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Chapter 6: 抱き枕
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青白い空が広がっている。薄い雲が鋭く走り、冷たい風が吹いている。
アパートの一室には、ぬるく籠った空気が漂っている。差し込む白い朝日を吸い込む、いつもより少し散らかった部屋。机の上には薄ピンク色の甘いサワーの空き缶と、空っぽになったお茶のボトル、折りたたまれた食べかけのポテトチップスが放置されている。
冬、ある朝であった。
しずくは、普段なら気にもならない早朝の日差しに目を覚ました。生温く滑る太ももと張り付く下着の感覚に、しずくはドキッと心臓をはねさせ、体を起こした。
「……はぁっ……!」
しずくは思わず漏れた驚嘆を、咄嗟に手の甲で塞いだ。
急くように、しかし隣に眠るなみを起こさないように、しずくはそっと布団をめくる。そこにあったのは、いまだ水面を垣間見せるほどの水溜まりだった。
しずくは、おねしょをしていた。となりに彼女が、寝ているというのに。その事実に、寝ぼけた意識もかき消えて、しずくは泣きそうなほどに情けなくなった。どうにか布団を抜け出そうともぞもぞ動かした太ももに、その生温さは、ぐじゅぐじゅと湿った音を立てるのだった。
ベッドから滑り落ちるように抜け出したしずくのズボンは、びしょびしょだった。薄ピンクが、そのままの色で濃く濡れている。よっぽど薄い、大量のそれであったらしい……こんなときに妙に冷静な自分自身に、しずくははぁ、と頭を抱えた。
掛布団を、ぐっと持ち上げようとする。
「ん、んんぅ……」
その真ん中を、なみは眠そうに抱きしめた。しずくのそれを多分に含んだ掛布団を、なみは脚で挟んで、抱きかかえるのだった。しずくは眉をハの字にし、数瞬躊躇したうえで、なみの肩に触れそっと揺らした。
「……ね、ねえ……なみ、ちゃん……」
正直死ぬほど、知られたくはない。叶うことなら、今すぐこの場に穴を掘って、入ってしまいたい気持ちだった。……でも、どうせいつかは、バレるんだ。それに、しずくは知っていた。おねしょは、湿っているうちに拭いておかないと、全部がまとめてダメになってしまうことを。
「お、起きて、ねえ……なみちゃん……」
しずくは懸命に肩をゆする。そうしているうちに、どんどんおしっこがベッドの奥にしみ込んでいく。しずくは祈るような気持ちで、また焦燥だか羞恥だかわからない熱さを背中に浮かべながら、なみの体を揺らし続けた。
「……んん……どしたの、しずく……何か……」
やっとうっすら目を開けたなみは、呻きのような寝ぼけた声でしずくに答えた。
「……な、なみちゃん……そ、その……」
口を開いたしずくの顔を、なみはぼんやりと見上げるのだった。その視線に、しずくはぐっと、言い淀んでしまう。
なみは、何とも言えない倦怠感と眠り足りない感覚に包まれながら、なんだか生暖かい自身のお腹の方を見た。目に映ったのは、マットレスに出来上がった見事なまでの水溜りと、自身のパジャマにまで広大に広がったそれのシミ。なみはぽくぽくと首を上下に揺らしながら、ゆっくりと状況を飲み込み、しずくにぽわぽわとした微笑みを送った。
「あぁー……そっか。しずく……」
「……ご、ごめん……」
「……だいじょぶ、だいじょぶ、だけど……まっとれす、とか、どうしよっかぁ……ふあぁ……」
重力に負けるように、なみはしずくのおねしょの水溜りにいながらも、だらっと首をもたげてあくびをした。いつになくぼんやりとしたなみの様子に、しずくはハッとして、どたばたと棚に駆けだした。引き出しを引っ張って、掴めるだけタオルの山を胸に抱きかかえて、持ってくる。
「ま、まずはなみちゃん、避難しないと……掛布団も逃がして、それから枕も……マットレスは、ほ、干したらなんとかなるかなぁ……」
「……ふわぁぁ……多分、ね。うぅー、今、何時?」
見上げた時計は、朝の7時前ほどを指していた。
なみは体を起こして、掛布団を胸に高く持ち上げ、ベッドを降りる。しずくは露わになったその水溜りにすかさずタオルを敷き詰めて、吸い込ませるようにトントンと上から押さえつけた。
机の傍に濡れた面を上にしてバサッと布団を下ろしたなみは、机の上に広がった昨夜の出来事の痕跡に、ぽつりと独り言のようにつぶやいた。
「……ああぁー、そっか。昨日、飲みすぎちゃったんだね、寝る前に」
「うん……でも、なみちゃんの方が、いっぱい飲んでたじゃんか……」
「まあ、ね? でも、人には人の、量があるからね……」
……昨日、大学から帰って、すぐのこと。
なみは生まれて初めての、晩酌というのに挑戦してみたのだった。用意したのは弱くて甘い、缶チューハイ1本。ほとんどジュースみたいなものだった。晩酌のおともは、ポテトチップス、そしてジュース片手のしずくであった。
苦くて甘い、独特の形容しがたい薬液くささは、どうにも大人の味だった。そしてそれと同時になみは、お酒と同量以上の水分を取るべきであるという先人もとい父親からの助言に馬鹿正直に従って、両手のひらに隠れるくらいのお酒の缶を、2Lサイズのお茶と一緒に摂取した。そのおかげでと言うべきか、それでもなおと言うべきか、翌日のなみには多少の気だるさだけが残っているのだった。
その隣に、しずくもいた。アルコールというものは恐ろしいもので、あるかないかというくらいの量しか飲んでいないなみでさえも、どこかぽわぽわとして見えたのだった。お酒の入ったなみはいつも以上にウェルカムな雰囲気で、しずくはその胸に飛び込むようにして、なみを追いかけるようなペースで、オレンジジュースをぐいぐい飲んでいたのだった。
……そしてその結果が、これであった。
「……なみちゃん、強すぎだよ。だって昨日、私寝る前トイレ行ったよ? なみちゃんって行ってたっけ?」
「うーん……記憶の限りじゃ、行ってないかな……膀胱的にも、行ってなさそう……」
なみはわずかにぽこっとしたお腹をしずくに見せ、ぺちっと叩いてみせるのだった。しずくは口をへの字にして、ベッドにタオルをぎゅっと押し当てる。
「なんでそのお腹で平気そうなの!?」
「……んっふふ、なんでだろうね……訓練の賜物かな?」
くだらないという口調でだらだらと駄弁りながら、なみは布団のカバーを外し、洗濯網にぎゅうぎゅうと押し込む。中身の方は床に広げて、しずくの持ってきたタオルをぽいぽいと濡れた部分に広げて置いた。
なみは濡れたパジャマを下着ごと脱ぎ、それを小脇に抱えたまま、しずくのパジャマにも手をかけた。
「はーいしずくちゃん、ばんざーい」
「んぅ……ばんざーい……」
声色はまさに赤ちゃん扱いだった。その仕草に、しずくには反論できる台詞を一つも持ち合わせてはいなかった。ただ従順にしたがって、なみにパジャマと下着を一つ残らずはぎ取られ、裸のままにタオルでベッドを押さえ続けるのだった。両手をタオルに奪われたまま、なみにくまなく体を拭われた。
「……マットレス、もういいよ、大丈夫。一緒にシャワー、浴びよっか?」
「……うん」
しずくとなみは、濡れたタオルを各々胸に抱えて、バスルームへと向かうのだった。道中タオルを洗濯機に投げ入れ、開いたその手で手を繋ぐ。換気扇で外気と変わらぬ温度に冷えた浴室に、二人はゆっくり足を踏み入れた。
「……そういえばしずく、マットレスって、洗濯できるのかな……?」
「……たぶん、むりです……」
「……そっか……」
シャワーの飛沫の撥ねる音に、鏡は瞬時に真っ白に染まった。
朝風呂は、目を覚まさせてくれる。思考をクリアにしてくれる。そんなさっぱりした二人は、髪にタオルを巻いて戻ったリビングの景色に、改めて頭を抱えるのだった。
重たくなった布団とマットレスを、とりあえず干して日差しに当て、二人はいつも通りに大学の準備を進めた。
ベランダに冷たい、風が吹き抜けた。
「……残ったね……」
「……うん……」
落ちる夕陽に立つ二人の前には、真ん中にうすく輪郭を残した、シミつきのマットレスが壁に立てかけられていた。ゆっくりと近づき、しゃがんで顔を近づけたなみの鼻先に、かすかにしずくのおしっこのにおいが顔を覗かせる。振り返るなみの何とも言えないという眼差しに、しずくは赤面し目を逸らした。
「……買い替えかな、さすがに」
「……ごめん、なみちゃん……」
重曹だとか中性洗剤だとか、ネットに転がる手段は大方試したが、大した効果は見られなかった。
なみは立ち上がり、うつむくしずくを抱き寄せる。頬をおでこの上に乗せ、優しくしずくの頭を撫でた。
「……いいの、大丈夫。これから練習すれば、いいんだから……」
「……私もあと半年で、20なんです……」
情けなさに震えるしずくの声色に、なみはぎゅっと抱擁を強めて、彼女の頭を自身の胸に押し当てる。顔中を包むなみの柔らかなにおいに、しずくはなすすべもなく、彼女の背中を抱き返した。
「いいのいいの、大丈夫だからね……でも、新しいのが届くまでは、しばらく床で寝ないとね。久々に、何か敷くもの、出そっか?」
「……ほんとに、ごめんなさい……」
しずくは顔をぎゅうっとなみの胸に押し当てて、ぐりぐりと震える瞼を抑えつける。なみはしずくの背中と頭をなでて、顔を熱くした彼女の気持ちを落ち着けた。
「ほんとに、大丈夫だから……ほら、懐かしいじゃん。それに、しずくがいるから、寒くないし……その代わり、今日はいっぱい、あっためてね?」
「……ぜんしょ、します……」
しずくはなみの胸に埋まったまま、もごもごと答えた。その顔の動きと呼吸とがくすぐったくなって、なみは腰を曲げ、しずくの表情に視線を合わせた。目を赤くしたしずくに、なみはそっとキスをした。
しずくもそれに応じるように、ぎゅっとなみを抱きしめて、高くなった体温を渡すのだった。
その晩。夜の11時頃。二人はドライヤーしたてのポカポカした髪を並べて、押し入れの中を覗いていた。
「敷き布団……的なのはないね……。やっぱり、タオル敷き詰めて寝るしかないかな」
唇に曲げた指を触れさせて、なみは陰の落ちるプラスチックの棚の引き出しをパカパカと探った。
「んんー……掛け布団重ねてその上にっていうのは?」
しずくはしゃがみこみ、タンスの床に畳まれた布団に手を触れる。なみは忙しなくしていた手を止めて、しずくの隣に並ぶようにしゃがんだ。重なった布団と毛布、シーツの類。なみはそれらのひとつひとつに手を触れて、肌触りのよさを確かめた。そしてその真ん中の段にある、厚手の毛布の端っこを掴む。
「それもいいね。ほら、これ。毛布の上にシーツって感じで、いいかな……あ、でも……」
「うん……うん?」
毛布を持ち上げかけた手を止めて、なみはふと思い出したように、しずくの顔を見下ろした。しずくはきょとんとした表情で、なみの持ち上げかけた毛布に手を触れる。見上げたなみの相貌は、なんだかニコニコして見えた。
「……毛布って、じつは水気に弱いんだよねー……」
「ん、うん? ……ぁあ! も、もう!」
しずくは頬を膨らませ、くすすと笑うなみの肩を、てしっと叩く。
「……もう、漏らさないよ! さすがに馬鹿にし過ぎだよ!」
「んっふふ、そう? あっははは」
ころころと笑うなみの肩を、しずくはぽかぽかと叩いた。ふんと鼻を鳴らし、意地になって無理やり毛布を引っ張り出そうとするしずくに、なみは口元を押さえ笑う。
「ごめんごめん、そうだよね。だってもう、大人だもんね」
「そうだよ……ふん! もう絶対に、漏らさないんだから……!」
なみはしずくの背中に回り込み、毛布の上に乗った布団を持ち上げる。急に軽くなった毛布に、しずくはぽさっとなみの懐に収まった。しずくはくるくると、収穫した毛布を巻き取り胸に抱えていく。胸元にころんと転がり込んだしずくの耳元に、なみはしずかに、問いかけた。
「……へええ、ホントに、絶対に?」
「……うん、絶対! なみちゃんが何したって、もう絶対に漏らさないもんね!」
振り返ろうと首を回したしずくの頬に、なみは唇をそっと触れさせた。しずくはその柔らかな感触に、ぴたっと動きを止められる。
「……そっか。じゃあ、頑張ろうね」
なみは吐息を吹き入れるように、しずくにそっと囁いた。その声色とくすぐったさに、しずくはぞくっと、背中を震わせた。頬がぼやっと、熱を帯びるのを感じるのだった。
暗くしたリビングのフローリングの上に、吸湿パッドと毛布にシーツ。その上にちょこんと、布団に両脚を伸ばして入れた、しずくがぽつんと座っていた。なみはキッチンの冷蔵庫の光を浴びながら、何やら重そうに引っ張り出している。道すがら片手間にコップを2つ拾って、しずくに向き合い、出来合いの布団の上に座った。
傍らの机の上にドカンと置いたのは、いつものサイズの麦茶であった。しずくは重そうに瞼を上げて、コップにたっぷりとお茶を注いでいくなみを眺めた。
「なみちゃん、それって……」
あくびの混ざる声色で、しずくはなみの背中に訊ねた。なみはふっと笑って振り返り、しずくにコップを手渡した。
「……はい、これ。飲んで? 溢さないように気を付けてね」
「え……? う、うん……」
しずくはよく分からないという面持ちで、とりあえずなみに従って飲む。揺れる水面を唇から迎えに行って、そっと溢さないよう、傾けた。
なみは空っぽになったしずくと自身のコップにまた、再び麦茶をパンパンに注ぐ。
「……どうしたの? ……って、あ、まさか……!」
「……んっふふ、うーん? どうしたの?」
「なみちゃん、もしかして、また私に……」
「ふふふ、なんのことだか……はい、これも飲んで?」
なみはしずくの言葉を塞ぐように、彼女の唇に触れさせるように、コップを手渡す。しずくは、んー! と唸りながら、しかし渡されたそれをちゅうちゅうと飲んだ。二杯目である。胃袋の中に、ちゃぷちゃぷと水分が主張し始めた。
コップを空にし、ふうっと息をついたしずくに、すかさずなみは自身のコップに注いだお茶を差し出した。それを直接しずくの唇に当てて、流し込む。しずくは抗うこともできないまま、流れ込んでくるお茶をお腹の中に収めて行った。これで、三杯目。
「……ん、うう……ちょ、ちょっとタンマ……っていうか、やっぱりなみちゃん、また私におねしょさせようとしてるでしょ……!」
「ふぅん? どうだろ……」
「だって、こんなに飲ませて……普通にしてても、何時間も持つ量じゃないでしょ……!」
「……しずく、おねしょ、しないんでしょ?」
「……し、しないよ……!」
ぷりぷりと言い寄ってきたしずくが、ふっと目線を布団に落とした。なみはその隙にお茶を注いで、またしずくに、手渡す。
「……ちょ、ちょっと、多くない?」
「ううん、平気平気。それに、私も同じだけ、飲むから……」
そういってなみは、カパカパと二杯、コップを空にしてしまった。しずくは観念したように、渡されたお茶をいっぱいのお腹に入れていく。四杯目であった。
「……飲むのも、結構きついんだけど……」
「そう? ……じゃあ、次でラストね……」
なみはしずくの握るコップにまた注ぎ、自身の方にも注ぎ入れた。ボトルが空になり、なみは先日の晩酌ごっこの時のように、しずくのグラスに縁を当てた。
二人は一緒に、グラスを空にした。ちゃぽちゃぽと鳴るお腹を携え、もぞもぞと布団に肩まで潜るのだった。
向かい合い、見つめ合う。なみはしずくの背中に腕を回して、冷たい感触を内に抱えたお腹をくっつけ、目を瞑った。しずくもまた、喉の奥から戻ってきそうな気持ち悪さを、なみを抱きしめて誤魔化すのだった。
夜中の1時半を回った頃。
しずくは当然のごとく、鈍く重たい尿意に目覚めた。なみを抱きしめた腕を解いて、自身のお腹を押してみる。強く押し返す存在感。じんじんとした出口の感覚に、限界が近づいてるのを感じるのだった。
抜け出して、トイレに行くのを試みる。が、脚を絡ませ抱き合った姿勢で眠るなみに、気づかれないよう逃げ出すことは不可能だった。せめて楽な姿勢になろうと、寝返りを打とうとした途端、なみは体温を求めるかのようにしずくのお腹を抱き寄せてしまった。ぎゅうっと下腹のてっぺんが、彼女の体に押し付けられる。脚を根元で絡められ、前を押さえることすらできない。引き寄せられた全身に、鼻と鼻とが触れ合うくらい、二人の顔が近づいた。
しずくは八方塞がりに、背中を抑え込まれたままの形で、身動きもできずに耐えるしかなかった。
お腹にかかる重力からも、変な体勢を支えようとする腹筋の力みからも、逃れられない。徐々に乱れていく呼吸が、なみの深い呼吸に混ぜられている。それがどうにも恥ずかしくなって、しずくは自分のペースで息を吐くことも出来なかった。
膨らんだお腹の一番下で、出口を塞ぐ力にだけ、しずくは全神経を傾けた。
背中を丸めることもできずに、腰がだんだんと痛くなってくる。丸く張り詰めた出口の力が、ぴくぴくと疲れて震えてきた。足の付け根に挟み込まれたなみの太ももに、股をぎゅっと閉じることすらかなわなかった。
「んんっく、ううぅ……」
浅いのに、無理矢理ゆっくりにした呼吸が、だんだん苦しくなってくる。体のどこも使えないまま、ただ出口を締める力だけを頼りに、飛び出ようとするおしっこを抱え続ける。
なみがもぞもぞと寝返りを打ち、しずくの体にかぶさるように、体重をかけてきた。お腹がぐうっと、押さえつけられた。
「――っあぁっ……!」
その重みに、束縛に、しずくはついに声を上げた。こらえきれずに、しずくはバッと、両手で出口を押さえつけた。今は、違う。なみとのアソビの最中じゃない。今は漏らしたら、ダメな時だ……ほんとにダメだから、押さえないと……。
しずくは頭の中に言い訳を並べながら、自身と自身の乗っかるなみの体の間に手を入れ、腰を揺らした。
「な、なみ、ちゃ……」
ゆさゆさと体をくねらせながら、しずくはなみを起こそうと声をかける。なみを自分の上から降ろして、ふうふうと息を切らしながら、彼女が目を覚ますのを待った。
……なぜ待っているのかは、わからない。ただ、今抜け出してトイレに行くのは、彼女の許しが必要だ……なぜだか、そういう気がしたのだった。
「なみ、ちゃん……おきて……」
「……ん……どしたの、しずく……?」
なみは眠そうに細く目を開けて、背中を丸めたしずくを見た。しずくは安堵したように、彼女の手のひらを自身のお腹に触れさせる。
「な、なみちゃん……と、といれ、いきたい……」
「……そう」
なみは寝そべったまま、もぞもぞとしずくに近づき、しずくの背中に手を回しなおす。しずくは彼女の許しを得たくて、無抵抗のまま、彼女の胸に抱き寄せられた。
「……さむい、しずく……もうちょっと、我慢して……」
「……え? ちょ、ちょっと……」
「……無理? 漏らしちゃうの……?」
「……そ、それは……も、もらさないために、行きたいんだって……」
「……まだ。もうちょっとだけ、温まらせて……」
寝ぼけたなみは、有無を言わさない様子でしずくの背中を引き寄せた。ぐいっと反らされた背中に、しずくはうっと呻きを漏らす。しずくの膨らんだお腹が、なみのお腹に触れ合った。二人ともおんなじくらいに飛び出ているのに、混ざると息は、しずくのものだけ早かった。
ふう、ふうぅと、息を荒げる。もじもじと体をよじるしずくの腰を押し止めるように、なみはしずくの股に足を挟んで、絡みつく。
閉じれない。押さえられない。なのにお腹が押されている。
我慢、できない。
わずかに飛び出たおしっこに、警告を叫ぶがごとく、股にビリッと電流が走った。びくっと体をはねさせて、しずくは股に挟んだなみの太ももに、ぎゅっと全力で力を入れる。
おちびりがじんわりと、パジャマににじんだ。
「ん……しずく、出そう……?」
「で、でる……っていうか、でてる、かも……」
なみは太ももを挟む彼女の脚の力の強さと、かすかに感じる熱いくらいの湿り気に気づいた。彼女のおなかに手を当てて、そっと力を加えてみる。
「うっ! ……ふうぅぅっ……!」
その力に抗えないまま、かすかな力に従うように、太ももの濡れが少し広がった。しずくはぎゅっと目をつむって、されるがままを、耐え続ける。
「……限界、だね、しずく?」
「う、うん……ねえ、おねがい……」
なみはそっと脚を抜き取って、布団を下げながら体を起こす。丸まるしずくの手を取って、その手を自分の首に回させた。
「……いいよ、行こっか。……もうちょっとだけ、我慢してね」
「ん……んうぅ……!」
なみはしずくの脇に手を入れて、弾みをつけて彼女を立たせる。その反動でシュビっとあふれたおしっこを、しずくは両手で押さえつけた。
「がんばったね、しずく。ほら、もうちょっと……」
「……ううぅ、も、もれる……もれてる……」
「出しちゃう前に言えて、偉いよ。ほら……」
なみはしずくの手を取って、震える足の彼女を支えた。暖色灯だけカチッとつけて、なみはしずくを導くのだった。
壁伝い、なんとか床を汚さないように、小鹿みたいになみについていく。二人はオレンジの明かりの、トイレのドアに入るのだった。
二つの水流だけが響いた。
沈黙に、真夜中の時計の針が鳴り響いた。
