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第二十六夜(1)
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月日の経過とともに、スーパーでのアルバイトは、既にベテランの域だ。
最近の恭介は主に品出しなどの裏方の仕事を担当することが多いが、応援要請があればレジにも立つ。
無遅刻無欠勤の万能アルバイターは、その日日用品コーナーの品出しをしていた。
「あの、すみません。ディルって置いてますか?」
客から声をかけられることは珍しい事ではない。素朴な顔立ちの好青年然としているせいか、むしろ他のスタッフより多く話しかけられる気さえしている。
「はい、置いてますよ」
場所までの最短案内ルートを頭に思い浮かべながら振り返ると、そこには懐かしい顔があった。
「……びっくりした、久しぶり」
「このスーパーで働いてたんだ?」
恭介とは知らずに尋ねてきたらしい清彦が、まん丸の目をさらに見開く。
サッカー部だった海斗の後輩の清彦は、以前恭介と海斗が暮らす家に泊まりにきたことがあった。
彼というライバルの存在があったからこそ、恭介は自身の気持ちに気づくことができた。海斗と付き合うきっかけをくれた存在だ。
その後恭介たちとは別の大学に志望を変えて、無事合格したと海斗から聞いている。
「大学受かったんだってね。清彦くんなら絶対俺らのとこよりいいとこいけると思ってたよ」
「……どーも」
ぷい、と顔を背ける清彦は相変わらずなようで、でも「ありがと」と小さく呟く彼はどこか雰囲気が変わったような気がして恭介は目を細める。
「誰ですか?」
小声で清彦に問うのは、寄り添うようにその後ろに立っていた大柄の人物だ。
「海斗先輩の……」清彦が恭介の紹介をしようと口を開く。いったいどう説明するつもりかとギョッとする。
が、それより先に長身の彼が「ああ、彼氏さんですか!」とキラキラした笑顔を向けてきて、さらにギョッとする。
否定も肯定も出来ず、呆気に取られたまま、自己紹介をし合うと、翔太は恭介の手を取って両手で握手をしてきた。
「その節はありがとうございました」
「は?どのせつ?」
くちびるからのぞく白い歯さえも眩しい。
礼を言われる心当たりはないが、高い鼻梁が爽やかな印象を与えるその顔に、恭介は見覚えがあった。
「きみ、1年の時に生徒会に入ってなかった?俺の友達が会長と副会長をやってたから、何度か見かけた事がある」
「まじすか、懐かしい。大河先輩と直央先輩すね!」
高校時代、恭介は大河、直央、そして海斗の4人でよくつるんでいた。
特に副会長をしていた直央はゲームが趣味で、博士級に詳しい。話上手なのもあって、恭介はほとんどの休み時間、直央の話を聞いていたし、それはちっとも苦ではなかった。
「今もおふたりと会ったりしてるんですか?」
「この前、向こう戻ったときに少し会ったよ」
年末年始は恭介だけが地元へ帰省した。
恭介と海斗の実家は同じ町内にある。毎年一緒にそれぞれの家に帰っていたのに、
「俺今年は帰んないわ」大晦日の3日前、帰省予定の前日になって、そう海斗が言い出したのだ。
「今のうちにバイトしときたいんだよね、ほらこれから俺もっと忙しくなるし。恭介は帰ってゆっくりしてきなよ」
聞けばバイト先の居酒屋の系列店舗で人員が不足しているらしい。神宮前にあるそこは年末年始も稼ぎ時だ。そこで、シフトを増やしたい旨を伝えていた海斗に声がかかったのだ。
最近の恭介は主に品出しなどの裏方の仕事を担当することが多いが、応援要請があればレジにも立つ。
無遅刻無欠勤の万能アルバイターは、その日日用品コーナーの品出しをしていた。
「あの、すみません。ディルって置いてますか?」
客から声をかけられることは珍しい事ではない。素朴な顔立ちの好青年然としているせいか、むしろ他のスタッフより多く話しかけられる気さえしている。
「はい、置いてますよ」
場所までの最短案内ルートを頭に思い浮かべながら振り返ると、そこには懐かしい顔があった。
「……びっくりした、久しぶり」
「このスーパーで働いてたんだ?」
恭介とは知らずに尋ねてきたらしい清彦が、まん丸の目をさらに見開く。
サッカー部だった海斗の後輩の清彦は、以前恭介と海斗が暮らす家に泊まりにきたことがあった。
彼というライバルの存在があったからこそ、恭介は自身の気持ちに気づくことができた。海斗と付き合うきっかけをくれた存在だ。
その後恭介たちとは別の大学に志望を変えて、無事合格したと海斗から聞いている。
「大学受かったんだってね。清彦くんなら絶対俺らのとこよりいいとこいけると思ってたよ」
「……どーも」
ぷい、と顔を背ける清彦は相変わらずなようで、でも「ありがと」と小さく呟く彼はどこか雰囲気が変わったような気がして恭介は目を細める。
「誰ですか?」
小声で清彦に問うのは、寄り添うようにその後ろに立っていた大柄の人物だ。
「海斗先輩の……」清彦が恭介の紹介をしようと口を開く。いったいどう説明するつもりかとギョッとする。
が、それより先に長身の彼が「ああ、彼氏さんですか!」とキラキラした笑顔を向けてきて、さらにギョッとする。
否定も肯定も出来ず、呆気に取られたまま、自己紹介をし合うと、翔太は恭介の手を取って両手で握手をしてきた。
「その節はありがとうございました」
「は?どのせつ?」
くちびるからのぞく白い歯さえも眩しい。
礼を言われる心当たりはないが、高い鼻梁が爽やかな印象を与えるその顔に、恭介は見覚えがあった。
「きみ、1年の時に生徒会に入ってなかった?俺の友達が会長と副会長をやってたから、何度か見かけた事がある」
「まじすか、懐かしい。大河先輩と直央先輩すね!」
高校時代、恭介は大河、直央、そして海斗の4人でよくつるんでいた。
特に副会長をしていた直央はゲームが趣味で、博士級に詳しい。話上手なのもあって、恭介はほとんどの休み時間、直央の話を聞いていたし、それはちっとも苦ではなかった。
「今もおふたりと会ったりしてるんですか?」
「この前、向こう戻ったときに少し会ったよ」
年末年始は恭介だけが地元へ帰省した。
恭介と海斗の実家は同じ町内にある。毎年一緒にそれぞれの家に帰っていたのに、
「俺今年は帰んないわ」大晦日の3日前、帰省予定の前日になって、そう海斗が言い出したのだ。
「今のうちにバイトしときたいんだよね、ほらこれから俺もっと忙しくなるし。恭介は帰ってゆっくりしてきなよ」
聞けばバイト先の居酒屋の系列店舗で人員が不足しているらしい。神宮前にあるそこは年末年始も稼ぎ時だ。そこで、シフトを増やしたい旨を伝えていた海斗に声がかかったのだ。
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