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◇第2章◇優しくて泣き虫なひと
25 ずっと味方
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「勝手に連れてきて、すみませんでした」
帰りの電車の中で、律に低い声で謝られた。
「ううん、ありがとう。りっちゃんと出かけられて楽しかったよ」
心からの礼を言うと、律は迷子の子供を見つけた親のように安堵と困惑を混じらせた顔で、僕の膝の上にあった手を握ってきた。
向かいの席にはサラリーマンらしき人が座っていて、ちらりと好奇な目を僕らに向けてくる。それでも構わず、律は手を離そうとしなかった。
「俺はずっと君の味方です。これから何があったとしても、それは決して忘れないで下さい」
うんと頷く。
まるで律がどこか遠い所へいくような言い方に一瞬不安になったけれど、現実へ戻る電車で緊張している僕を慰める為に言ってくれたのだろう。
その日からずっと会えなくなるなんて夢にも思わずに、僕はきつく手を握り返した。
パン、と律の頬が叩かれた。
僕の目の前で行われた惨事に、言葉を失ってしまう。
「何処へ行っていたの」
玄関の前で待っていた僕の母親は、僕よりもまず律を責めた。
どうして律が叩かれるの? 僕が悪いのに。
そう口を挟む余地も無いほど、母は頭に血が上っているようだった。
「塾の先生も心配して電話を下さって……これから謝りに行かなくちゃならないのよ、無断欠席した上に行方不明だなんて、先生方にどう思われるか……」
母はひたすら、僕ではなくて世間の評価を気にしていた。
そういえばこういう人だった。
自分の敷いたレールに背いた出来事が起こると、うまく対応ができずに焦って声を荒らげてしまう。
母は頭を抱えてブツブツ文句を言いながら、律を睨みつけた。
「あんな電話1本だけ寄越して居なくなるだなんて、一体何を考えてるの!」
電話?
母に電話を掛けていたのだろうか。
律の片頬は少し赤くなっていたが、凛とした表情で母を見下ろしていた。
律が頭を下げる。
「すみませんでした」
「すみませんじゃなくて、どういうつもりかって聞いてるのよ!」
「まぁまぁ奥さん。怪我もなく無事に戻ってきたことですから、一先ず落ち着きませんか」
顔を向けると、律のお父さんが困ったように笑って母に話しかけていた。
律の父は普段は朝早くに出ていって、夜遅くに帰ってくるのだと律が前に言っていたが、今日は事情を知って仕事をセーブしたのだろう。
だがどこか、他人事のようだった。
息子が引っぱたかれたというのに全く動揺していないのを見て、律とこの人は血の繋がりがないことを思い出す。
「そうですね、煩くしてすみません」
「いえいえ。それでね奥さん、知り合いから聞いた話なんですが……なんでも千紘くんが昨日の朝、虚ろな表情で随分と長いこと、そこに立ち尽くしてたらしいんですよ。息子さんは少し、追い詰められてるんじゃないですかねぇ。それで律も心配になったという訳だと思うんですが……な?」
律はどう反応すればいいのか困っているようで、お父さんから目を逸らして顔をうつ向けた。
母親は心外だといった表情で、律のお父さんをキッと睨んだ。
「私が千紘を追い詰めてるって言うんですか!」
「そうは言っていませんよ。ですがこの炎天下でつっ立ったままだったと聞いたもので。それに……たまに、奥さんの怒鳴り声もこちらの家に聞こえてくるので……少し、熱が入り過ぎているということはないでしょうか」
「幡野さんには関係の無いことでしょう! 知ったような口を聞かないで下さい!」
母は顔を真っ赤にして反論した。
聞かれてはいけない声が届いていたと思い知らされて、羞恥でいっぱいなのだろう。
律のお父さんが一方的に責められているのを、僕と律はぼんやりと見ていた。
「もう、うちには関わらないで下さい。二度と、幡野さんの息子さんには千紘を会わせません」
しばらく言いたい放題言ったあと、母はそう宣言した。
え、と僕は動揺した。
どうしてそんな話になるのだ。
律は僕を助けてくれたのに。
帰りの電車の中で、律に低い声で謝られた。
「ううん、ありがとう。りっちゃんと出かけられて楽しかったよ」
心からの礼を言うと、律は迷子の子供を見つけた親のように安堵と困惑を混じらせた顔で、僕の膝の上にあった手を握ってきた。
向かいの席にはサラリーマンらしき人が座っていて、ちらりと好奇な目を僕らに向けてくる。それでも構わず、律は手を離そうとしなかった。
「俺はずっと君の味方です。これから何があったとしても、それは決して忘れないで下さい」
うんと頷く。
まるで律がどこか遠い所へいくような言い方に一瞬不安になったけれど、現実へ戻る電車で緊張している僕を慰める為に言ってくれたのだろう。
その日からずっと会えなくなるなんて夢にも思わずに、僕はきつく手を握り返した。
パン、と律の頬が叩かれた。
僕の目の前で行われた惨事に、言葉を失ってしまう。
「何処へ行っていたの」
玄関の前で待っていた僕の母親は、僕よりもまず律を責めた。
どうして律が叩かれるの? 僕が悪いのに。
そう口を挟む余地も無いほど、母は頭に血が上っているようだった。
「塾の先生も心配して電話を下さって……これから謝りに行かなくちゃならないのよ、無断欠席した上に行方不明だなんて、先生方にどう思われるか……」
母はひたすら、僕ではなくて世間の評価を気にしていた。
そういえばこういう人だった。
自分の敷いたレールに背いた出来事が起こると、うまく対応ができずに焦って声を荒らげてしまう。
母は頭を抱えてブツブツ文句を言いながら、律を睨みつけた。
「あんな電話1本だけ寄越して居なくなるだなんて、一体何を考えてるの!」
電話?
母に電話を掛けていたのだろうか。
律の片頬は少し赤くなっていたが、凛とした表情で母を見下ろしていた。
律が頭を下げる。
「すみませんでした」
「すみませんじゃなくて、どういうつもりかって聞いてるのよ!」
「まぁまぁ奥さん。怪我もなく無事に戻ってきたことですから、一先ず落ち着きませんか」
顔を向けると、律のお父さんが困ったように笑って母に話しかけていた。
律の父は普段は朝早くに出ていって、夜遅くに帰ってくるのだと律が前に言っていたが、今日は事情を知って仕事をセーブしたのだろう。
だがどこか、他人事のようだった。
息子が引っぱたかれたというのに全く動揺していないのを見て、律とこの人は血の繋がりがないことを思い出す。
「そうですね、煩くしてすみません」
「いえいえ。それでね奥さん、知り合いから聞いた話なんですが……なんでも千紘くんが昨日の朝、虚ろな表情で随分と長いこと、そこに立ち尽くしてたらしいんですよ。息子さんは少し、追い詰められてるんじゃないですかねぇ。それで律も心配になったという訳だと思うんですが……な?」
律はどう反応すればいいのか困っているようで、お父さんから目を逸らして顔をうつ向けた。
母親は心外だといった表情で、律のお父さんをキッと睨んだ。
「私が千紘を追い詰めてるって言うんですか!」
「そうは言っていませんよ。ですがこの炎天下でつっ立ったままだったと聞いたもので。それに……たまに、奥さんの怒鳴り声もこちらの家に聞こえてくるので……少し、熱が入り過ぎているということはないでしょうか」
「幡野さんには関係の無いことでしょう! 知ったような口を聞かないで下さい!」
母は顔を真っ赤にして反論した。
聞かれてはいけない声が届いていたと思い知らされて、羞恥でいっぱいなのだろう。
律のお父さんが一方的に責められているのを、僕と律はぼんやりと見ていた。
「もう、うちには関わらないで下さい。二度と、幡野さんの息子さんには千紘を会わせません」
しばらく言いたい放題言ったあと、母はそう宣言した。
え、と僕は動揺した。
どうしてそんな話になるのだ。
律は僕を助けてくれたのに。
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