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狂気の毒牙
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今日のバイトはコンビニだけ。夜バイトの居酒屋は定休日。シフトが一緒だった安倍のおばちゃんに帰り際「ウチの肉じゃが持っていきな!」とタッパーを渡された。お礼を言ってスクーターのシートの下に大事に仕舞ってリュックを背負うと、スクーターのスロットルを回して雪也のマンションまで走らせた。
駐輪場にスクーターを停めて、肉じゃがのタッパーを取り出して左手で持つと、合鍵でオートロックを解除して中に入る。
エレベーターに乗ってる間にスマホを見たら17時半。まだ、雪也の仕事の定時まで時間がある。家には居ないだろう。
(…どうしよ、コレ)
タッパーをちらりと一瞥して溜息をついた。
フロアについて、部屋の前まで早歩きで進み、合鍵を鍵穴に挿して回す。ガチャリと開いた扉からはいつもの玄関の芳香剤の香りがする。
ゴム製のサンダルを脱いで、ダイニングキッチンの扉を開くと、肉じゃがのタッパーをダイニングテーブルに置いた。
リュックを雪也に指定されているところに下ろして、リビングに戻り、人をダメにするビーズソファーにダイブした。
前に適当なところにリュックを放り投げたら、一瞬すごく嫌な顔をして、すぐに笑顔を貼り付けると、語気こそ優しかったが、「そこに置かないで、前に言った所に置いて?」と怒られた。あれを怒られたと感じ取れるのは、俺の気質故だろう。そういうのは、人より敏感だ。
雪也は綺麗好きだし、きっちりしてるし、器用だし、少し神経質だけど人当たりもいいし、俺みたいに仏頂面じゃない。昔から。
児童養護施設も、俺よりあとに入ってきて、俺より先に出ていった。
(…何が理由で施設に来た、とかは聞かないのが暗黙のルールだったし、な。)
「俺、ユキのこと、なんも知らない…かも」
ビーズソファーに顔を埋めたまま、ボソリと呟いた。
────でも、ユキとはいえ、踏み込むのは良くない。
そうなんだけど。そうなんだけど、雪也は俺のことどう思ってるんだろう。
俺のこと、女みたいに何回も抱いてたけど、どんな気持ちだったんだろう。ずっと流されてる俺もだけど。
(……俺は、分かんない。最中はいつも何が何だか分からなくなるから…)
考えても考えても分からない。元々俺は馬鹿だし、考えたから何かが変わる訳でもない。
────ガチャ
「ただいま、盟」
雪也の声が聞こえてきた。変なことを考えている間に、そんなに時間が経ってしまったのか。
ビーズソファーから顔を上げるとニコリと笑った雪也が俺の頭を撫でた。
「バイトお疲れ様。…寝てた?起こしてごめんね。」
「んーん、寝てない、大丈夫」
身体を起こして立ち上がろうとしたら、「盟」と名前を呼ばれた。一瞬身体が強張ったが、「何?」と言うと、雪也は片手に肉じゃがのタッパーを持っていた。
「…これ、どうしたの?」
「あ、それ。パートの安倍さんがお裾分けでくれた」
「…まだ夏じゃないから大丈夫だけど、こういうのは、今度から冷蔵庫に入れてね。せっかく頂いたのに饐えて食べれなくなっちゃうから」
「あ……うん、ごめん」
「次やってくれれば大丈夫。怒ってないよ」
「…うん」
「じゃあ、今からご飯の支度するから、待ってて。」
「はーい」と返事をしてビーズソファーに座ると、テレビのスイッチを入れた。
ニュース番組。母クマと仔クマが町に降りてきて、住民を襲って怪我をさせた事件。
クマも森が無くなってきたからご飯食べれてないんだろうな。
…でも、テレビで映ってるクマを見る限り、母親は決して子を見捨てない。動物でもそれが出来るのに、一部の人間はそれが出来ない。
人間の親は、血の繋がった子を見捨てることがある。
俺は捨てられた子供。親は俺に興味がなくて、俺は居ないものだった。学校だって行かせてもらえなかったし、飯や風呂や服だって貰えなかった。たまに喋れば、ご飯が欲しいと言えば叩かれた。親は殆ど家に居なかったし、そのうち電気も水道もガスも止まった。
多分9歳の夏。意識が殆どなかったところに児童相談所と警察の人が来た。俺には戸籍が無かったため、警察と児童相談所が見つけるまで時間が掛かったらしい。俺の名前は児童養護施設の人がつけて戸籍を取り、施設に入って、初めて普通の子と同じ生活ができるようになった。高校卒業と共に施設を出て、いろんな仕事をしている。生活は安定しなくて、お金が無くて暮らす所が無いときだってあった。
住むところがなくてネットカフェで暮らしていたタイミングで客として来た雪也とバイト先で偶然再会して、現状を話したら、同情した雪也の勧めで、今はありがたいことに転がり込ませてもらってる。
(…ユキ、迷惑じゃなきゃいいんだけど。でも、俺全然お金貯まらないしな)
雪也は、どうして施設に来たんだろう。
聞いてはいけない、一番心の膿んだ部分に触ることになるから、聞いちゃいけないんだけど。…俺だって、自分の事を話せと言われたら拒否をするんだから。
覚えてる限り、俺より遅く────雪也が中学1年生くらいの時に施設に来た。ずっと怖いくらいの微笑みをたたえたまま、俺たちと生活して、俺は特に仲が良かったと思う。勉強をよく教えてもらった。雪也は高校1年のときに父親という人が迎えに来て、施設を出ていった。それきりだ。
テレビから視線を外してキッチンを振り返ると、何かを切って焼いているのか、フライパンで何かが焼ける音と包丁で何かを切る軽快な音がする。雪也は料理が上手い。味も美味しいし、手際も良い。盛り付けだって、お店で出てきそうな盛り付けだ。どこにも“男料理”みたいな感じが無い。
昔から何をさせても完璧なのだ。怖いくらいに。
会社でも、きっとそうなんだろうな。だから定時で帰れる。あまり残業をしたというのは聞かない。『広告デザイナー』って言ってたけど、それがどんな仕事なのかは俺は分からない。なんかのデザインするんだろうな、くらい。
「…こっちを見てどうしたの?何か気になる?」
ずっとキッチンを眺めていた俺に気付いたのか、雪也が声を掛けてきた。
「いや、なんでもねえけど…」
「ご飯なら、もう出来上がるよ。今日は食べれる?」
「すこし」
「良かった。少しずつ食べれるようになろう」
「……う…うん。そうだな…」
俺は食事が苦手だ。小さいときからまともに食べられる環境じゃなかったから、食べると怒られるんじゃないかという恐怖があって、なかなか食事を口に運ぶことができない。施設の大人や学校の教師たちは「食べなさい」と大きな声を出して無理やり食べさせてきたけれど、そう言うのは吐いてしまっていた。
それをそばで見ていた雪也だけは寄り添ってくれて、俺が箸すら持たないときは、雪也が箸で小さく小さくした食べ物を口まで運んでくれた。最初はずっと突っぱねていたが、「少しずつでいいんだよ。少ない量でもいいから。誰も怒らないから。怒る人はもう居ないから」と言ってくれた。その言葉を聞いて、俺は多少食べれるようになった。雪也は1食を俺が「ごちそうさま」するまで食べるのを何時間でも隣りに居て見ててくれた。
皿に盛った野菜の肉巻きポン酢がけと、オクラのおひたしの小鉢と、俺が安倍のおばちゃんから貰った肉じゃが、茶碗に盛られた白米に豆腐の味噌汁がダイニングテーブルに並ぶ。俺の茶碗のご飯は仏様のご飯みたいな量にしてくれてある。雪也ならではの気遣い。
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせて、向き合って食事を取る。
野菜の肉巻きを食べた雪也は「うん」と一言頷いて、追って白米を食べるそれを飲み込む頃、俺がゆっくりオクラのおひたしを一つ摘んでいたら、スマホが鳴った。俺のスマホはポケットの中で振るえていないので、鳴っているのは雪也のスマホからだった。
画面を見ることは叶わなかったが、画面を見つめて数秒考えていた雪也は、小さいため息をついて、スマホを持って立ち上がり、寝室へ行ってしまった。
聞かれたくない内容なのだろうか。
そういえば、前に掛かってきた電話のときは、寝室で電話する雪也がスピーカーモードにしていないのに、相手の女性がヒステリックに何かを叫んでいるのがリビングにいた俺にも聞こえた。ビックリして思わず雪也の顔を見たが、いつもの微笑んだ顔で黙ってスマホに耳を当てていた。そのうち気が済んだのか、ヒステリーを続ける女性の話し途中に電話を切っていた。
今日のもそんな感じなのかな、と思いながら俺はダイニングで黙っている。リビングダイニングの隣の部屋が寝室のため、受け答えする声だけ、少し聞こえる。
「…Hello?…Why did you call me?」
(……英語?なんで?外人さん?友達かな、取引先の人かな。…何言ってんだろ…)
俺のご飯を食べる手が完全に止まる。馬鹿な俺でも流暢な英語なんだな、ということは分かる。ただ、雪也が何を言っているのかは俺はまったく分からない。
10分くらい話していただろうか。寝室からスマホを持って戻ってきた。
(…相手、気になるな…。……でも聞いたら怒るかな…)
箸が完全に止まって俯いて考えていた俺に、何を考えていたのかだいたい汲み取ったのか、雪也はクスリと笑って、お箸とお茶碗を手に取った。
「…さっきの電話、俺がイギリスに住んでた頃のクラスメートだよ。今度、バケーションを取って来日するから、東京の観光案内を頼まれたんだ。」
肉じゃがのじゃがいもを茶碗の上に一度バウンドさせてから、そう話して、じゃがいもを口に運んだ。
「…え?外国にいた事あんの?」
「うん、施設出てから、大学卒業するまでイギリスに」
「へえ…初めて知った」
「話してなかったっけ。日常会話だけなら3ヵ国語話せるよ。英語、フランス語、イタリア語。家でも父との会話は日本語と英語が混じっていたし、今では仕事の取引先とも英語のときがあるよ」
「え……すげえ…。え、なんの大学行ってたの?」
「ロンドン芸術大学だよ。油絵を専攻してた」
施設でも絵を描く雪也は見たことがなかったから、雪也が絵を描くなんて考えたこともなかった。
でも、よく考えたら、仕事でデザインをするんだからそういう絵の知識は必要なんだろう。
馬鹿でなんの取り柄のない俺とは、最初から次元が違う。
知ることができて嬉しいのに、なんだか少し寂しかった。
「ユキの、描いた…絵が見てみたい…」
俺が一生懸命勇気を振り絞って出した言葉の言葉尻は、最後は殆ど聞こえなかっただろう。
「いいよ。殆ど油絵はイギリスの実家と大学に置いてきてしまったから、ここにはラフ用のスケッチブックしかないけど。それでもいい?」
俺は首をブンブン縦に振った。俺のポニーテールが頭の動きにあわせて揺れた。
俺は早々に食事をリタイアし、雪也が食べているのをずっと眺めている。
雪也は昔から食事の所作も綺麗だし、咀嚼音すらない。お椀やお茶碗、箸を置く音すら立てない。俺と食事をしてるから食べながら会話したりするけど、多分きっとそう言うのも本当は嫌かもしれない。俺が食事を終えてから一言も喋らないし。きっといいとこの子だったんだろう。親の躾が厳しすぎて、虐待認定されて、施設に来た感じかな…。だって、お金が無いと海外の大学なんてきっと普通は行けない。
施設にはいろんな子がいたけど、重度、中度、軽度で分けるなら、多分雪也は中度から軽度くらい。いわゆる『親ガチャミスった』感じ。俺可哀想を出すわけじゃないけど、見つかったときにウジが湧いてて、戸籍すらなかった時点で、俺はきっと重度。
俺らみたいな施設出でもこんなに格差がある。
それでもみんなに言えるのは、みんな親のせいで心や体に傷を負ってる。一生掛かっても治らないような。どうしようもないような、どこにもぶつけられない怒りとか、悲しみとか。
一生周りの人間の顔色見て生活して、一つあるごとに怯えて悩んで。
自暴自棄なのか、騙されやすいのか、正しい判断に頭が働かなかったのか、犯罪に走るやつだっている。軽犯罪ならまだしも、どうしようもないような怒りを人にぶつけたりモノにぶつけたりして、重い罪になった奴とか。
虚空を見つめてダイニングの椅子に腰掛けて考えていたら、いつの間にか、雪也が「ごちそうさまでした」と手を合わせていたのを聞いて、我に返った。
皿を重ねて片付けようとしているのを見て、「手伝う…」と言うと、「座ってて」と返ってきた。
「盟、眠い?絵、見るの明日にする?」
シンクで洗い物をしながら、雪也が問うてきた。
「寝れるなら、寝ときな?普段寝ないんだから。また気絶したって困るのは盟だよ?」
一度リビングで卒倒して気絶したことがあった。不眠症で、十日程睡眠をしていなくて、日中にバイトに行こうとして、いきなりリビングで崩れ落ちて気絶寝をしたのだ。その時はフローリングに頭を強く打ち、心配した雪也が救急車を呼んだ。幸い、頭を打ったところはたんこぶで済んだが、おかげで不眠症が引き起こした気絶というのが病院にバレて、精神安定剤と睡眠薬投与しながら五日間の入院をした。その間、シフトに穴を開けることになってしまい、バイトができず、稼げないのが辛かった。
その後も病院から不眠症治療の通院をするよう言われたが、お金がないので一度も行っていない。
「違くて。その…えっと。眠くなくて、考え事してただけで。」
「考え事?」
「……ユキの事、俺あまり知らねえなって。知りたいなって。でもユキ、迷惑かなとか、嫌かなとか…」
普段笑顔の雪也の顔が豆鉄砲食らったような顔になった。
すぐに普段の顔に戻り、キッチンから出てきて、俺の前に来ると、前屈みになって、さっきまで水仕事をしていた湿った大きな両手で俺の顔を包み込んだ。
一瞬だけ、殴られるのかと思ってビクッとして目を瞑った俺に、フフ、と笑うと、「いいよ」と優しい声が降ってきた。
俺は目を開いて雪也を見上げた。
「盟は特別だから、いっぱい教えてあげる。俺の事」
何故か寝室に手を引かれて連れて行かれた。
「横になって?」と言われて、なんで、と言おうとしたが、目を見たら分かった。これは、理由を聞いてはいけないやつ。ごくたまにある、雪也の無言の圧力。
黙ってベッドに上がる。言われたとおり横になると、雪也も俺の身体をまたぐようにベッドに上がった。今、俺の上で雪也が馬乗りになってる。
「…なあ、何を教えてくれんの。……ベッド、関係あんの?…絵は…?」
「言ったでしょ。俺の事教えるって。大丈夫、少し怖いかもしれないけど、すぐに慣れるよ。痛くしないし」
「…え?」
────カシャン
俺が聞き返すのが早いか、雪也の行動が早いか、両手を纏められて手錠を掛けられた。手錠の鎖がベッドヘッドの柵を通っているので手が頭より上に上がる。
「え?…え、俺……なんで、手錠?なんで?ごめん、気を悪くしたなら謝るから、取って、取って!ごめん!ごめんなさい!」
ガシャガシャと手錠を揺らしながら俺はパニック状態になった。
気に触った、やっぱり聞いちゃいけなかった。馬鹿な俺は図に乗った。調子に乗った。パニックの中で自分の後悔が頭の中を早足で掛け巡る。
パニックで頭を必死で振っていたら、プチンと音がしてポニーテールのヘアゴムが切れたらしく、シーツに中途半端に長い髪が広がる。けどそんなのを気にしてる余裕なんてなかった。雪也に嫌われる恐怖と、現状置かれた恐怖、「ユキの事教えて」と軽々しく言った罪悪感。これから何をされるのかわからない恐怖が頭と心を支配する。
表情の変わらない雪也に震えながら「ごめんなさい」と壊れたおもちゃみたいに謝るが、満足に動かせない両手、足は雪也が乗っているのでバタつかせられない。身動きの取れない中で上半身を捩るだけの芋虫みたいな状態。暴れているせいで肩を少し痛めたのか、ギシギシ悲鳴を上げる。それを見て、雪也が「ふふふ」と笑った。
「…可愛い、俺の盟。そんなに暴れると手首に傷がつくよ。俺は怒ってもいないし、盟が俺に興味を持ってくれた事が嬉しいんだ。だから、これからするのは、俺が盟にする大好きな事だから、…身体で覚えて、全部受けとめて?」
俺の髪を手櫛で梳きながら、ウットリとした顔で言ったあと、俺を抱きしめた。
なんだかよく分からない状況だが、雪也の体温に抱きしめられて少し落ち着いた俺は、暴れたせいで乱れた呼吸のまま、小さく雪也に尋ねた。
「…怒ってない?…痛くしない?」
「うん。全然怒ってない。大丈夫、痛いことなんてしないよ、約束する」
そう言って身体を離すと、当たり前のように俺のジャージのジッパーを下ろしきって開くと、タンクトップを胸上まで上げた。
色白の、平たくて貧相で骨の浮いている上半身が露わになる。浮いた肋骨をなぞるように、雪也の手が這わされ、擽ったくて少し身を捩った。そのまま次第に上へと上がっていき、整えられた爪が右胸の乳首を強く掠めた。
「…っん」
「盟は乳首を触られるの、好きだよね」
「違…」
「違わない。だって、少し掠めただけでこんなに乳首が勃ってる。薄いピンクだったのが、濃く色付いて、触ってって言ってる」
「ッやだぁ…いうな……ッ」
恥ずかしくて首を左右に振る。
右の乳首を触るか触らないかのところをくるくると指がなぞりながら俺の反応を雪也はいつもの笑顔で楽しむ。
「…女よりいやらしいよ。盟可愛い。左の慎ましやかなのもいいけど、右の待ちきれなそうに勃起してるのも可愛い」
言っているうちに焦らしていた指が右の乳首をキュッと摘んだ。
「ひあっ!?…あぅぅ…んんッ」
強弱を付けて人差し指と中指で摘んで、親指で乳頭をさわさわと撫でる。
俺は胸の刺激に耐えかねて動かせる背中が弓なりに少し浮いた。
「あはは、可愛いね。背中反らして胸を強調して。もっと触ってほしいの?」
言うな否や、左の乳首もギュッと摘んだ。
ジンジンといじられた余韻を残す、散々弄んだ右の乳首に顔を寄せ、パクリと口に含む。温かい舌先で乳首弾いたり下から上にゆっくりと舐め上げた。
「ッあ゙ーーッダメ!ひっ、嫌だ、やだぁ!あうぅ…」
快感に堪らなくなり、首を振り、俺は背を反らしたままガシャガシャと手錠を鳴らすしかできなかった。手錠の僅かに握れるところを強く握って、快感に耐えようとする。
そんな努力は俺の乳首を雪也が強く吸った事により見事砕け散った。
「あ゙ッ!!!それ、いやぁッ!!ン゙ーーーーッッ!!!」
イッた。
ブルブルと身体が強張って、やがて弛緩する。
それを分かっていながら、雪也は左の胸にも一度キスをして口を付けるとひと舐めしてから、さっきより強い力で吸った。
「ゃ、イッた、からやめ…ア゙アァァッ!!」
一度イッて敏感になっていた俺は間を空けずに二回イかされ、グッタリする。
体力も持久力も底辺だし、性欲だって元々あまり無い方だから、俺はもう限界に近い。
びっしょり汗をかいた額や頬には髪の毛が張り付いている。
顔をそっぽに向け、激しい運動をしたあとみたいな荒い呼吸で胸を上下させながら、ちらりと目だけで雪也を見上げる。
(…これが…ユキが俺にする、好きなこと…?)
胸から顔を起こした雪也は、楽しそうな顔をしている。一見、いつもの笑顔だけど、俺には見分けがつく。
「じゃあ…下脱ごうか。二回もイッちゃったから、ビショビショだね、きっと」
そう言いながらジャージのズボンと下着に手を掛けると、2つとも一気に下ろしてしまった。雪也は一度身体をずらして、ズボンと下着を俺の足から抜き去ってしまう。
俺のくたりとしたペニスを見た雪也は一つ笑みをこぼして、それを弄び始めた。
「体格どおりに小さくて、ビショビショで、エロいね。……元々体毛も薄いからココの毛も殆ど生えてないし、これは剃る必要ないか。」
ぐちゅぐちゅと音を立てながら大きな手で扱かれてだんだん芯を持ち始めるペニスの刺激に、やっと自由になった足は膝をすり合わせながら足先はシーツを蹴る。俺の口からは意味を成さない「あ」や「や」や「う」しか出てこない。
いつも抱かれると違って、手の自由はないし、雪也の口数が多くて、いつもより恥ずかしいことを言われて、別の人に抱かれてるみたいで少し怖い。でも抱いているのは間違えなく雪也で、そんなチグハグな状況にいつもより体温の上がってる俺がいた。
「ゃ、やァ…ッ!も、チンコ痛い、手ェ、離してぇ…」
雪也の手から逃れようとするが、体格による力の差は歴然としていて、しかもペニスを握られているから、無理に逃れられない。
白濁の混じった先走りがダラダラと零すはしたない俺のペニスはもうしっかり勃っていて、元々色の薄いペニスは限界が近いのを知らせるように赤く色づいてる。
「もうイきそう?…だめ。」
パッと手を離され、達しそうだった熱は中途半端に下半身をぐるぐるする。
「…ぇ」
俺がぽろりと声を上げると、雪也は汚れていない手で俺の頭をひと撫でして、俺に「絶対に開けないで」と言っていたベッド横のチェストを開けて、棒状の何かと何かのボトルを取り出した。
「……なに、するの…」
「んー?」
はぐらかしながら棒にボトルの中身を纏わせる。ジェル状のそのボトルの中身は棒を伝って俺の太ももに垂れた。
「ココに、この棒を入れるの。気持ちいいよ」
ココ、と言いながら俺のペニスを握り、尿道の入り口に棒を当てた。
「……ッやだ…しないで…!やだ…痛い…痛いことしないって言った…!」
「大丈夫、気持ちいいから」
俺の拒否を一蹴すると、尿道にその棒をクルクルと回しながら少しずつ刺していく。
「ぁあ゙あ゙っ!!あっあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッッ」
身体が怖くて喉を反らして硬直する。吐き出そうとしていた精液が押し戻される感覚と隙間からドロドロと溢れていく感覚、異物がズルズルと入り込んでくる有り得ない感覚が頭をスパークさせる。目の前が白黒にチカチカと点滅していて、自分でも聞いたことのない絶叫が口から飛び出す。
「ァァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッン゙ン゙ン゙!!!やああぁあ゙あ゙ッッッ」
地獄のような時間。何分経ったかなんて分からない。物凄い長い時間、頭を殴られるような衝撃を受け続け、ペニスは途中から何が何だか分からない感覚が快感に変わった。知らぬうちに気が狂いそうで目を強く瞑っていたと思っていたら、「ほら、終わったよ」と雪也の声が遠くで聞こえて、目をゆっくり開いた。
「ハッ、ハッ、ぁ、ぇ…ぁ」
息も絶え絶えに、自分のペニスを見遣ると、尿道口が真っ赤になって棒が突き刺さっていた。
「これはまだまだ細いやつだから、これからだんだんステップアップしていこうね」
「…えっ…」
笑顔で言われた雪也の言葉に、俺は言葉を失った。
雪也は棒に付いていた輪っかを俺のペニスにパチンッと嵌めると、一度そばにあったタオルで手を拭いて、俺の頬を包み込んで目を合わせた。とても楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうな笑顔。
「これで、棒が取れることないから、大丈夫だよ。気持ちよくなろうね。大丈夫。今の盟、とーっても可愛いよ。世界で一番かわいい、俺の盟。…受け止めてくれるって、言ったよね?」
「…え…ぁ…っ」
そういえば寝室に入ってから聞く『俺の盟』。────あれは、どういう意味?俺は、『雪也のもの』?
…受け止めるって何を。雪也の事を知りたいだけなのに。雪也の教えてくれるものを『受け止める』ってこと?『理解』じゃないの?
