
「チョコを配っていたんですよ。今日はバレンタインですからね」
「なるほど。……私めは今年、誰からも頂けていないんですよね」
「あらあら、それはお可哀想。心中お察し致します」
おぉおぉ、ブリザードがさらに吹雪いてきたぞ。怖。さすがに私も怖くなってきたし、そろそろネタばらしといきましょうかね。
「……なんてね。どうぞ、ヴェロール様」
無愛想にズイと差し出す。すると彼は「全く、最初から大人しく出していればいいものを……」と呆れたように、でもどこか嬉しそうに受け取った。
「これは皆と同じものなのでしょうか」
と尋ねられたけど、素直に違うものだと言うのも負けた気がするので「内緒です」と言っておいた。
――当初の予定通り「みんなと同じものです」と答えておけば良かったと思ったのは、全てのチョコを配り終えて自室で一息ついていた時だった。
後日、「フォンダンショコラ、美味しかったですよ。ディラスや他の方々のものより、ね」と意味ありげに微笑まれた。
ディラスたちに聞きに行ったのか、それともディラスたちがヴェロールに言ったのか。いずれにしたって許さない……!と意気込んでいると、私は温もりに包まれた。
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