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東の大陸
木々開花、良い!<1>
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「ならば、次は実践だな。――私に向って『炎弾』を撃ってみてくれ」
「えっ、ヒュリアを撃つの?」
「心配しなくても大丈夫だ。私にはこれがある」
ヒュリアは、腰の剣を、鮮やかに抜き放ちます。
青い波紋を持つ、美しい銀色の片刃剣です。
「この剣は私の師匠の最高傑作の一つだ。号を『クズムス』という。『斬魔導剣』だ」
「斬魔導剣?」
「斬魔導剣は、魔導を使えない者が魔導師と対等に戦えるよう、魔導攻撃の効果を斬り潰すために生みだされたものだ。鋼に『ブルンメ鉱』という特殊な鉱物を合わせて成造され、『五冠』までの魔導を制圧できる」
「僕、『四冠』だけど」
軽く頷くヒュリア。
「ああ、わかってる。だがこの剣は最高傑作だと言っただろ。師匠は、錬成を丹念に行うことで、不純物を八割まで除いた高純度のブルンメ鉱を精製し、その性質を劣化させないまま鋼と合わせることに成功したんだ。だから、このクズムスは普通の斬魔導剣よりも強力で、『四冠』までの魔導に対応できるんだよ」
「へぇ、すごいお師匠さんなんだね」
ヒュリアはクズムスの刃を見つめます。
「ああ……。師匠でもあり、肉親とも言える素晴らしい方達だった……」
ヒュリアの表情が急激に曇っていきます。
そして僕らに光を投げかける白の月を見上げた彼女は、深い溜息をつきました。
「師匠と奥様は私を追手から守るために、命を落とされた……。だからこの剣は、形見に等しい……」
しばらく黙ったまま月を眺めていた赤銅の瞳から、一筋涙が流れ落ちました。
彼女の沈黙が、師匠ご夫妻に対する想いを雄弁に語っています。
どんな慰めの言葉も物足りなくて、悲しい沈黙に、ただ付きあうことしかできませんでした。
「――よしっ! ここまでだ!」
涙を拭いて、気を取直したヒュリア。
「さあ、実践練習といこう! 炎弾を撃ってくれ!」
気合が入りましたね。
少しためらいましたが、ヤルタクチュと闘ったときの腕前を見ているので、きっと大丈夫なんでしょう。
まずは心に炎を映します。
次に、人差し指に恃気を集中させます。
すると真黒な指先が薄青く光りだしました。
今回は、青い恃気だけで、赤い英気は混ざってきません。
そしてヒュリアを燃やすように念じながら、指先を彼女に向け、弾を撃ち出す動作を思い描きました。
その途端、指先から野球ボールくらいの炎の弾が、猛スピードで飛出していったのです。
見た感じだと、バッティングセンターの時速200キロより速いかもです。
発射してすぐに、これヤバくない?って思いました。
ヒュリアは剣を構えず、ダラリとさげたままでいました。
彼女に弾が届くまで、一秒ぐらいだったと思います。
炎の弾が胸元に当たったと思った瞬間、銀の光が一閃します。
水平に振られた剣で上下に真二つになった炎弾は、力を失い煙のように消滅したのでした。
ものすごい剣の技です。
ヒュリアは表情を変えることもなく、軽やかな動きで剣を鞘に納めます。
「うむ、合格だ!」
満足そうに笑うヒュリア。
まぶしいなぁ、その笑顔!
「ツクモ、君は凄いな。普通、元素弾の施法を円滑に行えるまでには、何年も修練するんだ。それを一度教えただけで、やってのけるとは」
「いやいや、すごいのはヒュリアの方でしょがっ! 炎弾が真二つだよっ?!」
「あの程度、褒められるほどのことでもないさ」
高速で飛んでくる炎弾をあんな風に斬れるなんて、ちょっと人間離れしてない?
しかも自分の技を誇ることもないなんて。
いや、ホント、天晴れですな。
「あとは繰返し修練し、考えなくてもできるようにするんだ。そうすれば、帝国騎士と戦うこともできるだろう」
「うん、わかった」
いつのまにか空が明るくなってきています。
「――教えてくれてありがとう。なんだか長い夜だったね、少し休んでよ」
「そうか、ではそうさせてもらおう」
ヒュリアは伸びをして、小屋に入っていきました。
こんなわけで、その日から、ヒュリアと魔導の修練をするのが日課になったのでした。
しばらくすると、魔導の発動もかなりスムーズになり、この三日間で、走りながら炎弾を撃てるとこまでいけたんです。
止まった状態で魔導を発動するよりも、動きながら発動する方が、格段に難しいんですよ。
自分にご褒美!
って言いたいけど、途中で大問題が発覚しまして……。
それは、僕自身が耶代の敷地から出られないように、僕の魔導の効果も敷地から外に出ていかないってことなんです。
どうゆうことかというと、短時間だけ結界を解いて、外に向って炎弾を撃つと、途中で例の見えない壁にぶつかって消えてしまうんです。
これじゃ、魔導が使えても何にもなりません。
敵が壁の外にいたら届かないってことですから。
ヒュリアは、大したことじゃないと言ってくれましたが、ショックを受けてるみたいでした。
せっかく彼女の役に立てると思ったのに……。
あいかわらずの、がっかり野郎ってわけです。
でも、無意味かもしれないけど、魔導の修練は続けようと思ってます。
魔導を使うのって面白くて、沼っちゃいました。
今朝もヒュリアと魔導の修練をして炎弾撃ちまくりぃの、率導で操りまくりぃのでした。
その後、彼女が剣の修練に移ったので、僕はハウスキーピングです。
『洗滌』で洗濯、『清掃』で部屋の掃除を一瞬で終わらせます。
『清掃』の説明はこちら。
『耶代の敷地内のあらゆる空間の環境を整え、衛生状態を保つもの』
そしてヒュリアの新しい服の製作にとりかかるわけです。
もちろんこれも『家事全般』の『裁縫』で行います。
『裁縫』の説明はこんな感じです。
『記憶している、もしくは製法を取得している物品のうち、主に縫うことで作られる物を、具現化することが可能。ただし材料が必要である』
ヒュリアの着ている服が限界を迎えたので、この機能で、いつくか服をつくってみました。
ただ、彼女はスカートが苦手なので、ほとんどがスキニーパンツを主体としたものになってます。
でも僕としてはスカート姿も見たいので、今度はセーラー服的なものを作ってみようかなと。
ちなみにバシャルではスカートを“エテク”、ズボンを“チョラップ”って言うみたいです。
テーブルでヒュリアの服装をあれこれ考えてると、炎摩龍様の部屋のドアが開き、腹を掻きながらアティシュリが起きてきました。
三日ぶりのご対面です。
「おはようございます」
挨拶したのに、アティシュリはスルーして大欠伸です。
三日間、寝っぱなしのくせに、この態度。
さすがドラゴンですな。
そんな思いを感じとったのか、アティシュリは僕をキッとにらみつけました。
「おい、ツクモ、てめぇ、よくもやってくれたな」
これは多分、自分の力が奪われたことに怒ってるんでしょうね。
「いや、そう言われましてもねぇ、こっちも知らなかったんですよ。まさかこんなことになるなんて」
「ちっ、一体このクソ耶代はどうなってやがる。耶卿と耶宰がいるんだから、あんときみてぇに暴走してるとは思えねぇんだが……」
アティシュリは、ぶつぶつ言いながら椅子に腰をおろします。
そして掌でテーブルを叩きました。
「ほら、早く、出すもん、出せよ」
「へっ?」
「とぼけんな! シュークリームとキャラメル三日分! 忘れたとは言わせねぇぞ!」
