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第16話 特大ゴブリンとの戦闘

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■鈴木真理雄。異世界に落っこちてきた。現在道を模索中。
■〝彼〟or〝あいつ〟無限炉の中で会った《なにか》。真理雄に魔法を伝授。

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 グルオオォォォォォォォォッ!!

 特大ゴブリンさんいきなりの先制攻撃だ。

 でかい声で雄たけびを上げる。
 ものすごい音量だった。だがそれだけではない。
 重低音の声とともになにか波のようなものが押し寄せて来る。そして俺の表面にぶつかってバチバチと砕け散る。

 これは俺の体内をめぐる魔力というか源理力によって発生する力場だな。
 どうやら俺は常にこの力で守られているようだ。

 これが質量の接近に対して斥力場として機能し、重力を遮断し、引力を作り出すわけだ。これって結構すごいのでは?

 俺の周囲で細かい木や小石が砕けていく。
 なるほど特大ゴブリンの雄叫びには物理的な破壊力があるわけだ。

 俺は腰を落とし身構えながら改めてゴブリンを観察する。

 大きさは人間の優に二倍。ゴブリンが一m強なので大型ゴブリンは普通のゴブリンの三倍ということだ。

 ゴブリンは腕など細く、腹は出ているが全体としてやせ細っているという印象で、あまり力強くは見えない。
 なのにこの特大ゴブリンは三mを超える巨体にふさわしい四肢の太さと強靭な筋肉を持っている。腹回りはふとましく、巨人である上に巨漢だ。

 戦闘で興奮しているのか巨大な一物がそそり立っている。
 変態だな。
 ゴブリン=変態。決まりだ。

 さて、やられっぱなしも気に食わない。やり返そう。

 大型ゴブリンのやっていることは分かる。でかい声で叫び、その叫びに攻撃的な魔力を乗せているのだ。
 つまりこれも魔法なのだろう。

 俺は大きく息を吸い込んで力いっぱい叫んだ。

 キュアァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!

 あり? 『きえぇぇっ!』のつもりだったんだけど音が跳ね上がってしまった。
 かなりの高音で半分可聴域を超えてないか?

 だが試みは成功だ。
 大型ゴブリンを衝撃の波が襲った。

 よろめいて一歩二歩と下がるゴブリン。皮膚も所々裂けて血を流している。
 不本意だがライフルよりも効いているな。

 ゴアァアアッ!

 だがこれで決着がつくほど甘い相手ではないようだ。突進してくる。かなりのスピードだ。そして振り回される剛腕。
 ものすごい迫力だった。
 そしてものすごい力だった。

 俺はその腕を受け止めようとして果たせず吹っ飛ばされた。
 いや、わざとではないのだが、相手が早くて反応が間に合わなかったんだよね。

 だが俺を包む力場はちゃんと仕事をしてくれた。
 斥力場のおかげで特大ゴブリンのこぶしは俺には届かなった。
 衝撃も分散された。はっきり言ってあまりダメージはないな。

 どこかで悲鳴が聞こえたような気がしたが、今は後回し。

 吹っ飛んだ俺の体は、しかし急速に失速して空中で静止した。

 ?

 大型ゴブリンが不思議そうに首を傾げた。

「くあが・らがらか…」

 あれ、こいつ、ひょっとして知能があるのか? 今のは言葉っぽかった。
 いや、これもあとまわしか。

 俺はゴブリンの後ろ、頭の上に回り込んで思いきり蹴っ飛ばした。

 ずんとした思い手応え。
 相手も重いのだが、俺も重たい。
 そう、重くて少し柔らかいもので大きなものを殴ったような感触だった。

 そして今度はゴブリンが吹っ飛んだ。
 二転三転してとまる。そして頭を振りながら俺を見る。

 地面に降り立ち、構えをとって様子をうかがう。

 さて、どうやらどつき合いができそうだ。やってみようか。

 俺はすいっと距離を詰めて思いきり殴りつける。
 俺の動きは面白い。動くには当然体を使って移動しないといけないのだが、それに重力の補助が加わる。

 それがどうも相手の感覚を狂わすらしい。

 そしてパンチも権能の助けを借りて威力が大きいようだ。三メートルを優に超すゴブリンがよろめいている。

「うん、行ける」

 と思ったのがフラグになったのかそんなに簡単な相手ではなかった。
 よく見ればゴブリンの体にあった傷が少なくなっている。
 そしてどんどんなくなっていく。

「うわっ、再生能力か、きったね」

 いや、ひとのことはいえないんだけどね。

 はっきり言って攻撃力は特大ゴブリンの方が上だろう。だが俺の斥力場が作用し、お互いを押しのけ合うために俺に攻撃が届かない。
 それでも俺が押しのけられてはいるんだけどね。

 逆に攻撃精度は俺の方が上だ。特大ゴブリンの攻撃は当たらないのに俺の攻撃は確実にヒットしている。
 腹を殴り、足をけり、頭を蹴っ飛ばす。

 だがこれも敵をよろめかせる程度の威力はあるが、決定打にはならないようだ。
 困った。

「こんな化け物と正面から殴り合いとかしたくないんだけどな…」

 しかも俺には武術の経験がない。
 中学、高校のときに授業で剣道と柔道はやったが、あれを武術の経験と言ってしまうとまじめにやっている人に怒られるだろう。
 そういうレベルだ。

 もし武術の経験があればもっとうまくできるのかもしれない。なので結構長い間殴り合っている気がするが、倒せるイメージがわかないのだ。

 逃げるのは問題ないと思う。
 最初の雄叫びのような攻撃で隙を作って、その間に二人をさらって飛んで逃げればいいのだ。

 だがこれは異世界人とのファーストコンタクト。
 何が正解かわからないが、逃げるようなところではなく、勝つところを見せたいのだ。
 その方が良好な関係を気づけるのではないだろうか?
 知らんけど。

 何かないかな…何かないかな…この状況を打開できる方法。

 魔法はどうだ?

 魔光神槍は…いったん離れないと使えない。うん、接近戦をする前にあれをぶちかますべきだった。あれなら楽に殲滅できた。

 だがやはり一瞬のタイムラグがあるからこの状況では無理だな。

 あとは【天より降り注ぐもの】と【地より沸き立つもの】のなどはチョコマカ動く相手には使いづらい。

 なら権能の方が融通が利く。様な気がする。
 重力共鳴砲とか重力衝撃砲とか言うのがあったように記憶している。
 重力による振動を作り出して相手を攻撃する技だったはずだ。

 フィクション上の話だがあれは人類がいまだ重力を操れないからフィクションなのであって荒唐無稽というわけではない。科学的な考証はあるのだ。
 であれば空間を武器にすることはできるはず。

 歪曲フィールドは空間をゆがめて斥力場とか作り出しているからね。空間への干渉は既にやっているわけだ。
 だがすぐに攻撃に転化できるかというとそれはムリだと思う。

 イメージを固める時間が欲しい。

 なにか無いかな? と考えたときになにか引っかかるものが。

 明るく燃える光の玉。
 鮮烈なイメージ。
 よし、これなら一瞬だ。

 俺はしまうぞう君に指示を出す。

 その瞬間俺の目の前に球形の魔法陣が出現した。
 俺はそれをひっつかみ、魔法陣ごと特大ゴブリンに叩きつける。
 そして急いで後退する。

 ゴラガァッ!

 特大ゴブリンは当然俺を追撃しようとまえにのめって来る。
 魔法陣に気が付かなかったわけではないだろう。
 だが魔法陣に大した注意は払わなかった。

 そして砕ける魔法陣。
 轟と灼熱の風が吹き荒れた。

 あっちあっち、マジで熱い。

 それは収納していたプラズマ球だ。
 解放され、維持する力場もなく数千度の熱をまき散らすプラズマ球。

 大型ゴブリンが荒れ狂う熱に包まれた。
 腕が燃え、腹が燃え、顔が焼かれる。

 ここだ! ここしかない。

 俺は右手に力を入れ拳を握る。
 そして思い切りぶん殴る。

 お化けと戦った時と同じ、魔力による破壊の衝撃。
 こぶしに魔力を乗せて力の限り!

 ズン!!

 俺の足の下で地面が砕けた。

 ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!

 重低音の衝撃が特大ゴブリンを揺さぶった。
 世界もビリビリと振動したような気がした。

 ごがあぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ

 ゴブリンが数m、ゆっくりと宙を飛んだ。 
 炭化した体が崩れ、ひび割れ、ばっと噴き出す血。
 流れ出る青い血が周囲の熱にあぶられて炭化していく。

 ぐおぉぉぉぉぉおぉぉぉっ!

 絶叫をあげつつ倒れ行く大型ゴブリン。後にあった巨木にもたれるように崩れ落ちる。
 巨木も表面が焦げて炭化していく。

 大型ゴブリンも焼け、崩れ見る影もない。だがそれでも死んでいない。
 なんて生命力だ。

 俺はもう一度右手を大きく引き絞る。
 とどめのために、決着のために。

 ゴブリンの胸の奥で輝く力の塊に向けて。

 俺はゴブリンの胸に手刀を叩き込んだ。

 理屈ではなくそうするべきだと思ったのだ。
 俺の手は高密度の魔力でおおわれていた。まるで大型ゴブリンの硬い体をやすやすとぶち抜いてその力の塊に届いた。
 そしてそれを鷲掴みにして引っ張る。メキメキと引きちぎる。

 重い、かなり重い。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ボコンッ!!

 という音とともに大型ゴブリンの胸からソフトボールほどもある石が引き抜けた。
 
「おおー、なんかきれいなのでた」

 銀色の真球の結構きれいな石だった。
 微妙に脈動しているような気がする。

 逆に石を抜かれた大型ゴブリンはまるで抜け殻のように静かになった。
 魔力視に映る魔力のありようが動物のそれではなくただの物に近いそれに変化する。

 つまり死んだのだ。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 俺はもぎ取った魔石を掲げ勝利の雄叫びを上げてしまった。
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