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第十五夜(1)
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翌朝、聴き慣れたアラーム音が鳴って、恭介は目を覚ました。
音を止めて、もぞもぞと起き上がる。昨晩は、なかなか寝付けなかった。
寝ぼけ眼を擦りながら自室のドアを開ければ、目の前に仏頂面の清彦がいて、恭介は飛び上がった。
「びっくりした……。何か用……?」恭介が尋ねると、彼はわざとらしく大きなため息を1つ吐いた。
「あのさあ、朝からうるさいんだけど。もっと静かに起きられないの?昨日も今日もいい迷惑なんだけど」
低い声もそうだが、怠そうに腰に手を当てるその姿は、やはり海斗の前とは別人だ。
恭介が年上だろうと、清彦にとっては関係ないらしい。
でも不思議と恭介は、それに悪印象を抱いていなかった。思ったままをありのままに伝えてくるせいだろうか、どこか憎めないでいる。
海斗に対する真っ直ぐで一生懸命な姿勢だって、必死に滑車を回すハムスターのようだとさえ思っている。……とても本人には言えないが。
ただ、そんな清彦の怒りの原因は、恭介のスマホのアラーム音にあるようだ。
いつも当たり前のように最大音量で鳴らしていたが、そう言えば今まで一度も、海斗から苦情を言われたことがなかった。
だから、まったく気が回らなかったのだ。
どうやら、リビングのソファーで寝ていた彼にまで、聞こえてしまっていたらしい。
「ごめん、じつは……」
恭介は自身の特技(欠点とも言う)について簡単に説明をしようとしたそんな時、恭介の部屋の向かいのドアが開いた。海斗の部屋だ。
思わず目を逸らす恭介は、昨日は海斗が帰ってくる前に自分の部屋に戻ってしまった。
清彦の勉強を見ていたが、恭介が教えられることなどなかった上に、彼と2人きりでいることが、なんとなく気まずかったのだ。
「おはようございますっ」といち早く言ったのは勿論清彦だ。
「ん」と頷く海斗に、恭介も「おはよう」と声をかけるが、じっと穴が空きそうなほど見つめられ、何か顔についているのだろうかと心配になってしまう。
「恭介さあ、今日明日ひま?こいつが観光したいって言っててさ」
海斗と清彦は、今日と明日で都内を巡るらしい。海斗が案内をしてやるのだろう。
一緒に行かないかと誘われて、恭介は悩みかけて、すぐにある視線に気づいた。
海斗の後ろで、清彦がパクパクと口を動かしている。
『きょ、う、りょ、く!』と言っていることは簡単に分かった。
今日も明日も朝からバイトだと答えると、清彦は満足そうに微笑んでいたが、海斗はどこか落ち込んだ顔になってしまった。
そうさせたのは恭介なのに、見ていられない、なんて自分勝手なことを思ってしまう。
でも結局、どうすることもできずに、喉まで出かかっているはずの言葉も、ぐっと飲み込んでしまう恭介だった。
そして次の日も、海斗と清彦は、恭介を置いて朝から遊びに出かけて行ったのだった。
「ちょ、ちょっと恭介くん……っ?」
焦った声音で名前を呼ばれて、恭介は作業の手を止めて横の人物を見上げた。元カノの芽衣だ。
恭介は今、バイト先のスーパーで、新商品の缶チューハイの品出しをしているところだった。
「どうした?」
「どうしたって、こっちのセリフだよ。それ、全部上下逆さまで並べちゃってる」
それ、と芽衣が指差す先を辿って見てみれば、今恭介が並べている缶チューハイが、清々しいほど綺麗に、ラベルがひっくり返った状態でショーケースに陳列されていた。
「あ、あれ……」
「大丈夫?昨日はレジでお客さんのクレジットカードを返し忘れたんでしょ?もしかして、体調悪いの?」
誰だチクったのは、と一瞬恨めしく思ってしまうが、事実には違いなかった。
仕事中だというのに、もうずっと、余計なことばかり考えてしまうのだ。
「いや、体調は大丈夫」
「体調は?」
彼女はいつからこんなに目敏くなったのだろう。
「ええっと……」言い淀んでいると、芽衣はしばらく何かを考え、おずおずと口を開いた。
「私でよければ、あとで話聞こうか?」
疑問形ではあったが、うずうずと聞きたそうな顔をしているのは気のせいだろうか。
けれどしばらく悩んで、恭介はその提案に乗ることにした。
音を止めて、もぞもぞと起き上がる。昨晩は、なかなか寝付けなかった。
寝ぼけ眼を擦りながら自室のドアを開ければ、目の前に仏頂面の清彦がいて、恭介は飛び上がった。
「びっくりした……。何か用……?」恭介が尋ねると、彼はわざとらしく大きなため息を1つ吐いた。
「あのさあ、朝からうるさいんだけど。もっと静かに起きられないの?昨日も今日もいい迷惑なんだけど」
低い声もそうだが、怠そうに腰に手を当てるその姿は、やはり海斗の前とは別人だ。
恭介が年上だろうと、清彦にとっては関係ないらしい。
でも不思議と恭介は、それに悪印象を抱いていなかった。思ったままをありのままに伝えてくるせいだろうか、どこか憎めないでいる。
海斗に対する真っ直ぐで一生懸命な姿勢だって、必死に滑車を回すハムスターのようだとさえ思っている。……とても本人には言えないが。
ただ、そんな清彦の怒りの原因は、恭介のスマホのアラーム音にあるようだ。
いつも当たり前のように最大音量で鳴らしていたが、そう言えば今まで一度も、海斗から苦情を言われたことがなかった。
だから、まったく気が回らなかったのだ。
どうやら、リビングのソファーで寝ていた彼にまで、聞こえてしまっていたらしい。
「ごめん、じつは……」
恭介は自身の特技(欠点とも言う)について簡単に説明をしようとしたそんな時、恭介の部屋の向かいのドアが開いた。海斗の部屋だ。
思わず目を逸らす恭介は、昨日は海斗が帰ってくる前に自分の部屋に戻ってしまった。
清彦の勉強を見ていたが、恭介が教えられることなどなかった上に、彼と2人きりでいることが、なんとなく気まずかったのだ。
「おはようございますっ」といち早く言ったのは勿論清彦だ。
「ん」と頷く海斗に、恭介も「おはよう」と声をかけるが、じっと穴が空きそうなほど見つめられ、何か顔についているのだろうかと心配になってしまう。
「恭介さあ、今日明日ひま?こいつが観光したいって言っててさ」
海斗と清彦は、今日と明日で都内を巡るらしい。海斗が案内をしてやるのだろう。
一緒に行かないかと誘われて、恭介は悩みかけて、すぐにある視線に気づいた。
海斗の後ろで、清彦がパクパクと口を動かしている。
『きょ、う、りょ、く!』と言っていることは簡単に分かった。
今日も明日も朝からバイトだと答えると、清彦は満足そうに微笑んでいたが、海斗はどこか落ち込んだ顔になってしまった。
そうさせたのは恭介なのに、見ていられない、なんて自分勝手なことを思ってしまう。
でも結局、どうすることもできずに、喉まで出かかっているはずの言葉も、ぐっと飲み込んでしまう恭介だった。
そして次の日も、海斗と清彦は、恭介を置いて朝から遊びに出かけて行ったのだった。
「ちょ、ちょっと恭介くん……っ?」
焦った声音で名前を呼ばれて、恭介は作業の手を止めて横の人物を見上げた。元カノの芽衣だ。
恭介は今、バイト先のスーパーで、新商品の缶チューハイの品出しをしているところだった。
「どうした?」
「どうしたって、こっちのセリフだよ。それ、全部上下逆さまで並べちゃってる」
それ、と芽衣が指差す先を辿って見てみれば、今恭介が並べている缶チューハイが、清々しいほど綺麗に、ラベルがひっくり返った状態でショーケースに陳列されていた。
「あ、あれ……」
「大丈夫?昨日はレジでお客さんのクレジットカードを返し忘れたんでしょ?もしかして、体調悪いの?」
誰だチクったのは、と一瞬恨めしく思ってしまうが、事実には違いなかった。
仕事中だというのに、もうずっと、余計なことばかり考えてしまうのだ。
「いや、体調は大丈夫」
「体調は?」
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「ええっと……」言い淀んでいると、芽衣はしばらく何かを考え、おずおずと口を開いた。
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