おおっ、そうでした、そうでした。
盟友登録の報酬ですね。
でもシュークリームとキャラメルで、治癒と炎摩導が使えるようになったんだから、ホント安いもんです。
まずは皿の上にシュークリームを具現化し、お茶と一緒にアティシュリの前に出しました。
「はい、どうぞ」
「かかっ、これ、これ、これを待ってたのよ!」
今までの不機嫌が、嘘かってくらいの満面の笑みです。
チョロいという言葉が、お似合いですな。
シュークリームに、かじりついたアティシュリは、しばらくすると目をハートにして鼻から炎を吹出しました。
うへぇ、テーブルが焦げちゃったよ……。
「うまっ、うまっ、にぃひひひひっ……」
あの妙な、つぶやきが進化したようです。
玄関から、剣の修練を終えたヒュリアが戻ってきました。
『裁縫』で作ったTシャツとハーフパンツを着て、肩にタオルをかけてます。
まさに体育の授業終わりのJKといってもいい堂々たる姿です。
アティシュリに気づいた彼女は、素早く側に跪くと、恭しく頭を下げました。
「アティシュリ様、ようやくのお目覚め、祝着にございます」
「うむ、さすがお前は、このアホと違って礼儀ってもんを心得てるな」
きたぞぉ、アホ呼ばわり。
汗だくのヒュリアは、その足で風呂場に行き、汗を流した後、素裸で戻ってきます。
そして、何食わぬ顔でテーブルにつきました。
「――あのね、ヒュリア、下着くらいは、つけようや」
一応顔をそむけながら、注意します。
「嫌だ。どうせすぐに汗で濡れる」
ここはひとつ、世界の守護者様に援護を求めてみましょう。
「アティシュリ様も、裸を見せられて不愉快じゃありませんか?」
「別にぃ。俺たちにとっちゃ、人間が裸だろうが服を着ていようが、関係ねぇからよ。ただまあ、皇女なんだからよ、公式の儀式や典礼なんかじゃあ、やらない方がいいだろうぜ」
「はっ、肝に銘じます」
起立してお辞儀するヒュリア。
全裸ですることかっ?!
「けどよ、ここは自宅みたいなもんなんだろ。全裸ぐれぇいいじゃねぇか」
「聞いたか、ツクモ。アティシュリ様も、こうおっしゃっているぞ。私とて公衆の面前で全裸になる気はないからな」
あたりまえっしょ!
大きな溜息が出ちゃいます。
もう呼吸してないだろうというツッコミが、あちこちから聞こえてくるようです。
えー、これは呼吸じゃありません。
地縛霊の“呆れ感”を表現するマイムなのです。
「なんだ、ツクモ。もしかして、てめぇ、裸が苦手なのか? 人間の男どもは、どいつも女の裸が好物のはずだろうが?」
いや、好物って。
デミソースたっぷりのオムライスじゃないんだから。
「かかっ、そんなら、これでどうだ」
そう言ったとたん、服が消失し、アティシュリも全裸になっちゃいました。
「どうだ、ほら見てみろ、裸だぞ」
可愛らしい女の子?が二人とも素裸で目の前にいるという、考えられない状況になっとります。
「な、何してんすかっ! 服着てくださいよっ!」
「ほら、ほら、どうだぁ、ツクモぉ」
アティシュリが乳寄せしながら、にじり寄ってきます。
嫌がらせのつもりなんでしょうけど、ズレまくってますね。
ヒュリアのスタイルは均整が取れてて、神々しくて、写真集ならアート系でしょうか。
アティシュリの方は野獣系のグラビアアイドルですかね。
ヒュリアと比べて出るところは出てて、胸もかなり大きいっす。
いや、何を詳しく説明しとるのよ。
僕は全精神力をふりしぼり、化学の周期表の語呂合わせを思い出すことで理性を保つのでした。
水兵リーベ僕の船、名前あるシップスクラークか……。
「――あ、あんまりふざけると、キャラメル出しませんよ!」
「ちっ、ムカつく野郎だぜっ!」
吐捨てるように言うと、アティシュリは一瞬で元のへそ出しコーデに戻ります。
「すごいですね! 自由に服を出せるのですか?!」
ヒュリアが目を丸くしてます。
「かかっ、服を着てる姿も、着てねぇ姿も、俺達にとっちゃ変わらねぇんだよ。どっちも表皮だからな。見た目なんて、どうにでもなんだよ」
正体はドラゴンですもんね。
「はいはい、もう裸はいいですから。お昼ごはんにしますよ」
ヒュリアの昼ごはんは、白身魚のムニエルです。
香草とバターソースで味つけしてあります。
有名三星フレンチを再現してみました。
アティシュリにはキャラメルです。
「――なにぃ! 俺を『盟友登録』したことで、魔導が使えるようになっただと!」
食後のティータイムで、アティシュリが今にも火ぃ吹きそうな剣幕で怒鳴りました。
魔導を取得したって言ったせいです。
「ええ、そうなんす。ホント、ありがとございやぁしたぁっ!」
軽く頭を下げときます。
「くそっ、てめぇばっかり、好い思いをしてる気がするぜ」
「そんなことないでしょう。アティシュリ様だって、ちゃんとシュークリーム食べたじゃないですかぁ」
「ちっ、世界の守護者を軽く扱いやがって……」
「そんなにふてくされないで。ほらほらぁ、キャラメルですよぉ」
皿の上に二日目分のキャラメルを具現化します。
「にゃふっ、キャラメルっ♡」
すぐに機嫌が良くなる現金ドラゴン。
世界の守護者ねぇ……。
ティータイムが終わって、一段落です。
ヒュリアは、やっと服を着てくれて、アティシュリは一粒ずつキャラメルを嚙みしめてます。
そして僕は食器の『洗滌』と片付けです。
なんて平和な日々!
ビューティフルシャイニイデイズ!
白い口ひげをつけたくなりますなっ!
家事をテキパキとこなす姿は、家政夫の鏡といえましょう。
鼻歌をうたいながら片付けをしていると、突然チャイム音が鳴って『羅針眼』が立上がりました。
『任務:ヤルタクチュを無力化する。ただし絶滅はさける』
『任務』の項目にあった指示が、中央で赤い文字になって現れ、点滅しています。
うーむ、これは……。
早くやれって催促かな。
とは言ってもねぇ。
解決策が見当たらないんだよなぁ。
「えっ、ヒュリアを撃つの?」
「心配しなくても大丈夫だ。私にはこれがある」
ヒュリアは、腰の剣を、鮮やかに抜き放ちます。
青い波紋を持つ、美しい銀色の片刃剣です。
「この剣は私の師匠の最高傑作の一つだ。号を『クズムス』という。『斬魔導剣』だ」
「斬魔導剣?」
「斬魔導剣は、魔導を使えない者が魔導師と対等に戦えるよう、魔導攻撃の効果を斬り潰すために生みだされたものだ。鋼に『ブルンメ鉱』という特殊な鉱物を合わせて成造され、『五冠』までの魔導を制圧できる」
「僕、『四冠』だけど」
軽く頷くヒュリア。
「ああ、わかってる。だがこの剣は最高傑作だと言っただろ。師匠は、錬成を丹念に行うことで、不純物を八割まで除いた高純度のブルンメ鉱を精製し、その性質を劣化させないまま鋼と合わせることに成功したんだ。だから、このクズムスは普通の斬魔導剣よりも強力で、『四冠』までの魔導に対応できるんだよ」
「へぇ、すごいお師匠さんなんだね」
ヒュリアはクズムスの刃を見つめます。
「ああ……。師匠でもあり、肉親とも言える素晴らしい方達だった……」
ヒュリアの表情が急激に曇っていきます。
そして僕らに光を投げかける白の月を見上げた彼女は、深い溜息をつきました。
「師匠と奥様は私を追手から守るために、命を落とされた……。だからこの剣は、形見に等しい……」
しばらく黙ったまま月を眺めていた赤銅の瞳から、一筋涙が流れ落ちました。
彼女の沈黙が、師匠ご夫妻に対する想いを雄弁に語っています。
どんな慰めの言葉も物足りなくて、悲しい沈黙に、ただ付きあうことしかできませんでした。
「――よしっ! ここまでだ!」
涙を拭いて、気を取直したヒュリア。
「さあ、実践練習といこう! 炎弾を撃ってくれ!」
気合が入りましたね。
少しためらいましたが、ヤルタクチュと闘ったときの腕前を見ているので、きっと大丈夫なんでしょう。
まずは心に炎を映します。
次に、人差し指に恃気を集中させます。
すると真黒な指先が薄青く光りだしました。
今回は、青い恃気だけで、赤い英気は混ざってきません。
そしてヒュリアを燃やすように念じながら、指先を彼女に向け、弾を撃ち出す動作を思い描きました。
その途端、指先から野球ボールくらいの炎の弾が、猛スピードで飛出していったのです。
見た感じだと、バッティングセンターの時速200キロより速いかもです。
発射してすぐに、これヤバくない?って思いました。
ヒュリアは剣を構えず、ダラリとさげたままでいました。
彼女に弾が届くまで、一秒ぐらいだったと思います。
炎の弾が胸元に当たったと思った瞬間、銀の光が一閃します。
水平に振られた剣で上下に真二つになった炎弾は、力を失い煙のように消滅したのでした。
ものすごい剣の技です。
ヒュリアは表情を変えることもなく、軽やかな動きで剣を鞘に納めます。
「うむ、合格だ!」
満足そうに笑うヒュリア。
まぶしいなぁ、その笑顔!
「ツクモ、君は凄いな。普通、元素弾の施法を円滑に行えるまでには、何年も修練するんだ。それを一度教えただけで、やってのけるとは」
「いやいや、すごいのはヒュリアの方でしょがっ! 炎弾が真二つだよっ?!」
「あの程度、褒められるほどのことでもないさ」
高速で飛んでくる炎弾をあんな風に斬れるなんて、ちょっと人間離れしてない?
しかも自分の技を誇ることもないなんて。
いや、ホント、天晴れですな。
「あとは繰返し修練し、考えなくてもできるようにするんだ。そうすれば、帝国騎士と戦うこともできるだろう」
「うん、わかった」
いつのまにか空が明るくなってきています。
「――教えてくれてありがとう。なんだか長い夜だったね、少し休んでよ」
「そうか、ではそうさせてもらおう」
ヒュリアは伸びをして、小屋に入っていきました。
こんなわけで、その日から、ヒュリアと魔導の修練をするのが日課になったのでした。
しばらくすると、魔導の発動もかなりスムーズになり、この三日間で、走りながら炎弾を撃てるとこまでいけたんです。
止まった状態で魔導を発動するよりも、動きながら発動する方が、格段に難しいんですよ。
自分にご褒美!
って言いたいけど、途中で大問題が発覚しまして……。
それは、僕自身が耶代の敷地から出られないように、僕の魔導の効果も敷地から外に出ていかないってことなんです。
どうゆうことかというと、短時間だけ結界を解いて、外に向って炎弾を撃つと、途中で例の見えない壁にぶつかって消えてしまうんです。
これじゃ、魔導が使えても何にもなりません。
敵が壁の外にいたら届かないってことですから。
ヒュリアは、大したことじゃないと言ってくれましたが、ショックを受けてるみたいでした。
せっかく彼女の役に立てると思ったのに……。
あいかわらずの、がっかり野郎ってわけです。
でも、無意味かもしれないけど、魔導の修練は続けようと思ってます。
魔導を使うのって面白くて、沼っちゃいました。
今朝もヒュリアと魔導の修練をして炎弾撃ちまくりぃの、率導で操りまくりぃのでした。
その後、彼女が剣の修練に移ったので、僕はハウスキーピングです。
『洗滌』で洗濯、『清掃』で部屋の掃除を一瞬で終わらせます。
『清掃』の説明はこちら。
『耶代の敷地内のあらゆる空間の環境を整え、衛生状態を保つもの』
そしてヒュリアの新しい服の製作にとりかかるわけです。
もちろんこれも『家事全般』の『裁縫』で行います。
『裁縫』の説明はこんな感じです。
