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◇第3章◇優しくて明るいひと
38 律のバイク
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「律、仕事は?」
「今日はもう終わりました」
「心配で来てくれたの?」
「君は騙されやすいですからね。相手が詐欺師だった場合に備えて来てみましたが、必要なかったみたいです」
律も素晴くんを認めてくれたみたいだ。
会話までは聞き取れなかったはずだけど、手を繋いでいるところは見られた。
律はどう思っただろう。
「──うまく、話せたみたいですね」
律は穏やかに微笑んで見せるので頷いた。
僕の心は羽のようにかるくなっていた。
全部律のお陰だ。
律が背中を押してくれなかったら、僕は過去に囚われたままだった。
「ありがとね、律」
背中に抱きつきたくて仕方ないけど、ここは外だし、律は眉間に皺を寄せるだろうから我慢した。
店を出て電車に乗ろうと駅に向かうが、律はその手前の道で曲がったので後をついていった。
たどり着いたのはコインパーキングだ。
停められた黒いバイクを見て納得した。
律は電車じゃないんだ。
「じゃあ、またね」
改札に向かおうとした僕の腕を律が掴んだ。そしてベージュ色の少し年季の入ったヘルメットを手渡される。
「乗せてって、この間言ってたでしょう」
「え……嘘、乗せてくれるの?」
「ヘルメットは前に使っていた物で、傷だらけですが除菌はしてあります。バイクも綺麗に拭いたばかりですが、嫌でしたら」
「い、嫌じゃない嫌じゃない!」
かぽ、と頭にヘルメットを被ると、目の半分が隠れてしまった。
あれ、と思っていると、律はくすりと笑って、ヘルメットを外してくれる。
明るさを取り戻した僕の瞳に映ったのは、まるで宝石のようにキラキラと光輝く切れ長の目の持ち主のドアップだ。
「千紘には大きかったみたいですね。ここで調節できるから」
律が背中を丸めて僕と同じ目線になり、ヘルメットの中に付いたレバーを回して調節してくれている。
その黒髪からはふんわりと柑橘系の匂いがした。
は、はんそく……!
律が伏し目になると、ライトに照らされた睫毛が顔に陰影を落として綺麗だ。
すっとした鼻筋と、薄い唇。
見ていると胸がいっぱいになって仕方ないので目を逸らした。
再度装着したヘルメットはサイズがピッタリで、僕は重みのある慣れないそれに頭をユラユラさせながら、少し離れたところでエンジンをかける律を見ていた。
貸してくれた手袋もはめて、準備はOK。
どるんどるんと、重低音が響く。
律は長い足でバイクに跨り、僕のそばに近づいた。
「じゃあ、乗って」
くぐもった声がヘルメット越しに聞こえる。柔和に笑んだ目だけが見えた。
乗ってと簡単に言われても。
原付は乗ったことがあるがバイクは無い。
しかも2人乗りだなんて。
狼狽していつまでも乗れないでいると、革の手袋が嵌った右手が差し出された。
「おいで」
「今日はもう終わりました」
「心配で来てくれたの?」
「君は騙されやすいですからね。相手が詐欺師だった場合に備えて来てみましたが、必要なかったみたいです」
律も素晴くんを認めてくれたみたいだ。
会話までは聞き取れなかったはずだけど、手を繋いでいるところは見られた。
律はどう思っただろう。
「──うまく、話せたみたいですね」
律は穏やかに微笑んで見せるので頷いた。
僕の心は羽のようにかるくなっていた。
全部律のお陰だ。
律が背中を押してくれなかったら、僕は過去に囚われたままだった。
「ありがとね、律」
背中に抱きつきたくて仕方ないけど、ここは外だし、律は眉間に皺を寄せるだろうから我慢した。
店を出て電車に乗ろうと駅に向かうが、律はその手前の道で曲がったので後をついていった。
たどり着いたのはコインパーキングだ。
停められた黒いバイクを見て納得した。
律は電車じゃないんだ。
「じゃあ、またね」
改札に向かおうとした僕の腕を律が掴んだ。そしてベージュ色の少し年季の入ったヘルメットを手渡される。
「乗せてって、この間言ってたでしょう」
「え……嘘、乗せてくれるの?」
「ヘルメットは前に使っていた物で、傷だらけですが除菌はしてあります。バイクも綺麗に拭いたばかりですが、嫌でしたら」
「い、嫌じゃない嫌じゃない!」
かぽ、と頭にヘルメットを被ると、目の半分が隠れてしまった。
あれ、と思っていると、律はくすりと笑って、ヘルメットを外してくれる。
明るさを取り戻した僕の瞳に映ったのは、まるで宝石のようにキラキラと光輝く切れ長の目の持ち主のドアップだ。
「千紘には大きかったみたいですね。ここで調節できるから」
律が背中を丸めて僕と同じ目線になり、ヘルメットの中に付いたレバーを回して調節してくれている。
その黒髪からはふんわりと柑橘系の匂いがした。
は、はんそく……!
律が伏し目になると、ライトに照らされた睫毛が顔に陰影を落として綺麗だ。
すっとした鼻筋と、薄い唇。
見ていると胸がいっぱいになって仕方ないので目を逸らした。
再度装着したヘルメットはサイズがピッタリで、僕は重みのある慣れないそれに頭をユラユラさせながら、少し離れたところでエンジンをかける律を見ていた。
貸してくれた手袋もはめて、準備はOK。
どるんどるんと、重低音が響く。
律は長い足でバイクに跨り、僕のそばに近づいた。
「じゃあ、乗って」
くぐもった声がヘルメット越しに聞こえる。柔和に笑んだ目だけが見えた。
乗ってと簡単に言われても。
原付は乗ったことがあるがバイクは無い。
しかも2人乗りだなんて。
狼狽していつまでも乗れないでいると、革の手袋が嵌った右手が差し出された。
「おいで」
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