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第九夜(2)
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家に帰ると、まだ海斗は帰ってきていないらしく、どの部屋も真っ暗だ。
廊下の照明を頼りにそのままリビングに入ると、恭介は電気も点けずにソファに倒れ込む。
疲労感があって身体はずっと不調だが、先ほどの芽衣の言葉が気になって仕方がない。
疲れていて眠いはずなのに、頭は妙に冴えてしまっている。
そのままの状態で数十分ほど過ぎた頃、海斗が帰ってきた。
玄関から聞こえてくる物音を、恭介は目を閉じてぼんやりと聞いていた。
足音が近づいてくる。
「おーい、恭介?帰ってんだろ?」
そんな声と共に、リビングの電気が点けられた。眩しくて、思わずぎゅっと目を瞑る。
海斗の声音は、なんらいつもと変わりない。
それを聞いて少しだけ安心したせいか、単純に、慣れ親しんだ幼なじみの声のせいか、急にうとうとと眠くなってきた。
「なんだ、寝てんの?恭介?」
その問いかけに答えなかったのは、本当にあと少しで眠ってしまいそうだったからだ。
「恭介?」
海斗の声が、ぐんと近くから聞こえる。衣擦れの音もすぐそこから聞こえるほどだ。
まどろみの中、あたりが一瞬静寂に包まれたのが辛うじて分かった。
恭介が仰向けで寝ているソファーが、音もなく沈んだ。
そして、ふにっ、と唇に弾力のある温かいなにかが当たった。
──ん?
なんだ今のは、と思うくらいには、そこで恭介はだんだんと目が覚めてくる。
まるでキスのような感触が今、自分の唇にあったのだ。
しかし海斗と自分しかいないこの状況で、それはあり得ないだろう、と思い直す。
「…………恭介」
不意に耳元で、熱の籠もった囁きが聞こえてきて、自分の耳を疑う。
10年以上一緒にいて、そんな風に、まるで恋人の名前を呼ぶかの如く、甘い呼び方をされたことはない。
聞き間違いか、人違いではないかと疑うが、海斗ははっきりと恭介の名前を呼んだのだ。
──どうしたんだ……??
予想もしない展開に、バクバクと心拍が速まる。
心臓の音が海斗に聞こえて、起きていることがバレてしまいそうなくらいだ。
恭介は、完全に起きるタイミングを失った。
そして、またしてもソファーがぐっと沈み、次は一体何をされるのかと、密かに身構える。
「……好きだよ、恭介」
甘い言葉とともに、再び唇を塞がれる。
ああ、やっぱりさっきのはキスだったのか、と納得しかけて、いやそれでころじゃないぞ、と内心慌てふためく。
──す、すき……?
確かに今、海斗はそう言ったのだ。
男同士だぞとか、俺彼女いるぞとか、これまで一度もそんな素振りなかったじゃないかとか、思うことはいっぱいあるのに、何よりもまず、あれ、と思った。
今度のそれは今までと違う。感じたのは、違和感などではない。
そう言われるのは、初めてなのに、よく知っている気がした。何度も聞いたことがある気がした。
『好きだよ、恭介』
海斗の発した言葉を、脳が勝手にリピート再生する。
いつ、どこで、言われたのかは分からない。でもそれは恭介の記憶の中に確かにあるのだ。あれは海斗だったのか。
そっと、首筋に海斗の手が伸びてくる。
顎を引かれ、食むようにして唇を優しく啄まれると、それだけなのに、じわじわと、体の中心に熱が集まっていくのが分かった。
言葉だけではないのだ。軽く合わさっただけの唇さえも、恭介はよく知っているらしく、胸の奥が勝手にきゅんと痛む。
目を閉じているのももう限界だ。
唇が離れ、もう止めてくれと願ったその時、突然、耳元でアラームが鳴った。
「うわっ」恭介は驚いて思わず声を上げてしまった。
今起きたというフリをすればいいんだ、と働かない頭で必死に考える。
眩しさに目を細めながら、ゆっくりと目を開けると、スマホを鳴らしたらしい海斗と目が合ってドキリとする。
「また寝てたぞ、お前」
やれやれといった様子で肩を竦められ、恭介はパチパチと目を瞬かせた。
首を傾げて海斗を見る。
「何だよ、ぼーっとして。寝ボケてるのか?」
「あ、いや……」
さっきのは幻だったのかと思ってしまうくらい、海斗の声音は、もう完全にいつものトーンだ。
さっきのは何だったんだ、お前俺のことが好きなのか、と聞けばいいのに、声が出てこない。
もしあれが夢じゃないのなら、どんな顔で、何と返事をしたらいいか分からない。
「なあ、店で賄い貰ってきたんだけど、食うだろ?」
考えるのを止めてコクリと頷き、立ち上がろうとして恭介は、即刻その場にうずくまった。
何してんの?と海斗の呆れた声が落ちてくるが、返している余裕はない。
恭介のあそこは、どう見ても、しっかりと勃っていたのだ。
廊下の照明を頼りにそのままリビングに入ると、恭介は電気も点けずにソファに倒れ込む。
疲労感があって身体はずっと不調だが、先ほどの芽衣の言葉が気になって仕方がない。
疲れていて眠いはずなのに、頭は妙に冴えてしまっている。
そのままの状態で数十分ほど過ぎた頃、海斗が帰ってきた。
玄関から聞こえてくる物音を、恭介は目を閉じてぼんやりと聞いていた。
足音が近づいてくる。
「おーい、恭介?帰ってんだろ?」
そんな声と共に、リビングの電気が点けられた。眩しくて、思わずぎゅっと目を瞑る。
海斗の声音は、なんらいつもと変わりない。
それを聞いて少しだけ安心したせいか、単純に、慣れ親しんだ幼なじみの声のせいか、急にうとうとと眠くなってきた。
「なんだ、寝てんの?恭介?」
その問いかけに答えなかったのは、本当にあと少しで眠ってしまいそうだったからだ。
「恭介?」
海斗の声が、ぐんと近くから聞こえる。衣擦れの音もすぐそこから聞こえるほどだ。
まどろみの中、あたりが一瞬静寂に包まれたのが辛うじて分かった。
恭介が仰向けで寝ているソファーが、音もなく沈んだ。
そして、ふにっ、と唇に弾力のある温かいなにかが当たった。
──ん?
なんだ今のは、と思うくらいには、そこで恭介はだんだんと目が覚めてくる。
まるでキスのような感触が今、自分の唇にあったのだ。
しかし海斗と自分しかいないこの状況で、それはあり得ないだろう、と思い直す。
「…………恭介」
不意に耳元で、熱の籠もった囁きが聞こえてきて、自分の耳を疑う。
10年以上一緒にいて、そんな風に、まるで恋人の名前を呼ぶかの如く、甘い呼び方をされたことはない。
聞き間違いか、人違いではないかと疑うが、海斗ははっきりと恭介の名前を呼んだのだ。
──どうしたんだ……??
予想もしない展開に、バクバクと心拍が速まる。
心臓の音が海斗に聞こえて、起きていることがバレてしまいそうなくらいだ。
恭介は、完全に起きるタイミングを失った。
そして、またしてもソファーがぐっと沈み、次は一体何をされるのかと、密かに身構える。
「……好きだよ、恭介」
甘い言葉とともに、再び唇を塞がれる。
ああ、やっぱりさっきのはキスだったのか、と納得しかけて、いやそれでころじゃないぞ、と内心慌てふためく。
──す、すき……?
確かに今、海斗はそう言ったのだ。
男同士だぞとか、俺彼女いるぞとか、これまで一度もそんな素振りなかったじゃないかとか、思うことはいっぱいあるのに、何よりもまず、あれ、と思った。
今度のそれは今までと違う。感じたのは、違和感などではない。
そう言われるのは、初めてなのに、よく知っている気がした。何度も聞いたことがある気がした。
『好きだよ、恭介』
海斗の発した言葉を、脳が勝手にリピート再生する。
いつ、どこで、言われたのかは分からない。でもそれは恭介の記憶の中に確かにあるのだ。あれは海斗だったのか。
そっと、首筋に海斗の手が伸びてくる。
顎を引かれ、食むようにして唇を優しく啄まれると、それだけなのに、じわじわと、体の中心に熱が集まっていくのが分かった。
言葉だけではないのだ。軽く合わさっただけの唇さえも、恭介はよく知っているらしく、胸の奥が勝手にきゅんと痛む。
目を閉じているのももう限界だ。
唇が離れ、もう止めてくれと願ったその時、突然、耳元でアラームが鳴った。
「うわっ」恭介は驚いて思わず声を上げてしまった。
今起きたというフリをすればいいんだ、と働かない頭で必死に考える。
眩しさに目を細めながら、ゆっくりと目を開けると、スマホを鳴らしたらしい海斗と目が合ってドキリとする。
「また寝てたぞ、お前」
やれやれといった様子で肩を竦められ、恭介はパチパチと目を瞬かせた。
首を傾げて海斗を見る。
「何だよ、ぼーっとして。寝ボケてるのか?」
「あ、いや……」
さっきのは幻だったのかと思ってしまうくらい、海斗の声音は、もう完全にいつものトーンだ。
さっきのは何だったんだ、お前俺のことが好きなのか、と聞けばいいのに、声が出てこない。
もしあれが夢じゃないのなら、どんな顔で、何と返事をしたらいいか分からない。
「なあ、店で賄い貰ってきたんだけど、食うだろ?」
考えるのを止めてコクリと頷き、立ち上がろうとして恭介は、即刻その場にうずくまった。
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