ひとつのトイレに向かい合い座る二人の唇が、音もなく静かに重なっていた。
トイレの壁の小さな窓から、紫に澄んだ夜空が光った。
アパートの一室には、ぬるく籠った空気が漂っている。差し込む白い朝日を吸い込む、いつもより少し散らかった部屋。机の上には薄ピンク色の甘いサワーの空き缶と、空っぽになったお茶のボトル、折りたたまれた食べかけのポテトチップスが放置されている。
冬、ある朝であった。
しずくは、普段なら気にもならない早朝の日差しに目を覚ました。生温く滑る太ももと張り付く下着の感覚に、しずくはドキッと心臓をはねさせ、体を起こした。
「……はぁっ……!」
しずくは思わず漏れた驚嘆を、咄嗟に手の甲で塞いだ。
急くように、しかし隣に眠るなみを起こさないように、しずくはそっと布団をめくる。そこにあったのは、いまだ水面を垣間見せるほどの水溜まりだった。
しずくは、おねしょをしていた。となりに彼女が、寝ているというのに。その事実に、寝ぼけた意識もかき消えて、しずくは泣きそうなほどに情けなくなった。どうにか布団を抜け出そうともぞもぞ動かした太ももに、その生温さは、ぐじゅぐじゅと湿った音を立てるのだった。
ベッドから滑り落ちるように抜け出したしずくのズボンは、びしょびしょだった。薄ピンクが、そのままの色で濃く濡れている。よっぽど薄い、大量のそれであったらしい……こんなときに妙に冷静な自分自身に、しずくははぁ、と頭を抱えた。
掛布団を、ぐっと持ち上げようとする。
「ん、んんぅ……」
その真ん中を、なみは眠そうに抱きしめた。しずくのそれを多分に含んだ掛布団を、なみは脚で挟んで、抱きかかえるのだった。しずくは眉をハの字にし、数瞬躊躇したうえで、なみの肩に触れそっと揺らした。
「……ね、ねえ……なみ、ちゃん……」
正直死ぬほど、知られたくはない。叶うことなら、今すぐこの場に穴を掘って、入ってしまいたい気持ちだった。……でも、どうせいつかは、バレるんだ。それに、しずくは知っていた。おねしょは、湿っているうちに拭いておかないと、全部がまとめてダメになってしまうことを。
「お、起きて、ねえ……なみちゃん……」
しずくは懸命に肩をゆする。そうしているうちに、どんどんおしっこがベッドの奥にしみ込んでいく。しずくは祈るような気持ちで、また焦燥だか羞恥だかわからない熱さを背中に浮かべながら、なみの体を揺らし続けた。
「……んん……どしたの、しずく……何か……」
やっとうっすら目を開けたなみは、呻きのような寝ぼけた声でしずくに答えた。
「……な、なみちゃん……そ、その……」
口を開いたしずくの顔を、なみはぼんやりと見上げるのだった。その視線に、しずくはぐっと、言い淀んでしまう。
なみは、何とも言えない倦怠感と眠り足りない感覚に包まれながら、なんだか生暖かい自身のお腹の方を見た。目に映ったのは、マットレスに出来上がった見事なまでの水溜りと、自身のパジャマにまで広大に広がったそれのシミ。なみはぽくぽくと首を上下に揺らしながら、ゆっくりと状況を飲み込み、しずくにぽわぽわとした微笑みを送った。
「あぁー……そっか。しずく……」
「……ご、ごめん……」
「……だいじょぶ、だいじょぶ、だけど……まっとれす、とか、どうしよっかぁ……ふあぁ……」
重力に負けるように、なみはしずくのおねしょの水溜りにいながらも、だらっと首をもたげてあくびをした。いつになくぼんやりとしたなみの様子に、しずくはハッとして、どたばたと棚に駆けだした。引き出しを引っ張って、掴めるだけタオルの山を胸に抱きかかえて、持ってくる。
「ま、まずはなみちゃん、避難しないと……掛布団も逃がして、それから枕も……マットレスは、ほ、干したらなんとかなるかなぁ……」
「……ふわぁぁ……多分、ね。うぅー、今、何時?」
見上げた時計は、朝の7時前ほどを指していた。
なみは体を起こして、掛布団を胸に高く持ち上げ、ベッドを降りる。しずくは露わになったその水溜りにすかさずタオルを敷き詰めて、吸い込ませるようにトントンと上から押さえつけた。
机の傍に濡れた面を上にしてバサッと布団を下ろしたなみは、机の上に広がった昨夜の出来事の痕跡に、ぽつりと独り言のようにつぶやいた。
「……ああぁー、そっか。昨日、飲みすぎちゃったんだね、寝る前に」
「うん……でも、なみちゃんの方が、いっぱい飲んでたじゃんか……」
「まあ、ね? でも、人には人の、量があるからね……」
……昨日、大学から帰って、すぐのこと。
なみは生まれて初めての、晩酌というのに挑戦してみたのだった。用意したのは弱くて甘い、缶チューハイ1本。ほとんどジュースみたいなものだった。晩酌のおともは、ポテトチップス、そしてジュース片手のしずくであった。
苦くて甘い、独特の形容しがたい薬液くささは、どうにも大人の味だった。そしてそれと同時になみは、お酒と同量以上の水分を取るべきであるという先人もとい父親からの助言に馬鹿正直に従って、両手のひらに隠れるくらいのお酒の缶を、2Lサイズのお茶と一緒に摂取した。そのおかげでと言うべきか、それでもなおと言うべきか、翌日のなみには多少の気だるさだけが残っているのだった。
