347 / 385
第四章 女神降臨編
残念な気もするけれど、良かったとも思う。
しおりを挟む
「はい」
迷うことなく、ストンと最後のピースが嵌まるように、それ以外無いだろう言葉が、再び、気付けば唇から零れていた。
「「ここで!?」」
ポリンドとアポロニウス王子が、ショックを受けたようにカッと目を見開く。
「有り難う」
蕩けるような笑顔で一言告げたハディスが立ち上がり、大きく両腕を開くのを、ぼんやりとしながら見詰めているうちに、気付けば温かな腕に包まれ、服の上からも分かるがっしりとした厚い胸板が目の前に迫って、背に回された両腕でギュッと抱き締められていた。
「王弟に王子、証人も申し分無いし、言質は取ったよ?」
ぐっと抱きすくめられている後頭部の辺りから響いてきた言葉に、んん!?と引っ掛かりを感じて顔を上げようとしたところで―――
「だから――――!!熱い熱い熱いぃぃぃ!もう分かったからぁー!私が悪かったぁ、力の差は嫌ってほど分かったから、もうこんな真似はしないぃぃ!!だから良い雰囲気の片手間に我を裁くのは止めろぉぉぉ―――!」
更にムルキャンの必死の叫びが響いて、わたしはようやく、この熱さに一役買っている存在の事を思い出した。声を出して指示しようにも、顔の前にくっついているハディスの胸が邪魔をしている。
何とか声を出そうと大きく息を吸えば、嗅ぎ慣れたはずのハディスの涼やかなコロンの香りが、いつもよりも濃厚に漂ってきて、ドギマギが増して指示を出すどころではなくなりそうだ。
――ネズミさん!!もぉ充分だからぁ―――!撤退よ!撤退ぃぃぃ――!!
これ以上嗅ぐと嗅覚でも確実にダメージを受けると察したわたしは、声を出さずに、心のなかで必死にネズミーズに指示を出す。すると、その思いが伝わったのか、ネズミーズの炎は弱まり、やがて、黒い焦げ後を残してムルキャンからチョロチョロと降り始めた。
「ほら、これは良いきっかけをくれた君へのご褒美だよ」
ポリンドが大きな青龍を顕現させて私たちを乗せながら、ムルキャンの周囲をくるりと旋回させる。小ネズミ一同が頑張ってくれたおかげで、鳥籠はあっさりと解除されていた。青龍で飛び上がったわたし達は王城へ戻るところだ。ポリンドの癒しの魔法が発動すると、藍色の涼やかな光が焦げた樹皮を優しく包み、黒ずんだ場所を跡形もなく癒してしまった。
「ほぁぁぁっっ!?こぉっ……これはぁっっ!!」
元通りとなった樹皮を、器用に体を曲げて見やったムルキャンが、感動にうち震えた声で叫ぶ。が何故か、両腕に当たる枝で浮かび上がった顔を覆い、苦悩するように呻き出してしまった。
「なんと優しく労りに満ちた力っ!!こんな感覚は初めてだぁぁ!!ぁぁあ、我にはイシケナル様がおられると云うのに、なんと浅ましい想いを、我は……!!いいや、女神のお力を継いだこのお方も、我が慕う我が君と等しく尊きお方!我が想いに一片の曇りはなし!貴方様のおられるこの国を私はこれからも護り続けますぞぉぉぉ――――!!」
ムルキャンがポリンドにまで陥落してしまった。わたしとハディスの火の魔法じゃあ、身近な危機は回避できたけど、最後にちょろっと魔法を使ったポリンドには忠誠まで誓っちゃうとは……。美味しいところを全部搔っ攫われたみたいで、ちょっぴり複雑だ。
ただ、これでムルキャンが王位簒奪を目論むことはもうないだろうと信じることは出来る。イシケナルやポリンドが、国王に背くとは思えないし。
そして、あっさり気持ちにかたをつけたムルキャンが、羨ましくもある。
――わたしはハディスへの気持ちを自覚するまでに、随分かかっちゃった気がするから。
来た時の様に、背後にアポロニウス王子を膝にのせて青龍に跨ったハディスを振り返ると、蕩ける様な笑顔を向けられて、また頬が熱くなった。
「叔父上――済まない」
アポロニウス王子が居た堪れない様子で謝るのを、片手を挙げて制したハディスが「構わないよ」と微笑む。
「だって、セレが君を抱えるのは耐えられないし、王子が青龍に腹ばいで張り付いてるあいつの上に乗るもの問題しかないでしょ?」
「あぁ、そうだな……。感謝する」
そんな遣り取りがあって、結局交際スタートとなったわたし達だったけれど、いきなり離れることになってしまったのだった。残念な気もするけれど、良かったとも思う。だって、しっかり意識してしまえば、0距離になる膝の上なんて、恥ずかしすぎて死ねる……。ちょっとづつの慣らし運転をお願いしたいわ。
迷うことなく、ストンと最後のピースが嵌まるように、それ以外無いだろう言葉が、再び、気付けば唇から零れていた。
「「ここで!?」」
ポリンドとアポロニウス王子が、ショックを受けたようにカッと目を見開く。
「有り難う」
蕩けるような笑顔で一言告げたハディスが立ち上がり、大きく両腕を開くのを、ぼんやりとしながら見詰めているうちに、気付けば温かな腕に包まれ、服の上からも分かるがっしりとした厚い胸板が目の前に迫って、背に回された両腕でギュッと抱き締められていた。
「王弟に王子、証人も申し分無いし、言質は取ったよ?」
ぐっと抱きすくめられている後頭部の辺りから響いてきた言葉に、んん!?と引っ掛かりを感じて顔を上げようとしたところで―――
「だから――――!!熱い熱い熱いぃぃぃ!もう分かったからぁー!私が悪かったぁ、力の差は嫌ってほど分かったから、もうこんな真似はしないぃぃ!!だから良い雰囲気の片手間に我を裁くのは止めろぉぉぉ―――!」
更にムルキャンの必死の叫びが響いて、わたしはようやく、この熱さに一役買っている存在の事を思い出した。声を出して指示しようにも、顔の前にくっついているハディスの胸が邪魔をしている。
何とか声を出そうと大きく息を吸えば、嗅ぎ慣れたはずのハディスの涼やかなコロンの香りが、いつもよりも濃厚に漂ってきて、ドギマギが増して指示を出すどころではなくなりそうだ。
――ネズミさん!!もぉ充分だからぁ―――!撤退よ!撤退ぃぃぃ――!!
これ以上嗅ぐと嗅覚でも確実にダメージを受けると察したわたしは、声を出さずに、心のなかで必死にネズミーズに指示を出す。すると、その思いが伝わったのか、ネズミーズの炎は弱まり、やがて、黒い焦げ後を残してムルキャンからチョロチョロと降り始めた。
「ほら、これは良いきっかけをくれた君へのご褒美だよ」
ポリンドが大きな青龍を顕現させて私たちを乗せながら、ムルキャンの周囲をくるりと旋回させる。小ネズミ一同が頑張ってくれたおかげで、鳥籠はあっさりと解除されていた。青龍で飛び上がったわたし達は王城へ戻るところだ。ポリンドの癒しの魔法が発動すると、藍色の涼やかな光が焦げた樹皮を優しく包み、黒ずんだ場所を跡形もなく癒してしまった。
「ほぁぁぁっっ!?こぉっ……これはぁっっ!!」
元通りとなった樹皮を、器用に体を曲げて見やったムルキャンが、感動にうち震えた声で叫ぶ。が何故か、両腕に当たる枝で浮かび上がった顔を覆い、苦悩するように呻き出してしまった。
「なんと優しく労りに満ちた力っ!!こんな感覚は初めてだぁぁ!!ぁぁあ、我にはイシケナル様がおられると云うのに、なんと浅ましい想いを、我は……!!いいや、女神のお力を継いだこのお方も、我が慕う我が君と等しく尊きお方!我が想いに一片の曇りはなし!貴方様のおられるこの国を私はこれからも護り続けますぞぉぉぉ――――!!」
ムルキャンがポリンドにまで陥落してしまった。わたしとハディスの火の魔法じゃあ、身近な危機は回避できたけど、最後にちょろっと魔法を使ったポリンドには忠誠まで誓っちゃうとは……。美味しいところを全部搔っ攫われたみたいで、ちょっぴり複雑だ。
ただ、これでムルキャンが王位簒奪を目論むことはもうないだろうと信じることは出来る。イシケナルやポリンドが、国王に背くとは思えないし。
そして、あっさり気持ちにかたをつけたムルキャンが、羨ましくもある。
――わたしはハディスへの気持ちを自覚するまでに、随分かかっちゃった気がするから。
来た時の様に、背後にアポロニウス王子を膝にのせて青龍に跨ったハディスを振り返ると、蕩ける様な笑顔を向けられて、また頬が熱くなった。
「叔父上――済まない」
アポロニウス王子が居た堪れない様子で謝るのを、片手を挙げて制したハディスが「構わないよ」と微笑む。
「だって、セレが君を抱えるのは耐えられないし、王子が青龍に腹ばいで張り付いてるあいつの上に乗るもの問題しかないでしょ?」
「あぁ、そうだな……。感謝する」
そんな遣り取りがあって、結局交際スタートとなったわたし達だったけれど、いきなり離れることになってしまったのだった。残念な気もするけれど、良かったとも思う。だって、しっかり意識してしまえば、0距離になる膝の上なんて、恥ずかしすぎて死ねる……。ちょっとづつの慣らし運転をお願いしたいわ。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
元侯爵令嬢の異世界薬膳料理~転生先はみんな食事に興味が無い世界だったので、美味しいご飯で人の身も心も癒します~
向原 行人
ファンタジー
異世界へ転生して数日。十七歳の侯爵令嬢、アリスとして目覚めた私は、早くも限界を迎えていた。
というのも、この世界……みんな食事に興味が無くて、毎食パンとハムだけとか、ハムがチーズに変わるとか、せいぜいその程度だ。
料理というより、食材を並べているだけって感じがする。
元日本人の私としては温かいご飯がたべたいので、自分で食事を作るというと、「貴族が料理など下賤なことをするのは恥だ!」と、意味不明な怒られ方をした。
わかった……だったら、私は貴族を辞める!
家には兄が二人もいるし、姉だっているから問題無いでしょ。
宛てもなく屋敷を飛び出した私は、小さな村で更に酷い食事事情を目の当たりにする。
育ち盛りの子供たちや、身体を使う冒険者たちが、それだけしか食べないなんて……よし、美味しいご飯でみんなも私も幸せになろう!
医食同源! 大食いモフモフ聖獣に、胃袋を掴んでしまった騎士隊長と一緒に、異世界で美味しくて身体に良い食材探しだ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる