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久遠類 編
海の夢
しおりを挟む「あっ、類帰ってきた。」
私は待たせてしまったことを謝った。
そして見つからなかったことも。
「てか、蛍は?」
そういえばこの場に蛍の姿はない。
連絡を入れようと携帯を開いた途端、蛍が走ってやって来た。
「はぁ、はぁ、澄華ー!帽子!帽子あったよ」
胸を荒く震わせ息切れをしている蛍は帽子を澄華に手渡した。
「えっ…蛍は先生に絵を渡しに行ってたんじゃ…」
「……千川先生が帽子拾ってたんだ。これ、赤橋のじゃないか?って私に渡してきた。」
澄華は嬉しそうに帽子を抱きしめた。
「ほんとにありがとうっ!!これがなかったら私死んでたよぉ!」
そう言って帽子を胸に抱きしめる澄華。
「大げさだなぁ。でも良かった。」
蛍も口の端を綻ばせて、目を細めている。
蛍は無表情なわけではないのだが、あんまり感情が表に出ないタイプだと思う。
…まぁ、ポーカーフェイスと無頓着なら蓮巳に負けるが。
「うん!」
私たちはその後、寄り道しながら家に帰った。
「おばあちゃんただいまー」
鍵を開けて家の中に入ったが誰もいなかった。
もうこんな時間なのにどうしてだろう。
ーー私は、小さい頃に事故で両親を亡くし、今はおばあちゃんと2人で暮らしている。
……本当はおじいちゃんも一緒に暮らしていたが、私が中学に入学してからすぐに体調を悪くして帰らぬ人となってしまった。
私はドがつくほどのおじいちゃんっ子で
ショックで寝込んだ挙句学校を休んだ記憶がある。
と、おじいちゃんのことを思い出すとなんだか少し悲しくなってきた。
もうとっくに乗り越えたはずの痛みが湧いてくる。
それと同時に疲労と眠気が私を襲った。
おばあちゃんが帰ってくるまで少し寝よう。
そう思い私は自室のベッドに力なく横たわった。
「どうして休んでたの」
いつものように蓮巳と通学路を歩いているとふいにそう言われた。
「…実はね、おじいちゃんが亡くなって…ショックで寝込んでたんだ。」
「そう…。」
蓮巳は聞いてきたくせになんとも興味がなさそうにそう呟いた。
「中村先生が家に来てお話したんだけど、"無理しなくていいからね、ゆっくり休んでていいんだよ"って言われたからそれに甘えちゃった。」
中村先生、担任の先生だ。
若い女の先生で、優しくてみんなに人気だ。
先生はあの日、優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。
なんだか恥ずかしかったけど、不思議と心が少し癒されたような気がした。
蓮巳がその話をどんな顔をして聞いていたかは分からない。
ただ、それはいつになく冷たい声で
私の胸を突き刺すように。
「その程度で学校休めるんだ。」
私がその時なんて言葉を返したのか
それはもう覚えていない。
蓮巳は誤解されやすい子だから
それはずっと幼なじみで一緒に過ごしてきた私が1番理解している。
きっと本心ではそんな酷いことを言うつもりはなかったんだ。
まだ小さい頃の蓮巳は満面の笑みを浮かべていた。あんな優しい顔をしていたんだから。
ーでもそんな顔最近、いやここ数年見ていない。
蓮巳は、
「蓮巳は私のことが嫌いなのかな」
口から出た言葉が泡になって浮いた。
私は気がつけば冷たくて暗い海底にいた。
今でも十分底にいるのに、さらにさらに引きづりこまれるように沈んでいく。
その恐ろしさと海水の冷たさに頭が痛くなる。
だが、1番恐ろしかったのは
この冷たさが蓮巳の私に向けている感情のような気がしたことだ。
ぼんやりとただ、沈んでいく。
「類!晩ごはんよ」
類!と大きな声が頭に響く。
ゆっくりとまぶたを開けるとおばあちゃんがいた。
明るい、ここは……私の部屋。
時計を見ると私が3時間近く寝ていたことが分かる。
それと同時にあの奇妙な夢を思い出した。
ぞっとする。
「なにぼけーっとしてるの」
おばあちゃんは、そう言って呆れながら私の部屋を出て行った。
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