きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第7章◇優しくて大好きなひと

74 加速する想い

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「昔、きみに会いたくないと言ったのは、どんどんきみを好きになっていく自分が怖くなったからです」

 僕は律のマンションに戻ってきた。
 傷だらけのヘルメットを被って、律のバイクの後部座席に乗って。

 ソファーに座る僕らの足元には、もう2度と会えないと思っていたチーがいる。
 さっき会ってきた敵意むき出しの猫と違って、しっぽをピンと立ててあくびもしている。

「怖くなった?」
「はい。きみを海に連れ出して1泊したあと、家へ帰る電車の中ですでに俺は、きみを手放したくないと思っていました。明日には全部忘れると千紘自身が言ったのだから、好きになっていいはずが無いと言い聞かせたのですが」

 あの時、僕だって好きになっちゃダメだと思っていた。
 優しい律だったら辛い現実を忘れさせてくれる、そんな甘えた気持ちがあったからこそ、あんな風に僕から誘ったのだ。

 けれど間違いなくそれがきっかけで律を忘れられなくなり、ますます好きになってしまった。
 律も同じだったなんて。

 律は昔に思いを馳せるように、そして悔恨の念に駆られるように切なく眉根を寄せる。

「ダメでした。会わなければ会わないほど想いが募って、頭の中が千紘でいっぱいになっていって。これほど誰かを好きになったことは無かったので戸惑いました。幼馴染みだし、5歳も年下だし……いえ、その前に千紘は、男の子だし」

 わりと恥ずかしくて嬉しいことをさらりと言われて頬が熱くなる。
 これほど誰かを好きになったことは、無い?

「物理的に離れようと思いました。新しい部屋を決めて、家を出る少し前に秀雄叔父さんにたまたま会った時に『千紘にはもう会いたくない』と言ったのは、そういう理由です」
「け、けどさ、5年振りに会って、僕だって律が好きだって分かったわけでしょ? なのにどうして……」

 僕と同じ気持ちなのに、あえて冷たく突き放した理由は何なのか。

 答えを教えてくれる代わりに、律は僕の手を引いてリビングを出て、寝室とは反対側のドアを開いた。
 僕が前、律の目を盗んで勝手に忍び込んだ仕事部屋だ。あれからこの部屋には足を踏み入れていない。

 律は棚の中から1冊のA4ファイルを取り出して僕に手渡した。
 それは分厚いものではなく、10枚ほどの書類が入れられるくらいの薄いもので、開けてみると猫の写真が並んでいた。

 チーとは違う、毛は茶色で目は金色の太った猫だった。

 生き生きとしたその猫は、チーとはまた違う表情をしている。
 なんとなくチーは上品なイメージなのだが、この猫は目を細めてニッコリ笑って元気いっぱいのヤンチャな子に見える。

「可愛い」
「この子は、チーの前に飼っていた猫です」
「え、前に?」
「捨て猫だったんです。ダンボールの中でか細く泣いているのを見つけて。動物を飼ったことは無かったですし、見つけた時は戸惑いましたが放ってはおけませんでした。ネットで猫のことをたくさん調べて、必要なものを揃えて……初めは失敗ばかりでしたが、だんだんと慣れてきて、この子も俺に懐いてくれるようになって本当に嬉しかった……ですがある日、いなくなってしまって」
「いなくなった?」
「俺が悪いんです。届いていた荷物を入れようと、ドアを大きく開けてしまって……」

 目を落として写真を見つめたまま、申し訳ない気持ちでいっばいだと言うように、律はしゅんとなった。
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