殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ

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ハッピーエンド?

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 レベッカがいつものように学園に行くと、生徒たちはいつもよりザワザワと何かを話しているようだった。

「どうかされたの?」
「レ、レベッカ様!?」

 レベッカはそのうちの一人に話しかけた。彼女は驚きながらも話の内容を教えてくれる。

「じ、実は殿下とクロエの婚約が嘘だったことが判明して……クロエ様が嘘を吐いていたみたいなんです」
「まぁ、そうなのですか?」

 確かに国王様は殿下とクロエとの婚約を決めたと思っていたのに、これはどういうことだろう。

「あ、クロエ様よ!」

 レベッカが考えていると、ふと誰かの声がした。
 クロエが来たらしい。
 レベッカも声に反応してクロエを探した。

「………」

 クロエはいつものように背中を丸めて歩いていた。しかし長い前髪は短く切られ緑色の目が出ている。
 彼女は下を向きながら早歩きで進んでいた。

「地味令嬢が調子に乗って嘘をつくなんて」
「でもあの顔、地味とは言い難いわ。むしろ悔しいけど……お綺麗よ」
「もしかして、わざと地味令嬢を演じていたとか!?」
「そうだろ。そうやって王太子様の弱さに漬け込んだんだろう」

 クロエに聞こえるように悪口が飛び交う。

「やめなさい」

 レベッカは声を張り上げてそう言った。そして笑顔を作る。

「みっともないですよ」

 レベッカの声に反応したのはクロエもだった。
 彼女はレベッカを見つけると強く睨みつけて来る。
 余計なことをするな。
 そう言っているようだった。
 だからこれ以上余計なことはしない。
 そう思ってレベッカは教室へと足を進めた。



「レベッカ様!」

 教室へと足を進めていると後ろからセシル様が追いかけて来た。
 レベッカは足を止めて彼を待つ。

「はぁっ、はぁっ」

 セシル様は随分と遠くから走って来たようで息がすごい切れている。
 何秒か息を整えてから、セシル様は言った。

「兄上とクロエ嬢のこと聞きました?」
「ええ、先程」
「……っ!まさか、兄上とまだ婚約していたりなんて、こと……」

 不安そうにレベッカを見てくるセシル様。
 ……何だ、セシル様が聞きたかったのはそういうことなのね。
 クロエは彼の意思に気づいて首を振った。

「いいえ、私と殿下との婚約はもう解消済みです。それに私は今、セシル様の婚約者でしょう?」
「勿論です!!」

 セシル様のクリクリの瞳が嬉しそうにレベッカを捉える。
 そしてくしゃりと笑った。
 ……反則だわ!
 その表情にレベッカは思わず顔を背けた。
 前までセシル様に対してこんな風になることなんて無かったのに……!

「レベッカ様?もしかして照れていたり……」
「断じてしていません!」
「でもその顔は反則でしょう。真っ赤ですよ」

 気づくとレベッカはセシルの腕の中にいた。


「セ、セシル様、皆が見ています!」
「汗臭いですか?」
「そうではなくて!」

 レベッカは慌てて抱きついて来たセシル様を剥がそうと奮闘する。が、セシル様がレベッカを離す気配はなくむしろ先ほどより腕の力が強くなってしまった。

「あー、幸せすぎます。昔はこんなこと、現実になるなんて思わなかったから」
「セシル様……」

 確かに以前はセシル様を意識するなんてこと想像もしていなかったけれど。

「取り敢えず、離しましょう。授業が始まるので」

 レベッカは冷静さを取り戻しセシルを剥がした。そうして寂しそうな顔をするセシルに惑わされないように顔を背ける。

「……まぁ、後でたっぷり時間はありますしね」

 楽しげに笑うセシル。
 すっかり肉食になったセシルにレベッカは敵うはずもなかった。


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