断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ

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番外編 王太子の最後

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 俺は婚約者を冤罪で陥れようとした罪によって、第二王子の身分を剥奪され塔に幽閉された。……それも、ティアナと共に。

「何で貴族の私がこんなところに幽閉されなくちゃいけないの!?」
「うるさい、少しは静かにしてくれ」
「はぁ?元はと言えば、あんたがハンカチであたしの腕を拭ったりなんかしなければ、そんなことにはならなかったのよ!?」

 腕に痣のメイクをした自分のことは棚に上げて俺を責めてくるティアナ。
 もう以前のように、儚く健気という言葉は彼女には全く当てはまらなかった。むしろその逆だ。
 こんな奴に騙されていたのかと俺は悲しくなる。
 壁に背をつけ頭をクシャクシャと掻き回す俺に対して、ティアナは見張りの護衛に難癖をつけている。

「いつまでここにいさせるつもり?」
「国王様が許可をくださるまでです」
「だからそれがいつかって聞いてんのよ!?」
「それは私たちにも分かりません」
「……ったく、使えないわね」

 ティアナは護衛に詰め寄るのは諦めたのか俺の方へ寄ってくる。
 ……最悪だ。

「あんたのせいで、私はっ」

 そういうと、彼女は俺の頬をパシンッと叩いた。そして力無く呟く。

「せっかく王族に入れるチャンスだったのに……」
 
 それだけ言うと彼女はペタンとその場にしゃがみ込んでしまった。
 沈黙が長い時間流れる。
 どちらももう話すことはなかった。

 朝晩に出される食事を食べそれ以外は寝る。
 そんな日々が長く続くはずもなく、どちらかが発狂して片方を傷つけることも珍しくなかった。
 もう心身共にボロボロだった……。
 そんなある時、彼女が口を開いた。

「ねぇ知ってる?アドルフっていたじゃない」
「ああ」 
「彼、廃嫡になって辺境地に追いやられたらしいわよ」
「へぇ」
「可哀想よね。アンジェリカ様を庇った側なのに」
「でも婚約者がいたのに、アンジェリカに求婚したんだろう?」
「そう。だから馬鹿でもあるわよね。私の方がもう少し頭を使うもの」
「……」
「ねぇ、聞いてる!?」
「ああ」

 ティアナは俺に問い詰める。

「それでね、私たちもそろそろ現実を考えるべきだと思うの。今更どう足掻いても無駄じゃない」
「もう考えている」
「だ、か、ら、違うのよ!今あんた、こんな暗い顔しているじゃない!そうじゃなくて、これからはもっと楽しく過ごそうって思ったのよ!」
「そうか……もっと楽しく……」

 確かにこれから何をしてもここにいるんだから、どうせだったら楽しむべきなのだろう。

「私たち、今思えばすごい無謀で浅はかなことしたじゃない。だからどう足掻いてもここから出されることは多分ないわ。でも、ここでこれから楽しむことくらいは出来る。幸い、紙やペン、本もあるし、護衛に頼めば絵を描く道具ぐらい持って来てくれると思うわ。だからこれからはこの塔の中で精一杯楽しみましょう」

 ティアナの中で何かが変わったようだった。

「確かにそうだな。今更ここを出でも、俺はアンジェリカ似合わせる顔がない」

 そしてそれは俺も同じだった。
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