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第十夜(2)
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帰ろうとする芽衣を、恭介は玄関先で見送る。
送ると何度言っても、芽衣が頑なにそれを拒んだからだ。お人好しで断れない性格の彼女が、きっぱりと断るのだから、恭介のほうがたじろいでしまう。
「さてと」靴を履いた芽衣が立ち上がる。
前髪の隙間から見える芽衣の瞳は濡れていたが、彼女は決して泣いてなどいなかった。
「最後にハグでもする?」そんな冗談さえ飛んでくるから、明らかに無理をしているように見えて、思わず手を引いてそっとハグをする。
「最後って、バイトで会うけど……。俺辞めようか」
「そ、そうだよね……!ううん、大丈夫大丈夫。もし、恭介くんさえ良ければ、これからも友達でいて欲しいな」
「ああ、勿論……」恭介がそう頷いた時、玄関ドアが開いた。
恭介はまだ芽衣を、軽くだが、抱きしめている最中で、そんな時に入ってきたのは海斗だった。
静かだった心臓が、急に激しく動き出す。
「お前、バイトじゃ……!?」
慌てて彼女から離れるが、恭介を見る海斗の視線はとても冷えきっていた。
「……忘れ物取りに寄っただけ。悪いな邪魔して。すぐ出てくから」
傷ついたような表情に、なぜか見ている恭介のほうが苦しくなる。
すぐ横を素通りして、自分の部屋へと行こうとする海斗の背に、思わず手を伸ばしかける。
「ちが……」
「恭介くん?私、帰るね」
芽衣の声に息を呑む。ほんの数秒の間に、彼女のことをすっかり失念していたのだ。
アパートの下まで見送ると、芽衣は振り返ることなく帰っていった。
去り際に、彼女は言った。
「恭介くんって、お友達の前だとなんだか可愛いんだね」と。
そんなことない、と咄嗟に否定したが、もしそうなら……。それはたぶん、あの幼なじみ限定だろう。
告白まがいのことを聞いてしまったせいで、動揺しているのだ。そうに決まってる。
家に戻ると、海斗はちょうど出て行くところだった。
彼女と別れたことを報告するべきだろうかと悩んで、結局「いってらっしゃい」とだけ言う。
すると海斗は、嫌なものでも見るかのように恭介を見て、眉をしかめた。
「どうだったよ、初めてのセックスは」
「え」予期せぬ問いに面食らう。
「ちゃんとできた?」
そこでようやく言っている意味を理解して、ぽっと頬を赤らめる。
脱童貞というあらぬ期待をしておいて、結局何もなかったのだ。
それ以前に、実際は交際が上手くいっておらず、それにすら気付いていなかったという恭介の恥ずかしさはひとしおだ。
「じつは……」
白状しようと言いかけた矢先、チッと大きな舌打ちが聞こえ「わかった。もういい」ぴしゃりと海斗が遮った。
「え……」
驚いて顔を上げると、鼻先で勢いよくドアが閉められた。海斗は恭介の話を聞かずに出ていってしまったのだ。
「なんだよ……自分が、聞いたくせに……」
ごつんと、玄関ドアに頭からもたれる。
無意識に漏れた声音は、随分と不貞腐れたものになってしまった。
人の話は最後まで聞けと、帰ってきたら文句を言ってやろう。
そう思った恭介だったが、その夜、待っても待っても、中々海斗は帰って来なかった。
バイトの日は毎回22時過ぎには帰ってくるというのに、23時を過ぎても、日付を超えても、海斗は帰ってこなかった。
送ると何度言っても、芽衣が頑なにそれを拒んだからだ。お人好しで断れない性格の彼女が、きっぱりと断るのだから、恭介のほうがたじろいでしまう。
「さてと」靴を履いた芽衣が立ち上がる。
前髪の隙間から見える芽衣の瞳は濡れていたが、彼女は決して泣いてなどいなかった。
「最後にハグでもする?」そんな冗談さえ飛んでくるから、明らかに無理をしているように見えて、思わず手を引いてそっとハグをする。
「最後って、バイトで会うけど……。俺辞めようか」
「そ、そうだよね……!ううん、大丈夫大丈夫。もし、恭介くんさえ良ければ、これからも友達でいて欲しいな」
「ああ、勿論……」恭介がそう頷いた時、玄関ドアが開いた。
恭介はまだ芽衣を、軽くだが、抱きしめている最中で、そんな時に入ってきたのは海斗だった。
静かだった心臓が、急に激しく動き出す。
「お前、バイトじゃ……!?」
慌てて彼女から離れるが、恭介を見る海斗の視線はとても冷えきっていた。
「……忘れ物取りに寄っただけ。悪いな邪魔して。すぐ出てくから」
傷ついたような表情に、なぜか見ている恭介のほうが苦しくなる。
すぐ横を素通りして、自分の部屋へと行こうとする海斗の背に、思わず手を伸ばしかける。
「ちが……」
「恭介くん?私、帰るね」
芽衣の声に息を呑む。ほんの数秒の間に、彼女のことをすっかり失念していたのだ。
アパートの下まで見送ると、芽衣は振り返ることなく帰っていった。
去り際に、彼女は言った。
「恭介くんって、お友達の前だとなんだか可愛いんだね」と。
そんなことない、と咄嗟に否定したが、もしそうなら……。それはたぶん、あの幼なじみ限定だろう。
告白まがいのことを聞いてしまったせいで、動揺しているのだ。そうに決まってる。
家に戻ると、海斗はちょうど出て行くところだった。
彼女と別れたことを報告するべきだろうかと悩んで、結局「いってらっしゃい」とだけ言う。
すると海斗は、嫌なものでも見るかのように恭介を見て、眉をしかめた。
「どうだったよ、初めてのセックスは」
「え」予期せぬ問いに面食らう。
「ちゃんとできた?」
そこでようやく言っている意味を理解して、ぽっと頬を赤らめる。
脱童貞というあらぬ期待をしておいて、結局何もなかったのだ。
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「じつは……」
白状しようと言いかけた矢先、チッと大きな舌打ちが聞こえ「わかった。もういい」ぴしゃりと海斗が遮った。
「え……」
驚いて顔を上げると、鼻先で勢いよくドアが閉められた。海斗は恭介の話を聞かずに出ていってしまったのだ。
「なんだよ……自分が、聞いたくせに……」
ごつんと、玄関ドアに頭からもたれる。
無意識に漏れた声音は、随分と不貞腐れたものになってしまった。
人の話は最後まで聞けと、帰ってきたら文句を言ってやろう。
そう思った恭介だったが、その夜、待っても待っても、中々海斗は帰って来なかった。
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