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第三章 文化体育発表会編
先回りをして牽制までしてくるなんて、大人げない。 ※アポロニウス視点
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眉ひとつ動かさず、招待客である高位貴族らに継承者と候補者複数人が席についていない偽りの理由を堂々と告げる王の姿に、嫡男であるアポロニウスは「さすが父上‥‥。」と心の中で苦笑する。
魔力を持つ者であれば、誰の目から見ても明らかなほど、先程の神器『龍の頸の珠』の魔力の化身たる青龍の様子は常軌を逸した恐慌状態だった。その生い立ちから厭世的な面を持った叔父が落ち込んだ時ですら、あれ程まで魔力を荒れ狂わせる様子は見たことが無い。
その荒んだ魔力が、ある一瞬を境に急に凪いだ時に感じたのは、未だかつてないほど興味を抱き、つい先日、無理やり「友人」の座をもぎ取ったバンブリア生徒会長こと、継承者候補セレネ・バンブリアの桜色の魔力だった。
――今度は一体何をやったんだろう?早く会って聞き出さないとね。宴の席を騒がせた理由を関係者に聴取しなければならない任に就いたことにして、ゆっくり話す時間は取れるだろうか。せめて学年が同じであれば、偶然を装って会話する事も出来るのに。わざわざ教室を訪ねたりすれば余計に彼女は注目を浴びて、その魅力に気付く邪魔な令息を呼び寄せてしまうんだろうな。今でさえモーションをかけるような真似をする者達がいるんだから、これ以上注目されるのは面白くないよ。あぁ‥‥王子なんて立場は、なんてままならないものなんだろう。
アポロニウス本人は密やかに心の中で思っていたはずだった。けれど、それをさり気無く視界に映していた、父であるデウスエクスは、こちらの僅かな表情の変化からおおよその心情を読み取ってしまったのか、笑みを深めていた。
国王夫妻の側に控える宰相に騎士が静かに歩み寄り、そっと耳打ちすると、宰相レミングスは一瞬なんとも言えない表情を浮かべ、すぐに国王に何事かを告げた。受けた国王デウスエクスは一瞬、気遣わしげな視線を私に向けてきたが、すぐに鷹揚に頷く。
「王弟殿下ら残りの継承者の方々がお越しになりました。」
宰相の声と共に静かに扉が開かれ、そこに立っていたのは、頬を頭上の緋色の大ネズミの色に負けないくらい鮮やかに染め上げたセレネと、その両脇に立って手を取り、彼女をエスコートするハディスとオルフェンズであった。
その背後に立ったポセイリンドが、扉の開ききるのを見計らって、彼女の両肩にポンと手を置くと、さすがに席についていた貴族達がざわめく。
「神器『龍の頸の珠』の癒しにより、兄の復調を得ることが出来ましたので遅ればせながら参上しました。」
バンブリア会長‥‥いや、セレネ嬢の護衛として過ごしている時の砕けた雰囲気とは異なった、そつのない貴族然とした言葉遣いと堂々とした態度で、王族の証である有翼の獅子をあしらった勲章を騎士服の胸に付けた叔父ハディスの変化に、おや?と思う。叔父はこれまで、王族であることを隠しながらセレネ嬢の傍に就き、纏う雰囲気も貴族とはかけ離れた砕けた調子をつくって彼女から警戒されない様ふるまっていたはずだった。けれど今の様子は、王族だということを前面に出し、彼女を庇護している姿を見せつけて、隠そうともしていない。彼女の頭の上の大ネズミも、ここに集まった殆どの高位貴族には見えているはずだし、それが叔父の魔力の化身だということも彼らにとっては周知の事実だ。
―――叔父上め、わざと見せつけているな。セレネ嬢は自分たちの庇護下にあるから手出しは無用‥‥と。全く、叔父上は勝手でずるい。私の先回りをして牽制までしてくるなんて、大人げない。
興味を抱き始めていたセレネの状況に微かに息を飲んだアポロニウス同様、イシケナルの背後に控えたヘリオスも、動揺を隠せずにクワッと目を見開いている。しかし、こちらは王子の様な淡い恋心故の動揺ではなく、王家が約束を反故にしたのではないかとの警戒によるものだ。
「おぉ、此度の宴はそなた等継承者と候補が主役だ。城内の騒ぎを鎮め、揃ってよく足を運んでくれた。歓迎する。」
「有り難うございます。労いのお言葉をいただき望外の幸せです。」
さらりと、国王や貴族達に向けての耳障りの良い言葉を並べ立てるハディスに、セレネは驚愕を隠しきれない様で、表情の変化こそ僅かであるものの、ハディスが声を発する度にピクリと肩に力が入っていた。
晩餐は、予め席次が定められていたが今回は通常の並びとは異なっていた。父や私の正面に着座する王族である叔父たちと並んで、爵位ではずっと下位の男爵位でしかないセレネ嬢が席を決められていたからだ。それは、王族に次ぐ立場を持つ継承者あるいは継承者候補だと国王が認めたことになる。
いや、それよりも、普段から彼女の護衛を名乗っている2人が、彼女をエスコートしていた並び順のままで着座している。なるほど、これでは彼女に近付こうとしても、目に映る美貌だけでなく、着座してもなおエスコートの形のまま放そうとしない手や、彼女に纏わりついたまま離れない魔力の化身から垣間見える執着心の高さから、彼女への下手な手出しを防ごうという意図がありありと見て取れる。しかもそれは、私の眼から見ても、かなり強力に効果を発揮している様だった。
魔力を持つ者であれば、誰の目から見ても明らかなほど、先程の神器『龍の頸の珠』の魔力の化身たる青龍の様子は常軌を逸した恐慌状態だった。その生い立ちから厭世的な面を持った叔父が落ち込んだ時ですら、あれ程まで魔力を荒れ狂わせる様子は見たことが無い。
その荒んだ魔力が、ある一瞬を境に急に凪いだ時に感じたのは、未だかつてないほど興味を抱き、つい先日、無理やり「友人」の座をもぎ取ったバンブリア生徒会長こと、継承者候補セレネ・バンブリアの桜色の魔力だった。
――今度は一体何をやったんだろう?早く会って聞き出さないとね。宴の席を騒がせた理由を関係者に聴取しなければならない任に就いたことにして、ゆっくり話す時間は取れるだろうか。せめて学年が同じであれば、偶然を装って会話する事も出来るのに。わざわざ教室を訪ねたりすれば余計に彼女は注目を浴びて、その魅力に気付く邪魔な令息を呼び寄せてしまうんだろうな。今でさえモーションをかけるような真似をする者達がいるんだから、これ以上注目されるのは面白くないよ。あぁ‥‥王子なんて立場は、なんてままならないものなんだろう。
アポロニウス本人は密やかに心の中で思っていたはずだった。けれど、それをさり気無く視界に映していた、父であるデウスエクスは、こちらの僅かな表情の変化からおおよその心情を読み取ってしまったのか、笑みを深めていた。
国王夫妻の側に控える宰相に騎士が静かに歩み寄り、そっと耳打ちすると、宰相レミングスは一瞬なんとも言えない表情を浮かべ、すぐに国王に何事かを告げた。受けた国王デウスエクスは一瞬、気遣わしげな視線を私に向けてきたが、すぐに鷹揚に頷く。
「王弟殿下ら残りの継承者の方々がお越しになりました。」
宰相の声と共に静かに扉が開かれ、そこに立っていたのは、頬を頭上の緋色の大ネズミの色に負けないくらい鮮やかに染め上げたセレネと、その両脇に立って手を取り、彼女をエスコートするハディスとオルフェンズであった。
その背後に立ったポセイリンドが、扉の開ききるのを見計らって、彼女の両肩にポンと手を置くと、さすがに席についていた貴族達がざわめく。
「神器『龍の頸の珠』の癒しにより、兄の復調を得ることが出来ましたので遅ればせながら参上しました。」
バンブリア会長‥‥いや、セレネ嬢の護衛として過ごしている時の砕けた雰囲気とは異なった、そつのない貴族然とした言葉遣いと堂々とした態度で、王族の証である有翼の獅子をあしらった勲章を騎士服の胸に付けた叔父ハディスの変化に、おや?と思う。叔父はこれまで、王族であることを隠しながらセレネ嬢の傍に就き、纏う雰囲気も貴族とはかけ離れた砕けた調子をつくって彼女から警戒されない様ふるまっていたはずだった。けれど今の様子は、王族だということを前面に出し、彼女を庇護している姿を見せつけて、隠そうともしていない。彼女の頭の上の大ネズミも、ここに集まった殆どの高位貴族には見えているはずだし、それが叔父の魔力の化身だということも彼らにとっては周知の事実だ。
―――叔父上め、わざと見せつけているな。セレネ嬢は自分たちの庇護下にあるから手出しは無用‥‥と。全く、叔父上は勝手でずるい。私の先回りをして牽制までしてくるなんて、大人げない。
興味を抱き始めていたセレネの状況に微かに息を飲んだアポロニウス同様、イシケナルの背後に控えたヘリオスも、動揺を隠せずにクワッと目を見開いている。しかし、こちらは王子の様な淡い恋心故の動揺ではなく、王家が約束を反故にしたのではないかとの警戒によるものだ。
「おぉ、此度の宴はそなた等継承者と候補が主役だ。城内の騒ぎを鎮め、揃ってよく足を運んでくれた。歓迎する。」
「有り難うございます。労いのお言葉をいただき望外の幸せです。」
さらりと、国王や貴族達に向けての耳障りの良い言葉を並べ立てるハディスに、セレネは驚愕を隠しきれない様で、表情の変化こそ僅かであるものの、ハディスが声を発する度にピクリと肩に力が入っていた。
晩餐は、予め席次が定められていたが今回は通常の並びとは異なっていた。父や私の正面に着座する王族である叔父たちと並んで、爵位ではずっと下位の男爵位でしかないセレネ嬢が席を決められていたからだ。それは、王族に次ぐ立場を持つ継承者あるいは継承者候補だと国王が認めたことになる。
いや、それよりも、普段から彼女の護衛を名乗っている2人が、彼女をエスコートしていた並び順のままで着座している。なるほど、これでは彼女に近付こうとしても、目に映る美貌だけでなく、着座してもなおエスコートの形のまま放そうとしない手や、彼女に纏わりついたまま離れない魔力の化身から垣間見える執着心の高さから、彼女への下手な手出しを防ごうという意図がありありと見て取れる。しかもそれは、私の眼から見ても、かなり強力に効果を発揮している様だった。
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