『記憶している、もしくは製法を取得している物品のうち、主に縫うことで作られる物を、具現化することが可能。ただし材料が必要である』
ヒュリアの着ている服が限界を迎えたので、この機能で、いつくか服をつくってみました。
ただ、彼女はスカートが苦手なので、ほとんどがスキニーパンツを主体としたものになってます。
でも僕としてはスカート姿も見たいので、今度はセーラー服的なものを作ってみようかなと。
ちなみにバシャルではスカートを“エテク”、ズボンを“チョラップ”って言うみたいです。
テーブルでヒュリアの服装をあれこれ考えてると、炎摩龍様の部屋のドアが開き、腹を掻きながらアティシュリが起きてきました。
三日ぶりのご対面です。
「おはようございます」
挨拶したのに、アティシュリはスルーして大欠伸です。
三日間、寝っぱなしのくせに、この態度。
さすがドラゴンですな。
そんな思いを感じとったのか、アティシュリは僕をキッとにらみつけました。
「おい、ツクモ、てめぇ、よくもやってくれたな」
これは多分、自分の力が奪われたことに怒ってるんでしょうね。
「いや、そう言われましてもねぇ、こっちも知らなかったんですよ。まさかこんなことになるなんて」
「ちっ、一体このクソ耶代はどうなってやがる。耶卿と耶宰がいるんだから、あんときみてぇに暴走してるとは思えねぇんだが……」
アティシュリは、ぶつぶつ言いながら椅子に腰をおろします。
そして掌でテーブルを叩きました。
「ほら、早く、出すもん、出せよ」
「へっ?」
「とぼけんな! シュークリームとキャラメル三日分! 忘れたとは言わせねぇぞ!」
おおっ、そうでした、そうでした。
盟友登録の報酬ですね。
でもシュークリームとキャラメルで、治癒と炎摩導が使えるようになったんだから、ホント安いもんです。
まずは皿の上にシュークリームを具現化し、お茶と一緒にアティシュリの前に出しました。
「はい、どうぞ」
「かかっ、これ、これ、これを待ってたのよ!」
今までの不機嫌が、嘘かってくらいの満面の笑みです。
チョロいという言葉が、お似合いですな。
シュークリームに、かじりついたアティシュリは、しばらくすると目をハートにして鼻から炎を吹出しました。
うへぇ、テーブルが焦げちゃったよ……。
「うまっ、うまっ、にぃひひひひっ……」
あの妙な、つぶやきが進化したようです。
玄関から、剣の修練を終えたヒュリアが戻ってきました。
『裁縫』で作ったTシャツとハーフパンツを着て、肩にタオルをかけてます。
まさに体育の授業終わりのJKといってもいい堂々たる姿です。
アティシュリに気づいた彼女は、素早く側に跪くと、恭しく頭を下げました。
「アティシュリ様、ようやくのお目覚め、祝着にございます」
「うむ、さすがお前は、このアホと違って礼儀ってもんを心得てるな」
きたぞぉ、アホ呼ばわり。
汗だくのヒュリアは、その足で風呂場に行き、汗を流した後、素裸で戻ってきます。
そして、何食わぬ顔でテーブルにつきました。
「――あのね、ヒュリア、下着くらいは、つけようや」
一応顔をそむけながら、注意します。
「嫌だ。どうせすぐに汗で濡れる」
ここはひとつ、世界の守護者様に援護を求めてみましょう。
「アティシュリ様も、裸を見せられて不愉快じゃありませんか?」
「別にぃ。俺たちにとっちゃ、人間が裸だろうが服を着ていようが、関係ねぇからよ。ただまあ、皇女なんだからよ、公式の儀式や典礼なんかじゃあ、やらない方がいいだろうぜ」
「はっ、肝に銘じます」
起立してお辞儀するヒュリア。
全裸ですることかっ?!
「けどよ、ここは自宅みたいなもんなんだろ。全裸ぐれぇいいじゃねぇか」
「聞いたか、ツクモ。アティシュリ様も、こうおっしゃっているぞ。私とて公衆の面前で全裸になる気はないからな」
あたりまえっしょ!
