幼なじみに毎晩寝込みを襲われています

西 美月

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第十夜(1)

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「ねえ、聞いてる?」

 つんつん、と脇腹を突かれて横を向けば、膨れっ面の芽衣がいた。

 初めて家にやってきた彼女を放置して、考えにふけっていた恭介は、平謝りしながら一段下りて慌てて身を正した。
 ソファーに座る芽衣を、床で正座する恭介が見上げるかたちだ。

 約束通り、今日は恋人の芽衣が家に遊びに来ている。
 部屋には2人きり。時刻は夕方で、バイトだと言っていた海斗はやはり留守だ。

 だが、行われているのは重い話し合いで、そこに甘い空気は一切ない。
 芽衣が家に来ることになって、あわよくば……、と言う低俗な期待をしていた恭介は、そんな自分が恥ずかしくて仕方がない。

「今、何考えてたの?」芽衣が首を傾げて聞いてくるが、恭介は目を泳がせる。

「いや、えっと……」

 まさかこんな状況で、昨日幼なじみから好きだと言われ、それについて考えていた、とは言えない。

 ふう、と芽衣は短く息を吐いた。

「やっぱり恭介くん、わたしのこと、あんまり好きじゃないでしょ」

 そう言われるのは、今日もうこれで3回目だったりする。

「いや、そんなことない」

 そう答えるのも3回目だ。

 誠心誠意交際をしていたはずなのに、なぜこんなことになったのか。恭介にはさっぱり分からない。

 芽衣が言うには、恭介に好かれている気がしないらしい。

 確かに好きの度合いは、まだ同じレベルに至っていない。それは事実だが、これからもっと伸びるはずなのだ。
 しかし、何度説明しても、彼女はなかなか首を縦に振ってくれない。

「うーん、……無理だよ」

 はっきりと、断言するように言われ、恭介はただ見つめ返すことしかできない。
 どうやらこれまで交際が順調だと思っていたのは恭介だけだったらしい。
 
「好きになろうと努力してくれてるのは、すごく分かったし、すごく嬉しかったの。……でも、きっと、わたしじゃダメなんだと思う」

「そんなこと……」ない、とまた恭介が言うより前に、芽衣が言葉を続ける。

「恭介くん、気付いてないと思うけど……、わたしに好きって言ってくれたこと、1回もないんだよ。それがもう、答えなんじゃないのかな」

 反論の言葉がまったく浮かばず、恭介は黙って俯くことしかできない。芽衣の言う通り、全く気付いてなどいなかった。

「それに、私とキスするのとかも、本当は嫌なんでしょ」

「え、まさか」

「だって恭介くん、いつもこう、我慢するみたいに、ぎゅうって思いっきり目を瞑ってるんだもん。知ってるんだから」

 それについてもまったく無意識、無自覚で、ますます口をつぐんでしまう。

 もう何を言ったとしても、芽衣の意思は変わらない気がした。

 2人ともが黙ってしまうと、時計の秒針の音が聞こえるほど、室内は静寂に包まれた。

 相変わらず恭介の心は凪いでいる。
 彼女とこんな話をしているのに、幼なじみなんかのことを考えてしまう時点で、実は分かっていた。

 芽衣のことは可愛いと思う。でも、それだけなのだ。情はあるが、愛情ではない。この先もきっと、それは変わらないのだろう。

 じっと、芽衣が恭介を真っ直ぐ見る。恭介の言葉を待っているのだ。


「…………別れる?」


 恭介が問うと、芽衣はなぜかクスリと笑った。

「何で恭介くんがフラれたみたいな顔してるの?……ふふ。へんなの」

そして、彼女は小さな声で、「うん」と頷いた。
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