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番外編 ホワイトデー
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さてさて、今日は待ちに待ったホワイトデーの日だ。
前世ではホワイトデーはおろか、バレンタインデーという絶好のチャンスを活用することなく(活用しようにもその相手すらいなかった)人生を終えてしまったが、なんとか2回目の人生ではチャンスを有効活用できそうだ。
私はホワイトデーのお返しを貰うべく、バレンタインデーにチョコ(義理)をあげた相手のもとを訪れては「今日って何の日か知ってますか?」とニッコリ笑顔で尋ねるという暴挙に出た。
結果は上々。
「ふんふふ~ん♪」
鼻歌交じりにスキップしながら、私は食べ物やらアクセサリーやらが入ったバスケットを振り回す。
クロールからは「いつもお疲れ様」という言葉とともに、特製茶葉を貰った。
曰く、「薬草の研究してたらたまたま良い味が出た。どんな疲れも一発で取れるけど、3日後くらいに取れた分の疲れが一気に押し寄せてくる。だから、使う時は気をつけて。濃く淹れすぎると、あとから来る疲れがもっと重くなるから」とのこと。……元気の前借りってやつですね。怖い。
ドドリーとカルラ、他の料理人たちからはマカロンの詰め合わせ(軽く20個くらい入ってる気がする)を貰った。
「お返しはマカロンだ!約束してたからな!新しい味を開発したからついでに入れておいたぞ。あぁ、もちろんお前が一番好きなフランボワーズのもたくさん入れてあるから安心してくれ!」とドドリーに言われ、私はもうハッピーだ。……あれ、私この人に嫌われてたんじゃなかったっけ。まぁいいか。
ディラスには、クローバー形の緑色の石がはめ込まれたヘアピンをもらった。
「姫様と街に行った時に見つけちゃったんだ。ほら、アイリスちゃんの瞳の色みたいじゃない?だからちょうどいいかなと思って買っておいたんだよね」と言われた。……いや待てよ。
「……え、姫様と一緒に街に行ったんですか?わたくし、そんなこと聞いておりませんけれど」
「…………あっ」
あからさまに目を逸らしたディラスに、私は腹パンを3発お見舞いしておいた。ざまぁみやがれ!
そしてそして。
「アイリスさん」
私を呼ぶ、大好きな人――ヴェロールの声が。
「随分嬉しそうですね。なにがあったんですか?」
……とても、冷たい。
「き、今日はホワイトデーだったので」
「なるほど。それは良かったですね。私め、生憎と貴女からしか貰っていないんですよ」
「あら、それはお可哀相に。わたくし、たくさんの人にチョコを渡しましたの。ですから、お返しもそれなりの数を貰ったんですよね」
この視線に負けるもんか!と対抗心を燃やして口論していたが、ヴェロールがスっと目を眇すがめた瞬間、今までの比ではないくらいに空気が冷えた。……が、彼はその空気を霧散させた。
「おっと、いけない。こんなことをしている場合ではありません。早く着替えてください」
「…………え?」
「言ったでしょう。他の方々よりもずっと思い出に残るホワイトデーにする、とね」
「……で、でもわたくし、仕事が」
「姫様に許可を頂きました。それではダメですか?」
「……うぐ」
「さ、着替えてください。メイド服のまま街に出かけては目立って仕方がありませんからね。あぁ、私めもこの神官服のままでは目立ちますね。着替えてきましょうか。思い出に残る今日にして差し上げますから、お楽しみに」
今までの恐ろしい形相からこの甘い笑みに切り替わると、ギャップがすごすぎて対応しきれない。私の頭はパンク寸前だ。……ヤバい、顔が良い。惚れる。
「なにをボサっとしているんですか。早くしてください。集合場所は……そうですね、城門前にしましょうか。終わったらそこに来てください。ほら、行った行った」
そう急かされ、私は首を傾げつつも着替えに行った。
と、自室に帰ってくるなり私は気が付いた。
(ホワイトデーに出かけるってことは、もしかしてもしかするとこれってデートなんじゃ……!?)
そう思った途端、服が選びにくくなった。
変に気合いを入れてオシャレ着にするのは何か違うし、かと言って仮にも好きな相手の前に普段着で出るのも、それはそれで違う気がする。
「……あーもう、なんでこんなこと気づいちゃったかなぁ」
部屋でひとり呟き、私は急いで服選びを再開した。
「お待たせしました」
結局私が選んだのは、オシャレ着と普段着の間くらい――どちらかと言えばオシャレ着に近い、膝下までのワンピース。
淡い黄色がベースになっていて、袖口と首元、裾にレースがあしらわれたそれは、いつも通りに高い位置で結い上げた水色の髪によく映えている……と思う。
「いえ、私めもつい今しがた来たところですから。……それにしても、よく似合っていますね、その服。黙っていれば男が何人も寄ってきそうですよ」
「なっ、それって地味に失礼な……」
失礼なんじゃないかと言おうとしたが、彼の姿に目を奪われてしまい、それは叶わなかった。
いつもの神官服――金色の刺繍が入った、足首くらいまで隠れそうな白いワンピースのようなものの上に、黄色っぽい外套がいとうを羽織っている――を脱ぎ、清楚な白シャツと黒いパンツ、深い緑色の上着を身に纏っている。
……死ぬほどイケメン。ヴェロールってこんなにカッコよかったっけ?
「では行きましょうか」
「……あの、」
「はい、なんでしょう」
せっかく彼も着替えてきてくれたんだ。せめて一言くらいは言っておこう。
「あなたこそ、似合ってるんじゃないですか。いつもみたいな堅苦しさがないので、柔らかく微笑んでいればモテますよ」
そう言うと、彼は一瞬だけ驚いたように目を開き、「ありがとうございます」と微笑んだ。……そうそれ!イケメンの微笑み!ご馳走様です!
ともあれ。
私たちは街に出て、まずお昼ご飯を食べに行くことにした。
「何か食べたいものはありますか?」
「いえ、特には。……あ、マカロン様の香りが……」
「あとで行きましょう。食後に」
「チッ」
「……アイリスさん、今舌打ちしましたよね」
「気のせいじゃないですか?」
なんて軽口を叩きながら、辿り着いたのは洋食屋だった。
「おっと、私めとしたことが。いつもの店に来てしまいました。ここでもよろしいですか」
「はい。というか、街のことはわたくしよりも詳しいでしょう」
「それもそうですね。さ、入りましょう」
私は洋食屋でオムライスを食べた。
手を洗いに行っている間に、いつの間にか会計が終わっていた。イケメンは手際が良いらしい。
「お返しその1、ですからね」
その時に彼が見せた、イタズラが成功したときの子供のような無邪気な笑みを、私は一生忘れられそうになかった。
――途中、店主らしき元気なおばさんに「あらアンタ、ついに女の子連れてきたのね!」と茶化されていたが、私たちは声を揃えて「「違います!」」と否定しておいた。
それから私たちは街を練り歩き――もちろんマカロン様が売っていた店には立ち寄り、5個くらい買った――気づけば日が沈みかけていた。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうですね」
私たちは城に向け歩き始め――
「あぁそうだ、アイリスさん。少しこちらに来てもらえますか」
「?はい、いいですけ、ど……ひゃあ!」
――彼の少し冷たい手と、それ以上に冷たいものが私の首に触れた。
「な、ななな…………!」
「動かないでください」
抱きしめるように、私の首の後ろに顔を寄せる彼。息が首に、耳の後ろにかかる。
「ああああの、」
「……できましたよ」
彼は私からすんなり離れ……今まで温もりがあった部分が寂しく、寒く感じてしまう自分がいた。
と、それよりも。
「これ……」
淡い水色の石の欠片が散りばめられた、六角形の星をモチーフにしたネックレスが私の首元で輝いていた。
「貴女らしいデザインだったのでね。お気に召しましたか?」
「……はい。すごく好きなデザインです」
派手すぎず、しかし確かな主張をしているネックレスは、私の好みどストライクのデザインだった。
「ありがとうございます、ヴェロール様」
「いえ、お返しその2ですからお気になさらず」
「……ってことは、その3が?」
「さすがアイリスさん、聡いですね。お返しその3は……」
彼は再び私と距離を縮めると、私の顔に手を滑らせる。顎、頬をスっと撫で、その手は私の唇をなぞり……
