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第十六夜(1)
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「ちょっと、待て待て……っ痛え!」
玄関ドアが閉まり切るよりも前に、恭介は床に押し倒されていた。まだお互い靴も脱いでいない状態だ。
視界の端でドアが閉まったのが見えて安堵する。
覆いかぶさるように海斗が馬乗りになってきて、焦点を合わせるかのように瞳をじっと覗き込まれると、どうしたらいいのか分からない。
顔を逸らしたいのに、できないでいると、
ゆっくりと海斗の顔が近づいてくる。
またキスをされるのだと分かって、目をぎゅっと瞑って身構えていると、何も唇に触れてこない。
恐る恐る目を開けると、動きを止めていたらしい海斗と至近距離で目が合った。
「嫌なら、言って。今のうちだぞ」
そう告げられ、恭介は先ほどのキスを思い返していた。
触れるだけの軽いキス。たったそれだけなのに、恭介の胸は甘く痛んだ。
その先を、知るのは恐い。でも、知りたくないと言ったら嘘になる。
「……よし、バッチこいっ」
覚悟を決めて言うと、噴き出した海斗が恭介の首筋に顔を埋めて笑ってきた。
肩を震わせるたびに、栗色の髪の毛が頰に当たってくすぐったい。恭介もつられて笑ってしまう。
「突然の野球部やめろよ。色気ねえなぁ」
「え、俺に色気を求められても困る。そんなのないぞ」
笑い尽くしたらしい海斗がのろのろと顔を上げる。さっきよりもずっと距離が近かった。お互いの吐息が当たる。
「……恭介が知らないだけで、あるよ、色気」
何を考えているのか、クスッと微笑む海斗の方が、よっぽど色っぽい。
ふと恭介は、芽衣にもそんなようなことを言われたのを思い出した。けれど、2人に言われたからといって、そんなものがあるわけないのだが。
余計なことを考えていると、海斗の手が恭介の左頬に伸びてきた。
顎から耳までの線を往復しながらそっと撫でられ、恭介は自分でも気づかないうちに、まるでそうすることが当たり前かのように、その手に頬擦りをして受け止めていた。
海斗の指先が顎で止まる。
上を向かせるように持ち上げられて、すぐに唇を唇で塞がれた。
二度目のキスは軽いものではなかった。かぶり付くように唇を貪られ、わずかに開いた隙間から分厚い舌が入ってきた。
歯列を、口蓋を、舌の表も裏も、恭介の咥内を隅から隅まで、海斗の熱い舌が這い回る。
「んんっ……」
否応なく注がれる唾液を全部は飲み干せなくて、溢れたものが恭介の口の端をだらしなく濡らした。
キスだけでもう恭介は、すっかりのぼせ上がっていた。
海斗の手が、恭介のジーンズの前を撫でた。
硬いジーンズ生地の上からでは分からないだろうが、恭介は自分のものがしっかりと昂っていることを知っていた。
ウエストのボタンを外され、そのままファスナーを下げられそうになって、恭介は海斗の手を掴んで止めた。
「いやだ……っ」
堪らずそう漏らすと、海斗がピタリと動きを止めた。そして、苦しそうに舌打ちをする。
「もっと早く言えよ。俺の好きは、こういう意味の好きなんだ。ほら、お前は、やっぱり、無理なんだろ」
「ち、違うっ」
恭介は慌てて首を横に振った。
無理なんかじゃない。認めたくないし、頭は追いつかないが、恭介の身体はもう完全に海斗を求めているのだ。
よく分からない涙で滲んだ目で、海斗を見る。
「ここじゃ、いやだって、意味」襟ぐりを引っ張り耳元で言う。顔を見て言うのが恥ずかしかったからだ。
「……ベッドがいい」蚊の鳴くような小さな声になってしまったが、聞こえたらしい。
「お前は……」ぐしゃっと前髪をかきあげる男らしい仕草にさえ、恭介は情欲を掻き立てられた。
ぼんやり見惚れていると、手を引っ張って起こされ、靴を脱がされる。そして、次の瞬間には、海斗の肩に担がれていた。
「ひゃ!」目の前に逆さまの海斗の背中がある。
米俵のように運ばれる恭介の身体は、くの字に折れていた。支えてくれている海斗の手が、腿裏の際どい部分に触れている。
たったそれだけで、恭介の身体は甘く疼いた。
そのまま連れて行かれたのは、海斗の部屋だった。
玄関ドアが閉まり切るよりも前に、恭介は床に押し倒されていた。まだお互い靴も脱いでいない状態だ。
視界の端でドアが閉まったのが見えて安堵する。
覆いかぶさるように海斗が馬乗りになってきて、焦点を合わせるかのように瞳をじっと覗き込まれると、どうしたらいいのか分からない。
顔を逸らしたいのに、できないでいると、
ゆっくりと海斗の顔が近づいてくる。
またキスをされるのだと分かって、目をぎゅっと瞑って身構えていると、何も唇に触れてこない。
恐る恐る目を開けると、動きを止めていたらしい海斗と至近距離で目が合った。
「嫌なら、言って。今のうちだぞ」
そう告げられ、恭介は先ほどのキスを思い返していた。
触れるだけの軽いキス。たったそれだけなのに、恭介の胸は甘く痛んだ。
その先を、知るのは恐い。でも、知りたくないと言ったら嘘になる。
「……よし、バッチこいっ」
覚悟を決めて言うと、噴き出した海斗が恭介の首筋に顔を埋めて笑ってきた。
肩を震わせるたびに、栗色の髪の毛が頰に当たってくすぐったい。恭介もつられて笑ってしまう。
「突然の野球部やめろよ。色気ねえなぁ」
「え、俺に色気を求められても困る。そんなのないぞ」
笑い尽くしたらしい海斗がのろのろと顔を上げる。さっきよりもずっと距離が近かった。お互いの吐息が当たる。
「……恭介が知らないだけで、あるよ、色気」
何を考えているのか、クスッと微笑む海斗の方が、よっぽど色っぽい。
ふと恭介は、芽衣にもそんなようなことを言われたのを思い出した。けれど、2人に言われたからといって、そんなものがあるわけないのだが。
余計なことを考えていると、海斗の手が恭介の左頬に伸びてきた。
顎から耳までの線を往復しながらそっと撫でられ、恭介は自分でも気づかないうちに、まるでそうすることが当たり前かのように、その手に頬擦りをして受け止めていた。
海斗の指先が顎で止まる。
上を向かせるように持ち上げられて、すぐに唇を唇で塞がれた。
二度目のキスは軽いものではなかった。かぶり付くように唇を貪られ、わずかに開いた隙間から分厚い舌が入ってきた。
歯列を、口蓋を、舌の表も裏も、恭介の咥内を隅から隅まで、海斗の熱い舌が這い回る。
「んんっ……」
否応なく注がれる唾液を全部は飲み干せなくて、溢れたものが恭介の口の端をだらしなく濡らした。
キスだけでもう恭介は、すっかりのぼせ上がっていた。
海斗の手が、恭介のジーンズの前を撫でた。
硬いジーンズ生地の上からでは分からないだろうが、恭介は自分のものがしっかりと昂っていることを知っていた。
ウエストのボタンを外され、そのままファスナーを下げられそうになって、恭介は海斗の手を掴んで止めた。
「いやだ……っ」
堪らずそう漏らすと、海斗がピタリと動きを止めた。そして、苦しそうに舌打ちをする。
「もっと早く言えよ。俺の好きは、こういう意味の好きなんだ。ほら、お前は、やっぱり、無理なんだろ」
「ち、違うっ」
恭介は慌てて首を横に振った。
無理なんかじゃない。認めたくないし、頭は追いつかないが、恭介の身体はもう完全に海斗を求めているのだ。
よく分からない涙で滲んだ目で、海斗を見る。
「ここじゃ、いやだって、意味」襟ぐりを引っ張り耳元で言う。顔を見て言うのが恥ずかしかったからだ。
「……ベッドがいい」蚊の鳴くような小さな声になってしまったが、聞こえたらしい。
「お前は……」ぐしゃっと前髪をかきあげる男らしい仕草にさえ、恭介は情欲を掻き立てられた。
ぼんやり見惚れていると、手を引っ張って起こされ、靴を脱がされる。そして、次の瞬間には、海斗の肩に担がれていた。
「ひゃ!」目の前に逆さまの海斗の背中がある。
米俵のように運ばれる恭介の身体は、くの字に折れていた。支えてくれている海斗の手が、腿裏の際どい部分に触れている。
たったそれだけで、恭介の身体は甘く疼いた。
そのまま連れて行かれたのは、海斗の部屋だった。
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