その隣に、しずくもいた。アルコールというものは恐ろしいもので、あるかないかというくらいの量しか飲んでいないなみでさえも、どこかぽわぽわとして見えたのだった。お酒の入ったなみはいつも以上にウェルカムな雰囲気で、しずくはその胸に飛び込むようにして、なみを追いかけるようなペースで、オレンジジュースをぐいぐい飲んでいたのだった。
……そしてその結果が、これであった。
「……なみちゃん、強すぎだよ。だって昨日、私寝る前トイレ行ったよ? なみちゃんって行ってたっけ?」
「うーん……記憶の限りじゃ、行ってないかな……膀胱的にも、行ってなさそう……」
なみはわずかにぽこっとしたお腹をしずくに見せ、ぺちっと叩いてみせるのだった。しずくは口をへの字にして、ベッドにタオルをぎゅっと押し当てる。
「なんでそのお腹で平気そうなの!?」
「……んっふふ、なんでだろうね……訓練の賜物かな?」
くだらないという口調でだらだらと駄弁りながら、なみは布団のカバーを外し、洗濯網にぎゅうぎゅうと押し込む。中身の方は床に広げて、しずくの持ってきたタオルをぽいぽいと濡れた部分に広げて置いた。
なみは濡れたパジャマを下着ごと脱ぎ、それを小脇に抱えたまま、しずくのパジャマにも手をかけた。
「はーいしずくちゃん、ばんざーい」
「んぅ……ばんざーい……」
声色はまさに赤ちゃん扱いだった。その仕草に、しずくには反論できる台詞を一つも持ち合わせてはいなかった。ただ従順にしたがって、なみにパジャマと下着を一つ残らずはぎ取られ、裸のままにタオルでベッドを押さえ続けるのだった。両手をタオルに奪われたまま、なみにくまなく体を拭われた。
「……マットレス、もういいよ、大丈夫。一緒にシャワー、浴びよっか?」
「……うん」
しずくとなみは、濡れたタオルを各々胸に抱えて、バスルームへと向かうのだった。道中タオルを洗濯機に投げ入れ、開いたその手で手を繋ぐ。換気扇で外気と変わらぬ温度に冷えた浴室に、二人はゆっくり足を踏み入れた。
「……そういえばしずく、マットレスって、洗濯できるのかな……?」
「……たぶん、むりです……」
「……そっか……」
シャワーの飛沫の撥ねる音に、鏡は瞬時に真っ白に染まった。
朝風呂は、目を覚まさせてくれる。思考をクリアにしてくれる。そんなさっぱりした二人は、髪にタオルを巻いて戻ったリビングの景色に、改めて頭を抱えるのだった。
重たくなった布団とマットレスを、とりあえず干して日差しに当て、二人はいつも通りに大学の準備を進めた。
ベランダに冷たい、風が吹き抜けた。
「……残ったね……」
「……うん……」
落ちる夕陽に立つ二人の前には、真ん中にうすく輪郭を残した、シミつきのマットレスが壁に立てかけられていた。ゆっくりと近づき、しゃがんで顔を近づけたなみの鼻先に、かすかにしずくのおしっこのにおいが顔を覗かせる。振り返るなみの何とも言えないという眼差しに、しずくは赤面し目を逸らした。
「……買い替えかな、さすがに」
「……ごめん、なみちゃん……」
重曹だとか中性洗剤だとか、ネットに転がる手段は大方試したが、大した効果は見られなかった。
なみは立ち上がり、うつむくしずくを抱き寄せる。頬をおでこの上に乗せ、優しくしずくの頭を撫でた。
「……いいの、大丈夫。これから練習すれば、いいんだから……」
「……私もあと半年で、20なんです……」
情けなさに震えるしずくの声色に、なみはぎゅっと抱擁を強めて、彼女の頭を自身の胸に押し当てる。顔中を包むなみの柔らかなにおいに、しずくはなすすべもなく、彼女の背中を抱き返した。
「いいのいいの、大丈夫だからね……でも、新しいのが届くまでは、しばらく床で寝ないとね。久々に、何か敷くもの、出そっか?」
「……ほんとに、ごめんなさい……」
しずくは顔をぎゅうっとなみの胸に押し当てて、ぐりぐりと震える瞼を抑えつける。なみはしずくの背中と頭をなでて、顔を熱くした彼女の気持ちを落ち着けた。
「ほんとに、大丈夫だから……ほら、懐かしいじゃん。それに、しずくがいるから、寒くないし……その代わり、今日はいっぱい、あっためてね?」
「……ぜんしょ、します……」
しずくはなみの胸に埋まったまま、もごもごと答えた。その顔の動きと呼吸とがくすぐったくなって、なみは腰を曲げ、しずくの表情に視線を合わせた。目を赤くしたしずくに、なみはそっとキスをした。
しずくもそれに応じるように、ぎゅっとなみを抱きしめて、高くなった体温を渡すのだった。
その晩。夜の11時頃。二人はドライヤーしたてのポカポカした髪を並べて、押し入れの中を覗いていた。
「敷き布団……的なのはないね……。やっぱり、タオル敷き詰めて寝るしかないかな」
唇に曲げた指を触れさせて、なみは陰の落ちるプラスチックの棚の引き出しをパカパカと探った。
「んんー……掛け布団重ねてその上にっていうのは?」
しずくはしゃがみこみ、タンスの床に畳まれた布団に手を触れる。なみは忙しなくしていた手を止めて、しずくの隣に並ぶようにしゃがんだ。重なった布団と毛布、シーツの類。なみはそれらのひとつひとつに手を触れて、肌触りのよさを確かめた。そしてその真ん中の段にある、厚手の毛布の端っこを掴む。
「それもいいね。ほら、これ。毛布の上にシーツって感じで、いいかな……あ、でも……」
「うん……うん?」