「ここはまだ取っておきましょう」
そう言って彼はさらに手を滑らせ、私の目を覆った。そして、額に柔らかな温もりを感じた。――キス、されたのだ。
「……さ、帰りましょう。あまり遅くては、私めが姫様に怒られてしまいますからね」
なんでもなかったように離れ、そう言った彼の顔は、いつもよりも心なしか赤く見えた。
夕日のせいか、それとも――。
私は熱い頬に手を当て、頬の赤さを隠してくれる夕日に感謝しながら城に帰った。
前世ではホワイトデーはおろか、バレンタインデーという絶好のチャンスを活用することなく(活用しようにもその相手すらいなかった)人生を終えてしまったが、なんとか2回目の人生ではチャンスを有効活用できそうだ。
私はホワイトデーのお返しを貰うべく、バレンタインデーにチョコ(義理)をあげた相手のもとを訪れては「今日って何の日か知ってますか?」とニッコリ笑顔で尋ねるという暴挙に出た。
結果は上々。
「ふんふふ~ん♪」
鼻歌交じりにスキップしながら、私は食べ物やらアクセサリーやらが入ったバスケットを振り回す。
クロールからは「いつもお疲れ様」という言葉とともに、特製茶葉を貰った。
曰く、「薬草の研究してたらたまたま良い味が出た。どんな疲れも一発で取れるけど、3日後くらいに取れた分の疲れが一気に押し寄せてくる。だから、使う時は気をつけて。濃く淹れすぎると、あとから来る疲れがもっと重くなるから」とのこと。……元気の前借りってやつですね。怖い。
ドドリーとカルラ、他の料理人たちからはマカロンの詰め合わせ(軽く20個くらい入ってる気がする)を貰った。
「お返しはマカロンだ!約束してたからな!新しい味を開発したからついでに入れておいたぞ。あぁ、もちろんお前が一番好きなフランボワーズのもたくさん入れてあるから安心してくれ!」とドドリーに言われ、私はもうハッピーだ。……あれ、私この人に嫌われてたんじゃなかったっけ。まぁいいか。
ディラスには、クローバー形の緑色の石がはめ込まれたヘアピンをもらった。
「姫様と街に行った時に見つけちゃったんだ。ほら、アイリスちゃんの瞳の色みたいじゃない?だからちょうどいいかなと思って買っておいたんだよね」と言われた。……いや待てよ。
「……え、姫様と一緒に街に行ったんですか?わたくし、そんなこと聞いておりませんけれど」
「…………あっ」
あからさまに目を逸らしたディラスに、私は腹パンを3発お見舞いしておいた。ざまぁみやがれ!
そしてそして。
「アイリスさん」
私を呼ぶ、大好きな人――ヴェロールの声が。
「随分嬉しそうですね。なにがあったんですか?」
……とても、冷たい。
「き、今日はホワイトデーだったので」
「なるほど。それは良かったですね。私め、生憎と貴女からしか貰っていないんですよ」
「あら、それはお可哀相に。わたくし、たくさんの人にチョコを渡しましたの。ですから、お返しもそれなりの数を貰ったんですよね」
この視線に負けるもんか!と対抗心を燃やして口論していたが、ヴェロールがスっと目を眇すがめた瞬間、今までの比ではないくらいに空気が冷えた。……が、彼はその空気を霧散させた。
「おっと、いけない。こんなことをしている場合ではありません。早く着替えてください」
「…………え?」
「言ったでしょう。他の方々よりもずっと思い出に残るホワイトデーにする、とね」
「……で、でもわたくし、仕事が」
「姫様に許可を頂きました。それではダメですか?」
「……うぐ」
「さ、着替えてください。メイド服のまま街に出かけては目立って仕方がありませんからね。あぁ、私めもこの神官服のままでは目立ちますね。着替えてきましょうか。思い出に残る今日にして差し上げますから、お楽しみに」
今までの恐ろしい形相からこの甘い笑みに切り替わると、ギャップがすごすぎて対応しきれない。私の頭はパンク寸前だ。……ヤバい、顔が良い。惚れる。
「なにをボサっとしているんですか。早くしてください。集合場所は……そうですね、城門前にしましょうか。終わったらそこに来てください。ほら、行った行った」
そう急かされ、私は首を傾げつつも着替えに行った。
と、自室に帰ってくるなり私は気が付いた。
(ホワイトデーに出かけるってことは、もしかしてもしかするとこれってデートなんじゃ……!?)