フリーズして一瞬考えていたら、雪也は俺の聴いたことのない歌を鼻歌で奏でながら、ペニスの棒をグチュッと音を立てて動かした。
「ッア゙アッ!!」
身体がはねてバチッと頭に電気が走った感覚がした。
「もう少し、行けるね。少しだけ沈めたら、ゴールに辿り着くよ」
ズブ、ズブ、とちょっとずつ俺の顔を見ながら棒を沈める。
「ア゙、ア゙、ア、ア゙ァ、ア゙ッ」
こつ、と何かに触った途端、俺は手足をピンとして言葉の無い絶叫を上げた。
「ッーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
開いた口のはしから、水っぽい涎が頬を伝った。
その反応を見た雪也は「ふふ」と笑って、少し引いてはコツコツと何かに刺激を与え続ける。
「アアッァ!!や!!そこらめ、アアァッ!!ヤダ!!こわい!!止めて!!あ゙ッ!!ん゙ーーーーーーーーーーっっっ!!!」
尿道口から、ちょろ、ちょろ、と精液じゃない何かが少しずつ漏れる。
「気持ちよさそう。空イキした上に潮まで漏れてるね。いい?ここが尿道から触れる前立腺だよ、盟。…気持ちいいよね?」
コツ、コツ、コツ。なんども分からせるように棒で触ってくる。その度にビクビクと俺の身体は反応して嬌声を上げる。
「ぐりぐりしたら、どうなるかな。…盟、気持良すぎるかもしれないけど、耐えてね?」
棒が押し込まれ、強く前立腺に当たって、グリグリとそれを回しながら押し付けてきた。
「いあ゙ッッッぁ゙ッア゙ーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
頭の中や身体中を掛け巡る致死量みたいな電流は多分快感なんだろう。最早シーツを蹴る事すらできず、ずっと握っていた手錠から手が離れてその手は変な形で硬直し、足も爪先までピンと伸びて硬直する。腰は引けて、同時に背中が弓なりに浮く。
「すごい格好。絶景。素敵だからスケッチ取りたい。……でも、あまりこの体勢で居させるのは、身体が辛そうだから後で取るね。」
雪也はそう言って棒を引いてくれて、俺の身体はシーツの上に落ちた。
「…ぁ゙、ぁ、ぁ、っ、は、ぁ…ぁ……ぁ…」
前立腺から棒が引かれたのに、まだまだ身体中を掛け巡る残り香のような快感に小さな喘ぎを漏らす。ぐったりと身体から力が抜けて、顔はがくんと傾き、目を閉じた。
「大丈夫?すこし、刺激が強かったかな。まだ、寝ちゃだめだよ」
頬を撫でながら雪也は優しく声をかける。俺がゆっくり目を開くと微笑んだ。
「…そろそろ後ろ、解そうか」
雪也が俺が普段借りていた枕の代わりのクッションを腰の辺りに入れると、自然と俺のアナルは雪也に丸見えになる。
棒の時に使ったボトルからジェルを右の掌に出し、ボトルをチェストの上に置き、両手でぐちゅぐちゅと広げて温める。チェストから出したボトルは見たことがないものだったが、普段のセックスのときも、雪也は別のジェルを両手で広げて温めてくれていた。
強い刺激のせいでまだ俺の頭はぼーっとしていたが、少し見慣れた景色に、胸を撫で下ろしていた。
(…普段のユキ、だ…)
アナルの入り口にジェルを塗り、中指が潜り込んでいく。
「んっ…あっ…」
慣れることはない。毎回声が上がってしまう。
中を広げるようにぐるりと一周すると、少し引いて人差し指を添えてズブズブと潜っていく。指が動くたび、与えられる快感に無意識に腰が動く。
「あ、あっああっんん…」
アナルを掻き回していた雪也が笑いを含んだ声で「凄いよ」と言ってきた。
「さっきのすごい絶頂の残りだろうね、中がビクビクしててうねうねしてる。かわいいよ盟。中に入ったら気持ちいいんだろうな。あまり丁寧に解さなくても、全然大丈夫そうだよ。トロトロだもん」
中の前立腺を押され、「アアッ!!!」と高い声が上がった。
そこで何かを思いついたのか、雪也がおもむろにペニスの棒を掴んだ。え、と思っていると、またズブズブと沈められ、俺の口から大きな悲鳴が上がる。コツ、コツ、と尿道の前立腺を刺激しながら、中の前立腺をグリッグリッと何度も押した。
「ヒッ!!ぃあ゙あ゙あ゙あーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!アァッ!やあ゙あ゙ああァァッッ!!!止めてェェッッッ!!!やあ゙ーーーーッ!!」
首を捥げるのではないかと言うくらい左右に振り、髪がバサバサと乱れる。また致死量のような快感の津波に気が触れてしまいそうだった。涙が勝手に溢れてくる。
雪也はしばらくやって満足すると「あはは」と言いながら棒から手を離し、アナルから指を抜いた。
「凄いね。気が狂ってしまいそうな感じ。両方から押し潰されたらそりゃ気持ちいいよね。…どうだった?最高でしょ」
「……っや、ら……おかひく、なう………ばか、んなぅ…」
「呂律まわってないね。かわいい。おかしくなるくらい気持ち良かったんだ」
満足に言葉を発することすらままならない俺をあやすように頭を撫でて微笑むと、ジーンズの前をくつろげて、勃起したペニスを取り出した。
反り返って臨戦態勢のそれを俺のアナルにピタリと付ける。押し入ってきたペニスはいつもより硬く太く、今日ほど「凶器だ」と感じた事はなかった。
「ア゙アアッひっ、ああっ!!ン゙ンンッ!!!」
…苦しい。
犬のような呼吸で身体の力を抜く努力をして、苦しいのを逃がす。
雪也は俺のマッチ棒みたいな両足をひょいと持ち上げて、肩に担ぐと、更に奥へと突き進んでくる。
「ア゙アアッ!!やァッ!ゆき…ぃ、でかぃッ!こわい…ぃ!!」
「怖くないよ、大丈夫大丈夫。…ほら、いつも入ってるとこまでついたよ」
「アッ!あ、あぁ…ん…ぅ」
「あー、気持いい。すごく中がトロトロで、キュウキュウで、ビクビクしてて。またこの棒動かしてもいいかな?」
こっちは最早虫の息なのに、雪也はニコニコとペニスの棒に手を掛けた。
「やっ…!!!らめ、らめ…ッ!……しないで…!!」
これ以上やられたら今度こそ死んでしまうかもしれない。そう思いながら首を捥げそうなほど左右に振る。
「だめ?まあ、いいや。…じゃあ動くよ」
ゆるゆると動き出した雪也のペニスは、一度引く度に内臓が持って行かれそうになる。押し込まれるたびに内臓が心臓まで来るんじゃないかと思う。ゴリゴリとずっと前立腺を刺激されながら、俺は嬌声を上げ続ける。
「やああっ!あぁあっ!あぁっ!はぅっん!あ、ひッ!あああん!!アアッ!くる!きちゃう!やっ…!っーーーーーーッ!!!」
「あは。まだ入れたばかりなのに、もう空イキ?すごいペース」
いつの間にかスラストのスピードはパンパンと音がするほどに早く強くなっていて、その度に俺の視界はハレーションを起こして精液の出ない絶頂を繰り返す。
俺の嬌声が途切れ途切れになりかけた頃、雪也は顔を覗き込んできた。
「……ねえ、俺まだイってないよ。ちゃんと着いてきてよ」
…目の笑ってない、笑顔。
俺は背中に冷たいものが走った。
「じゃあ、開けちゃおうか、結腸。そうしたらまだ鳴けるよね?」
(けっちょう?なに?……ユキは、まだ俺に何かするの?…怖い、もうこわい、頭も身体もおかしくなる…)
「ぁ、あ…ごめ、なさ…ァアアッんんッ」
俺の言葉を聞かず、いきなり動き出した雪也は奥の方をグリグリと前後する。そして、グイグイと更に奥まで腰を進める。
「アアッ、あっあっ、らめ、そこ…らめなとこッ!!やら、これ以上は、らめ……ァアアッッ!!」
────にゅる、ぐぽっ…
俺の喉がカヒュッと鳴った。
「あっあ、あ、あ……ッ」
「ほら、入ったよ。どう?気持ちいいよね。ここでゴリゴリしたらもっと気持ちいいよ」
ぐぽっぐぽっと体内で結腸の入り口で入ったり出たりするペニスの音が響くのがわかる。
なんでここまでペニスが届くの。普段は全部入れてなかった?快感でまともに働かない頭は訳のわからない事をぐるぐる思考する。
「ア゙アアッ…あ゙ぁあ゙あ゙あ゙っ!!!ン゙ンンッッ…カヒュッ……はうゔぅ゙ぅ゙…ッッ…い、ぐぅ…っ…も、いぐぅ…」
「うん。俺も。一緒にイこう?ほら、イっていいよ」
────グポン
「……っヒッ…ァ゙ァ゙ァ゙あ゙あ゙ああーーーーーっっ!!!」
空イキの俺の絶叫と共に、びゅるるるっとお腹に熱いものが流れこんでくる。終わらない射精を感じながら、俺は意識を失った。
目が覚めると、俺は裸で、ペニスの棒は刺さっていなかった。ただ、ペニスはジクジクと痛む。
ペニスだけじゃない。頭も全身もズキズキと痛い。でも、とりあえず喉が渇いたから水を飲もうと起き上がろうとした。
────カシャン
「……え?」
右手だけがベッドヘッドに繋がれている。左手は自由だ。
(なんで?なんで?…ユキは、どこ行ったの?)
俺の頭は大混乱だった。雪也はなんでこんなことをしたのか。雪也はどこなのか。今何時なのか。
寝室のカーテンは遮光カーテンのため、部屋は真っ暗で今何時なのかが分からない。それに行為の最中からずっと引っかかってる『俺の盟』の言葉。
心臓がドクドクと早鐘を打つ。
ガラッと寝室の引き戸が引かれて、普段の笑顔の雪也が顔を覗かせた。
「ああ、起きた?よかった。盟、丸一日寝てたから」
「え、ま…丸一日?っあ、バイト…!シフト!今日は両方入ってて…」
「電話してあるよ、俺が」
そういえば入院したときも雪也がバイト先に休む連絡を入れてくれていた事があった。それと同じかな、と思っていたら、雪也の次に紡がれた言葉に絶句した。
「辞めます、って」
「…え」
「働かなくていい、外に出なくていい。俺が全部面倒をみてあげる。だからさ…」
────俺のものになってくれるよね?
駐輪場にスクーターを停めて、肉じゃがのタッパーを取り出して左手で持つと、合鍵でオートロックを解除して中に入る。
エレベーターに乗ってる間にスマホを見たら17時半。まだ、雪也の仕事の定時まで時間がある。家には居ないだろう。
(…どうしよ、コレ)
タッパーをちらりと一瞥して溜息をついた。
フロアについて、部屋の前まで早歩きで進み、合鍵を鍵穴に挿して回す。ガチャリと開いた扉からはいつもの玄関の芳香剤の香りがする。
ゴム製のサンダルを脱いで、ダイニングキッチンの扉を開くと、肉じゃがのタッパーをダイニングテーブルに置いた。
リュックを雪也に指定されているところに下ろして、リビングに戻り、人をダメにするビーズソファーにダイブした。
前に適当なところにリュックを放り投げたら、一瞬すごく嫌な顔をして、すぐに笑顔を貼り付けると、語気こそ優しかったが、「そこに置かないで、前に言った所に置いて?」と怒られた。あれを怒られたと感じ取れるのは、俺の気質故だろう。そういうのは、人より敏感だ。
雪也は綺麗好きだし、きっちりしてるし、器用だし、少し神経質だけど人当たりもいいし、俺みたいに仏頂面じゃない。昔から。
児童養護施設も、俺よりあとに入ってきて、俺より先に出ていった。
(…何が理由で施設に来た、とかは聞かないのが暗黙のルールだったし、な。)
「俺、ユキのこと、なんも知らない…かも」
ビーズソファーに顔を埋めたまま、ボソリと呟いた。
────でも、ユキとはいえ、踏み込むのは良くない。
そうなんだけど。そうなんだけど、雪也は俺のことどう思ってるんだろう。
俺のこと、女みたいに何回も抱いてたけど、どんな気持ちだったんだろう。ずっと流されてる俺もだけど。
(……俺は、分かんない。最中はいつも何が何だか分からなくなるから…)
考えても考えても分からない。元々俺は馬鹿だし、考えたから何かが変わる訳でもない。
────ガチャ
「ただいま、盟」
雪也の声が聞こえてきた。変なことを考えている間に、そんなに時間が経ってしまったのか。
ビーズソファーから顔を上げるとニコリと笑った雪也が俺の頭を撫でた。
「バイトお疲れ様。…寝てた?起こしてごめんね。」
「んーん、寝てない、大丈夫」
身体を起こして立ち上がろうとしたら、「盟」と名前を呼ばれた。一瞬身体が強張ったが、「何?」と言うと、雪也は片手に肉じゃがのタッパーを持っていた。
「…これ、どうしたの?」
「あ、それ。パートの安倍さんがお裾分けでくれた」
「…まだ夏じゃないから大丈夫だけど、こういうのは、今度から冷蔵庫に入れてね。せっかく頂いたのに饐えて食べれなくなっちゃうから」
「あ……うん、ごめん」
「次やってくれれば大丈夫。怒ってないよ」
「…うん」
「じゃあ、今からご飯の支度するから、待ってて。」
「はーい」と返事をしてビーズソファーに座ると、テレビのスイッチを入れた。
ニュース番組。母クマと仔クマが町に降りてきて、住民を襲って怪我をさせた事件。
クマも森が無くなってきたからご飯食べれてないんだろうな。
…でも、テレビで映ってるクマを見る限り、母親は決して子を見捨てない。動物でもそれが出来るのに、一部の人間はそれが出来ない。
人間の親は、血の繋がった子を見捨てることがある。
俺は捨てられた子供。親は俺に興味がなくて、俺は居ないものだった。学校だって行かせてもらえなかったし、飯や風呂や服だって貰えなかった。たまに喋れば、ご飯が欲しいと言えば叩かれた。親は殆ど家に居なかったし、そのうち電気も水道もガスも止まった。
多分9歳の夏。意識が殆どなかったところに児童相談所と警察の人が来た。俺には戸籍が無かったため、警察と児童相談所が見つけるまで時間が掛かったらしい。俺の名前は児童養護施設の人がつけて戸籍を取り、施設に入って、初めて普通の子と同じ生活ができるようになった。高校卒業と共に施設を出て、いろんな仕事をしている。生活は安定しなくて、お金が無くて暮らす所が無いときだってあった。
住むところがなくてネットカフェで暮らしていたタイミングで客として来た雪也とバイト先で偶然再会して、現状を話したら、同情した雪也の勧めで、今はありがたいことに転がり込ませてもらってる。
(…ユキ、迷惑じゃなきゃいいんだけど。でも、俺全然お金貯まらないしな)
雪也は、どうして施設に来たんだろう。
聞いてはいけない、一番心の膿んだ部分に触ることになるから、聞いちゃいけないんだけど。…俺だって、自分の事を話せと言われたら拒否をするんだから。
覚えてる限り、俺より遅く────雪也が中学1年生くらいの時に施設に来た。ずっと怖いくらいの微笑みをたたえたまま、俺たちと生活して、俺は特に仲が良かったと思う。勉強をよく教えてもらった。雪也は高校1年のときに父親という人が迎えに来て、施設を出ていった。それきりだ。
テレビから視線を外してキッチンを振り返ると、何かを切って焼いているのか、フライパンで何かが焼ける音と包丁で何かを切る軽快な音がする。雪也は料理が上手い。味も美味しいし、手際も良い。盛り付けだって、お店で出てきそうな盛り付けだ。どこにも“男料理”みたいな感じが無い。
昔から何をさせても完璧なのだ。怖いくらいに。
会社でも、きっとそうなんだろうな。だから定時で帰れる。あまり残業をしたというのは聞かない。『広告デザイナー』って言ってたけど、それがどんな仕事なのかは俺は分からない。なんかのデザインするんだろうな、くらい。
「…こっちを見てどうしたの?何か気になる?」
ずっとキッチンを眺めていた俺に気付いたのか、雪也が声を掛けてきた。
「いや、なんでもねえけど…」
「ご飯なら、もう出来上がるよ。今日は食べれる?」
「すこし」
「良かった。少しずつ食べれるようになろう」
「……う…うん。そうだな…」
俺は食事が苦手だ。小さいときからまともに食べられる環境じゃなかったから、食べると怒られるんじゃないかという恐怖があって、なかなか食事を口に運ぶことができない。施設の大人や学校の教師たちは「食べなさい」と大きな声を出して無理やり食べさせてきたけれど、そう言うのは吐いてしまっていた。
それをそばで見ていた雪也だけは寄り添ってくれて、俺が箸すら持たないときは、雪也が箸で小さく小さくした食べ物を口まで運んでくれた。最初はずっと突っぱねていたが、「少しずつでいいんだよ。少ない量でもいいから。誰も怒らないから。怒る人はもう居ないから」と言ってくれた。その言葉を聞いて、俺は多少食べれるようになった。雪也は1食を俺が「ごちそうさま」するまで食べるのを何時間でも隣りに居て見ててくれた。
皿に盛った野菜の肉巻きポン酢がけと、オクラのおひたしの小鉢と、俺が安倍のおばちゃんから貰った肉じゃが、茶碗に盛られた白米に豆腐の味噌汁がダイニングテーブルに並ぶ。俺の茶碗のご飯は仏様のご飯みたいな量にしてくれてある。雪也ならではの気遣い。
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせて、向き合って食事を取る。
野菜の肉巻きを食べた雪也は「うん」と一言頷いて、追って白米を食べるそれを飲み込む頃、俺がゆっくりオクラのおひたしを一つ摘んでいたら、スマホが鳴った。俺のスマホはポケットの中で振るえていないので、鳴っているのは雪也のスマホからだった。
画面を見ることは叶わなかったが、画面を見つめて数秒考えていた雪也は、小さいため息をついて、スマホを持って立ち上がり、寝室へ行ってしまった。
聞かれたくない内容なのだろうか。
そういえば、前に掛かってきた電話のときは、寝室で電話する雪也がスピーカーモードにしていないのに、相手の女性がヒステリックに何かを叫んでいるのがリビングにいた俺にも聞こえた。ビックリして思わず雪也の顔を見たが、いつもの微笑んだ顔で黙ってスマホに耳を当てていた。そのうち気が済んだのか、ヒステリーを続ける女性の話し途中に電話を切っていた。
今日のもそんな感じなのかな、と思いながら俺はダイニングで黙っている。リビングダイニングの隣の部屋が寝室のため、受け答えする声だけ、少し聞こえる。
「…Hello?…Why did you call me?」
(……英語?なんで?外人さん?友達かな、取引先の人かな。…何言ってんだろ…)
俺のご飯を食べる手が完全に止まる。馬鹿な俺でも流暢な英語なんだな、ということは分かる。ただ、雪也が何を言っているのかは俺はまったく分からない。
10分くらい話していただろうか。寝室からスマホを持って戻ってきた。
(…相手、気になるな…。……でも聞いたら怒るかな…)
箸が完全に止まって俯いて考えていた俺に、何を考えていたのかだいたい汲み取ったのか、雪也はクスリと笑って、お箸とお茶碗を手に取った。
「…さっきの電話、俺がイギリスに住んでた頃のクラスメートだよ。今度、バケーションを取って来日するから、東京の観光案内を頼まれたんだ。」
肉じゃがのじゃがいもを茶碗の上に一度バウンドさせてから、そう話して、じゃがいもを口に運んだ。
「…え?外国にいた事あんの?」
「うん、施設出てから、大学卒業するまでイギリスに」
「へえ…初めて知った」
「話してなかったっけ。日常会話だけなら3ヵ国語話せるよ。英語、フランス語、イタリア語。家でも父との会話は日本語と英語が混じっていたし、今では仕事の取引先とも英語のときがあるよ」
「え……すげえ…。え、なんの大学行ってたの?」
「ロンドン芸術大学だよ。油絵を専攻してた」
施設でも絵を描く雪也は見たことがなかったから、雪也が絵を描くなんて考えたこともなかった。
でも、よく考えたら、仕事でデザインをするんだからそういう絵の知識は必要なんだろう。
馬鹿でなんの取り柄のない俺とは、最初から次元が違う。
知ることができて嬉しいのに、なんだか少し寂しかった。
「ユキの、描いた…絵が見てみたい…」
俺が一生懸命勇気を振り絞って出した言葉の言葉尻は、最後は殆ど聞こえなかっただろう。
「いいよ。殆ど油絵はイギリスの実家と大学に置いてきてしまったから、ここにはラフ用のスケッチブックしかないけど。それでもいい?」
俺は首をブンブン縦に振った。俺のポニーテールが頭の動きにあわせて揺れた。
俺は早々に食事をリタイアし、雪也が食べているのをずっと眺めている。
雪也は昔から食事の所作も綺麗だし、咀嚼音すらない。お椀やお茶碗、箸を置く音すら立てない。俺と食事をしてるから食べながら会話したりするけど、多分きっとそう言うのも本当は嫌かもしれない。俺が食事を終えてから一言も喋らないし。きっといいとこの子だったんだろう。親の躾が厳しすぎて、虐待認定されて、施設に来た感じかな…。だって、お金が無いと海外の大学なんてきっと普通は行けない。
施設にはいろんな子がいたけど、重度、中度、軽度で分けるなら、多分雪也は中度から軽度くらい。いわゆる『親ガチャミスった』感じ。俺可哀想を出すわけじゃないけど、見つかったときにウジが湧いてて、戸籍すらなかった時点で、俺はきっと重度。
俺らみたいな施設出でもこんなに格差がある。
それでもみんなに言えるのは、みんな親のせいで心や体に傷を負ってる。一生掛かっても治らないような。どうしようもないような、どこにもぶつけられない怒りとか、悲しみとか。
一生周りの人間の顔色見て生活して、一つあるごとに怯えて悩んで。
自暴自棄なのか、騙されやすいのか、正しい判断に頭が働かなかったのか、犯罪に走るやつだっている。軽犯罪ならまだしも、どうしようもないような怒りを人にぶつけたりモノにぶつけたりして、重い罪になった奴とか。
虚空を見つめてダイニングの椅子に腰掛けて考えていたら、いつの間にか、雪也が「ごちそうさまでした」と手を合わせていたのを聞いて、我に返った。
皿を重ねて片付けようとしているのを見て、「手伝う…」と言うと、「座ってて」と返ってきた。
「盟、眠い?絵、見るの明日にする?」
シンクで洗い物をしながら、雪也が問うてきた。
「寝れるなら、寝ときな?普段寝ないんだから。また気絶したって困るのは盟だよ?」
一度リビングで卒倒して気絶したことがあった。不眠症で、十日程睡眠をしていなくて、日中にバイトに行こうとして、いきなりリビングで崩れ落ちて気絶寝をしたのだ。その時はフローリングに頭を強く打ち、心配した雪也が救急車を呼んだ。幸い、頭を打ったところはたんこぶで済んだが、おかげで不眠症が引き起こした気絶というのが病院にバレて、精神安定剤と睡眠薬投与しながら五日間の入院をした。その間、シフトに穴を開けることになってしまい、バイトができず、稼げないのが辛かった。
その後も病院から不眠症治療の通院をするよう言われたが、お金がないので一度も行っていない。
「違くて。その…えっと。眠くなくて、考え事してただけで。」
「考え事?」
「……ユキの事、俺あまり知らねえなって。知りたいなって。でもユキ、迷惑かなとか、嫌かなとか…」
普段笑顔の雪也の顔が豆鉄砲食らったような顔になった。
すぐに普段の顔に戻り、キッチンから出てきて、俺の前に来ると、前屈みになって、さっきまで水仕事をしていた湿った大きな両手で俺の顔を包み込んだ。
一瞬だけ、殴られるのかと思ってビクッとして目を瞑った俺に、フフ、と笑うと、「いいよ」と優しい声が降ってきた。
俺は目を開いて雪也を見上げた。
「盟は特別だから、いっぱい教えてあげる。俺の事」
何故か寝室に手を引かれて連れて行かれた。
「横になって?」と言われて、なんで、と言おうとしたが、目を見たら分かった。これは、理由を聞いてはいけないやつ。ごくたまにある、雪也の無言の圧力。
黙ってベッドに上がる。言われたとおり横になると、雪也も俺の身体をまたぐようにベッドに上がった。今、俺の上で雪也が馬乗りになってる。
「…なあ、何を教えてくれんの。……ベッド、関係あんの?…絵は…?」
「言ったでしょ。俺の事教えるって。大丈夫、少し怖いかもしれないけど、すぐに慣れるよ。痛くしないし」
「…え?」
────カシャン
俺が聞き返すのが早いか、雪也の行動が早いか、両手を纏められて手錠を掛けられた。手錠の鎖がベッドヘッドの柵を通っているので手が頭より上に上がる。
「え?…え、俺……なんで、手錠?なんで?ごめん、気を悪くしたなら謝るから、取って、取って!ごめん!ごめんなさい!」
ガシャガシャと手錠を揺らしながら俺はパニック状態になった。
気に触った、やっぱり聞いちゃいけなかった。馬鹿な俺は図に乗った。調子に乗った。パニックの中で自分の後悔が頭の中を早足で掛け巡る。
パニックで頭を必死で振っていたら、プチンと音がしてポニーテールのヘアゴムが切れたらしく、シーツに中途半端に長い髪が広がる。けどそんなのを気にしてる余裕なんてなかった。雪也に嫌われる恐怖と、現状置かれた恐怖、「ユキの事教えて」と軽々しく言った罪悪感。これから何をされるのかわからない恐怖が頭と心を支配する。
表情の変わらない雪也に震えながら「ごめんなさい」と壊れたおもちゃみたいに謝るが、満足に動かせない両手、足は雪也が乗っているのでバタつかせられない。身動きの取れない中で上半身を捩るだけの芋虫みたいな状態。暴れているせいで肩を少し痛めたのか、ギシギシ悲鳴を上げる。それを見て、雪也が「ふふふ」と笑った。
「…可愛い、俺の盟。そんなに暴れると手首に傷がつくよ。俺は怒ってもいないし、盟が俺に興味を持ってくれた事が嬉しいんだ。だから、これからするのは、俺が盟にする大好きな事だから、…身体で覚えて、全部受けとめて?」
俺の髪を手櫛で梳きながら、ウットリとした顔で言ったあと、俺を抱きしめた。
なんだかよく分からない状況だが、雪也の体温に抱きしめられて少し落ち着いた俺は、暴れたせいで乱れた呼吸のまま、小さく雪也に尋ねた。
「…怒ってない?…痛くしない?」
「うん。全然怒ってない。大丈夫、痛いことなんてしないよ、約束する」
そう言って身体を離すと、当たり前のように俺のジャージのジッパーを下ろしきって開くと、タンクトップを胸上まで上げた。
色白の、平たくて貧相で骨の浮いている上半身が露わになる。浮いた肋骨をなぞるように、雪也の手が這わされ、擽ったくて少し身を捩った。そのまま次第に上へと上がっていき、整えられた爪が右胸の乳首を強く掠めた。
「…っん」
「盟は乳首を触られるの、好きだよね」
「違…」
「違わない。だって、少し掠めただけでこんなに乳首が勃ってる。薄いピンクだったのが、濃く色付いて、触ってって言ってる」
「ッやだぁ…いうな……ッ」
恥ずかしくて首を左右に振る。
右の乳首を触るか触らないかのところをくるくると指がなぞりながら俺の反応を雪也はいつもの笑顔で楽しむ。
「…女よりいやらしいよ。盟可愛い。左の慎ましやかなのもいいけど、右の待ちきれなそうに勃起してるのも可愛い」
言っているうちに焦らしていた指が右の乳首をキュッと摘んだ。
「ひあっ!?…あぅぅ…んんッ」
強弱を付けて人差し指と中指で摘んで、親指で乳頭をさわさわと撫でる。
俺は胸の刺激に耐えかねて動かせる背中が弓なりに少し浮いた。
「あはは、可愛いね。背中反らして胸を強調して。もっと触ってほしいの?」
言うな否や、左の乳首もギュッと摘んだ。
ジンジンといじられた余韻を残す、散々弄んだ右の乳首に顔を寄せ、パクリと口に含む。温かい舌先で乳首弾いたり下から上にゆっくりと舐め上げた。
「ッあ゙ーーッダメ!ひっ、嫌だ、やだぁ!あうぅ…」
快感に堪らなくなり、首を振り、俺は背を反らしたままガシャガシャと手錠を鳴らすしかできなかった。手錠の僅かに握れるところを強く握って、快感に耐えようとする。
そんな努力は俺の乳首を雪也が強く吸った事により見事砕け散った。
「あ゙ッ!!!それ、いやぁッ!!ン゙ーーーーッッ!!!」
イッた。
ブルブルと身体が強張って、やがて弛緩する。
それを分かっていながら、雪也は左の胸にも一度キスをして口を付けるとひと舐めしてから、さっきより強い力で吸った。
「ゃ、イッた、からやめ…ア゙アァァッ!!」
一度イッて敏感になっていた俺は間を空けずに二回イかされ、グッタリする。
体力も持久力も底辺だし、性欲だって元々あまり無い方だから、俺はもう限界に近い。
びっしょり汗をかいた額や頬には髪の毛が張り付いている。
顔をそっぽに向け、激しい運動をしたあとみたいな荒い呼吸で胸を上下させながら、ちらりと目だけで雪也を見上げる。
(…これが…ユキが俺にする、好きなこと…?)
胸から顔を起こした雪也は、楽しそうな顔をしている。一見、いつもの笑顔だけど、俺には見分けがつく。
「じゃあ…下脱ごうか。二回もイッちゃったから、ビショビショだね、きっと」
そう言いながらジャージのズボンと下着に手を掛けると、2つとも一気に下ろしてしまった。雪也は一度身体をずらして、ズボンと下着を俺の足から抜き去ってしまう。
俺のくたりとしたペニスを見た雪也は一つ笑みをこぼして、それを弄び始めた。
「体格どおりに小さくて、ビショビショで、エロいね。……元々体毛も薄いからココの毛も殆ど生えてないし、これは剃る必要ないか。」
ぐちゅぐちゅと音を立てながら大きな手で扱かれてだんだん芯を持ち始めるペニスの刺激に、やっと自由になった足は膝をすり合わせながら足先はシーツを蹴る。俺の口からは意味を成さない「あ」や「や」や「う」しか出てこない。
いつも抱かれると違って、手の自由はないし、雪也の口数が多くて、いつもより恥ずかしいことを言われて、別の人に抱かれてるみたいで少し怖い。でも抱いているのは間違えなく雪也で、そんなチグハグな状況にいつもより体温の上がってる俺がいた。
「ゃ、やァ…ッ!も、チンコ痛い、手ェ、離してぇ…」
雪也の手から逃れようとするが、体格による力の差は歴然としていて、しかもペニスを握られているから、無理に逃れられない。
白濁の混じった先走りがダラダラと零すはしたない俺のペニスはもうしっかり勃っていて、元々色の薄いペニスは限界が近いのを知らせるように赤く色づいてる。
「もうイきそう?…だめ。」
パッと手を離され、達しそうだった熱は中途半端に下半身をぐるぐるする。
「…ぇ」
俺がぽろりと声を上げると、雪也は汚れていない手で俺の頭をひと撫でして、俺に「絶対に開けないで」と言っていたベッド横のチェストを開けて、棒状の何かと何かのボトルを取り出した。
「……なに、するの…」
「んー?」
はぐらかしながら棒にボトルの中身を纏わせる。ジェル状のそのボトルの中身は棒を伝って俺の太ももに垂れた。
「ココに、この棒を入れるの。気持ちいいよ」
ココ、と言いながら俺のペニスを握り、尿道の入り口に棒を当てた。
「……ッやだ…しないで…!やだ…痛い…痛いことしないって言った…!」
「大丈夫、気持ちいいから」
俺の拒否を一蹴すると、尿道にその棒をクルクルと回しながら少しずつ刺していく。
「ぁあ゙あ゙っ!!あっあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッッ」
身体が怖くて喉を反らして硬直する。吐き出そうとしていた精液が押し戻される感覚と隙間からドロドロと溢れていく感覚、異物がズルズルと入り込んでくる有り得ない感覚が頭をスパークさせる。目の前が白黒にチカチカと点滅していて、自分でも聞いたことのない絶叫が口から飛び出す。
「ァァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッン゙ン゙ン゙!!!やああぁあ゙あ゙ッッッ」
地獄のような時間。何分経ったかなんて分からない。物凄い長い時間、頭を殴られるような衝撃を受け続け、ペニスは途中から何が何だか分からない感覚が快感に変わった。知らぬうちに気が狂いそうで目を強く瞑っていたと思っていたら、「ほら、終わったよ」と雪也の声が遠くで聞こえて、目をゆっくり開いた。
「ハッ、ハッ、ぁ、ぇ…ぁ」
息も絶え絶えに、自分のペニスを見遣ると、尿道口が真っ赤になって棒が突き刺さっていた。
「これはまだまだ細いやつだから、これからだんだんステップアップしていこうね」
「…えっ…」
笑顔で言われた雪也の言葉に、俺は言葉を失った。
雪也は棒に付いていた輪っかを俺のペニスにパチンッと嵌めると、一度そばにあったタオルで手を拭いて、俺の頬を包み込んで目を合わせた。とても楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうな笑顔。
「これで、棒が取れることないから、大丈夫だよ。気持ちよくなろうね。大丈夫。今の盟、とーっても可愛いよ。世界で一番かわいい、俺の盟。…受け止めてくれるって、言ったよね?」
「…え…ぁ…っ」
そういえば寝室に入ってから聞く『俺の盟』。────あれは、どういう意味?俺は、『雪也のもの』?
…受け止めるって何を。雪也の事を知りたいだけなのに。雪也の教えてくれるものを『受け止める』ってこと?『理解』じゃないの?
フリーズして一瞬考えていたら、雪也は俺の聴いたことのない歌を鼻歌で奏でながら、ペニスの棒をグチュッと音を立てて動かした。
「ッア゙アッ!!」
身体がはねてバチッと頭に電気が走った感覚がした。
「もう少し、行けるね。少しだけ沈めたら、ゴールに辿り着くよ」
ズブ、ズブ、とちょっとずつ俺の顔を見ながら棒を沈める。
「ア゙、ア゙、ア、ア゙ァ、ア゙ッ」
こつ、と何かに触った途端、俺は手足をピンとして言葉の無い絶叫を上げた。
「ッーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
開いた口のはしから、水っぽい涎が頬を伝った。
その反応を見た雪也は「ふふ」と笑って、少し引いてはコツコツと何かに刺激を与え続ける。
「アアッァ!!や!!そこらめ、アアァッ!!ヤダ!!こわい!!止めて!!あ゙ッ!!ん゙ーーーーーーーーーーっっっ!!!」
尿道口から、ちょろ、ちょろ、と精液じゃない何かが少しずつ漏れる。
「気持ちよさそう。空イキした上に潮まで漏れてるね。いい?ここが尿道から触れる前立腺だよ、盟。…気持ちいいよね?」
コツ、コツ、コツ。なんども分からせるように棒で触ってくる。その度にビクビクと俺の身体は反応して嬌声を上げる。
「ぐりぐりしたら、どうなるかな。…盟、気持良すぎるかもしれないけど、耐えてね?」
棒が押し込まれ、強く前立腺に当たって、グリグリとそれを回しながら押し付けてきた。
「いあ゙ッッッぁ゙ッア゙ーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
頭の中や身体中を掛け巡る致死量みたいな電流は多分快感なんだろう。最早シーツを蹴る事すらできず、ずっと握っていた手錠から手が離れてその手は変な形で硬直し、足も爪先までピンと伸びて硬直する。腰は引けて、同時に背中が弓なりに浮く。
「すごい格好。絶景。素敵だからスケッチ取りたい。……でも、あまりこの体勢で居させるのは、身体が辛そうだから後で取るね。」
雪也はそう言って棒を引いてくれて、俺の身体はシーツの上に落ちた。
「…ぁ゙、ぁ、ぁ、っ、は、ぁ…ぁ……ぁ…」
前立腺から棒が引かれたのに、まだまだ身体中を掛け巡る残り香のような快感に小さな喘ぎを漏らす。ぐったりと身体から力が抜けて、顔はがくんと傾き、目を閉じた。
「大丈夫?すこし、刺激が強かったかな。まだ、寝ちゃだめだよ」
頬を撫でながら雪也は優しく声をかける。俺がゆっくり目を開くと微笑んだ。
「…そろそろ後ろ、解そうか」
雪也が俺が普段借りていた枕の代わりのクッションを腰の辺りに入れると、自然と俺のアナルは雪也に丸見えになる。
棒の時に使ったボトルからジェルを右の掌に出し、ボトルをチェストの上に置き、両手でぐちゅぐちゅと広げて温める。チェストから出したボトルは見たことがないものだったが、普段のセックスのときも、雪也は別のジェルを両手で広げて温めてくれていた。
強い刺激のせいでまだ俺の頭はぼーっとしていたが、少し見慣れた景色に、胸を撫で下ろしていた。
(…普段のユキ、だ…)
アナルの入り口にジェルを塗り、中指が潜り込んでいく。
「んっ…あっ…」
慣れることはない。毎回声が上がってしまう。
中を広げるようにぐるりと一周すると、少し引いて人差し指を添えてズブズブと潜っていく。指が動くたび、与えられる快感に無意識に腰が動く。
「あ、あっああっんん…」
アナルを掻き回していた雪也が笑いを含んだ声で「凄いよ」と言ってきた。
「さっきのすごい絶頂の残りだろうね、中がビクビクしててうねうねしてる。かわいいよ盟。中に入ったら気持ちいいんだろうな。あまり丁寧に解さなくても、全然大丈夫そうだよ。トロトロだもん」
中の前立腺を押され、「アアッ!!!」と高い声が上がった。
そこで何かを思いついたのか、雪也がおもむろにペニスの棒を掴んだ。え、と思っていると、またズブズブと沈められ、俺の口から大きな悲鳴が上がる。コツ、コツ、と尿道の前立腺を刺激しながら、中の前立腺をグリッグリッと何度も押した。
「ヒッ!!ぃあ゙あ゙あ゙あーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!アァッ!やあ゙あ゙ああァァッッ!!!止めてェェッッッ!!!やあ゙ーーーーッ!!」
首を捥げるのではないかと言うくらい左右に振り、髪がバサバサと乱れる。また致死量のような快感の津波に気が触れてしまいそうだった。涙が勝手に溢れてくる。
雪也はしばらくやって満足すると「あはは」と言いながら棒から手を離し、アナルから指を抜いた。
「凄いね。気が狂ってしまいそうな感じ。両方から押し潰されたらそりゃ気持ちいいよね。…どうだった?最高でしょ」
「……っや、ら……おかひく、なう………ばか、んなぅ…」
「呂律まわってないね。かわいい。おかしくなるくらい気持ち良かったんだ」
満足に言葉を発することすらままならない俺をあやすように頭を撫でて微笑むと、ジーンズの前をくつろげて、勃起したペニスを取り出した。
反り返って臨戦態勢のそれを俺のアナルにピタリと付ける。押し入ってきたペニスはいつもより硬く太く、今日ほど「凶器だ」と感じた事はなかった。
「ア゙アアッひっ、ああっ!!ン゙ンンッ!!!」
…苦しい。
犬のような呼吸で身体の力を抜く努力をして、苦しいのを逃がす。
雪也は俺のマッチ棒みたいな両足をひょいと持ち上げて、肩に担ぐと、更に奥へと突き進んでくる。
「ア゙アアッ!!やァッ!ゆき…ぃ、でかぃッ!こわい…ぃ!!」
「怖くないよ、大丈夫大丈夫。…ほら、いつも入ってるとこまでついたよ」
「アッ!あ、あぁ…ん…ぅ」
「あー、気持いい。すごく中がトロトロで、キュウキュウで、ビクビクしてて。またこの棒動かしてもいいかな?」
こっちは最早虫の息なのに、雪也はニコニコとペニスの棒に手を掛けた。
「やっ…!!!らめ、らめ…ッ!……しないで…!!」
これ以上やられたら今度こそ死んでしまうかもしれない。そう思いながら首を捥げそうなほど左右に振る。
「だめ?まあ、いいや。…じゃあ動くよ」
ゆるゆると動き出した雪也のペニスは、一度引く度に内臓が持って行かれそうになる。押し込まれるたびに内臓が心臓まで来るんじゃないかと思う。ゴリゴリとずっと前立腺を刺激されながら、俺は嬌声を上げ続ける。
「やああっ!あぁあっ!あぁっ!はぅっん!あ、ひッ!あああん!!アアッ!くる!きちゃう!やっ…!っーーーーーーッ!!!」
「あは。まだ入れたばかりなのに、もう空イキ?すごいペース」
いつの間にかスラストのスピードはパンパンと音がするほどに早く強くなっていて、その度に俺の視界はハレーションを起こして精液の出ない絶頂を繰り返す。
俺の嬌声が途切れ途切れになりかけた頃、雪也は顔を覗き込んできた。
「……ねえ、俺まだイってないよ。ちゃんと着いてきてよ」
…目の笑ってない、笑顔。
俺は背中に冷たいものが走った。
「じゃあ、開けちゃおうか、結腸。そうしたらまだ鳴けるよね?」
(けっちょう?なに?……ユキは、まだ俺に何かするの?…怖い、もうこわい、頭も身体もおかしくなる…)
「ぁ、あ…ごめ、なさ…ァアアッんんッ」
俺の言葉を聞かず、いきなり動き出した雪也は奥の方をグリグリと前後する。そして、グイグイと更に奥まで腰を進める。
「アアッ、あっあっ、らめ、そこ…らめなとこッ!!やら、これ以上は、らめ……ァアアッッ!!」
────にゅる、ぐぽっ…
俺の喉がカヒュッと鳴った。
「あっあ、あ、あ……ッ」
「ほら、入ったよ。どう?気持ちいいよね。ここでゴリゴリしたらもっと気持ちいいよ」
ぐぽっぐぽっと体内で結腸の入り口で入ったり出たりするペニスの音が響くのがわかる。
なんでここまでペニスが届くの。普段は全部入れてなかった?快感でまともに働かない頭は訳のわからない事をぐるぐる思考する。
「ア゙アアッ…あ゙ぁあ゙あ゙あ゙っ!!!ン゙ンンッッ…カヒュッ……はうゔぅ゙ぅ゙…ッッ…い、ぐぅ…っ…も、いぐぅ…」
「うん。俺も。一緒にイこう?ほら、イっていいよ」
────グポン
「……っヒッ…ァ゙ァ゙ァ゙あ゙あ゙ああーーーーーっっ!!!」
空イキの俺の絶叫と共に、びゅるるるっとお腹に熱いものが流れこんでくる。終わらない射精を感じながら、俺は意識を失った。
目が覚めると、俺は裸で、ペニスの棒は刺さっていなかった。ただ、ペニスはジクジクと痛む。
ペニスだけじゃない。頭も全身もズキズキと痛い。でも、とりあえず喉が渇いたから水を飲もうと起き上がろうとした。
────カシャン
「……え?」
右手だけがベッドヘッドに繋がれている。左手は自由だ。
(なんで?なんで?…ユキは、どこ行ったの?)
俺の頭は大混乱だった。雪也はなんでこんなことをしたのか。雪也はどこなのか。今何時なのか。
寝室のカーテンは遮光カーテンのため、部屋は真っ暗で今何時なのかが分からない。それに行為の最中からずっと引っかかってる『俺の盟』の言葉。
心臓がドクドクと早鐘を打つ。
ガラッと寝室の引き戸が引かれて、普段の笑顔の雪也が顔を覗かせた。
「ああ、起きた?よかった。盟、丸一日寝てたから」
「え、ま…丸一日?っあ、バイト…!シフト!今日は両方入ってて…」
「電話してあるよ、俺が」
そういえば入院したときも雪也がバイト先に休む連絡を入れてくれていた事があった。それと同じかな、と思っていたら、雪也の次に紡がれた言葉に絶句した。
「辞めます、って」
「…え」
「働かなくていい、外に出なくていい。俺が全部面倒をみてあげる。だからさ…」
────俺のものになってくれるよね?
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