毛布を持ち上げかけた手を止めて、なみはふと思い出したように、しずくの顔を見下ろした。しずくはきょとんとした表情で、なみの持ち上げかけた毛布に手を触れる。見上げたなみの相貌は、なんだかニコニコして見えた。
「……毛布って、じつは水気に弱いんだよねー……」
「ん、うん? ……ぁあ! も、もう!」
しずくは頬を膨らませ、くすすと笑うなみの肩を、てしっと叩く。
「……もう、漏らさないよ! さすがに馬鹿にし過ぎだよ!」
「んっふふ、そう? あっははは」
ころころと笑うなみの肩を、しずくはぽかぽかと叩いた。ふんと鼻を鳴らし、意地になって無理やり毛布を引っ張り出そうとするしずくに、なみは口元を押さえ笑う。
「ごめんごめん、そうだよね。だってもう、大人だもんね」
「そうだよ……ふん! もう絶対に、漏らさないんだから……!」
なみはしずくの背中に回り込み、毛布の上に乗った布団を持ち上げる。急に軽くなった毛布に、しずくはぽさっとなみの懐に収まった。しずくはくるくると、収穫した毛布を巻き取り胸に抱えていく。胸元にころんと転がり込んだしずくの耳元に、なみはしずかに、問いかけた。
「……へええ、ホントに、絶対に?」
「……うん、絶対! なみちゃんが何したって、もう絶対に漏らさないもんね!」
振り返ろうと首を回したしずくの頬に、なみは唇をそっと触れさせた。しずくはその柔らかな感触に、ぴたっと動きを止められる。
「……そっか。じゃあ、頑張ろうね」
なみは吐息を吹き入れるように、しずくにそっと囁いた。その声色とくすぐったさに、しずくはぞくっと、背中を震わせた。頬がぼやっと、熱を帯びるのを感じるのだった。
暗くしたリビングのフローリングの上に、吸湿パッドと毛布にシーツ。その上にちょこんと、布団に両脚を伸ばして入れた、しずくがぽつんと座っていた。なみはキッチンの冷蔵庫の光を浴びながら、何やら重そうに引っ張り出している。道すがら片手間にコップを2つ拾って、しずくに向き合い、出来合いの布団の上に座った。
傍らの机の上にドカンと置いたのは、いつものサイズの麦茶であった。しずくは重そうに瞼を上げて、コップにたっぷりとお茶を注いでいくなみを眺めた。
「なみちゃん、それって……」
あくびの混ざる声色で、しずくはなみの背中に訊ねた。なみはふっと笑って振り返り、しずくにコップを手渡した。
「……はい、これ。飲んで? 溢さないように気を付けてね」
「え……? う、うん……」
しずくはよく分からないという面持ちで、とりあえずなみに従って飲む。揺れる水面を唇から迎えに行って、そっと溢さないよう、傾けた。
なみは空っぽになったしずくと自身のコップにまた、再び麦茶をパンパンに注ぐ。
「……どうしたの? ……って、あ、まさか……!」
「……んっふふ、うーん? どうしたの?」
「なみちゃん、もしかして、また私に……」
「ふふふ、なんのことだか……はい、これも飲んで?」
なみはしずくの言葉を塞ぐように、彼女の唇に触れさせるように、コップを手渡す。しずくは、んー! と唸りながら、しかし渡されたそれをちゅうちゅうと飲んだ。二杯目である。胃袋の中に、ちゃぷちゃぷと水分が主張し始めた。
コップを空にし、ふうっと息をついたしずくに、すかさずなみは自身のコップに注いだお茶を差し出した。それを直接しずくの唇に当てて、流し込む。しずくは抗うこともできないまま、流れ込んでくるお茶をお腹の中に収めて行った。これで、三杯目。
「……ん、うう……ちょ、ちょっとタンマ……っていうか、やっぱりなみちゃん、また私におねしょさせようとしてるでしょ……!」
「ふぅん? どうだろ……」
「だって、こんなに飲ませて……普通にしてても、何時間も持つ量じゃないでしょ……!」
「……しずく、おねしょ、しないんでしょ?」
「……し、しないよ……!」
ぷりぷりと言い寄ってきたしずくが、ふっと目線を布団に落とした。なみはその隙にお茶を注いで、またしずくに、手渡す。
「……ちょ、ちょっと、多くない?」
「ううん、平気平気。それに、私も同じだけ、飲むから……」
そういってなみは、カパカパと二杯、コップを空にしてしまった。しずくは観念したように、渡されたお茶をいっぱいのお腹に入れていく。四杯目であった。
「……飲むのも、結構きついんだけど……」
「そう? ……じゃあ、次でラストね……」
なみはしずくの握るコップにまた注ぎ、自身の方にも注ぎ入れた。ボトルが空になり、なみは先日の晩酌ごっこの時のように、しずくのグラスに縁を当てた。
二人は一緒に、グラスを空にした。ちゃぽちゃぽと鳴るお腹を携え、もぞもぞと布団に肩まで潜るのだった。
向かい合い、見つめ合う。なみはしずくの背中に腕を回して、冷たい感触を内に抱えたお腹をくっつけ、目を瞑った。しずくもまた、喉の奥から戻ってきそうな気持ち悪さを、なみを抱きしめて誤魔化すのだった。
夜中の1時半を回った頃。
しずくは当然のごとく、鈍く重たい尿意に目覚めた。なみを抱きしめた腕を解いて、自身のお腹を押してみる。強く押し返す存在感。じんじんとした出口の感覚に、限界が近づいてるのを感じるのだった。
抜け出して、トイレに行くのを試みる。が、脚を絡ませ抱き合った姿勢で眠るなみに、気づかれないよう逃げ出すことは不可能だった。せめて楽な姿勢になろうと、寝返りを打とうとした途端、なみは体温を求めるかのようにしずくのお腹を抱き寄せてしまった。ぎゅうっと下腹のてっぺんが、彼女の体に押し付けられる。脚を根元で絡められ、前を押さえることすらできない。引き寄せられた全身に、鼻と鼻とが触れ合うくらい、二人の顔が近づいた。
しずくは八方塞がりに、背中を抑え込まれたままの形で、身動きもできずに耐えるしかなかった。
お腹にかかる重力からも、変な体勢を支えようとする腹筋の力みからも、逃れられない。徐々に乱れていく呼吸が、なみの深い呼吸に混ぜられている。それがどうにも恥ずかしくなって、しずくは自分のペースで息を吐くことも出来なかった。
膨らんだお腹の一番下で、出口を塞ぐ力にだけ、しずくは全神経を傾けた。
背中を丸めることもできずに、腰がだんだんと痛くなってくる。丸く張り詰めた出口の力が、ぴくぴくと疲れて震えてきた。足の付け根に挟み込まれたなみの太ももに、股をぎゅっと閉じることすらかなわなかった。
「んんっく、ううぅ……」
浅いのに、無理矢理ゆっくりにした呼吸が、だんだん苦しくなってくる。体のどこも使えないまま、ただ出口を締める力だけを頼りに、飛び出ようとするおしっこを抱え続ける。
なみがもぞもぞと寝返りを打ち、しずくの体にかぶさるように、体重をかけてきた。お腹がぐうっと、押さえつけられた。
「――っあぁっ……!」
その重みに、束縛に、しずくはついに声を上げた。こらえきれずに、しずくはバッと、両手で出口を押さえつけた。今は、違う。なみとのアソビの最中じゃない。今は漏らしたら、ダメな時だ……ほんとにダメだから、押さえないと……。
しずくは頭の中に言い訳を並べながら、自身と自身の乗っかるなみの体の間に手を入れ、腰を揺らした。
「な、なみ、ちゃ……」
ゆさゆさと体をくねらせながら、しずくはなみを起こそうと声をかける。なみを自分の上から降ろして、ふうふうと息を切らしながら、彼女が目を覚ますのを待った。
……なぜ待っているのかは、わからない。ただ、今抜け出してトイレに行くのは、彼女の許しが必要だ……なぜだか、そういう気がしたのだった。
「なみ、ちゃん……おきて……」
「……ん……どしたの、しずく……?」
なみは眠そうに細く目を開けて、背中を丸めたしずくを見た。しずくは安堵したように、彼女の手のひらを自身のお腹に触れさせる。
「な、なみちゃん……と、といれ、いきたい……」
「……そう」
なみは寝そべったまま、もぞもぞとしずくに近づき、しずくの背中に手を回しなおす。しずくは彼女の許しを得たくて、無抵抗のまま、彼女の胸に抱き寄せられた。
「……さむい、しずく……もうちょっと、我慢して……」
「……え? ちょ、ちょっと……」
「……無理? 漏らしちゃうの……?」
「……そ、それは……も、もらさないために、行きたいんだって……」
「……まだ。もうちょっとだけ、温まらせて……」
寝ぼけたなみは、有無を言わさない様子でしずくの背中を引き寄せた。ぐいっと反らされた背中に、しずくはうっと呻きを漏らす。しずくの膨らんだお腹が、なみのお腹に触れ合った。二人ともおんなじくらいに飛び出ているのに、混ざると息は、しずくのものだけ早かった。
ふう、ふうぅと、息を荒げる。もじもじと体をよじるしずくの腰を押し止めるように、なみはしずくの股に足を挟んで、絡みつく。
閉じれない。押さえられない。なのにお腹が押されている。
我慢、できない。
わずかに飛び出たおしっこに、警告を叫ぶがごとく、股にビリッと電流が走った。びくっと体をはねさせて、しずくは股に挟んだなみの太ももに、ぎゅっと全力で力を入れる。
おちびりがじんわりと、パジャマににじんだ。
「ん……しずく、出そう……?」
「で、でる……っていうか、でてる、かも……」
なみは太ももを挟む彼女の脚の力の強さと、かすかに感じる熱いくらいの湿り気に気づいた。彼女のおなかに手を当てて、そっと力を加えてみる。
「うっ! ……ふうぅぅっ……!」
その力に抗えないまま、かすかな力に従うように、太ももの濡れが少し広がった。しずくはぎゅっと目をつむって、されるがままを、耐え続ける。
「……限界、だね、しずく?」
「う、うん……ねえ、おねがい……」
なみはそっと脚を抜き取って、布団を下げながら体を起こす。丸まるしずくの手を取って、その手を自分の首に回させた。
「……いいよ、行こっか。……もうちょっとだけ、我慢してね」
「ん……んうぅ……!」
なみはしずくの脇に手を入れて、弾みをつけて彼女を立たせる。その反動でシュビっとあふれたおしっこを、しずくは両手で押さえつけた。
「がんばったね、しずく。ほら、もうちょっと……」
「……ううぅ、も、もれる……もれてる……」
「出しちゃう前に言えて、偉いよ。ほら……」
なみはしずくの手を取って、震える足の彼女を支えた。暖色灯だけカチッとつけて、なみはしずくを導くのだった。
壁伝い、なんとか床を汚さないように、小鹿みたいになみについていく。二人はオレンジの明かりの、トイレのドアに入るのだった。
二つの水流だけが響いた。
沈黙に、真夜中の時計の針が鳴り響いた。
ひとつのトイレに向かい合い座る二人の唇が、音もなく静かに重なっていた。
トイレの壁の小さな窓から、紫に澄んだ夜空が光った。
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