そう思った途端、服が選びにくくなった。
変に気合いを入れてオシャレ着にするのは何か違うし、かと言って仮にも好きな相手の前に普段着で出るのも、それはそれで違う気がする。
「……あーもう、なんでこんなこと気づいちゃったかなぁ」
部屋でひとり呟き、私は急いで服選びを再開した。
「お待たせしました」
結局私が選んだのは、オシャレ着と普段着の間くらい――どちらかと言えばオシャレ着に近い、膝下までのワンピース。
淡い黄色がベースになっていて、袖口と首元、裾にレースがあしらわれたそれは、いつも通りに高い位置で結い上げた水色の髪によく映えている……と思う。
「いえ、私めもつい今しがた来たところですから。……それにしても、よく似合っていますね、その服。黙っていれば男が何人も寄ってきそうですよ」
「なっ、それって地味に失礼な……」
失礼なんじゃないかと言おうとしたが、彼の姿に目を奪われてしまい、それは叶わなかった。
いつもの神官服――金色の刺繍が入った、足首くらいまで隠れそうな白いワンピースのようなものの上に、黄色っぽい外套がいとうを羽織っている――を脱ぎ、清楚な白シャツと黒いパンツ、深い緑色の上着を身に纏っている。
……死ぬほどイケメン。ヴェロールってこんなにカッコよかったっけ?
「では行きましょうか」
「……あの、」
「はい、なんでしょう」
せっかく彼も着替えてきてくれたんだ。せめて一言くらいは言っておこう。
「あなたこそ、似合ってるんじゃないですか。いつもみたいな堅苦しさがないので、柔らかく微笑んでいればモテますよ」
そう言うと、彼は一瞬だけ驚いたように目を開き、「ありがとうございます」と微笑んだ。……そうそれ!イケメンの微笑み!ご馳走様です!
ともあれ。
私たちは街に出て、まずお昼ご飯を食べに行くことにした。
「何か食べたいものはありますか?」
「いえ、特には。……あ、マカロン様の香りが……」
「あとで行きましょう。食後に」
「チッ」
「……アイリスさん、今舌打ちしましたよね」
「気のせいじゃないですか?」
なんて軽口を叩きながら、辿り着いたのは洋食屋だった。
「おっと、私めとしたことが。いつもの店に来てしまいました。ここでもよろしいですか」
「はい。というか、街のことはわたくしよりも詳しいでしょう」
「それもそうですね。さ、入りましょう」
私は洋食屋でオムライスを食べた。
手を洗いに行っている間に、いつの間にか会計が終わっていた。イケメンは手際が良いらしい。
「お返しその1、ですからね」
その時に彼が見せた、イタズラが成功したときの子供のような無邪気な笑みを、私は一生忘れられそうになかった。
――途中、店主らしき元気なおばさんに「あらアンタ、ついに女の子連れてきたのね!」と茶化されていたが、私たちは声を揃えて「「違います!」」と否定しておいた。
それから私たちは街を練り歩き――もちろんマカロン様が売っていた店には立ち寄り、5個くらい買った――気づけば日が沈みかけていた。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうですね」
私たちは城に向け歩き始め――
「あぁそうだ、アイリスさん。少しこちらに来てもらえますか」
「?はい、いいですけ、ど……ひゃあ!」
――彼の少し冷たい手と、それ以上に冷たいものが私の首に触れた。
「な、ななな…………!」
「動かないでください」
抱きしめるように、私の首の後ろに顔を寄せる彼。息が首に、耳の後ろにかかる。
「ああああの、」
「……できましたよ」
彼は私からすんなり離れ……今まで温もりがあった部分が寂しく、寒く感じてしまう自分がいた。
と、それよりも。
「これ……」
淡い水色の石の欠片が散りばめられた、六角形の星をモチーフにしたネックレスが私の首元で輝いていた。
「貴女らしいデザインだったのでね。お気に召しましたか?」
「……はい。すごく好きなデザインです」
派手すぎず、しかし確かな主張をしているネックレスは、私の好みどストライクのデザインだった。
「ありがとうございます、ヴェロール様」
「いえ、お返しその2ですからお気になさらず」
「……ってことは、その3が?」
「さすがアイリスさん、聡いですね。お返しその3は……」
彼は再び私と距離を縮めると、私の顔に手を滑らせる。顎、頬をスっと撫で、その手は私の唇をなぞり……
「ここはまだ取っておきましょう」
そう言って彼はさらに手を滑らせ、私の目を覆った。そして、額に柔らかな温もりを感じた。――キス、されたのだ。
「……さ、帰りましょう。あまり遅くては、私めが姫様に怒られてしまいますからね」
なんでもなかったように離れ、そう言った彼の顔は、いつもよりも心なしか赤く見えた。
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