大きな溜息が出ちゃいます。
もう呼吸してないだろうというツッコミが、あちこちから聞こえてくるようです。
えー、これは呼吸じゃありません。
地縛霊の“呆れ感”を表現するマイムなのです。
「なんだ、ツクモ。もしかして、てめぇ、裸が苦手なのか? 人間の男どもは、どいつも女の裸が好物のはずだろうが?」
いや、好物って。
デミソースたっぷりのオムライスじゃないんだから。
「かかっ、そんなら、これでどうだ」
そう言ったとたん、服が消失し、アティシュリも全裸になっちゃいました。
「どうだ、ほら見てみろ、裸だぞ」
可愛らしい女の子?が二人とも素裸で目の前にいるという、考えられない状況になっとります。
「な、何してんすかっ! 服着てくださいよっ!」
「ほら、ほら、どうだぁ、ツクモぉ」
アティシュリが乳寄せしながら、にじり寄ってきます。
嫌がらせのつもりなんでしょうけど、ズレまくってますね。
ヒュリアのスタイルは均整が取れてて、神々しくて、写真集ならアート系でしょうか。
アティシュリの方は野獣系のグラビアアイドルですかね。
ヒュリアと比べて出るところは出てて、胸もかなり大きいっす。
いや、何を詳しく説明しとるのよ。
僕は全精神力をふりしぼり、化学の周期表の語呂合わせを思い出すことで理性を保つのでした。
水兵リーベ僕の船、名前あるシップスクラークか……。
「――あ、あんまりふざけると、キャラメル出しませんよ!」
「ちっ、ムカつく野郎だぜっ!」
吐捨てるように言うと、アティシュリは一瞬で元のへそ出しコーデに戻ります。
「すごいですね! 自由に服を出せるのですか?!」
ヒュリアが目を丸くしてます。
「かかっ、服を着てる姿も、着てねぇ姿も、俺達にとっちゃ変わらねぇんだよ。どっちも表皮だからな。見た目なんて、どうにでもなんだよ」
正体はドラゴンですもんね。
「はいはい、もう裸はいいですから。お昼ごはんにしますよ」
ヒュリアの昼ごはんは、白身魚のムニエルです。
香草とバターソースで味つけしてあります。
有名三星フレンチを再現してみました。
アティシュリにはキャラメルです。
「――なにぃ! 俺を『盟友登録』したことで、魔導が使えるようになっただと!」
食後のティータイムで、アティシュリが今にも火ぃ吹きそうな剣幕で怒鳴りました。
魔導を取得したって言ったせいです。
「ええ、そうなんす。ホント、ありがとございやぁしたぁっ!」
軽く頭を下げときます。
「くそっ、てめぇばっかり、好い思いをしてる気がするぜ」
「そんなことないでしょう。アティシュリ様だって、ちゃんとシュークリーム食べたじゃないですかぁ」
「ちっ、世界の守護者を軽く扱いやがって……」
「そんなにふてくされないで。ほらほらぁ、キャラメルですよぉ」
皿の上に二日目分のキャラメルを具現化します。
「にゃふっ、キャラメルっ♡」
すぐに機嫌が良くなる現金ドラゴン。
世界の守護者ねぇ……。
ティータイムが終わって、一段落です。
ヒュリアは、やっと服を着てくれて、アティシュリは一粒ずつキャラメルを嚙みしめてます。
そして僕は食器の『洗滌』と片付けです。
なんて平和な日々!
ビューティフルシャイニイデイズ!
白い口ひげをつけたくなりますなっ!
家事をテキパキとこなす姿は、家政夫の鏡といえましょう。
鼻歌をうたいながら片付けをしていると、突然チャイム音が鳴って『羅針眼』が立上がりました。
『任務:ヤルタクチュを無力化する。ただし絶滅はさける』
『任務』の項目にあった指示が、中央で赤い文字になって現れ、点滅しています。
うーむ、これは……。
早くやれって催促かな。
とは言ってもねぇ。
解決策が見当たらないんだよなぁ。
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そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
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最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
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2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
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転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
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