50 / 86
第50話 癒しのひととき
しおりを挟む
アオと手をつないだまま、どこまでも続く花畑を歩く。
赤、紫、白、そして淡い橙——それぞれが太陽の光を受けて、宝石のように輝いていた。
こんなふうに、時間の流れを忘れて歩くのは、もしかしたら初めてかもしれない。
アオの表情が、肩の力を抜いた穏やかなものになっているのが嬉しい。
定期的に、こうして旅に連れ出さなくては——そうレイは自然に思えていた。
歩きながら、アオは幼い頃の思い出を語った。
両親を亡くしてから、この花農園でタクミに支えられてきたこと。
辛いときも悲しいときも、そっと寄り添ってくれた人がいたこと。
優しい空気と人々に囲まれて育ったから、今の素直なアオがあるのだと、レイは静かに実感する。
「レイをここに連れて来られてよかった~」
無邪気な笑顔でそう言うアオを、思わず抱きしめた。
「もう……誰かに見られるよ」
「かまわないだろ?」
「でも……」
その「でも」の奥にある照れくささも愛しくて、この時間が永遠に続けばいいと願ってしまう。
夕方、花畑の色が少しずつ黄金色に染まりはじめた頃、二人はタクミたちのもとに戻った。
「リョクはもう少し研究棟にいるみたいなんだ。夕飯の準備をしようと思うんだけどいいかな?」
「タクミさん、僕も手伝うよ」
「ありがとう、アオ。じゃあダイチ、一緒に」
「うん、わかった!……って、あれ? カナメさん遅くない?」
「ほんとだ、遠くに行ったのかな」
アオが心配そうにあたりを見回すと、黒い影がゆっくり近づいてきた。
「た……ただいま」
「え!? カナメさん泥だらけ……あっ! シエル!」
アオはカナメのそばにいた大型犬
狼の血を75%以上受け継いでいるハイパーセントウルフドッグのシエルに駆け寄り、頭を撫でる。
「シエル、元気だった? よしよし……うわっ」
嬉しそうに飛びついたシエルに押され、アオは草の上に倒れこむ。じゃれ合う姿は微笑ましいが、傍から見れば襲われているようにも見える。
「ふふっ……僕も会いたかったよ、かわいいな」
「ごめんなさい、その泥だらけって……うちのシエルのせいですよね」
タクミが申し訳なさそうに言うと、カナメは首を横に振った。
「いや……飛びつかれたときに俺が油断しただけだ。その後は、ずっとここを案内してくれてた」
「へぇ……シエルが? 初対面の人にそんなになつくなんて珍しいのに」
ダイチが首をかしげる。
「とりあえず僕たちとシャワールームに行きましょう。着替えも渡します。服は明日までにきれいにしておきますね」
そう言ってタクミがカナメを案内しようとする。
この農園には多くの人が出入りするため、複数人が同時に使えるシャワールームが備えられていた。
「あっ……僕も行く!」
泥だらけになったアオがついて行こうとした瞬間、レイはその腕をそっと引き寄せ、耳元で低く囁く。
「痕が……まだ残ってる」
その言葉にアオははっとして、少し頬を赤らめる。
「……僕はやっぱり、シエルと遊んでる」
カナメはシエルの頭を撫でながら、静かに言った。
「お前はシエルって名前だったんだな。今日はありがとう」
その声も、その柔らかな表情も——
一瞬、場の空気を変えてしまうほど、美しく妖艶だった。
見ていた誰もが、息を飲んだ。
赤、紫、白、そして淡い橙——それぞれが太陽の光を受けて、宝石のように輝いていた。
こんなふうに、時間の流れを忘れて歩くのは、もしかしたら初めてかもしれない。
アオの表情が、肩の力を抜いた穏やかなものになっているのが嬉しい。
定期的に、こうして旅に連れ出さなくては——そうレイは自然に思えていた。
歩きながら、アオは幼い頃の思い出を語った。
両親を亡くしてから、この花農園でタクミに支えられてきたこと。
辛いときも悲しいときも、そっと寄り添ってくれた人がいたこと。
優しい空気と人々に囲まれて育ったから、今の素直なアオがあるのだと、レイは静かに実感する。
「レイをここに連れて来られてよかった~」
無邪気な笑顔でそう言うアオを、思わず抱きしめた。
「もう……誰かに見られるよ」
「かまわないだろ?」
「でも……」
その「でも」の奥にある照れくささも愛しくて、この時間が永遠に続けばいいと願ってしまう。
夕方、花畑の色が少しずつ黄金色に染まりはじめた頃、二人はタクミたちのもとに戻った。
「リョクはもう少し研究棟にいるみたいなんだ。夕飯の準備をしようと思うんだけどいいかな?」
「タクミさん、僕も手伝うよ」
「ありがとう、アオ。じゃあダイチ、一緒に」
「うん、わかった!……って、あれ? カナメさん遅くない?」
「ほんとだ、遠くに行ったのかな」
アオが心配そうにあたりを見回すと、黒い影がゆっくり近づいてきた。
「た……ただいま」
「え!? カナメさん泥だらけ……あっ! シエル!」
アオはカナメのそばにいた大型犬
狼の血を75%以上受け継いでいるハイパーセントウルフドッグのシエルに駆け寄り、頭を撫でる。
「シエル、元気だった? よしよし……うわっ」
嬉しそうに飛びついたシエルに押され、アオは草の上に倒れこむ。じゃれ合う姿は微笑ましいが、傍から見れば襲われているようにも見える。
「ふふっ……僕も会いたかったよ、かわいいな」
「ごめんなさい、その泥だらけって……うちのシエルのせいですよね」
タクミが申し訳なさそうに言うと、カナメは首を横に振った。
「いや……飛びつかれたときに俺が油断しただけだ。その後は、ずっとここを案内してくれてた」
「へぇ……シエルが? 初対面の人にそんなになつくなんて珍しいのに」
ダイチが首をかしげる。
「とりあえず僕たちとシャワールームに行きましょう。着替えも渡します。服は明日までにきれいにしておきますね」
そう言ってタクミがカナメを案内しようとする。
この農園には多くの人が出入りするため、複数人が同時に使えるシャワールームが備えられていた。
「あっ……僕も行く!」
泥だらけになったアオがついて行こうとした瞬間、レイはその腕をそっと引き寄せ、耳元で低く囁く。
「痕が……まだ残ってる」
その言葉にアオははっとして、少し頬を赤らめる。
「……僕はやっぱり、シエルと遊んでる」
カナメはシエルの頭を撫でながら、静かに言った。
「お前はシエルって名前だったんだな。今日はありがとう」
その声も、その柔らかな表情も——
一瞬、場の空気を変えてしまうほど、美しく妖艶だった。
見ていた誰もが、息を飲んだ。
22
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる