きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第3章◇優しくて明るいひと

36 似たもの同士

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「ごめんね、変な言い方して」
「ううん、大丈夫! 心臓バクバク言っちゃった。どうやって返事しようかなって」
「そ、そうだよね、上手な断り方って咄嗟に出てこないよね」
「え、違うよ! もし告白されてたら俺は受け入れたよ。千紘くんと付き合うよって」

 いきなりの爆弾発言に目を瞬く。
 ちら、と律の方を見ると、両手でカップを持って少し俯いていた。

 なんとなくこっちに聞き耳を立てている気がして、僕は頬を熱くしながら声を潜めた。

「嘘でしょ? だって僕、男だよ」
「実はね、周りには内緒にしてるんだけど、俺バイなんだよ」
「えっ、そうなの?」
「きっかけは高校生の頃、カッコイイなぁと思ってたクラスメイトの男に『エッチしてよ』ってノリで言ってみたことがあるんだ。そしたらなんと相手は本気にしちゃって、そのまま学校のトイレに連れ込まれて、シた」
「えぇ~!」

 それって結構すごいことだ。
 僕は当初の目的も忘れて、その話に興味津々だった。

「そ、それからお付き合いしたの?」
「ううん、してない。元々仲良かった訳じゃないから、あんまり喋んないまま卒業しちゃったし」
「そうなんだ……その人とは1回だけ?」
「うん、1回。たった1回しただけなのに、俺はそのエッチがずっと忘れらんなくて、ノーマルだったのに男の人にも興味を持つようになったんだ。その友達は、俺がこんな性癖になったことを知ったらビックリするんじゃないかな」

 う、なんかそれって心当たりがありすぎる。
 たった1回でもずっと忘れられないし、僕の場合、奇跡的に律に会えたからあの海の時の続きをできたらいいなと思ってる。

「もし素晴くんが今、その人にバッタリ会えたとしたらどうする?」
「えぇー、どうだろう? まぁもし会えたら、君のせいでこんなふうになったんだぞ、責任取れよってもう1回シちゃうかもね。フフ」

 冗談だか本気だか、悪戯っ子の笑みをする彼を見ながら僕は思う。

 僕は律に、責任を取らせたいのだろうか。
 いいや、別にそんな訳ではない。
 あの海の日の情事は僕から誘ったことだし、それに今は、律に好かれたいだけ。

「あ、けど千紘くんはどっちかっていうとネコかな? だったら付き合えないかもね、俺もネコだから」

 体つきや性格で判断されたのだろうがその通りで、ますます顔から耳にかけてが熱くなる。
 僕は周りに声が漏れぬよう、前かがみになった。

「あの、言うの恥ずかしいんだけど、実は僕もそうなんだ。元々ノーマルだったけど、素晴くんと同じようなきっかけで男の人に興味を持って」

 まさかその相手が現在、同じ空間にいるだなんて言えないけど。
 素晴くんはケラケラと笑ってくれた。

「え、そうなの? 一緒じゃーん! 千紘くんとはやっぱり気が合いそう」
「あ……ごめん、話が脱線しちゃったけど、また戻してもいいかな」

 身を縮めて謝ると、素晴くんは目を瞬いてから少しだけ困り顔になった。

「そうだったね、ごめん、勝手に盛り上がって。カンニングの話だよね? そんなの今更、謝らなくてもいいのにー!……って、俺にとっては他人事だけど、千紘くんにとっては大事おおごとだよね」

 また緊張して唇を噛む僕を見て、うんうんと頷く素晴くん。

「もしかして、綺麗好きなのはそれが関係してるとか?」
「うん、あれから少し潔癖っぽくなった……素晴くん、やっぱ僕がカンニングしてたことに気付いてたんだね。だからその日の帰りに『あんまり無理しないようにね』って僕に言ったんでしょ?」
「そうだね。きみはいつも何かに追われて、常に余裕がないように見えてたから気になってた」

 あの頃の自分がそんな風に他人の目に映っていたとは思いがけない。
 戸惑いの眼差しを向けると、ふふ、と彼は笑った。
 あの頃の僕たちに思いを馳せているのだろう。
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