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第二十七夜(4)

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「やった!」

 のしかかるようにして海斗が飛びついてきて、2人してソファから落っこちそうになる。

 海斗は昔から、恭介の前だとこんなふうに子供っぽくなることがある。そんな海斗を見れるのは恭介だけの特権だ。

 笑って、啄むようなキスをして、額を寄せ合ってまた笑って、今度は舌を絡めてキスをする。

 海斗の舌は熱くて気持ちがいい。粘膜同士が触れ合うこの感触が恭介は好きだ。口蓋をなぞられると、湿度が増した吐息がこぼれてしまう。

 ぎゅうっと抱きしめられて、何ものにも代え難い安心感に包まれる。
 この先もずっとずっと、こうしていたいと思う。

 だからこそ、海斗と離れる2年を、たった2年だとは思えないのだ。いつまでも受け入れることができないでいる。

 今ならそれを告白できそうな気がして、もらったばかりの腕時計を指先で撫でながら考えていると、「本当はさ」と海斗が静かに呟いた。

「まだこんなこと言うつもりじゃなかったんだ。はじめて離れる2年間で、一度恭介に考えて欲しかった。この先も俺と一緒にいてくれるのか、そうじゃないのかを」

「そうじゃない……?」

 繰り返してみてやっとその言葉の意味を理解する。別れるか、と言う意味だ。

「そんなのありえないっ」

 反射的に答えると、柔らかい笑みを海斗は浮かべた。

「うん、ありがと。俺もね、いい加減恭介のストーカーをやめなきゃなーって思いもあってさ、今更だけど」

 泣きそうな顔に見えて、思わず頬に手を伸ばすと、その手に海斗の手が重なった。

「だから、待ってる。今度は恭介が俺のところに来て。でも、ちゃんとよく考えろよ。じゃないともう離してやんない……」

 話の途中で、恭介はたまらず抱きつく。

「絶対行くからっ、待ってろ」

「……うん」

 自然と唇が重なる。
 今度ははじめから濃厚な口づけだ。恭介はずっと、口の中がこんなにも気持ちいいなんて知らなかった。

「っあのさ、海斗」

 海斗のくちびるが首筋を這いだして、恭介は少しだけ身をよじった。

「ん?」真摯な瞳を真っ直ぐ向けられて、無意識に海斗の服を摘む。

「俺、本当は、海斗と離れるの嫌だったんだ」

「知ってる」

 あっけらかんと頷かれて、少しだけ拍子抜けする。確かに一度「院に進まないで俺も地元帰る」とこぼしたことはあったけれど。

「教員試験だって、本当は応援したいけど、したくなくて」

「うん」

「……さ、寂しい」

 もうすでにそう思っているのだ。その時が来たらいったいどうなってしまうんだろうと怖くなる。
 今までどれだけ海斗の存在に甘えていたかやっと分かった。

 でも本音を口にして、少しだけ心が軽くなったような気がする。

「うん。たくさん会いに行くよ。毎日電話したっていい」

 ちゅうっ、と首筋の服で見えない部分を甘く吸われ、再び恭介は逃れるように身をよじる。

「ちょっと、待って待って。もっと驚くとか、怒るとかないわけ?」

「だって知ってたし」

 さわさわと、Tシャツの下から手が入ってきて、すぐさまそれを追い出すと、不服そうな顔で海斗が答える。

「恭介よく寝言で全部喋ってたもん」

「え」

「少しでもその不安を解消できるならと思ってプロポーズしたんだけど」

「もういい?」と服を脱がされそうになり、恭介はブンブンと首を激しく横に振った。

「ソファいや?ベッドがいいの?」

「違う!その話を詳しく聞きたいだけだ……!」
 
 ジタバタと暴れようが、恭介はどんどん衣服を剥かれていった。
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