74 / 90
◇第7章◇優しくて大好きなひと
74 加速する想い
しおりを挟む
「昔、きみに会いたくないと言ったのは、どんどんきみを好きになっていく自分が怖くなったからです」
僕は律のマンションに戻ってきた。
傷だらけのヘルメットを被って、律のバイクの後部座席に乗って。
ソファーに座る僕らの足元には、もう2度と会えないと思っていたチーがいる。
さっき会ってきた敵意むき出しの猫と違って、しっぽをピンと立ててあくびもしている。
「怖くなった?」
「はい。きみを海に連れ出して1泊したあと、家へ帰る電車の中ですでに俺は、きみを手放したくないと思っていました。明日には全部忘れると千紘自身が言ったのだから、好きになっていいはずが無いと言い聞かせたのですが」
あの時、僕だって好きになっちゃダメだと思っていた。
優しい律だったら辛い現実を忘れさせてくれる、そんな甘えた気持ちがあったからこそ、あんな風に僕から誘ったのだ。
けれど間違いなくそれがきっかけで律を忘れられなくなり、ますます好きになってしまった。
律も同じだったなんて。
律は昔に思いを馳せるように、そして悔恨の念に駆られるように切なく眉根を寄せる。
「ダメでした。会わなければ会わないほど想いが募って、頭の中が千紘でいっぱいになっていって。これほど誰かを好きになったことは無かったので戸惑いました。幼馴染みだし、5歳も年下だし……いえ、その前に千紘は、男の子だし」
わりと恥ずかしくて嬉しいことをさらりと言われて頬が熱くなる。
これほど誰かを好きになったことは、無い?
「物理的に離れようと思いました。新しい部屋を決めて、家を出る少し前に秀雄叔父さんにたまたま会った時に『千紘にはもう会いたくない』と言ったのは、そういう理由です」
「け、けどさ、5年振りに会って、僕だって律が好きだって分かったわけでしょ? なのにどうして……」
僕と同じ気持ちなのに、あえて冷たく突き放した理由は何なのか。
答えを教えてくれる代わりに、律は僕の手を引いてリビングを出て、寝室とは反対側のドアを開いた。
僕が前、律の目を盗んで勝手に忍び込んだ仕事部屋だ。あれからこの部屋には足を踏み入れていない。
律は棚の中から1冊のA4ファイルを取り出して僕に手渡した。
それは分厚いものではなく、10枚ほどの書類が入れられるくらいの薄いもので、開けてみると猫の写真が並んでいた。
チーとは違う、毛は茶色で目は金色の太った猫だった。
生き生きとしたその猫は、チーとはまた違う表情をしている。
なんとなくチーは上品なイメージなのだが、この猫は目を細めてニッコリ笑って元気いっぱいのヤンチャな子に見える。
「可愛い」
「この子は、チーの前に飼っていた猫です」
「え、前に?」
「捨て猫だったんです。ダンボールの中でか細く泣いているのを見つけて。動物を飼ったことは無かったですし、見つけた時は戸惑いましたが放ってはおけませんでした。ネットで猫のことをたくさん調べて、必要なものを揃えて……初めは失敗ばかりでしたが、だんだんと慣れてきて、この子も俺に懐いてくれるようになって本当に嬉しかった……ですがある日、いなくなってしまって」
「いなくなった?」
「俺が悪いんです。届いていた荷物を入れようと、ドアを大きく開けてしまって……」
目を落として写真を見つめたまま、申し訳ない気持ちでいっばいだと言うように、律はしゅんとなった。
僕は律のマンションに戻ってきた。
傷だらけのヘルメットを被って、律のバイクの後部座席に乗って。
ソファーに座る僕らの足元には、もう2度と会えないと思っていたチーがいる。
さっき会ってきた敵意むき出しの猫と違って、しっぽをピンと立ててあくびもしている。
「怖くなった?」
「はい。きみを海に連れ出して1泊したあと、家へ帰る電車の中ですでに俺は、きみを手放したくないと思っていました。明日には全部忘れると千紘自身が言ったのだから、好きになっていいはずが無いと言い聞かせたのですが」
あの時、僕だって好きになっちゃダメだと思っていた。
優しい律だったら辛い現実を忘れさせてくれる、そんな甘えた気持ちがあったからこそ、あんな風に僕から誘ったのだ。
けれど間違いなくそれがきっかけで律を忘れられなくなり、ますます好きになってしまった。
律も同じだったなんて。
律は昔に思いを馳せるように、そして悔恨の念に駆られるように切なく眉根を寄せる。
「ダメでした。会わなければ会わないほど想いが募って、頭の中が千紘でいっぱいになっていって。これほど誰かを好きになったことは無かったので戸惑いました。幼馴染みだし、5歳も年下だし……いえ、その前に千紘は、男の子だし」
わりと恥ずかしくて嬉しいことをさらりと言われて頬が熱くなる。
これほど誰かを好きになったことは、無い?
「物理的に離れようと思いました。新しい部屋を決めて、家を出る少し前に秀雄叔父さんにたまたま会った時に『千紘にはもう会いたくない』と言ったのは、そういう理由です」
「け、けどさ、5年振りに会って、僕だって律が好きだって分かったわけでしょ? なのにどうして……」
僕と同じ気持ちなのに、あえて冷たく突き放した理由は何なのか。
答えを教えてくれる代わりに、律は僕の手を引いてリビングを出て、寝室とは反対側のドアを開いた。
僕が前、律の目を盗んで勝手に忍び込んだ仕事部屋だ。あれからこの部屋には足を踏み入れていない。
律は棚の中から1冊のA4ファイルを取り出して僕に手渡した。
それは分厚いものではなく、10枚ほどの書類が入れられるくらいの薄いもので、開けてみると猫の写真が並んでいた。
チーとは違う、毛は茶色で目は金色の太った猫だった。
生き生きとしたその猫は、チーとはまた違う表情をしている。
なんとなくチーは上品なイメージなのだが、この猫は目を細めてニッコリ笑って元気いっぱいのヤンチャな子に見える。
「可愛い」
「この子は、チーの前に飼っていた猫です」
「え、前に?」
「捨て猫だったんです。ダンボールの中でか細く泣いているのを見つけて。動物を飼ったことは無かったですし、見つけた時は戸惑いましたが放ってはおけませんでした。ネットで猫のことをたくさん調べて、必要なものを揃えて……初めは失敗ばかりでしたが、だんだんと慣れてきて、この子も俺に懐いてくれるようになって本当に嬉しかった……ですがある日、いなくなってしまって」
「いなくなった?」
「俺が悪いんです。届いていた荷物を入れようと、ドアを大きく開けてしまって……」
目を落として写真を見つめたまま、申し訳ない気持ちでいっばいだと言うように、律はしゅんとなった。
0
あなたにおすすめの小説
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
透けるほどうすい/溶けるほどあつい
鴻上縞
BL
日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。
歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。
一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。
足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる